ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

53 / 67
派遣…だと…!?

 

 

 ──俺は、早くもミスを犯した。

 

 

 不安だろう? 俺も不安だ。

 何せ、虚圏にやってきた苺が出会う破面の中でも、将来的に1,2位を争うくらい重要な立ち位置だよ、ネリエルって。

 本当はノイトラに背後から襲われてNo.3(トレス)の地位から追放されんだよね。たしか、襲撃の後遺症で記憶を失ってただの貧弱な子供破面として虚圏を放浪する事になるはずだ。

 そこで織姫ちゃんを助けに来た苺と鉢合わせるんだから、運命って怖いねー。

 

 信じられるかい? 俺がそのフラグへし折ったんだぜ……?(震え声

 

 本来ならネリエルを襲うはずだったノイトラくんがちょっと調子乗ってたもんで、軽く締めてあげたら大人しくなっちゃったんだ。まさか半殺しにしただけでネリエル襲わなくなるとは思わんやん。しかも何故か俺に執着し始めるし……。キミはネリエルのケツ追っかけてろよぉ。

 

 やばいかなぁ、ネリエルいないと苺がヨン様に負ける、とかあり……える、か……? 

 ん? そう考えると、そこまで重要でもないような。

 え、なんかもう良くない? どうせこれまでもミスなんていっぱいしてるし、今更一つくらい増えた所で……。あ、でもヨン様の前にノイトラに負けるか、ダメじゃん。

 

 もうどうにでもなーれの心持ちである。

 今までにも数々のガバをこなしてきた俺だが、ネリエルがネルにならないなんて、そこまでのデカいガバ……した事あるかもしれないけど。もうリカバリーの方法が分からんちん! 

 過ぎたことは気にしない! もうワカチコの精神でいこう。

 まずはネリエルをネルにする事を早々に諦める所から始めます。

 

 まあ、『とりあえず一護の側にいて』とガバ理論でネリエルに頼んでみるか。

 

 言わんよりはマシやろ、多分。

 ネリエルの忠犬っぷりを見てたら多分俺がお願いしたら聞いてくれそう、というガバ理論の上にガバ理論を重ねるという新提案。

 

「ネリエル」

「! はっ」

 

 しかし、さっきネリエルに顔を覗かれたが、その時に死ぬほど絶望した顔をされたのはショックである。

 タイミング的に俺がネリ・トゥ事件に気が付いた(遅い)時だと思うんじゃが、それでなんで彼女に幻滅されたのかは分からない。が、とりあえずネリエルの顔を見るのは怖い。

 

 こういう時、小心者の俺はネリエルの視線から目を逸らすように前だけ見据えながら口を開くんだ。目線を合わせないのは陰キャの常識。いや、この場合はちょっと違うか。まあええわ、ワカチコしとこ。

 

「貴方が気に病む必要はありません。全て、私が自ら蒔いた種なのですから」

「そ、そのような事……! 那由他様、私にご命令を」

 

 ほんと優しいネリエル。まるでネリエル(じぶん)が至らないとばかりに悔しそうな声で命令を乞うてくる。

 俺なんてそれっぽい事を言っているだけで、要は『見捨てないで、お願い!』って話してるだけなんだから。

 このヨン様の楽園の中で俺の心の拠り所は、無邪気に慕ってくれてる君たちだけなんだ……。

 だからこそ、明らかにヨン様への裏切り行為となる言葉を伝えるのに躊躇う。

 でもなぁ……そうしないと後々困ったことになるだろうしなぁ。

 

 お願いだからヨン様にチクらないでくれよ! 

 

 

「一護が虚圏へ来た際、ネリエル──貴方は彼の味方となってあげて下さい」

 

 

 少しの間、悶々と悩んだが思い切って言ってしまった。とは言っても、他の子には聞こえないように小声でだが。

 影から一護たちを見守る感じでいいからさ。そしたら監視だって言い訳もできるでしょ、いい感じに。

 

 歩く足は止めず、前を見つめながらネリエルの反応を待つ。

 無言だ。めっちゃ怖い。なんか言って。

 

 しばらく、といっても数秒だろうか。

 しかし、いつもならすぐに返事をしてくれるネリエルが黙るだけで異常なのだ。それぐらいの信頼はある。

 背後から聞こえない声に我慢ができなくなり、恐る恐る振り返った。

 

 すると、そこにはキリっとした強い意思の宿る瞳で強く俺を見つめるネリエルがいた。

 

 とってもかっこいいね、惚れそう。

 で、その表情はどっち? 

