「放せっ!!」
俺──黒崎一護は感じた霊圧に居ても立っても居られず、現場へと向かおうとするところを
「まだムリだっつってんだろ! こういう時のために尸魂界から仲間が来て張ってんだろうが! そっちに任せとけって!!」
師匠である六車のおっさんが吠えるように言いながら俺を押さえつける。
未だ虚化の能力を十全に使いこなせていない俺が未熟だってのはイヤってほど分かっている。それでも破面の、それも隊長格並にデケえ霊圧を感じて放っておくことなんか出来るかよ!?
尸魂界へルキアを助けに行った時にも感じていた、俺の心の中に巣食う
その存在に名前と
正確には藍染に那由姉を連れ去られ尸魂界から帰ってきた後に出会った
おっさんは『
たつきはいち早く虚化の存在に気が付いていたようで、俺が気づいた時には既にその力を制御する事にほとんど成功していた。素直にスゲエと思う。
ただ、たつきの場合、死神の力を持っていなかったからか俺とは違った力の現れ方になるみてえだけど……、まあ、細かい事はよく分かんねぇから置いておく。
重要な事は、たつきは虚化っていう新しい力をしっかりと手に入れたのに、俺はまだその力を使いこなせていねえって事だ。
それでも、例え数十秒くらいしか力をコントロール出来なくても。
「こういう時のために修行してきたんだ! 今行かねえでどうすんだよ!!」
おっさんたちにしっかりと押さえられた体は上手く抜け出すことが出来ない。
暴れるように体をよじり振りほどこうとするがびくともしねえ。
くっそ、さすが師匠って感じだが今は感心してる場合じゃないんだよ!
視界の端では一緒にこの場で修行していたたつきが真剣な表情でこちらを見つめている。
あいつだって本当なら今すぐこの場を飛び出して現場へと向かいたいはずだ。
なんでそんなに冷静でいられるんだよ!? こうしている間にも、那由姉の情報を持ったやつが暴れてるかもしれねえんだぞ!
「……行かしたれ」
突然、俺を押さえつける力が弱まる。
ここぞとばかり拘束から抜け出し、俺は強い霊圧を感じる方向へと弾丸のように向かった。
後ろでは「おい、ナニ考えてんだ、真子!!」という声が聞こえたが気を割いている余裕などない。
少し経ってから、俺に遅れてたつきも同じようにこちらへと動く気配を感じた。前回もそうだったけど、たつきはどうしちまったんだ? 前まで口よりも先に手か足が出るようなやつだったのに……。
余計な考えに一瞬思考を奪われるが、頭を振り改めて前を見据える。霊圧を感じた時から気づいていた。
「……よォ、探したぜ死神」
「……こっちのセリフだぜ」
眉間にシワを寄せ、隠そうともしない敵意と殺意を振りまく相手。
那由姉と何かしらの接点があり、俺にとって少なくない因縁を持つ相手。
「見せてやるよ、この一ヶ月で俺がどれだけ変わったのかをな!」
こいつは、おそらく強い。
初めて会った時は戦う前に那由姉が現れそれどころじゃなくなったが、感じた霊圧は隊長格かそれ以上だった。
その時の俺じゃあ、勝てたかどうか分からない。悔しいがそれを認めないことには俺も前に進めないだろう。だからこそ修行をしてきたし、俺はもっと強くならなきゃならねえんだ。
「『卍解』!!」
「ハッ、それがテメエの卍解か?」
俺の卍解『天鎖斬月』を見て破面は鼻で笑う。
確か、冬獅郎からの報告で聞いて……グリムジョーって名前だったか?
『
「いいぜ、掛かってこいよ。那由他が目をかけてるやつがどんなモンか……俺を愉しませてみな!」
「テメェ……!?」
頭に血が上りそうになるのを必死に堪える。
ダメだ、那由姉の名前を出されるとどうしても平静でいられなくなる。
あの時の、いつもと変わらない瞳のまま破面と去っていった那由姉の姿が脳裏を過ぎる。
焦る気持ちを誤魔化すように、俺が身をかがめ
「落ち着け、このバカ」
まるで、なんでもない日常の一コマのように。
スパーンと小気味良い音を立てて、唐突に俺の頭は思いっきり叩かれた。
「いっでぇ!?」
コミカルな音とは対照的に本気で結構痛い!? なんだ、マジでなんだ!?
