ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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たくさんの評価・お気に入り・感想、そして誤字報告まで……本当にありがとうございます!
この作品、ニ話時点で黄色バーだったんですぜ? たまげたなぁ……。



芽…だと…!?

「ぐっ!? 儂について来るとは、本当に大した奴じゃのぉ!」

「夜一さんのおかげです」

「ならば、まだ負けられんわ!」

 

 ボクの視線の先では夜一サンと那由他サンが鬼事をしてます。

 鬼事と言っても瞬歩を使っての稽古。

 

 『瞬神』の異名を取る夜一サンについていけるのは、今のところ那由他サンと……砕蜂サンくらいでしょうかね?

 

 砕蜂サンも才能があるようで、最近は夜一サンのお気に入りッス。

 勿論、一番のお気に入りは那由他サンみたいですが。

 

 それを少し寂しそうな顔で見つめていた砕蜂サンに気付いたのか、那由他サンは砕蜂サンとも仲が良いですね。

 

 砕蜂サンも彼女を姉のように慕っていますし、顔に迫力のある彼女の事を理解して下さる方が増えるのは嬉しいものです。

 

 

 

 崩玉を作ってからしばらくが経ちました。

 

 

 

 藍染サンに「これは使えない」と言った時の事を思い出します。

 

 彼は期待を裏切られたような顔をしていました。

 当然でしょう。

 私だってそうですし。

 

 なんて、都合よく自分を被害者にするのも逃げッスね。

 

 ボクは那由他サンを救えると思っていました。

 

 今思うと自惚れッスよ。

 ボクは当時の曳舟隊長にも目をかけてもらえて、色々と成果を出し、『技術開発局』なんて組織を立ち上げ、その局長になったんスから。

 

 まあ調子に乗っていたんでしょう。

 

 ――自分なら出来るって。

 

 新たな方法を模索してはいますが、どうも上手くいかないです。

 普通なら魂魄と霊圧は相関関係がありますから、那由他サンが特殊すぎるきらいはありますが。

 

 

 那由他サンの本来の実力を発揮できるようにすれば、尸魂界の平和は盤石なものになります。

 あの総隊長ですら認める霊圧ッスから。

 

 特殊な状況を考慮して兄である藍染サンのいる五番隊へ配属されましたが、隊首会ではどの隊が受け入れるかでひと悶着あったそうですし。

 総隊長ですら一番隊にと思っていたようですから、相当な期待のされ具合ッス。

 

 そんな彼女の魂魄を改善するために期待されていたのが、ボク。

 

 

 つまり、ボクは役目を果たせなかったという訳ッスねえ。

 

 

 天才だとか色々言われてきましたが、いやはや。

 伸びた鼻を折られた気分スよ。

 

 

 

 ただ、だからと言って諦めはしません。

 

 

 

 役目、というのも勿論ありますが、ボク個人としても那由他サンを助けてあげたいです。

 

 それはボクだけじゃないッスけどね。

 

 護廷十三隊にいる殆どの方が願っているんじゃないッスか?

 

 

『浦原のアホンダラァ! お前は何のために隊長やっとるんじゃいボケェ!?』

 

 

 なんて、ひよ里サンに飛び蹴りされたのも良い思い出です。

 

 彼女も那由他サンと仲良いッスからねえ。

 ほぼ同期でしたし。

 

 あの乱暴な口調も那由他サン相手には柳に風なので、どこか気楽に話せているようです。

 よく矢胴丸サンと久南サンと四人でお茶してるみたいですし。

 羨ましいッスねえ。

 

 

『彼女にはもう上級鬼道以外教えるものがないデスヨ……』

 

 

 有昭田サンも彼女の才能には困っているようでした。

 

 那由他サンも結構忙しいはずなんスけどねぇ……。

 ほんと、体力と要領は人並み以上です。

 

 那由他サンは「教える事がもうない」とまで言っていた彼の元へ、今でも足繁く通って鬼道の研鑽を積んでいるそうですが、真面目というか何というか。

 

 

『私の事を“師匠”と呼んでくれるんデスヨ? ()()を使うのが夢だって、普段の表情からは考えられないほどキラキラとした瞳をしていました。これでは師匠失格デスヨ……』

 

 

 歯痒い思いをしているのは彼だけじゃありません。

 

 

『始解が出来んって、しょっちゅう言ってくんねんアイツ。俺にどないせいっちゅうんじゃ』

 

 

 平子サンも呆れたような疲れたような愚痴をよく零しています。

 

 