 ヨン様にチクられない? 処されない? 

 

 と、ここでネリエルの後ろにハリベルがいる事にも気がついた。

 

 ……? 思わず二度見した上で言おう。

 

 

アイエエエ!? ハリベル!? ハリベルナンデ!? 

 

 

 あっっぶね!? メチャクチャドキッとしたわ! さっきまでグリムジョー監視するみたいにもう少し後ろの方いたじゃん! 心臓に悪いわ!! 

 もう少し遅かったらきっと聞かれてたわ。もし聞かれていたら、ハリベルはちょっとどっちになるか分からない。多分チクられないと思うけど、ぶっちゃけネリエルほどの信頼感はない。

 原作で苺の味方だったか否かは俺にとって結構大きな指標だったりするし。こう、世界の修正力的な意味で。

 

 いつも感情の起伏が少ない顔をしているが、チラリと伺った顔も普段通り。今の暴露を聞いたら流石にもう少し表情にも変化が見られるだろう。

 ということは聞かれていないという事だ。セーフ! 

 

 内心で安堵の吐息を漏らす俺に、ネリエルは軽く首を縦に振っていた。

 

 え、お、おう? 

 ……ハリべルにビビってたから、一瞬何に対しての頷きなのかが分からんかったわ。

 

 そんな俺を見てか、ネリエルはクスリと可愛らしい笑みを浮かべ、定位置である俺の左背後へスッと移動した。

 

 その笑みはなんぞ? 

 こいつなに言ってんだ、的な嘲笑じゃないよね? 

 頷いたってことは処されないんだよね? 

 そうだよね!? 

 

 しかしまあ、こんなすぐに頷いてくれるとは思ってなかったから驚いた。ぶっちゃけダメ元で言ったからね。

 それダメだった場合どうするんですかねぇ……。

 

 さっきも考えたけど、これって裏切りじゃん。自分で頼んでおいてなんだけど。本当になんだけど。

 苺についてくれるのは素直に嬉しいが、ネリエルは俺の側近だなんて事はここにいるなら誰だって知っている。

 もしバレたらヨン様に敵認定されるのは怖いから、あくまで死なない程度に、基本は監視する感じで助けてあげてくれると嬉しいなー、なんて。

 あと、死神にもネリエルが一護側である事は決して悟られないように。

 

 頼んでいるくせに注文が多くてホントすいません。

 

 なんて内心ではペコペコ頭を下げているのだが、無表情先生は今日も大活躍です。

 まあ、ヨン様にはあまり効果ないらしいんですけどね。破面のみんなには効果あるやろ、たぶん。つかあってくれ、頼む。

 

 

 

 ……て感じで思考放棄してたら一月たってた。時が流れるのは早いなー。(白目

 

 

 ま、ままままあ? ヨン様とかから何も言われてないし問題ないべ、恐らくメイビー。

 とりあえず、今日は何か崩玉の力を瞬間解放して山じい対策の破面を造るらしい。

 

 それってワンダーワイスじゃん……。話聞くまで忘れてたわ。

 

 もう記憶が朧気だわ……。何百年前に読んだと思ってんだよ原作。むしろ良く覚えてる方だよ、俺は。えらい! (某ペンギン並感

 

 ──とまあ、ふざけるのはいいとして。(良くない

 

 本当に、生まれてくる、んだよなぁ……? 不安でしかねーぞ、おい。

 ネリエルがネル・トゥにならないなら、ワンダーワイスが生まれなくたって良い、訳はないけど可笑しくはない。

 もっと強いオリキャラが爆誕しても不思議じゃない。

 

 

 

そう、まるで俺のように!
 