「まったく、いつになったらその一人で全部背負い込んで突っ走る癖は直るんだか……」
慌てて後ろを振り返れば、そこには俺の頭を叩いた犯人であるたつきが呆れたように腰に手をあてため息を吐いていた。
いや、正しく呆れていた。
突然の出来事に目を白黒とさせてしまう。
状況を把握するのに数秒が必要なほどであり、その間の俺は叩かれたところを手で押さえながらアホみたいな顔でたつきを見つめる他なかった。
「な、おま、たつき! いきなりなにしやがる!? って、今はそれどころじゃなくて、お前だってそれくらい分かるだろ!?」
「あたしよりも虚化下手くそなクセに、なに強がってんだか」
「なっ!?」
正論ではあるが、ここで言う事でもないだろうが!
つーか、目の前に敵がいんだぞ! しかも那由姉について詳しい情報を持ってそうなやつだ! 俺の頭を叩くような状況じゃねえだろ!?
言いたいことが多すぎて、逆に何も口から言葉が出てこない。
本当にたつきはどうしちまったんだよ!?
「どう? 少しは肩の力が抜けた?」
「……え?」
たつきに対する戸惑いやら怒りやらで頭がこんがらがっていたが、その言葉でハッと我に返る。
そうだ、俺は確かに焦っていた。
「それじゃ、こんな奴さっさと片付けるよ」
ニヤリと笑うたつきの姿に、先程とは別の意味で呆気にとられてしまう。
いつの間にこんなに頼もしくなったのか。ハハッと小さく笑い、俺は改めて斬月を構えた。
「わりぃ、手間かけさせちまったな」
「いつもじゃん、たまにはあたしに楽させろっつーの」
強気なたつきに鼓舞され、俺の心の不安は驚くほどに晴れていた。
こいつには、いつも大事な時に背中を押されている気がする。
「……オイ、ナメてんのか死神?」
律儀に待っていたって訳でもないだろう。ただあまりにもバカバカしいやり取りだったためか、
そらバカにされてると感じてもおかしくない。俺だって逆の立場だったらそう感じていたと思う。
「テメエはウルキオラからの報告にもあった虚化する女か……。まあいい、俺の獲物は黒崎一護だけだ、雑魚は引っ込んでな」
「あっそ。あたしの目的も那由他さんだけで、あんたには欠片も興味ないから。さっさと情報吐いてどっか行ってくんない?」
「あ゙ぁ゙……?」
額に血管を浮き上がらせ頬を引き攣らせるグリムジョー。
うっわぁ、たつきのやつメッチャ煽るじゃねえか……。流石に狙ってやっているとは思うが、中々に口撃力が高い。プライド高そうな奴だし、結構効いているだろう。
「そこまで言うなら仕方ねえ、相手してやるよ女。黒崎一護のついでに殺してやる」
「へえ、2対1で良いんだ。てっきり尻尾巻いて逃げ出すかと思ったけど」
「てめえらを殺すのに、俺一人で十分だって言ってんだよ」
「そう、なら――」
流れるような所作でスッと構えを取るたつき。
俺もここにきて出し惜しみはしない。
「手加減は必要ないね!!」
「そうしろ、死にたくなけりゃな!!」
ズアッっと異質な霊圧が俺とたつきの周囲を包むように広がっていく。
始めは怪訝な気配を見せたグリムジョーだったが、次第に驚愕の表情へと変わっていった。
今までは訓練に明け暮れていて実践では初めて。どこまで耐えられるか分からないが、たつきに遅れを取るわけにはいかねえ!
俺の『内なる虚』を呼び出し、仮面という形で力を顕現させる。
「
虚化した俺らの霊圧は虚に近い、それこそ破面とほぼ同じだろう。その事実だけで、これがどれだけ異質な状態なのかグリムジョーも感覚で理解している。だからこそ、奴は決定的な隙を見せてしまった。
完全に虚化したたつきと、仮面を付けた俺はグリムジョーに猶予を与えないよう直ぐさまに斬りかかる。
「ぐっ!? な、何だ、そりゃ……!?」
「悪りぃな、説明してる暇は無えんだ」
相手が体勢を整える前に、一気呵成に攻め立てる。たつきと違ってまだ完全に虚化を制御出来ていない俺は、時間が経てば強制的に虚化が解除されてしまう。そうなる前に決着をつけなければならない。
しかし、ここには完全虚化したたつきもいる。
これなら、勝てる!