『俺は普通の事しか言えんわ。那由他の霊圧なら始解どころか卍解が出来ても驚かへんけどな。……他人頼りで悪いとは思っとる。せやけど、どうにか出来んのは──お前だけやで』

 

 

 言われなくても分かってるッスよ。

 

 表情が見えにくいだけで那由他サンが優しい心を持っている事は平子サンも当然分かってます。

 

 良く喋る平子サンとの相性がちょっと悪いだけッス。

 だから始めは彼も少し苦手意識を持ってたらしいッスけど、最近は平子サンも慣れてきたのか良く一緒にいるのを見かけます。

 

 

『アイツもうどっかの副隊長とかで良くねぇか?』

 

 

 あのぶっきらぼうな六車サンまでこれッスからねえ。

 

 

『白哉の嫁に――』

『父上……』

 

 

 この親子も那由他サンを相当気に入っているようですし。

 

 

『彼女の心は美しい音楽を奏でているよ。少し、その表現が苦手なだけさ』

 

 

 威圧的な顔がどうにかならないかと鳳橋サンのところへ顔を出してもいました。

 

 

『回道も基本的な事は全て教えました。とても勤勉で優秀な子ですよ、彼女は』

 

 

 おまけに卯ノ花サンからもお墨付き。

 

 

『ああいう気の強そうな子は弄りたくなるんだよね~』

『おい、やめとけよ。本気で嫌われるぞ?』

『分かってるって~』

 

 

 京楽サンや浮竹サンも随分と那由他サンの事を気にかけている。

 

 

『浦原喜助よ。技術開発局を認可した理由の一つは……分かっておろう?』

 

 

 総隊長からの恫喝まがいの激励には涙が出そうッスね!

 

 

 

 そんな中でも、特に仲が良さそうなのは志波家のお二人です。

 

 

「おう、那由他! 一緒に飯行こうぜ~!」

「な、那由他さん! 僕も一緒でいいですかぁ!?」

「うるさい奴じゃのぉ」

「構いません」

 

「それはご飯を一緒しても良いって事でしょうか!? それとも煩くても良いって事でしょうかぁ!?」

 

「本気で煩いぞ、こやつ」

「どちらも構いません」

 

「イヤァッフゥーーー!!!」

 

「……家の親戚がすまん」

 

 

 どうやら十番隊の志波一心サンが那由他サンに憧れを抱いているみたいです。

 

 しょっちゅう出汁にされている十三番隊の海燕サンは少し鬱陶しそうですが、彼も本気で嫌がっている訳ではないのでついでとでも思っているのでしょう。

 

 那由他サンも彼ら二人には心を許しているようで、普段より少しだけ顔が柔らかく見えます。

 

 

 ……これは藍染サンに()()()でもした方が良いんスかね? 

 

 

「夜一さん」

「うむ。今日はここまでにしておこうかの」

「ありがとうございました」

「構わん構わん。儂も息抜きに丁度良い。書類仕事ばかりじゃ肩が凝るからのう」

「……」

「この助平。どこを見ておる」

「一心……お前なぁ」

「ちちちちち違うでありますよ!?」

 

 姦しいやり取りを微笑まし気に見てる那由他サン。

 まあ、無表情ではあるんスけどね。雰囲気ッス、雰囲気。

 

 と、彼女がこちらの方へとやってきたッスね。

 なんでしょうか? 

 

「浦原さん」

「はい。どうしたんすか?」

「ご迷惑、おかけします」

「……いえ、不甲斐なくてすみません」

「そのような事は」

「あるんスよ」

 

 ボクの研究が自分のせいだとでも思ってるんスかね、この子は。

 

「浦原さんは必要な人です」

「アハハ、励ましてくれるんすか?」

 

 

 

「いえ、私にとって──()()()()()()()()()()()()()なので」

 

 

 

 口下手な彼女らしい、とても真っ直ぐな想いでした。

 

 ここまで言わせてしまうなんて……我ながら情けないッスねぇ。

 

「では、失礼します」

「那由他サン」

「はい」

「ありがとうございます」

 

 ボクの言葉に深く頭を下げて、彼女は志波サンたちと去っていきました。

 

 

 

「喜助」

「夜一サン」

「お主は励んでおる。それは儂も、皆も分かっておる。しかし……その程度でお主が音を上げる訳がなかろう?」

 

 彼女がニヤリと揶揄うように笑いかけてくる。

 

 まったく。

 ボクの周囲の女性たちは、ボクをやる気にさせるのがお上手ッスね。

 

