「お前は卍解を習得していなかったはずでは……!?」
俺──ナキーム・グリンディーナは驚愕の表情で言葉を漏らした。
“松本乱菊”と名乗ったその死神は、決して実力が上位として名を馳せた者ではない。
隊長格ではあるが、決して武威を誇る死神ではなかったはずだ。
それでも、俺たち破面における
俺は、現実を受け止めきれなかった。
「あたしの斬魄刀はね、気まぐれなの」
死神が口を開く。
「だからさ、卍解も波があるのよね。
その誰かは分からない。
しかし、そこに敬意が込められている事は感じ取れた。
「本人は隠してるみたいだけど、割とバレてんのよねえ。ま、だからあたしにしたら甘いけどって話」
気安く俺に話しかける姿は友人に対するそれだ。
破面の俺に、敵である俺に。
彼女はそう話しかけていた。
「あたしは決めてたのよ。自分の卍解を見せるのは敵にって」
そこにどんな意味が込められているかも分からない。
俺が破面だからだろうか。
──それなら、馬鹿にされているのだろうか、俺は。
「貴様に名を名乗ったのが屈辱だ」
「なら、それを悔いにさせないのが、あたしの役割ね」
どの口でホザく!?
「“圧し潰せ”──『
我慢の限界だった。
俺を認めてくれた
「我が体躯は大地! その重さに平伏せ!!」
「そう。それがあなたの“力”なのね」
破面は自らの力を斬魄刀に込める。
故に、斬魄刀を解放する事で本来の力と姿を取り戻す。
しかし、破面化した俺らの姿は虚ではない!
「虚も力を増すごとに小型化し、人と近い形へとなる! ならば、大きい身体の俺が身体を縮めた今の姿はどうだ!」
身長は2mを超え、体重も100kgを超えていた俺が、解放するとどうだ。
まるで凝縮されたように小柄な身体となるではないか!
「そうね、見た目的には3分の1」
「ならば、この渦巻く霊圧の濃さも分かるだろう!」
「ええ」
奴の卍解は見た目の差異が殆どない。
姿も衣装も変わらず、ただ──斬魄刀が
「じゃぁ、あたしの卍解についても言うけどさ」
すこし気怠げな物言いにもかかわらず、奴の目はまっすぐこちらを見据えていた。
先程の俺を侮辱した言葉は忘れないが、それでも聞いてみたいと思える目だった。
「あたしは、そんな分かりやすい力じゃないのよ……、“限定霊印”が今解除されるかぁ」
「なに?」
「さっきも言ったけど、灰猫って気紛れで、正直あたしと犬猿の仲なの。……でも、卍解を会得できた」
何を言いたいのか分からない。
「回りくどい言い方ばっかして、自分の本心隠して、色々と隠してるくせに気付いてもらいたがりなの」
何を言いたいのか分からない。
「だからかな、
何を言いたいのか、分かれた気がした。
「あたしはあんたの心に触れた。あんたが持ってないとか言う“心”にね」
震えた。
ここまで俺を個人を、見られたのは那由他様以来かもしれない。
しかし、何が奮えたのかは分からない。
もしかしたら、それが“心”なのかもしれない。
けれども、破面には、虚には“心”がないのだ。だから求めるんだ。
「戯言だな」
「なら結構」
女死神──松本乱菊は俺の言葉に薄く笑い、その能力を解き放った。
「最近のお話って直ぐに自分の虚像を求めすぎなのよ、
それは先程言っていた“オペラ座の怪人”なるモノについてだろうか。
俺は人間について理解する事を放棄していた事に気付く。
興味はないが、興味を持つ事すら悪だと思っていた。
人間から悪のように思われている
いや、俺は虚ではない!
“
「だから、あたしはあんたの話を聞きたいと思えたし、それを教えてくれたのは那由他さんだった」
『乱菊さん、人とは語れない秘密も多く抱えますが、人に語りたく伝えたい事も多くあるのです。その数だけ、その人の魅力があるのです』
「だから、あたしはあえて語るわ」
『オペラ座の怪人とは、そういった人物のお話です』
「『灰燼之猫爪』は、相手の弱みを暴き出す! 灰と、
その言葉に息が詰まりそうになる。
けれども!
「俺に隠したい心があるとでも思ってるのか!」
「あるでしょ!」
そう言い、女死神は灰で出来た幻想を現実に表す。現す。
「人にはねぇ! 誰にでも隠したいもんがあるってんのよ! だから、あたしはこの卍解が気に入らないの!!」
「これは……」
「あんたの心よ」
「馬鹿な!?」
それは幻想に誘い込む甘い誘惑でもない。
それは
──俺とグリムジョーが肩を抱き合いながら笑い合っている姿なんて。
「俺に心がある訳ねぇ!」
だから、拒絶した。
「虚だから?」
松本乱菊の想いに言葉を無くす。
そうだ、俺は“俺”だからではなく、“虚”だからと思って言った。
なら、この光景は……?
「あんたの──ナキームとして、そのツッコまれたくないとこに爪を立てる。嫌らしい能力でしょ?」
俺の心を、具象化?
心のない、俺の?
「まぁ。相手の霊力と同等以下でないと発動できない能力ではあるけどね、今は」
「それを俺に伝えるって事は」
「ええ、そうね。あんたとあたしの霊力は
しかし、俺からも差は感じないほどだ。
こんな殺傷能力のない卍解なんて馬鹿げている。
「あたしがまだ灰猫から認められてない……ってか、認めたくない意地っ張りって感じよね」
『私は、恐らく貴方の力……魅力とも言えるでしょうか、その“爪”を奪いました』
「でもさ、あたしは牙は無くても
眼の前の。
──
「……こんな姿の相手を斬る、それがあたしの能力なのよ」
酷く悲しげに聞こえた、その先。
俺は胸元を大きく斬られながら、灯火が切れるのを感じた。
「ナキーム、あんたの能力、なにか聞かせてくれる?」
「俺の“
「そう」
「笑えよ……。名前に反して、小さい、ってな」
「笑うわけ無いでしょ」
そう言って、松本乱菊は、泣きそうな顔で笑った。
「あたしも
俺は身体のデカさを褒めてくれて、気遣ってくれた那由他様の想いに反するような能力を身に着けてしまった。
だから、恥ずかしかった。
あの人に褒めて欲しいのに、俺は褒められた姿を自分から
だから、恥ずかしかった。
自分で誇れる俺に成れなかった姿を見せたく無かった。
だから、嬉しかった。
醜い俺を馬鹿にしないで、真っ直ぐに目を見てくれた死神が……!
……なのによぉ。
クソォ。
俺は“心”を感じ取れたと思える瞬間に消えるのか。
悔しいなあ……。
悔しいなぁ!
悔しい、なぁ……!!