「流石、那由他様ですかね」
私──ザエルアポロとしては、現世における那由他様の行動は非常に興味深い。
どんな成果を魅せるための場なのか……。
なにせ、素晴らしいサンプルを持っていながら何の成果も上げていない。
意識しての事かは分からない。
しかし、
私は踊る心を抑える事を止めた。
『シロちゃんには桃ちゃん一択!』
『メタスタくん、思ったより関係ない……?』
『恋次にぶつけるのは、やはりルキアかなぁ……』
『ウルキオラは控えてどうぞ、ヤミーはもっと報われて』
『浮竹さん、人格者すぎ』
『乱菊さんは思ったより強いな』
『たつきちゃん強すぎぃ!?』
『芝の、いや、志波の家名強すぎ? 煽りじゃないからw』
彼女の思考を解析するつもりではあったが、その思考の支離滅裂なこと!
意味がわからない……!
”ルキア可愛い、素敵、好き。自分の行動が余計になる。だって好きな人を追ってるから。”
”苺ステキ、カッコイイ、好き。自分の妄想が具現化する気持ちよさよ。だって輝きを求めてるから。”
”お兄様の笑顔を見ているだけで満たされちゃう……。これが恍惚って感覚なのかな。”
”十刃はちょっと強すぎるかなぁ……。まぁ、可愛い可愛い世界の落し子やからね。”
くふっ!
意味が分からない。
自らが裏切った存在を、自らを利用する存在を、自らを崇拝する子らを。
全てを愛しく抱きしめている!
正しく、『
那由他様の思考を解析するために、頂いた
私の、至高の
ああぁ、なんて美しいのだろう。
その姿はマリアに他ならない。
私の
この限られた世界で、何を考えているのか理解できない!
理解したいという知的興奮を、どうして抑えられるだろうか!
理解出来ない私を蔑んでください。そして、そんな貴方様を満足させてみせますから!
どんな趣向が良いでしょうか?
例えば、私の四肢を欠損させてはどうでしょう? 胎児のように丸くなるでしょう。
那由他様の子宮に傷を負わせる、というのは? 誰も貴方から生まれることはなく聖性が保たれる!
ええ、ええ。
喜んで差し出してくれますよね! 私も喜んで協力いたします!!
いや、失う事を先にしてはダメですね。
失ってしまう部位よりも、感情を優先する貴方でしょうから。
つまり、生命の神秘を体現していただけると!
貴方の
くふっ!
これはさっき考えていましたねぇ。ええ、それほどの魅力という事ですよぉ。
『ザエルアポロ』
「これは藍染様。ご機嫌麗しゅう」
『分かっているね?』
「もちろんですとも」
突然の連絡に少し驚くが、それをおくびにも出さず、私はスッと真面目になった顔で画面越しに主を見つめた
藍染様には感謝している。
ただ、それだけだ。
「……」
「……」
しかし──
私が藍染様を主と戴いているのは、この環境を用意して頂き、私の研究に関して口を挟まないからである。
そして──
私の望む彼女に触れる事に対して、彼は決して良い感情を持っていない。
「私は、那由他様の思考を眺めているだけで、達してしまいそうなので。少々
『君が”十刃”で良かったよ。それだけの危機意識を持っているのは十刃で君だけだ。ところで……私は
「もちろん存じておりますとも。しかし、最近飲んでいる物よりも、
『おっと、
「ええ……。事前に
『それは、届くのが楽しみだ』
未来を描く脳内には、脳のことしかない。
『ただ、一つ、言っておこう』
随分と強い言葉で言われた気がしたが、私の那由他様への思いは変わらない。
『好きなものは、最後に取っておく性分なのだよ』
くふっ!
死神よりも虚が、いや、“滅却師"をお望みか……!!
さらに言えば、数十年前の始祖における件が尾を引いている。
「ならば、後ろの
『彼女の口に合うかは、分からないからね』
つまり、彼女は詳しく存じ上げていないという事ですね。
藍染様が虚をコマとして扱うであろう行動も、逆に那由他様が虚へ対して丁寧に接する姿にも。
何もおっしゃられないと。
ああ、それは良いですねぇ……。
私の行動が那由他様に利すれば、貴方様は口出しをしなくなる可能性がある、と。
もちろん、度を越した行動は出来ませんが、少なくとも行動の幅は広がりました。
これも想定された上での発言でしょうから、私の理性を信じた、というところでしょうか。
いやはや、虚へのあるまじき対処ですね。
「ならば、十分に利用させて頂きますよ、藍染様」
口元に浮かぶ笑みは感謝と期待。
彼女へどういったモノを押し付けるか。
いやはや、興奮してしまいますね。
▲▽▲
「キスケ、さん……。お姉ちゃんは、味方、だよね……?」
浦原商店に住まわせている少女、
今の彼女がどういった立場であるかを。
「……当たり前じゃないっすか。姉ってのは、妹や家族がとっても大事なモノなんすよ」
「うん……」
アタシの気休めにも健気に返事をする姿は、少し前なら考えられなかった姿でもあります。
彼女は
ただの人間ではなく、その存在は造られたもの。
ジン太さんも同じですが人とは大きな隔たりがあり人間社会に、いえ、彼女たちは他人に対して恐怖を抱いていた。