「那由他は既に斬拳走鬼の基礎を極めてしまっておる。今のあやつではこれ以上の成長は見込めん」

「夜一サンから見てもそうですか」

「恐ろしいほどの才能よ。総隊長殿が特別に目をかけたがるのも道理じゃな」

 

 どこか誇らしげに、しかし寂しそうに夜一サンは呟く。

 

「普通ならば斬拳走鬼を行えば霊圧が上がり、その分より高度な事へ手を付けられるはずじゃ。しかし、那由他は魂魄の問題から精密さを鍛える他ない」

 

 誰もが分かっている事です。

 

 このままでは彼女の才能は朽ちてしまうのみとなる。

 

 藍染サンが必死に彼女を救う術を探しているのも当然です。

 

 

「あん? 那由他はおらんのかいな」

「平子サン」

「那由他なら海燕と一緒に飯に行きおったぞ」

 

 自然と名前を外される一心サンに涙を禁じ得ないッス。

 

「あちゃー、入れ違いかいな。今日中に仕上げたい書類任そ思っとったのに」

「その程度自分でやらぬか、戯けめ。お主が隊長じゃろうが」

「副隊長の藍染サンに任せれば良いんじゃないッスか?」

「アイツも見つからんねん。兄妹揃ってどこほっつき歩いとんや」

「だから那由他は飯じゃ」

「ツッコミどころそこッスか?」

 

「那由他ー! ウチと飯行かへんかー!?」

 

「なんや煩いのが来よったわ……」

「な、ハゲ真子!? なんでお前がここにおんねん!」

「俺がおってもええやろがっ! 後ええ加減ハゲ言うなやボケ!」

「ハゲをハゲ言うて何が悪いんじゃボケェ!!」

 

 ひよ里さんのドロップキックが平子サンに見事に突き刺さりましたね。

 まあ、大丈夫でしょ。

 

「で、那由他はどこおんねん?」

「飯にいったぞ」

 

 夜一サンも面倒になってきてますね。

 先ほどよりも適当な対応ッス。

 

 

「かー! 那由他の人気高過ぎやろ! 昨日も別のアホと飯行っとるんやで、アイツ!」

 

 

 その言葉だけで、彼女がどれだけ皆に愛されているかが分かります。

 

 ハンデを抱えた那由他サンを、皆が助けたいと思っている。

 

 

「じゃあ、ボクも頑張るとしますかねー!」

 

 

 これ以上情けない姿を、あの子には見せられないッスね。

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 今日は海燕さんと一心さん、三人で晩御飯だ。

 

 いやぁ、俺BLEACHの中でルキアと苺が一番好きなんだよね。

 その関係者と仲良くなりたいやん? 

 

 なんか一心さんはよくご飯に誘ってくれるし、海燕さんも付き添いみたいな形で一緒の事が多い。

 

 普通に嬉しいわ。

 アイドルとの握手会気分。

 

 斬拳走鬼も楽しいしね。

 

 高度な事は魂魄の関係で出来ないけど、その分細かい作業とかが上手くなっているのが分かりやすい。

 

 鬼道は込めた霊圧によってモロ威力が変わるから、小手先ばっかり上手くなっていくけど仕方ない。

 

 こないだは『疑似重唱』とかいうのを覚えた。

 

 まあ、解放する必要量が増えるから低位の鬼道でしか使えませんが。

 

 教えてくれた大前田副隊長とハッチさんは凄いと褒めてくれたけど、俺は黒棺を撃ちたいんじゃぁ……。

 オサレに詠唱破棄して余裕の笑顔とか浮かべてみたいんじゃぁ……。

 

 そう言ったら可哀想な奴を見る顔された。

 

 ごめんなさい、調子乗りました。俺じゃ無理ですよね……。

 

 魂魄強度以前に普通に難しいみたいだし。

 隊長格でも使える人少ないんでしょ? 

 

 僕八席。

 無理ですわー。

 

 霊圧込めすぎて自爆しそう。

 繊細な操作は上手くなったけど、それも中位までだし上位も同じ感じで扱える気はしない。

 

 一回も使ったことないものを本番でだけ使えると思うほど甘い難易度じゃないだろう。

 

 そもそも魂魄の問題で使えません。(無慈悲)

 

 

 瞬歩は夜一さんと鬼ごっこしてたらなんか上手くなってた。

 

『二番隊にこんか?』

 

 なんてお誘いも受けてしまった。

 普通に嬉しい。

 

 でも、ヨン様から離れるのもそれはそれで怖いんだよ……。

 

 

 斬術は銀嶺隊長に、白打は夜一さんと拳西さんにそれぞれ教えてもらってるが最近どんどん厳しくなってきててちょっと辛い。

 

 夜一さん以外の人は始解で殴り掛かってくるのやめてもらえませんかね?

