ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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教唆…だと…!?

 

 俺──グリムジョー・ジャガージャックはNo.6(セスタ)の地位を剥奪された。

 

 それだけでも腹立たしい事だ。

 しかし、今の俺はもっと別の事を考えていた。

 

 那由他に庇われた。

 

 その事実が、どうしようもないほど俺の怒りを掻き立てる。

 虚であった時には自覚してすらいなかった感情というもの。

 破面となって手に入れたのは力だけでなく、この焦燥感と苛立ちも伴ってなのだから、俺には余計なものとしか思えなかった。

 

 何故、那由他はこの感情という物を大事にしているのか。

 

 直接言葉として奴の意見とやらを聞いた訳では無いが、それでも見ていれば感じる。

 あいつはきっと、そこに何やら大切なものを見出していると。

 

 この間、刃を交わした黒崎一護もそうだ。

 

 どうやら那由他の家族らしいが……家族ってのはよく分からねえ。

 そんな繋がりを殊更大事に抱えてやがる人間ってものが、俺には理解し難い。

 まるで意味のないものだ。

 

 俺を『王』と讃え、従属官(フラシオン)として側に侍っていたあいつらも──俺にとってはカスみたいな奴らだった。

 

 俺が黒崎一護と決着を付けられなかったのも。

 あのいけ好かねえ統括官も。

 『王』と言って付き従う奴らも。

 俺の苛立ちが止まらないのは、全てが藍染那由他のせいだ。

 

 そうでなければならない。

 

 だからだろう。

 俺はあいつの大事なもんをぶっ壊して、この感情との決着をつけたいと考えるようになっていた。

 壊すのはなんでもいい。

 あいつが俺に向けるあの『目』を、常に他者を慮り、虚や破面を我が子のように慈しむような。

 

 あの『目』が俺は、とにかく気に入らねえんだ……!! 

 

 そのために丁度良い標的(えもの)もついこの間見つけられた。

 

 

黒崎一護……! 

 

 

 てめぇは随分と那由他に入れ込んでるみてぇだな。

 俺がてめぇをこの手で殺してやれば、那由他のあの『目』はどうなるんだろうな!! 

 それでも俺を変わらぬ『目』で映すのか、こいつは見ものだ!! 

 

 未だ見ぬ負の感情を宿した那由他の瞳を思い浮かべ、俺は胸に(わだかま)る不快感を無理やり飲み下した。

 

 

「よぉ、随分と苛ついてんなぁ。グリムジョー」

 

「……ちっ。何の用だ、ノイトラ」

「つれねぇ事を言うなよ、同じ十刃の仲だろ? いや、お前はもう十刃落ちだったか」

「てっめぇ……!」

 

 破面に仲が良い、なんて関係があるのか甚だ疑問だ。あるとしたら強さによる上下関係だろう。

 ノイトラ(こいつ)は俺を煽って遊びたいだけで、こんな奴に構うだけ時間の無駄である。

 こめかみに青筋を浮かべ舌打ちだけし、ガンを飛ばしながら奴の隣を通り過ぎようとした。

 

「そう急ぐなよ、てめえにも悪くない提案があんだ。話だけでも聞いてけよ」

 

 普段だったらニヤニヤとした嘲笑を浮かべながら見送るノイトラが、今日に限ってはやけに絡んできやがる。

 通り過ぎざまに掴まれた肩から奴の手を払い除けた。

 

「お前と話すなんてクソ喰らえだ」

「俺も随分と嫌われたみたいだな」

「自覚してんなら話しかけてくんじゃねぇ」

 

 今度こそこの場から立ち去ろうと一歩を踏み出した、その時だった。

 

 

「てめぇも那由他の、あの『目』が気に入らねえんだろ?」

 

 

 次の足が前に出ず、俺はまるで縫い付けられたかのようにその場から動けなくなった。

 何がここまでの動揺を俺に(もたら)すのか。

 自身の感情を見透かされたからか、俺と同じような感情をノイトラ(こいつ)が抱いていたからか。それとも、同じ穴の(むじな)であったことが分かった嫌悪感からか。

 ただ、ノイトラの言葉にどういった意図があるのかはすぐに分かった。

 

