ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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破る…だと…!?

 俺──茶渡泰虎は感じた霊圧に呼応するように上体を寝床から起こした。

 

「ダメだよ、茶渡くん! まだ治療は終わっていないんだ!?」

 

 井上の双天……なんだったか。

 彼女の能力による精霊? みたいな存在に回復を(ほどこ)してもらっていたが、この子たちの言う事にうなずく事も出来ない。

 

「いや、もう大丈夫だ。井上のところへ戻って彼女を治してやってくれ」

 

 自身よりも俺の治療を優先してくれた井上には申し訳ないが。

 俺の言葉に動揺する彼ら、彼女らか? を置いて自宅を飛び出す。

 

 今も感じている強い霊圧は虚に似ている。

 それは()()()と同じ感覚。

 

 つまり、俺が超えなければいけない壁だ。

 

 

「何でぇ、死神じゃねーのかよ」

 

 

 家を出て。

 霊圧を探ろうとした瞬間にかかる声に、ゆっくりと振り返る。

 

 

「ハズレだ」

 

 

 相手の顔を見る間もなく、俺の胸元に凶刃は振られていた。

 

 しかし、

 

 

 

 

 

「遅いな」

 

 

 

 

 

「あ?」

 

 俺はその手を握手するように握る。

 自分よりも小さな手だった。

 

「あ!?」

 

「ハズレかどうかは知らないが──」

 

 苛立ちと困惑、そして隠しきれない驚愕を宿した相手の顔を、ようやく見れた。

 掴んだ後で気づいたが、どうやら手刀でもって攻撃をしていたようだ。

 もし刀だったら普通に切られていただろう。どうして、俺は彼の手を握ったんだ……? 

 

 咄嗟の行動に意味はないかもしれない。

 しかし、俺にはこの場に立つ理由がある。

 

 

「戦ってから判断したらどうだ、破面(アランカル)……!」

 

 

「……ハッ! それもそうだなぁ!」

 

 俺は誰とも知らない相手を殴るのは止めたのだ。

 自らのエゴで、拳で、殴るのならば。

 

 

 俺は殴る相手を、せめて知りたい。

 

 

「俺は茶渡(さど)泰虎(やすとら)だ。お前の名は?」

「はぁ……?」

 

 ……こちらに近づいてくる霊圧を感じる。

 これは、一護とルキアか。

 

「バッカじゃねぇんか、オマエ? これから死ぬ奴に教える意味とかねぇだろ」

 

 顔半分を隠す形で頭へ巻いている白いターバンのような衣装。

 前を(はだ)けている着崩し方も含め、どこか民族的な装いだ。

 だからかもしれない。

 

 

 自らが依って立つ“芯”というモノが彼にもあるのなら、俺は知りたいと思った。

 

 

「俺はラテン系の血を引いている」

「?」

 

 呆れたような表情を返す彼を気にせず、俺は言葉を続ける。

 

「メキシカンのクオーター……メキシカーナのクアルタだ。俺は故郷(プエブロ・ナタル)でも周囲から認められなかった。暴力で解決し、何も得るモノが無かった」

「……だからなんだよ」

 

 構えながらも戦意を若干落とした相手に感謝を覚える。

 自分語りなどする性格ではないが、彼には何故か、俺の事を伝えたいと思った。

 

「だからこそ、俺が“俺”と成るために大切な出会いが、“ここ”には多くある」

 

 無言で、まるで続きを促すように待つ相手。

 名も知らぬ、敵である、破面。

 

「だから、俺はお前と戦う。──お前は、何故、俺と戦う」

「……」

 

 すると、敵は構えを解き俺に伝える。

 

 

「──名は、ディ・ロイ・リンカー。俺が信じる王のために、俺は馬鹿にされようと前に進み戦う」

 

 

 そうか、目の前の()()は、ディ・ロイ・リンカーというのか。

 

 おもむろに頭に付けていた布をディ・ロイは取り払う。

 そこには(かじ)られたような傷跡を残す顔半分があった。

 

 憐れむのは違う。

 

 ああ、そうか。

 

 俺が暴力で何も得られなかったのに対し、ディ・ロイは暴力という虚にとって最も象徴すべき(あと)をつけた相手が──“王”であるから誇りなのかもしれない。

 

 

「ありがとう。これで……躊躇い無く拳を振るえる」

 

「あぁ、礼を言うぜ。俺の傷痕(誇り)に拳を構えてくれてよ」

 

 

 先日までの俺に対して、一護はきっと言うだろう。

 

『俺に任せて、下がっててくれ』、と。

 

 それは単純に俺の実力が足りないからだ。

 中学までのように、俺に背中を託せないからだ。

 