 

 

 ……自分でも惚れ惚れするような高度な自虐だぜ。

 なんといっても、全部自分のせいだからなぁ。自覚はあんだよ、これでも! 

 

 色々とガバが積み重なって吐きそうな気持ちで崩玉が安置してある部屋まで向かう。

 

 そこにはヨン様に加え、一〇にDJ要っち、そして十刃の面々が大方勢揃いしている。

 更に気分悪くなってきた。これでもしワンダーワイス生まれなかったら倒れるかもしれへん。

 

「私も実際に崩玉に触れてから理解出来たが、細かい事は那由他が把握してくれた」

 

 なんてボケーっと崩玉を眺めていたら、いつの間にかウルキオラとヤミーが来ていた。

 話の流れを全く把握していなかったのだが、崩玉の事はロカちゃんがまとめてくれた。

 俺が触っても雰囲気しか分からんくて言語化出来なかったんだよね。

 ロカちゃん(あの子)きっと文系だよ。レポート作るのうまいし。(偏見

 

「……いえ、私はロカに助けてもらったに過ぎません」

「そうかい」

 

 さも「分かっているよ」みたいな笑みを浮かべるヨン様に流される。

 それ本当に分かってますぅ? 

 聞くの怖いんで言いませんけど。

 

 今度はウルキオラにルピくんが現世へ連れてけアピールしてるし。

 なんか張り切ってんだよね、ルピくん。

 自信満々に語っている様子を、ウルキオラが一歩引いた冷めた目で見てるのが少しウケる。

 まあ、俺がNo.6(セスタ)に任命したし頑張ってもらおう。原作では良いとこ殆どなかったと思うけど応援はしてるよ! 

 

 

「名を聞かせてくれるかい。新たなる同胞よ」

「……ワンダーワイス……」

 

 

 特にする事もないので元気なルピくんをしばらく眺めていると、何かが砕けるような大きな音が部屋に響く。

 崩玉の使い方も感覚でしか理解していなかったので、俺が崩玉を使って破面化させた虚はいない。

 それでも、この光景はなんとなくだが、少し神聖な儀式をみているような気分になる。

 砕け散る白い破片が雪のように舞い、やがて空気に溶けていく。

 その中心には、裸身の少年が蹲るように鎮座していた。

 

 ワンダーワイスが、無事に生まれてくれていた。

 

 

 勝訴、これは勝訴!  

 

 

 いや、まだ早い! 

 俺は逸る気持ちを抑えつつ、不自然にならない程度に急いでワンダーワイスの元へと向かう。ホントは走っていきたい。

 

「ワンダーワイス。私の言っている言葉を理解出来ますか」

 

 彼は確か、特定の能力を持たせるために改造されて生まれてきた破面。

 なんだっけ、山じいの流刃若火の対策のためなんだっけ? 

 そりゃ山じいへのカウンターに用意する能力なんだからスゴイとは思うが、その代償として赤ちゃんみたいな反応しか出来ない子だったはず。

 

 だからお願いだ、喋らないでくれ! 頼む……! 

 

「ぁ……うぁ……」

「やはり、知能や理性を失くしているようですね」

 

 

勝ったな、風呂入ってくる。

 

 

 もはや感動と感謝で泣きそうになるが、そこは無表情先生。うっすらと笑うだけで終わった。

 ザエルアポロになんか言葉尻をツッコまれたが知らん。覚えとらんて、そんな細かいとこ! 

 神経質だな、粗が見つかるからやめてくれよ! 

 

「那由他、その子を哀れんでいるのかい?」

 

 はー、これは那由他ちゃん大勝利ですわ。

 誰かがなんか言ってるが、今はそれどころじゃないんすわ。

 今までのガバもこれで帳消し。ネリエルも苺の側にいってくれるし、もはや勝ち越し! 

 

「よく生まれてきましたね。ありがとう」

 

 すっかりといい気分になってワンダーワイスに感謝の言葉を投げかける。

 まあ、どうせ伝わってないだろうが気持ちの問題よ、気持ち。

 

 そこでふと、周囲の雰囲気がおかしい事に気がついた。

 おん? 