 

那由他(あいつ)が大事にしている()()を──ぶっ壊そうぜ?」

 

 

 ゆっくりと後ろを振り返った俺は、一体どんな顔をしていたかは分からない。

 ただ、視線の合ったノイトラは口角を引き上げ、三日月のような笑みを浮かべていた。

 俺の反応に機嫌を良くしたのか、ノイトラは饒舌に話し始める。

 

「親衛隊を自称している女破面たちを嬲っても那由他(あいつ)は『目』を曇らせるだろうが、雑魚どもに用はねぇ。殺す価値もねえ奴らを殺したところで、俺の苛立ちは収まらねえからな」

「……どうして那由他にそこまで固執してんだ」

「てめえがそれを言うか? ククッ」

 

 虚には“心”がない。しかし、破面としてヒトに近づいた俺たちには、どうしてだか“感情”がある。

 理性と呼ばれるものがある。

 

 

「気に喰わねえんだよ、戦場でメスがオスの上に立つのがな」

 

 

『貴方たちは、既に獣ではありません』

 

 そう那由他(あいつ)に言われた時、俺はどう思ったか。

 あぁ、簡単だ。

 

 俺は『王』だ。

 

 俺が『王』になると、本気で信じ付いてきていたあいつらの『王』だ。

 そして、それは“()()()”であった。

 だから、俺は獣らしく、『王』らしく。

 本能に従って、獲物を全力で狩りに行く。

 

 ノイトラの狙いは興味もねえ。

 ただ、片方しか無いその目には絶望と歓喜、執着や恐怖といった様々な感情が渦巻いている事だけは分かった。

 

 分かるぜ、ノイトラ。

 

 その目はきっと、俺と同じものに取り憑かれている。

 

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 

 俺──ノイトラ・ジルガは未完成の崩玉によって破面化した。

 

 破面化してからは自らの力に酔いしれ、誰彼構わずに決闘を挑んだ。

 藍染那由他もその一人だ。

 

 とにかく癪に障り、気に入らない奴だった。

 

 俺の何もかもを、俺が自分でも気付いていない願いすら見透かすような、あの『目』に初めは恐怖すら覚えた。

 以前、あの『目』を曇らせるために那由他へと闇討ちを仕掛けたが、その時ですら奴の『目』は変わらなかった。

 

 以来、俺には女破面どもの警戒と敵意の視線がずっと付き纏う。ウザッテェ。

 群れなきゃ何も出来ない雑魚どもの癖に、いっちょ前に俺を敵視している姿は滑稽だった。

 お前らは俺の敵ですらねーんだよ、バカが。

 しかし、藍染那由他以外にも俺には勝てねえメス(やつ)がいた。

 

 『ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク』、そして『ティア・ハリベル』だ。

 

 虚とは違う破面は、根源的欲求を抑える事が出来る。

 その中でも特に人間に近しい感性を持っている奴らだ。

 それが、無意味な足かせになってるとも知らずに。

 

 

 

『俺は決闘だと言ったはずだぜ……。最後までやれ!』

 

 那由他によって認めたくない感情を抱いてしまった俺は、とにかく何もかもを壊してしまいたかった。

 当時、No.3(トレス)でありながら那由他の侍従のように付き従っていたネリエルも、その対象として決闘を挑んだ。

 そして、歯牙にも掛けず一蹴された。

 

『私達は一度ヒトから虚となり、そして再び破面として理性を取り戻した。理性を持つ者は戦いに理由が必要なの』

『理由ならあるさ! 俺は気に喰わねえ奴ら、すべてぶっ壊してえだけだ!!』

『それは理由じゃない。本能よ』

『だから何だ! 俺には関係ねえ!』

 

『そう、……貴方、那由他様が恐ろしいのね

 

 しばらく、ネリエルの言葉が理解できなかった。

 俺が、誰を、恐れているって? 