 あいつは強くなった。

 俺よりもずっと、誰よりも強い心を持って。

 

 背中を預けられるってことは、相棒の背を護るということだ。

 

 ならば、

 

 

「気にするだけ無駄だと、気を遣う無意味さを──俺自身で証明するしかない」

 

 

 ディ・ロイは嬉しそうに口元を歪める。

 

「あぁ、そうだな。気にするだけ無駄だぜ、ヤストラ」

 

 俺の名を呼ぶ破面(てき)は、再度戦闘の構えを取り叫ぶ。

 

 言葉足らずで、独りよがりで、無意味かもしれない。

 それでも、譲れないものがある。

 

 それを教えてくれたのは──お前だ、一護。

 

 

「俺を認めて(救って)くれた言葉は、大切なモノ(ココロ)を持たない(オレ)らが決して言えないモンだ! だから俺は、俺を認めてくれた(グリムジョー)を王にしたい!! そして──」

 

 

 俺は自らの芯を作ってくれた一護に、そして──

 

 

 

 

「「それら誇りを気付かせてくれた、那由他(あの人)に誇れるように!!」」

 

 

 

 

 ……まさか同じような言葉を言うと思ってもいなかった。

 

「やめようや、喋んのはもう充分だろ?」

 

 ディ・ロイの言葉に苦笑が漏れる。

 彼も呆れたような笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 それでも、俺らは──敵だ。

 

 

 

 

「じゃあな、ヤストラ。虚になってまた会おうぜ」

「あぁ、ディ・ロイ。もう二度と会うことは無いだろう」

 

 

 これは、一護にも邪魔させない。

 

 俺がお前の背を追いかけるだけの存在では無いと、知らしめる覚悟だ。

 

 

 

「『巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)』……!!」

 

 

 

 振りかぶった右腕の向こう側。

 どうして相手の背後に。

 

 

 

 ──俺は那由他(あの人)の幻影を見てるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 

 

 

「これから殺す奴を相手に名なんぞ名乗るだけ無駄だろう」

 

 俺──斑目(まだらめ)一角(いっかく)に対して、目の前の男はホザいた。

 

 

 

 那由他さんが()()()後は誰が来るかと思っていたら、どうやら俺は極上の戦場を用意されていたらしい。

 見晴らしの良い高台みたいな建物の上に胡座をかいてたら、相手さんから来やがった。

 

 霊圧を感じ取って興奮した。

 

 圧力ってのは身体に押し掛かる期待だ。

 願望で理想だ。他人に己の欲望を押し付ける行為だ。

 しかし、誰もが出せないからこそ、誰もが(ひか)えるからこそ。

 

 

 奮える奴に価値を覚える! 

 

 

 自身の実力がどこまで通じるか、どのような力を持ちたいか。それは直接対峙したら肌で感じられる。

 その魅力を語れない奴は十一番隊にいない。

 

 じゃぁ、俺は今どうかっていうと──。

 

 

 

「楽しいなあ!!」

 

 

 

「戦いに楽しみを覚えたら、ただの暴走じゃねえかと思ってた」

「あん?」

 

 そいつは、額から血を流しながら、

 

 

「……無礼を詫びよう。俺は『エドラド・リオネス』だ!」

 

 

 真っ直ぐ見つめる瞳の中に、一護に通ずるものを見た気がした。

 

 

「更木隊第三席、斑目一角だ」

 

 何が通じたかは分からない。

 そもそも、殴り合う気性の十一番隊(オレら)は喋るより斬る。

 

 十一番隊(その環境)を理想としている俺なのだ。

 十一番隊(その隊長)を理想としている俺なのだ。

 十一番隊(その右腕)を理想としている俺なのだ。

 

 

「護廷の番号を名乗らないか」

「あん? 俺の上は一人だからな」

 

 そう、俺の応えを聞いた破面──エドラドはニヤリと笑った。

 

「なるほど……、俺の上も一人だ」

「気が合うじゃねぇか」

「なら、俺の全力でもって応えよう」

「おうよ」

 

 

 

 

 

『待ち……やが、れ……!!』

 

 

 思い出すのは更木隊長と初めて会った時。

 

 

「なんだ、まだ生きてたのか」

「どういう気だてめえ! どうして止めを刺さねえ……!?」

 

 死神になる前の遠い記憶。

 しかし、俺の根幹であり、鮮明に思い浮かぶ光景。

 

「悪ぃな、戦えなくなった奴に興味はねえんだ。わざわざ止めを刺してやる義理もねえ」

 

 ふざけるなと思った。

 バカにしているのかと思った。

 

