那由他メインになるまで、もうちょいお付き合いください。
「泣いて謝っても許してあげないから──覚悟するといいよ」
ボク──ルピ・アンテノールの宣言に、眼前の死神共は今更ながらに緊張を迸らせた。
普通はさ、最低でもボクが
っていうかさ、そもそもなんでボクに勝てる気でいるの?
マジでムカつくんだけど。
心がないのに感情があるっていうのはなんか変な感じがするけど、実際今感じている
那由他様から聞いて、でも分かんなくて、別に理解できなくてもいいやって思っていた。
それがこんなところで理解出来るとは思ってもみなかったけど、そっか、コレは良いもんかもね。
なんせ、普段以上の集中力と霊圧を持てていると自覚できるくらいなんだから。
「あ~~~~……ヒマだ……。おい、ルピ! オレ様にも少しくらいは分けろよな! 一人で全員とってんじゃねえぞ!」
チッ……。脳筋がなんか言ってるし。
ボクはお前と違って那由他様からの期待を背負ってここにいるんだよ。死神からナメられたままなんて許せるわけないだろうが。
侮ったやつ、全員ボクがぶっ殺すんだよ!
「だからって他のやつ探しに行くのも面倒だし……。よぉ、新入り! テメエはどうすんだ──って、おい、あいつどこいった?」
「……え゛?」
これには怒りで滾っていた体もサッと冷めた。
え、新入りってワンダーワイスの事だよね? それって、あいつがどっかに行ったって事で、え、マズくない……?
ワンダーワイスは藍染様と那由他様から明確な役割を与えられて生まれた破面。つまり、こんなところで失うわけにはいかない存在って事。
気に食わないけど、ある意味でボクやヤミーよりも気を配るべき奴なんだ。
それがどっかいった?
……マズくない??
「っかしいな。さっきまでそこら辺で虫を捕まえて遊んでやがったのによ」
「キミってホンッッットに頭の中まで筋肉で出来てるんじゃないのぉ!? さっさと探しに行ってよ!」
「あぁ? なんでオレ様がわざわざ探しに行かなきゃなんねえんだよ……それだったら殺し甲斐のありそうな奴を探した方が万倍マシだぜ」
「だぁあああああ! この、この、これだからバカは嫌いなんだ!」
「んだとテメエ!?」
「怒るんなら始めの脳筋から怒れよバカ!?」
慌て始めたボクたちにポカンとした顔を晒している死神共なんてどうでもいい!
まずはワンダーワイスを見つけなくちゃ──。
「こんな好機を見逃すと思います?」
「!!」
ヤミーとの言い合いに気が逸れてしまっていたボクに容赦ない一撃が見舞われる。
「くっ、だから今はキミたちみたいな雑魚に構ってるヒマはないんだってば!」
「ざーんねん、アタシには関係ないッス」
「お、ならオレ様がこいつら貰うぜ? いいか? いいよな!」
どいつもこいつも!?
先の一撃に留まらず、浦原喜助と名乗った胡散臭い下駄帽子の死神がボクとの距離を詰めてくる。
こうなったら、くそっ、仕方ない。ヤミーにも手を貸してもらって……。
いや、待て。
こんな場面でヤミーに助力を求めたら、それこそボクが虚圏に帰ってからバカにされる。元々はワンダーワイスを見ていなかったアイツのせいだけど、それとこれとは別問題だろう。十刃の新入りであるボクが死神との戦闘でヤミーの手を借りなきゃいけなかった、という事実のみが他の破面にとって重要なんだ。
そんな事になれば「那由他様に十刃にしてもらっただけの雑魚」「那由他様に取り入ったゴマすり野郎」なんて呼ばれてもおかしくない。そんなこと、死んでも嫌だ。
ボクの気持ちだけでない。
それはボクを
それだけは許容できない。
那由他様からの信頼と、それに応えたいボク。
それはボクのプライドよりも、ボクにとっては大切なモノだ!!