 

『なん……だと……?』

『那由他様は私達にヒトとして歩む道を示して下さった。戦いを目的とする貴方は、自身があの方に認められていないと受け取ったのかもしれないけれど』

『ふざ、けるなぁ!!』

『貴方は獣よ。戦士でもない者の命を背負う気は無いわ』

 

 虚や破面が、那由他(あいつ)によって救われているとでも言うのか? 

 そんな訳がない! 

 虚は破面は、俺は、「救われない存在」だ。

 感情を取り戻しても、人であった時に持っていた大切な何かは失っているんだ。

 だからこそ、俺は戦いの中で倒れる事を望んでいる。

 

 

 

『このコロニーの殲滅は指令に無かったはずよ。藍染様の命令は最上級大虚(ヴァストローデ)を探し出せ。大量殺戮は目的に反するわ』

『俺に殺される程度の奴が最上級大虚な訳はねえ。むしろ向かってくるやつは反乱分子だろ。殺すのが藍染様の為じゃねえか』

 

 この時もそうだ。

 

『私達はその()()()()から運良く進化したに過ぎないのよ。そして、ただの虚で無くなったのなら、それ相応の言動を取るべきなの』

『それも那由他(あいつ)の戯言か?』

 

 目を細め無言で俺を睨むネリエルを見て、俺はこいつを挑発するのに那由他の名は使えると思った。

 つまり、那由他に対する手は周囲の奴にやった方が効果的だと理解したんだ。

 

『……呆れるわ。十刃になっても子供なのね』

『何だと!?』

 

 俺はネリエルが気に入らねえ。

 寡黙なハリベルはまだマシだが、ネリエルは事あるごとに俺を諌めようとしてきた。

 御大層な那由他様の言葉を並べ立ててなぁ! 

 

 どいつもこいつも、軽々しく情けをかけやがる。

 それがどれほど傷口を踏みにじるかも知らずに。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、俺は命を救われ破面にされたんだ。

 同時に、ただ絶望だけが俺を支配した。

 決して俺は救われないのだと、その時に初めて理解した。

 

 だから、俺は容赦しねえ。

 

 強かろうが、弱かろうが、赤子だろうが、獣だろうが。

 二度と立ち上がることがないように、一撃で叩き潰す。

 そうする事で俺は最強となり、最強の敵と戦える。

 那由他に感謝する事があるとすれば、あいつに与えられた絶望が俺を更に強くさせてくれた点だろう。

 

 

 

「だからよぉ、グリムジョー。俺と手を組め」

 

 陶酔したように気分が昂ぶっている事を自覚しながら、俺は目を逸らさずにこちらを見据えるグリムジョーへと再び声を掛けた。

 

「那由他に庇われるように虚圏(ウェコムンド)へ帰ってきて苛ついてるんだろ? No.6(セスタ)の地位まで奪われて、お前は納得できんのかよ!?」

 

 グリムジョーとの距離を詰め、額が触れ合うほどの距離で目を見つめる。

 

「てめえにとっても、鬱憤を晴らせるチャンスだろ?」

「……うるせえ。俺は俺のやり方でやる」

 

 しかし、それでもグリムジョーは猛々しい霊圧を俺に当てながら威嚇するように目を逸らさない。

 そういった奴だと分かっているから声を掛けた。

 

 そして、こういった奴だからこそ、お前は()()()()()()()動いてくれるだろうよ。

 これが、どれだけてめえにとってメリットのある話か。分からないバカでもねえ。

 

「俺の獲物に手を出したらぶっ殺す」

 

 低い唸り声と共に吐かれた言葉は想像と寸分違わない。

 続く言葉にも、俺は嘲笑を消さず応えるだろう。

 

「ただし、狩りの途中で()()()()()()が割り込んできたら、まとめてぶっ殺してやるよ」

 

 

 俺はどんな卑怯な手であろうと勝てれば良いと考える。

 

 どうせ那由他の事だ。

 黒崎一護の、家族の危機には反応するだろうさ。

 

 てめえだけは必ず殺すぜ。

 

 

 ──ネリエルよぉ。

 




那由他によって『目』を焼かれた二人。
これは悪女(棒読み
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