 なんだかイヤな予感がする。しかし、確認しない訳にもいくまい。

 俺はやだなーと思いながらも、ゆっくりと首を動かし確認してみた。

 

 気が付いたら周囲の十刃数名から、なんか(かしず)かれてるんだけど。

 

 なんで、こわっ!? 

 驚きすぎて逆に固まってしまった。というか、普通にドン引きした。なにごと? 

 あのウルキオラまでなんか遠い目をしているし。

 

 大丈夫か……? なんかまた知らないうちにガバった? 

 

『俺が疑心暗鬼になってオモロ。メシウマ』

 

 ──てめぇはかゆうまとでも言ってろ、オレ。

 

『なんでオレに対しては当たり強いの? 弱い者虐めして楽しい?』

 

 ──割と楽しい

 

『そうだね、オレもそう思う』

 

 天輪のため息が聞こえた。

 

 よく分からない状況に放り込まれたんだから、戸惑うしかないじゃない……。

 なんて心の中ですら言い訳を始めてしまう。

 

 しかし、周囲は待ってはくれなかった。 

 

 今度はウルキオラから爆弾を投げかけられる。

 ちょっと待って!? そんなに頭良くないんだから、順番、順番に整理させて!? 

 

「藍染様。ご相談がございます──女、井上織姫の件、今後もオレに一任させて頂けませんか」

 

 ファッ!? 織姫の監視役に立候補する気か、ウルキオラ!? 

 ちょ、おま、なんでそんなにやる気あるんだ!? 

 

 原作知識なんて他には伝えようのない驚きなのはご尤もなのだが、一人だけ翻弄され続けるのは釈然としない。

 オレにも驚いてほしい。

 

『俺ってオレのくせにバカだよな』

 

 自分をディスってるって自覚ある? 

 

 ……酷いブーメランが刺さった気がする。

 ええい、そんな事はどうでも良い! 

 

「──ああ、好きにすると良いさ。ウルキオラ」

 

 なんかヨン様も許可するし……。

 いや、原作でも織姫の担当はウルキオラだったんだけど、なんていうか、こう……嫌々やっていたはずなのだ、少なくとも最初は。

 あくまで藍染に指示されたからやっていた作業に過ぎず、織姫に対して特別惹かれる何かを感じ始めるのはもっと後の話。

 それがそもそも拉致に行く段階でこんなに興味津々になっているなんて……。

 

 どうなってるの? 宇宙猫なんだが。

 

「井上織姫の意味、那由他様より賜りしこの“目”で見定めます」

 

 お、おう……。

 いつもの冷めた顔に抑揚の少ない平坦な口調。何物にも興味を持たない虚無な気配は健在だ。

 まだ『心』は持ってない、よな? 

 そのガバだけは認められんぞ? 

 

 まあ、なんか知らんがやる気あるみたいだし、織ウルのカップリングは大好物なのでヨシ! 

 

 てか、その目って俺が上げた能力なの? 

 今始めて知ったわ。適当にドカッと食べた虚を押し付けたから、その中のどれかがそんな能力持ってたんだろうな。

 てっきりウルキオラの固有能力かとばかり。

 

 ガバさん、手加減して、お願い……。

 

 

 

 そして、織姫ちゃんを拉致するために現世への襲撃兼陽動としてルピ、グリムジョー、ヤミー、ワンダーワイスが早速出立していった。

 ワンダーワイス、生まれたばかりなのにいきなり働かされて可哀そう。こんなに早く行くとは思っていなかったわ。

 

 陽動部隊といえばルピくんである。

 めっちゃやる気だけど、君の活躍するシーン今回しかないから頑張ってとしか言えねえ。

 言ったら、めっちゃテンション上がってた。ちょっと草生える。

 

 そんな感じで破面たちをいってらっしゃいと見送った。

 

 俺? 

 俺は自室に戻って(原作)鑑賞会だよ。決まってんだろ! 

 これ以上のガバを生み出さないためにも、まっすぐ後ろに前進だ! 

 現実逃避ともいう。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。