 しかし、更木隊長の言葉に、俺は生き方ってモンを教えられた。

 

 

「負けを認めて死にたがるな! 死んで初めて負けを認めろ!」

 

 

 死に損ねた俺を()()()()と言った人。

 てめえを殺し損ねた自分を殺しにこいと言った人。

 

 俺の考える“力”ってモンをぶっ壊す価値観だった。

 

 だけどよ、俺の胸の中にもう一個宿る教えがある。

 

 

『一角さんは、卍解をどのような物だと考えますか』

 

 

 那由他さんに稽古をつけてもらっていた時の話だ。

 

『力の象徴でしょうか。それとも、隊長格への資格でしょうか』

 

 俺は更木隊長と出会った時に、「あの人の下で戦いたい」と願った。

 だから、第三席を貰っても、卍解を習得しても。俺は隊長になりたいとは思わなかった。

 

 しかし、じゃあ、俺は何で卍解を会得出来たのだろうか、とも考えさせられた。

 

 俺の斬魄刀『鬼灯丸』は俺に反して起きるのが遅い。

 今まではイライラする相性の合わねえ奴だと思ってもいたが、那由他さんからの質問でふと疑問が浮かんだ。

 

 

 

 ──魂の半身である斬魄刀との相性が合わないってのは、どういうことだ? ってな。

 

 

 

 藍染の裏切りに端を発する今回の現世行き。

 色々とゴチャゴチャした理由はあるだろうが、んなもんはとりあえず置いておく。

 

 ただ、メンバーの選抜をする上での起点は現死神代行である黒崎一護だった。

 あいつを知っている朽木が選ばれ、その朽木を一番知っている恋次が選ばれ、そして恋次が信頼できる戦闘要員として俺が選ばれた。

 

 でも、それ以上に直感したんだ。

 

 

 俺は更木隊長に憧れ、那由他()()に気付かされた。

 殴ったり切ったりじゃなく、どうしてお前は殴るんだって意味を問いかけられた。

 なんで、

 

『卍解の出来ない隊長がいるのですから、卍解の出来る席官がいても良いでしょう』

 

 なんで、そんな言葉をくれたのか。

 卍解が出来ねえ奴が、そういう言葉を言えんのか? 

 

 違う、もっと、根本的なモノだ。

 

 自身の弱みを、真っ正面から言えるかどうかだ。

 強くなりたいと願う人が、他人の強みに惜しみない賛辞を贈れるかどうかだ。

 上から見下す人に、謙虚でありつつも貪欲でいられるかどうかだ。

 

 俺が知った時なんて、那由他さんが隊長になってから少し経った時期ではあった。

 しかし、射場さんを七番隊に持っていかれて、少しふてくされていた時期でもあった。

 

 

「なして、ワシが移ったと思っちょる」

 

 

 射場さんは藍染七番隊隊長を尊敬していた。

 当時の俺には全く理解できなかったが。

 

「知らねぇから聞いてんすよ」

 

 面白そうにカラカラと一瞬笑った射場さんは、一言だけ伝えた。

 

「姉御」

 

「は?」

 

「あん人は、伝えんのが苦手じゃぁ」

 

「はぁ」

 

 何を言いたいのかは分からなかったが、何かを伝えたいのだとは分かった。

 

「でも、伝えられん──どげんとする?」

 

 伝えるには言葉を使うだろう。

 だから、簡潔にするとかだろうか。

 

「目的を明確にするとか、誰かを倒したい、みたいな……とかっすか?」

 

 笑われた。

 え、なんで笑うんすかね。

 

「姉御の答えを教えちゃる」

「はい」

 

 むしろ、射場さんが教える内容の方が気になっていた。

 

「手を握る、じゃとさ」

 

「は?」

 

 それは言葉でのやり取りじゃない。

 俺らが強さと言うように、その人は

 

『手を握らせてもらえたら相手の反応で判断します。手を握る瞬間までは何も考えていません』

 

 訳が分からなかった。

 

「儂も訳が分からんかったけぇの」

 

 射場さんは言う。

 それこそがあの人の魅力であり、大事な事を教わった瞬間だったと。

 

 

 

 

()きろ──”火山獣(ボルカニカ)!!」

 

 奴──エドラドと名乗った破面が斬魄刀の名を呼ぶ。

 

 瞬間、エドラドの体躯が豹変した。

 刀が消え去り、自身の両腕が怪物のような剛腕へと変貌する。

 

「これが俺の、破面No.13(トレッセ)『エドラド・リオネス』の斬魄刀解放だ!」

 

 そいつは目に誇りと自負を宿していた。

 

 あぁ、この目は駄目だわ。

 

 俺──斑目一角の矜持を刺激する。

 

「なら、俺も応えなくちゃな」

 

 俺は再度構え、エドラドの目を見据える。

 

「戦いを楽しむのならば、破面(俺たち)に歯向かう気さえ無くなるほどの差を、貴様の骨に刻み込む!」

 

 エドラドはその巨体すらも凌駕する、己の身長と同じほどに肥大化した巨腕を地面へとゆっくり下ろした。

 

「俺の上にいるのは一人だが、尊敬する者の言葉があってな──『まずは手を握れ』だそうだ」

「!?」

 

 そいつぁ、ハッ! 