「六車流拳術」
「チィッ!」
グリムジョーと鍔迫り合いに持ち込んだ俺の背後から、たつきが必殺の構えのまま突っ込んでくる。これには流石に奴も焦りの表情を浮かべた。
無理やり俺から離れようと刀を力任せに振り抜き、腹部へ押し出すような蹴りを放ってきた。奴の攻撃を慌てず返す刀で受け止め、俺と入れ替わるようにたつきがグリムジョーへと殴りかかっていく。
「"
瞬歩を組み合わせた神速の正拳突き。
距離を取ったにも関わらず、その間を一瞬で詰められグリムジョーは瞠目する。
だが、さすがの反応速度で、これを防ごうと刀でたつきの拳を受け止めた──かに見えた。
「!?」
元々小さい頃から空手を習っていたたつきは、六車のおっさんに稽古をつけてもらう前からある程度の基礎は出来ていた。だからこそ六車流拳術を修め、その上で『
武道の型というのは、効率的に敵を無力化ないし殺傷するために極限まで無駄を削ぎ落とされた、一種の芸術とも言える領域まで昇華されたものだ。そして、その型に手を加えられる実力というのは、もはや達人の域である事は言うまでもないだろう。
つまり、たつきの真価は単純な戦闘力そのものだけでなく、敵の動きを捉え攻撃へと繋げる
ガキの頃から散々付き合わされてきたんだ。その恐ろしさは俺がよく知っている!
「──”
真っ直ぐと伸びていたたつきの拳が、グリムジョーが構えた刀をまるですり抜けるように貫通し奴の腹部へと突き刺さった。
声にならない叫声を上げ、グリムジョーは血飛沫を上げながら後方へと吹き飛ぶ。なんとか空間に踏みとどまり憎々しげにこちらを睨み返してくるが、今の一撃で肩で息をするほどに消耗していた。
「こ、の力……、てめえ、一体何をしやがった……!?」
激昂するグリムジョーに応えるように、俺は奴の後ろに回り手を緩めず攻撃を加える。
「説明してる暇は無えって言ったろ」
「ガァッ……!?」
背後からの”月牙天衝”を受け、グリムジョーが地上へと落ちていく。
しかし、それでも倒しきれていないようで、奴はお返しとばかりに虚閃を撃ってきた。
「く、っそガァ!! ナメんじゃねえぞ!!」
俺とたつきが圧倒的に優位な状況でグリムジョーを押し続けている。
しかし、決定打を中々与える事が出来ない。そうしている内に、遂に敵も本気になったようだ。血を流しながらも獰猛な笑みを見せ、抜き放った刀をこちらへ突きつけてきた。
「ハハッ! てめえら、ああ、認めてやるよ。中々愉しめるじゃねえか!」
「何? 負け惜しみ?」
たつきも負けじと言い返すが、その頬には冷や汗が流れている。感じ取っているのだ。やつに時間を与えすぎた、と。
出来ればさっきの月牙天衝で倒したかった。もう十数秒は経ってるし、俺の虚化もそう長く保たない……!
「本当はさっさと黒崎一護をブチ殺すだけだったが……、いいぜ、見せてやるよ、俺の『
その瞬間、俺とたつきは爆発的に上がった奴の霊圧に目を瞠った。
先程までは奇襲で押していただけで、本当に欠片も実力を発揮はしていなかったのだと。そうはっきりと分かったのだ。
残り時間が厳しい中、これはヤバい!
俺は焦ってしまった。やつが刀剣解放をする前に倒さなければならないと逸ってしまった。後ろからたつきの慌てたような声が聞こえるが、その時にはもう、俺は止まることが出来なかった。
気付いたときには、俺はグリムジョーによって虚化した仮面ごと切り捨てられ、地面へと落下していった。
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