「──これを以て、十一番隊第六席、阿散井恋次を六番隊副隊長に任ずるものとする」
ピッと張り詰めた空気の中。
俺──阿散井恋次は同期の雛森、いや、五番隊副隊長である雛森桃から辞令を貰った。
「おめでとう、阿散井くん!」
ただ、その空気も雛森によってすぐにぶっ壊されたが。
同期とは言え今までは席官と隊長格だった訳で、今はもう俺も副隊長になったがまだ辞令を貰ったばかりな訳で。
「お、おうっ! あ、イヤ、慎んでお受け致します、雛森副隊長!」
「いいよそんな、堅苦しいなあ」
クスクスと口元に手を当てながら笑う雛森に、なんだかバツが悪くなる。
そして、俺もようやく隊長格へと至れたことに、遅ればせながら嬉しさがこみ上げてきた。
これで、少しはあの人にも近づけただろうか……。
「良かったじゃねぇか。これでまた一歩近づいた訳だ」
「……一角さん」
俺の尊敬する先輩の一人である十一番隊の第三席を担う一角さんからも言葉をもらう。
「そろそろ良いんじゃねぇか、ルキアちゃんてのに話してやっても」
……ルキアは六番隊の隊長、俺の新たな上司となる朽木白哉隊長の実家へ養子に入った。
真央霊術院に目の前の雛森、吉良、俺、そしてルキアの四人が特の一組に入り過ごした1年を思い出す。
希望と期待を胸に抱いて、現世実習の時に起きた事件によってあの人への憧れを強くした。
皆で死神になり、歴史に名を残すような偉大な死神になろうと誓いあった。
その場から、ルキアが消えるなんて、考えてもみなかった。
「相手がいくら貴族だからって、副隊長なら対等以上だろ。そろそろ元の関係に戻っても良い頃だぜ」
「いえ、こんなんで満足なんて出来ません」
俺の中に宿る“強さ”の格は、まだ隊長格に至っていない。
「それにアイツとは約束があるんすよ。俺とルキアが交わした最後の言葉は──」
△▽△
「おおおおおぉおぉお!!」
感じ取った霊圧の内の一つ。
金髪ロンゲな優男風の破面が俺──阿散井恋次の対峙した相手だった。
しかし、
「はははははは!」
こいつ、強えぇ!
「そんなものか兄弟! お前の卍解ってのは!」
「兄弟兄弟うるせぇんだよ!」
「お前も那由他様に教えを頂いていたんだろう? 同じ師を
何を言ってやがんだ、コイツ!?
那由他さんをあんな姿にして、まるで別人となったあの人を!
「テメェがあの人を語んじゃねぇ!!」
「!?」
瞬間、爆発的に上がった霊力で相手を吹き飛ばす。
しかし、しっかりと奴は斬魄刀で防御をしていた。ダメージはほぼ入っていないだろう。
チッ!
隊長格以上が現世へ赴く際に付与される“限定霊印”。
これは現世への影響を考え、本来の力を約5分の1まで引き下げるものだ。
……敵の実力を軽く見すぎてたかもしれねぇ。
このままじゃ、結構ヤベェな。
「お前程度の実力で副隊長か。護廷十三隊の底が知れるな」
「んだと」
「分かりやすく伝えようか? 那由他様が護った存在がこれでは、あの方も悲しまれるだろう、と言ったのだ」
一瞬にして頭に血が上りそうになる。
だめだ、冷静になれ。怒りに身を任せて勝てるような相手じゃない。
「お姉ちゃんを悪く言う奴は──許さない」
「「!?」」
途端、奴が吹き飛んだ。
先程の俺が吹き飛ばした時とは明らかに違う、確かな一撃が入っていた。
あれは……浦原喜助のとこにいた子供の一人か!?
「くそっ! 何だお前は!?」
奴も咄嗟の出来事に反応出来なかったのだろう。
攻撃を食らった頭から流血しながら驚愕の表情で襲撃者を見据える。
今まで気付かなかったのが信じられない程の霊圧を身体から迸らせる少女。
そのガキは人間の身であるにも関わらず、瞬歩もかくやという速度で破面へと肉薄した。
「あなたは言った、
「ガッ!?」
「お姉ちゃんが悲しむのは許さない。許せないから敵。敵は──排除」
そう一方的に告げたガキは、己の小さな拳を振り上げた。
「図に、乗るなぁァァァ!!」
ただし、相手もそれを許さなかった。
ガキの拳よりも素早く手に持つ斬魄刀を薙ぎ払い、少女との距離を無理やりこじ開ける。
「悲しむのが許せない? 許せないから敵、だと? ガキのチンケな理由など、理想にすぎない!!」
もらった一撃が思いの外重かったのだろう。
破面は肩で息を弾ませながらも、こちらが驚くほどの怒りと感情をぶつけてきた。
ただ、一番驚いたのは──奴が殊更「那由他さんを侮辱された」と、そう露わにした事だった。
「あの方の理想は、我ら破面と共にある! 偉大なお方の、あの方の、那由他様の信念は、決して自らの悲しみに左右されない!! ガキが優先する自己欲求のような卑小なもので彼女を語るな!!!」
絶句した。
こいつらは、確かに、
それが正しいかどうかじゃない。
自分が知っている彼女の姿を、言葉に想いに乗せていた。
俺の知っている、あの人の想いは。
「虚であった俺が破面となり、人としての姿を得た際。あの方は俺には役目があると仰った! そして、それは決して他者では担えないものであると!」
『恋次くん。力を求めるのは決して間違ってはいません。しかし』
「俺だけでない! 誰もがあの方からお言葉を頂戴した! 己の責務を忘れてはならないと!」
『自らの足元は、決して見失わないように』