 気が合うなぁ、おい。

 

 那由他さんが今の状態になったのも、そんな時間が経ってないって事だろう。

 

「俺は握りつぶした方が早いって言ったんだがよ、そしたら何て返されたと思う? ──『それは、貴方の手が相手を握ったのです。握り返された時、貴方はどうするのですか』だとよ」

 

 エドラドは思い出したのかクツクツと可笑しそうに笑う。

 その顔が予想以上に純粋なもので、俺は少し驚いた。

 

「どうするもこうするも、こうやってお前と対峙しているのが答えだろうな。あの人が伝えたかった事とは違うだろうけどよ」

「いや」

 

 俺は口元に笑みを携え、目を大きく見開きながら霊圧を上げていく。

 

「たぶん、お前の言葉にあの人は満足するだろうぜ」

 

 戦いに楽しみを見出す俺に対しても、那由他さんはきっと似たような事を言うだろう。

 それだけ、俺という存在に価値を見出していたんだろう。

 

 

 だから、俺の斬魄刀と向き合った時、俺は“壁”を超えられたんだ。

 

 

 

「行くぜ。まだ数人しか知らねぇ、俺の()()を披露してやるよ」

 

 

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 あたし──松本乱菊の相手は、その巨漢に似合わない素早さを誇っていた。

 

「副隊長とはその程度の実力なのか?」

「ぐっ!?」

 

 向こうでは隊長が別の破面と戦っているが、卍解をしても押されている。

 こいつら、強い! 

 

「あの人が『従属官(俺たち)は生き残れない』なんて言ってたが……この程度の奴に負けると思われたって事か?」

 

 呆れとも言えるため息を吐いた眼の前の巨漢は、視線をあたしからズラして少し後ろの方を見る。

 

「そこにいる女に助けてもらったらどうだ?」

 

 思わず舌打ちをしてしまう。

 女、とは織姫の事だろう。

 

 彼女は胸元で強く手を握りながら、それでもこの戦いに手を出そうとはしていない。

 それはあたしが予め彼女へ「手を出さないで」と伝えていたからだ。

 

 那由他さんが虚として力を振るったあの時。

 あたしたちは翻弄されるだけで、正直なにも出来なかった。

 その悔しさや、何よりも誇りが許さなかった。

 

 ──ギンを討つのはあたしでありたいという、暗い感情も。

 

「……チッ。まだ足りねぇか」

 

 その言葉に、あたしは驚き相手の顔を見つめる。

 今のは、恐らくだけど、那由他さん(あの人)への想いだ。

 

 それは直感であり、特に確証のない感情。

 けれども、あたしはその言葉の意味を、どうしても知りたいと思った。

 

 

「ねえ、あんた。“オペラ座の怪人”って知ってる?」

 

 

「は?」

「あれ、那由多さんから勧められて見てみたんだけど、あたしには理解できなかったのよね。なんかクリスティーナが那由多さんで、ファントムが藍染に見えてきたのは少し笑ったけど」

 

 唐突なあたしの話に訝しげな顔をするのも当然だろう。

 それでも、あたしの口は、想いは止まらなかった。

 

「ただ、その中でも共感というか尊敬できる部分もあってさ。それはクリスティーナの、ただ前を向く姿なのよね」

 

 彼女の輝きを曲解して、報われず、救われなかったのがファントム。

 そしたらさ、なんかファントムに同情しちゃったんだ。

 

 ──まるであたしみたいだなって。

 

 今は敵になった幼馴染にあたしが向けていた視線って、なんかファントムと被るかもって。

 

 いや、別に似てはないんだけどね。

 なんか気持ちの根幹というか、思考の始まりというか。

 そんな部分が、似てるような気がしただけ。

 

「だから、あんたに聞くわ──あんたの気持ちは、何?」

 

 虚に気持ちを聞くのは馬鹿らしいって言われるかもだけど。

 あたしたちは那由多さんの教え子なんだ。

 

「あの人に敬意を表すなら、あんたも嘘偽り無く答えな」

 

「……」

 