それを解した那由他さんが異常とも言えますが。
そして、一度身内に入れた存在が失われる事を非常に恐れている。
「お姉ちゃんは、大丈夫……?」
うわ言のように繰り返す言葉は那由他さんへの思い。
従属官であるイールフォルト・グランツとの戦闘で霊力を消費した彼女は意識も朦朧としています。
それでも、彼女は那由他さんへの想いを止められないのでしょう。
「おね、え、ちゃん」
「……寝たのかよ」
彼女へ回道をかけていた鉄斎サンの隣にいた
「俺は、あの時に動けなかった」
それは彼にとっての屈辱なのでしょう。
いつも雨さんに強気な姿勢を見せているから、余計に。
「あの死神や人間にも稽古つけてんだろ?」
「ダメッスね」
「はっ!? まだ何も言ってねぇだろ!?」
「それくらいは分かるッスよぉ」
何で、はじめにアタシが
これも人の感情ってやつでしょうか。
いやはや、本当に分からないものです。
見守るだけっスね。
▲▽▲
「で、対策会議をするわけだが」
俺──日番谷冬獅郎は眼の前の光景に頭を抱えていた。
「織姫は可愛いんだから凄いの! その凄さがわからないハゲは可哀想ね」
「おう、喧嘩なら買うぞ。スキンヘッドとの違いを教えてやろうか」
「一角は言葉から読める裏を考える頭をもってね。まぁ、この場合は純粋な喧嘩を売られたと思うけど」
「弓親よぉ、つまり?」
「止める気なし。美しくないけどね」
こいつら、妙に殺気立ってて話しにならん。
「あ、あの! お茶を淹れてみたんですけど、どうでしょうか!?」
織姫とかいう人間に気を使わせている死神って何なんだよ……。
「あら、この茶葉は知らないけど好きー」
「あん? 匂いは嫌いじゃねぇ」
「ふむ、好みとは違うけど良い匂いだ」
なんか、まとまったから、いいか!
んな訳あるか!?
「おい、松本ぉ! この場の趣旨を言え!」
「ふぁ!? え、どうしたんです、隊長?」
「なんで和んでるのか、逆に聞きたいがな!?」
「あ、はい。その前に甘いもの食べていいですか?」
「それを許されると思ってるお前を叩きたい気分だがなぁ、俺は!?」
「で、だ」
随分と遠回りしているが、懸念事項はゴマンとある。
これも下手くそな肩の抜き方だったのかもしれない。
真剣な時との違いを、もっとわかりやすくしてくれたら助かるんだけどな。
いや、自分の感覚で分かって無いから難しいな……。
「那由他は虚だ」
これは決められていたことだ。零番隊が定義したのだ。
どれだけ、ふざけても、変わらない。
「分かってたことだろ?」
だから、俺は隊長としての言葉を紡ぐ。
「分かっているから、一般隊士への影響を考えて、お前らはここにいんだろ」
残酷ともとれる言葉を吐くんだ。
「那由他が、虚を好きになる事なんて、俺らは分かっていただろ?」
そして、那由他のアホみたいな気持ちを、俺らは知っているんだ。
見てきたから、簡単に予想出来てしまう。
「あいつは、きっと藍染と違って虚を切り捨てられないでいる」
志波隊長がいた頃から、もっと前の、俺等が新米だった頃から変わらねえ。
でも、なんとか治さないと。
「俺らを切れねえ敵がいるんだから、俺らが切ってやらねえとな」
それは心を切る行為だ。
あの人に教えてもらったもんはたくさんある。
「ただ、その前に返す言葉があるよなぁ……
「あの、ぼくは
浦原喜助も、この期に及んで人脈を隠すつもりは無かったようだ。
「あら? 私の事を忘れたんですか?」
「いえ、松本さん。忘れてません」
「だったら、俺も覚えてるってことで?」
「あ、ハイ。もちろん当時の三席を忘れるわけがないって言うか……」
「俺は当時、十一番隊でしたけど」
「今は六番隊の副隊長でしょ? 知ってますよ、もちろん!」
「お? 十一番隊はどうですかぁ?」
「あ、その、はい。もちろん覚えているます」
「……みんな、いい加減止めて差し上げなよ」
弓親の声で止まる。
今は一護の家、というよりも一護の部屋を借りて話していたのだが。
元隊長殿は良い思いをしていたらしい。
恋次や一角から、「こう言って下さい、隊長!」とか頼まれていた。よく分かっていないが、ちょっとしたジャレあいだろう?
部屋の主である一護は呆れた顔をしていたが。
「よく分からねぇが、落ち着いたんだな?」
一護に対してうなずく俺だが、
「これを良くわからないで済ます冬獅郎って、友達ちゃんといるか?」
「ああ多分。ただ、雛森に聞かねぇと分からねぇわ」
「そういうとこが可愛いのに」
「おいそこぉ!?」
一護に恋次、乱菊がふざけて言うが、まぁ気持ちは分かる。
巫山戯ないと、やっていられない。
ふざけないと、やっていられない。
「……落ち着いたか?」
俺の一言を察したのだろう。
皆が姿勢を正す。
「議題としては、那由他の意識だ」
あいつが失ったと思われる自我。それを認識出来ているなら、話しは別だ。
「それなんだけどさ」
俺らの認識を変える一言が、唐突に産まれる。
「那由他さんは、意識ある?」
志波一心元十番隊隊長──いや。
黒崎一心の言葉は、虚圏に突入する上での前提を覆す言葉だった。