「ガキが! 死神どもが! 自身をあの方の特別だと信じる奴ら全て! 俺、破面
『敵であっても、相手を理解した上で、自身を理解した上で……刃を向けなさい』
「──砕いてみせる……!」
自らが信じる願いがあった。
自らが信じる恐れがあった。
自らが信じる憧れがあった。
「“突き砕け”!──『
那由他さん、あんたやっぱとんでもねぇわ。
上半身が牛のように巨大な姿へと变化した破面、『イールフォルト・グランツ』を呑気に眺めてしまう。
あのガキも奴の慟哭まがいの叫びで正気に戻ったようだ。
目が逝ってたからな、さっき。
は~、俺まで頭から冷水ぶっかけられた気分なんだがよぉ。
怒り狂ってるイールフォルトに話が今更通じるとは思えねぇ。
「……悪かったよ。さっきは『あの人を語んな』、なんて言って」
相手からの返答を期待していた訳ではない。
ただ、俺の矜持ってもんを貫くために一方的に放っただけの自己満足みたいなもんだ。
ただ、……これは運が良いのか悪いのか。
折角、目の前の奴と向き合う覚悟が出来たとこなのによ。
「悪ぃな、終いみてぇだ」
「あぁ!?」
未だ興奮状態のイールフォルトに、俺は静かに向き合う。
「“限定霊印”が解除された」
俺の言葉の意味を直感で理解したのだろう。
イールフォルトは仮面の奥から覗く瞳を大きく開いた。
「なんか、もっと話してたかったな」
「舐めるな、死神がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「……あばよ」
今まで5分の1しか実力を出せなかったってのは、斬魄刀本来の力を出せていないも同義だ。
だから、俺は蛇尾丸の本来の姿で卍解出来ていなかった。
俺の周囲の霊圧が渦巻き、身に纏う衣装、既に卍解している斬魄刀すら姿を変える。
「卍解は死神の頂きだ。だからこそ、習得出来た時と“真の姿”を解放出来た時でも差が出る」
「なん……だと……」
「蛇尾丸は狒々の身体に蛇の尾を持つ、故に『双王』。──これが俺の全力で、てめぇの想いに対する応えだ」
イールフォルトの仮面を破り、俺の大蛇王が奴の身体を貫く。
ほんと、さっき言った“話したかった”は嘘じゃねぇ。
俺が知らないあの人を知っているんだろう。
俺の知らないあの人を敬っているんだろう。
俺の知らないあの人を追っているんだろう。
「俺は、
でもよ、最後の一言は違えだろ。
「那由他様、これが、俺の“役目”なのですか…………?」
「馬鹿野郎が」
那由他さんが、
「ごめん、なさい……」
感傷っぽいものに一人浸ってたら話かけられた。
え、すげぇ恥ずかしいんだが。
そういやガキ、名前は知らねぇが小学生くらいの女子がいたんだったわ。
見かけた程度の、知人とも言えない奴だから忘れていた。
「私、人見知りで、でも、お姉ちゃんは、すごく優しくて強くて、私と同じだって」
「同じ?」
「……ほかの人から、怖がられたりとか」
なんとなく察した。
こいつも、自身の心が身体とかに付いて行けてねぇんだ。
俺と同じじゃねぇか。
「なら、自分がどうなりたいか考えるんだな」
「どうなりたい、か?」
「おお」
てめぇが姉って呼ぶ人が、どうして臆病な
『兄を、姉を、偉大な背を、私は誇りだと他人事で済ますつもりはないぞ、恋次』
──ルキアとの約束は、今も俺の中で煌々と燃え上がっている。
▲▽▲
「卍解……だと……!?」
俺──エドラド・リオネスの前で悪戯じみた笑みを浮かべる死神、斑目一角に驚愕の表情を浮かべる。
奴は両手に身の丈を越える大刀を振りかざし、背後に一本の大きな
「『鬼灯丸』は俺に反して寝起きが悪ぃんだ」
だから、俺は言葉よりも
いつもの俺らしくなく、ただ刃を交えたいと思った。
「でもよ、一合ごとに目が覚める」
俺は自らの武を誇り、それだけ相手の武に対して慎重である。
だからだろうか、
「強靭な
敵と見据えた死神の言葉に、ここまで呼応したいと思うのは。
俺の存在価値が今ここで試されていると思うのは。
ここまで“覇”を宿した戦士がいたかと、この場に楽しみを覚えるのは!
「『覇龍鬼灯丸』は、相手と刃を交えるほどに、その威力を増していく!!」
“覇”とは他者を虐げる事ではない。
他者を飲み込む“武”である!
「震えろ! 己の武が俺を育てることに! 奮え! 己の武が俺を強敵とする事に!」
これほど歓喜する戦いがあっただろうか。
「強敵とは、己の心を超えるモンだ!!」
「ああ!!!」
感謝しよう、斑目一角!
俺は戦いを盤上の遊戯のように捉えていた節がある。
相手の癖を読み、相手の弱点をつき、相手の強さを封じようと考えていた。
それは、俺の戦いにおける価値観でもあるが、武を誇る事にはならないとも感じていた。
「俺の
きっと、奴の
羨ましいなぁ、おい。
自身の想いを“心”と表せる事に羨望を抱く。
無いのは勿論だが、亡くしたんだ。
だから、羨ましいんだ。
「餞別だ、持ってきな」
「俺の一撃を見てから言いな」
「おう、そらそうだ」
「なら、行くぜ?
奴の──斑目一角という死神の姿を見続け、俺は力の奔流に飲まれた。
クソが。
悔しいって思っちまったじゃねぇかよ。
お前の武を、もっと見ていたかったってな。
ヨンでくださって感謝!
更新したいけど執筆時間を取れてない弱者です。ホントありがとう。