 鋭い視線でこちらを睨む破面。

 

 しばし無言の時間が続いたが、

 

 

「俺は醜かった」

 

 

 そいつは、重い口をようやく開いた。

 

「虚なんて、自分の求めるモノしか無い奴らだ。だから求めた。あの人の愛を、あの人の慈悲を。──そして、俺は褒められたんだ」

 

 

『ナキーム、貴方は随分と身体を張るのですね』

 

 

「俺は身体がデカイのが取り柄だったから。ただ、それだけの事を、那由多様は心配して下さった」

 

 

『貴方の役目は確かにあります。ですから、それまでは労って下さい』

 

 

「醜い俺に投げかけられた言葉を、俺がどんな気持ちで受け取ったか分かるか!?」

 

 段々と感情的になっていく喋り口に瞠目する。

 誰だ、虚に心が無いなんて言った奴は。

 

 彼は、こんなにも、

 

「他から馬鹿にされ、愚鈍でノロマな俺に、あの人がかけた言葉がどれだけのモノだったか理解できる訳がねぇ!!」

 

 “心”を持っているじゃない。

 

「だから俺は響歩(ソニード)を鍛えた」

 

 そこには誇り、矜持、譲れぬ確かな想いが宿っていた。

 

「俺でも目指せる頂があると信じた。今の俺が、こうして死神と戦うのも、我らが王とあの人に報いるためだ!」

 

 

「……そう」

 

 

 圧倒された。

 それだけの、叫びだった。

 

「なら、あたしはあんたを馬鹿にできないわ」

 

 でも、

 

「あんたを倒すことに、躊躇いも持てない」

 

 霊圧を更に開放する。

 こいつに……、そういや名前を聞いてなかった。

 那由他さんに名前は大事ですよって、よく言われてたなぁ。

 

「あたしは、松本乱菊」

「……ナキーム・グリンディーナ」

 

「そっか、ナキーム。あの人の事を想ってくれてありがとう。そして、あたしに話してくれてありがとう」

 

 これが、あたしの矜持だから。背負いたい信念だから。

 だから、あんたの“心”も、あたしが背負ってあげる。

 

 

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 

 

「てめぇは、“頂きに届くことはない”と言われた人を知ってるか?」

 

 

 死神二人は問う。

 

 

「自分の欠点を、人に曝け出せる人を知ってる?」

 

 

 自身の原点を。

 

 

「他人への想いで、心を傷つける人を知ってんのかよ」

 

 

 松本乱菊が、斑目一角が問う。

 

 

「その人が、どうやって頂へと歩き始めたか」

 

「なんてことはねぇ。大切なモンを護るためだ」

 

「でも、それを実践出来た人が、どれだけいるってのよ」

 

 

 少なからず言葉を交わし、死神たちは虚の想いを受け取った。

 心を持たない虚の気持ちを感じとれたのだ。

 

 

「ただ、それだけのために強くなれた人は居なかった」

 

「ただ、それだけのために身体を張った人は居なかった」

 

 

 だからこそ、虚の気持ちを育てたであろう存在を意識せずにはいられない。

 だからこそ、最近出会ったばかりの黒崎一護に対しても、その心を突き動かされた。

 

 自分たちが見てきた背中が、確かに一護の中に息づいていたから。

 

 そして、だからこそ、虚に気付いて欲しいとも強く思っていた。

 

 

「なぁ、知ってるか? ──自分の身体やプライドよりも大切なモンを持ってる人が、いかに偉大で強いかって事をよ」

 

「教えてあげる。──あたし達が、誰の背を追い、そして追い越したいのかを」

 

「てめぇの魂に刻みつけろ。──俺らの誇りを、そして強さの意味を」

 

「気付かせてあげる。──“心”ってのは、他人からは奪えないってことを」

 

 

 彼らは那由他の背を見てきた。

 

 本人の意思を考えれば、確かに彼女は世界(彼ら)を愛していたのだろう。

 

 

 しかし、那由他が表面的に捉えていた強さよりも、もっと大きく影響を与えた“心”の変化を、那由他は気づけていなかった。

 

 

 

 

 

 

『 卍 解 』

 

 

 

 

 

 

 本来の世界(原作)における実力を基準にしている那由他には、考えの一端も思い浮かばないであろう変化。

 

 

 

 

 

「『灰燼之猫爪(かいじんのびょうそう)』!!」

 

 

 

「『覇龍鬼灯丸(はりゅうほおずきまる)』!!」

 

 

 

 

 

 彼らの力は、目指す、見据える頂きは。

 

 

 己の仮面(げんかい)を破る──。

 

 

 




ナ「なん…ですとぉ…!?」
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