 俺が持ってるの始解も出来ないただの斬魄刀なんすけど。

 

 鍛錬後にはご飯とか奢ってもらえるから鍛錬には行くけどさ!(現金)

 

 

 

「──ど、どうでしょうか!?」

 

 

 あ、ヤバ。

 

 一心さんの話を全く聞いてなかった。

 

 とりあえず頷いとこ。

 

「おい那由他。別にこいつに無理に合わせなくても良いんだぞ?」

 

 海燕さんは呆れ顔である。

 

 ゴメン。マジで話聞いてなかった。なんて? 

 

 俺が小首を傾げると「ハァ……」なんて深いため息を海燕殿に吐かれてしまった。

 海燕殿ぉ……。

 

「お前はホントお人好しと言うか何と言うか。あれだ、無防備ってやつだ」

 

 そんな事はない。

 

 どうせヨン様にずっと監視されてるだろうからな! 

 ある意味24時間体制の最高級セキュリティだと思う。

 

「こりゃ分かってねぇ顔だわ……」

 

 またしてもため息をつかれた。

 海燕殿ぉぉぉ……。

 

「ま、そこがお前の良いとこでもあるんだけどな!」

 

 海燕殿ぉぉぉぉ! 

 

 今度は眩しい笑顔である。

 テライケメン。苺に似てるから余計にそう思うわ。

 

 思わず視線を一心さんの方へ移す。

 

 なんか安心するわぁ……。

 

 父性を感じる。

 俺より年下らしいけど。

 

「ハ、ハヒュッ!」

 

 なんか過呼吸なってない? 

 大丈夫? 

 

 近寄って背中をさすってあげよう。

 

 ほれ喜べ。美女の介抱やぞ? 

 一心くんなら嬉しいやろ? 

 

「ヒュィッ!?」

 

 何故か酷くなった。

 なしてや。

 

「那由他、やめてやれ。それ以上は一心が保たない」

 

 えー、美女のナデナデよ? 

 何でさね。ブーブー。

 

「そういうところが……って、言っても無駄か」

 

 またしてもご尊顔が曇ってしまわれた。

 

 

 何か目覚めそう。

 もうちょっと困らせたい気分。

 

 

「一心殿」

「ハイ!?」

「大丈夫ですか?」

「モチロンデス!」

 

 元気の良いお返事だこと。

 

 じゃあ、今度は海燕さんの頭をヨシヨシしてみよう。

 

 

 ──ナデナデ。

 

 

「バッ!? おま、何!?」

 

 

 うはは、何これおもしれー! 

 

 

「てめ、ワザとだな!? 副隊長を揶揄ってんじゃねーぞ!?」

 

 速攻でバレた。残念。

 

「ったく。で、どうすんだよ?」

 

 何が? 

 

「一心と逢引きすんのか?」

 

 

 

 

 ……逢引き? 

 

 

 

 

 あ、デートの事ね。

 

 

 

 

 ……なんで? 

 

 

 

 

「こいつ分かってなかったのか……。藍染副隊長も過保護すぎんだろ」

 

 それは絶対ない。

 

「オ、オレは那由他サンに、ソノ! 憧レテマシテ!!」

 

 あ、そういう事ね。

 

 ほーん。

 

 ふーん。

 

 

 

 

 ──ニヤァ

 

 

 

 

 一心さんはどうせ現世に行って黒崎真咲さんと結婚して一護をもうけるのだ。

 別に一時の憧れくらい構いやしない。

 

 いやぁ、人気者って辛いね!

 

 俺にとってもアイドルから“二人でお出かけ”というシチュエーションに誘われたようなもの。

 

 特に断る必要もない。

 

 

 ここはちょっと、

 

『黒崎一護』に対する布石を与えてみようか。

 

 

 俺の存在でもし一護が生まれないとかなると大惨事だからね。

 俺は是非とも君の曇り顔を見せて欲しいわ。

 

 個人的には苺とルキアがBLEACHの絶望顔二大巨頭なんだよ……フフッ。

 

 死神代行消失編以降はよく知らんけど……まあなんとかなるやろ。

 頑張れ、主人公。キミの湿った輝きに期待する!

 

 

 まあ、要はちょっとしたテコ入れである。

 

 流石のヨン様でも分かりはすまい。

 

 生まれるどころかまだ一心さんはお相手と会ってすらいないのだ。

 これでバレたらマジモンの未来予知である。

 

 

 ……フラグかな?(再び)

 

 

 だだだだ大丈夫やろ! 

 でも心配だから意味深にしとこ。(小心者)

 

 まあ、今回は一心くんを適当に少し揶揄うだけですよ。

 

 

 

 ハッ! 

 

 

 ヨン様、これが愉悦でしょうか!? 

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 今日は待ちに待ったあの那由他さんとお茶する日である。

 

 男・志波一心! 

 気合入れて参りましょう! 

 

 

 いや、流石の俺でも分かっている。

 あの人との『お茶会』である。決して逢引きではない。

 

 

 分かってはいるさ~♪

 

 

 ルンルンと小躍りしながら待ち合わせ場所に行くと、あまり見慣れない普段着姿の那由他さんがいた。

 

 ヤバイ。待たせてしまったか!? 

 

 

「すみません! お待たせしてしまったみたいで!」

「いえ、今来たところです」

 

 

 ねえ、聞いた? 

 今の聞いた? 

 

 まるで恋人みたいじゃ~~~ん!! 

 

 顔がデレッとならないように気を付ける。

 普段から凛々しい姿の那由他さんに無様は晒せない。

 

 口元は許そう。ニヤつくのは仕方ない。

 だって、男の子だもんっ!

 

「今日はなんだかいつもと雰囲気が違いますね!」

「そうでしょうか?」

 

 那由他さんは自分の服を確認し始める。

 

 や、別に似合ってない、どころかメッチャ似合ってるんで何も心配いらないんですよ? 

 

 ただ、そういった天然ぽいところが可愛い。

 普段の美しくキリリとした姿も良いが、今の姿は可愛い。

 

 

 

 けれど、那由他さんは可愛いだけじゃない。

 

 実力も凄い。

 尸魂界中に名が轟くほどである。

 

 何せ霊圧が桁違いに高い。

 

 隊長格で見ても、恐らく山本総隊長に次いで大きいだろうという話だ。

 

 この若さで、である。

 

 更に、それに増長せず基礎の斬拳走鬼を磨きに磨いており、色々な隊舎へ顔を出しているほど。

 あの卯ノ花隊長に師事し回道まで習っているそうだ。

 

 向上心の塊である。

 

 更に更に、彼女は魂魄が生まれつき弱いらしい。

 そのため、あれだけ膨大な霊圧を使いこなせないとか。

 

 それに挫けず、自分に出来る修練を何十年も続けてきたようだ。

 

 そして、現実に五番隊第八席という結果を残している。

 

 

 

 これで憧れるなって方が無理だろぉーーー!? 

 

 

 

 那由他さんは俺たち平隊士の『目標』であり『憧れ』だ。

 

 いや、平だけでなく席官もその姿勢に感銘を受けて彼女に続こうとしている。

 

 俺も頑張ってきた甲斐あって、今度席官への昇進試験を受けられる事になった。

 

 せめて、何か彼女に恩返しがしたい。

 一方的だとは分かっていても、普段からご飯に誘ってきたのだ。

 それくらいは許されるだろう。

 

 今日の本来の趣旨はそこである。

 

 ……決して忘れていた訳ではない。

 

 

 

 道中は小粋な話術で彼女を楽しませ、海燕に聞いといた美味しいと有名な茶店に入る。

 

 珍しい事に那由他さんも今日を楽しみにしてくれていたようで、時折だが口が緩い弧を描く事もあった。

 

 

 

 これは……もしや、芽がある……だと……!?

 

 

 

 なんて思っていた矢先の事だった。

 

 茶と甘味を頼んでしばらくした時。

 

 

「一心さん。大事なお話があります」

 

 

 なんという事でしょう。

 あの那由他さんから話を振ってきてくれたではありませんか。

 

 俺は姿勢を正して精一杯のカッコイイ顔を作る。

 

「はい、僕の方はいつでも」

 

 少し先走ったかもしれん。

 

「とても大事な事です」

「はい」

「よく、聞いて下さいね……?」

 

 あ、あの那由他さんがどこか恥ずかしそうにしているだとぉ!?

 

 普段が無表情だからか、少しの変化でもその威力が半端ない。

 

 ヤバい、緊張してきた。手汗が、手汗が! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は、後に大切な女性と出会うでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

「もし誰かを救う時は迷わず向かってください」

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「私は、貴方の行く先を ()()() しております」

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 男・志波一心。

 

 

 初恋はあっけなく散った。

 

 

 

 




ヨ「…!?」(スッ

ヨ「ニヤニヤ」(スッ…


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