浦原喜助に続くように他の死神たちがボクへと押し寄せてくる。
ヤミーはニヤニヤとした顔でどいつを相手にするか品定めしているようだ。未だ少し離れた場所から動いていない。なんなら、ボクが危なくなったら貸しを作る感じに手を出そうと考えているのかもしれない。そういう所だけ悪知恵が働く。
いや、落ち着け。
軽く息を吐き、蔦嬢の触腕と鍔迫り合いをしている下駄帽子を睨む。
相手もボクの気配の変化を察知したのか、一瞬で距離を取るように後退した。入れ替わるように隊長さんたちが四方向からボクを囲むように攻撃を繰り出してくる。
しかし、
「ボクの蔦嬢は八本の触腕を自在に操れるだけじゃない。その形状を変化させたり伸縮させたりする事もできる。つまり──多対一という状況で最も威力を発揮する能力って事なんだよね」
一人につき二本の触腕で敵の進撃をいなし反撃を加えた。
まあ、相手もそこまでバカじゃないのか、大したダメージは与えられていないけど、この隙にワンダーワイスの霊圧を探知する。ヤミーの
すると、案外すぐに見つかった。
内心でホッとするが、すぐにその異常に気がつく。
そして、何故か一直線にこちらへと向かってきていた。
何がどうなっているのか分からないが、とりあえず
なら、ボクはボクの戦いに集中するだけ。
改めて目の前の死神共に蔦嬢を構えたところで、ワンダーワイスの進路がふと気になった。なんで真っ直ぐ
なんだかイヤな予感がしたボクは少し慌ててその場から退避。
次いでアイツの霊圧に気が付いた死神がその場から散るように動いた。
狙いは……あの下駄帽子か。
ワンダーワイスの行動基準なんて考えても分からない。
だから、アイツの行動にとやかく言う事なんて出来ないし、しても無駄だとは理解している。それでも、やっぱり少しは協調性ってモンを持って欲しいよね。
っていうか、十刃の連中は皆が社交性なさすぎてドン引きだけど。ボクくらいだよ、市丸さんと仲良いのって。
って、流石にどうでも良い事を考えすぎた。
癪だけどワンダーワイスのお陰で仕切り直しが出来たし、相対する相手も一人減ってボクも楽になっている。
「お? 新入りはそいつか? 新入りだけじゃ心配だからオレ様が手伝ってやるよ!」
ボクたちとはまた違う、奇妙な霊圧を持ちながら
ヤミーが「オレ様も混ぜろ!」とガキのように飛んでいく様は流石にどうかと思う……。
まあいいや。
盛大な爆発が下駄帽子を中心に巻き起こっているのを遠目に見ながら、ボクは敵対する死神の様子を伺う。
相手は卍解が三人。しかしボクの帰刃には八本の触腕がある。数では圧倒的にこちらが有利。まずは隊長と思われるあのチビを落とす。
それに、相手の卍解はグリムジョーの
「ア・ごめーん。キミたちの存在感が薄すぎて忘れてたよ。大丈夫、ちゃんと相手してあげるから焦んないでよ」
「……」
「キミたちホントに護廷十三隊の席官? 余裕ない感じ? 少しくらいお喋りに付き合ってくれてもいいじゃん、つまーんないっ」
反応無し、と。
さっきまでこっちも焦ってみっともない姿見せちゃってたし、今更煽ってみても効果は薄いか。
たった一ヶ月ではそこまで変わらないだろうと思うけど、ナメられる訳にもいかない。さっきの宣言通り本気でいかせてもらうよ。
「"
しばし無言で睨み合う時間が過ぎた後、戦端の口火を切ったのはボクの方だった。
別に焦れて我慢できなくなったわけでなく、このまま相手に時間を与える理由も、ボクが得する事もなかったからだ。
帰刃で現れた触腕。その根本に当たる背中の円盤を高速で回転させ、八本の触手で敵を薙ぎ払うような無差別攻撃を敢行する。
それぞれが構えた斬魄刀で受けるなり流すなりして防ぐ中、一人だけ反応が遅れた奴がいた。
「ハハッ! やっぱりキミだけちょっと実力が足りないんじゃない? ──!」
「ぐっ……!」
「弓親っ!」
他が卍解をしている中、多分こいつだけしていない。いや、出来ないんだろうな。その程度の実力でボクに立ち向かうなんて……自殺志願者?
とりあえず、まずは一匹、と。
「させるか!」
ボクには八本の攻撃手段があるんだ。
「はい、お疲れ様~。──"
蝕槍は一本の触腕での刺突攻撃だ。それを受け止めただけでボクの攻撃を見切ったと思われるなんてバカにするのも大概にして欲しい。
残った7本の腕を男死神共を囲むように展開。一斉に刺し貫く。
「オラァぁああ!!」
「!?」
それを、なんとハゲが強引に振り払った。
無傷とはいかなかったようだが、それでも今ので決められなかったのは素直に驚く。
「綾瀬川、一旦下がれ! 松本、斑目! オレに合わせろ!」
クソ、削りきれなかった……!
それでもまだ相手はボクの攻撃を見切れてはいない。慣れてしまう前に八本の触腕という数的優位で攻め立てるべきだ。
「オラア!」
「ああもうっ、乱暴だな!」
「斑目! そのまま相手の注意を引いてろ! ──"
ハゲが両手と背中に携えた、
しかも、遠距離からチマチマと攻撃してくる氷槍がウザいっての!
「おっしゃぁ! やっと温まってきたぜ! 『覇竜鬼灯丸』!!」
大振りで隙が多いにも関わらず、自分が傷つくことすら厭わない狂気じみた前のめりの戦闘姿勢。一撃ごとに重さが増し、霊圧が高まっていくのが触腕を通してビリビリと痛いほどに伝わってくる。
「行くぜぇ!!」
ハゲは両手に持った大刀の柄頭──持ち手の先端部分同士を打ち鳴らすようにぶつけた。いや、違う。ぶつけたんじゃない。互いを装着させている!
二本の大刀は一本の双刃となり、ハゲは大上段に構え竜巻を起こすように旋回を始めた。
その霊圧は卍解をした当初よりも更に上昇しており、ボクですら馬鹿にできない。
これをマトモに食らったら流石にマズイ……!
──ガシャン。
回避行動を取ろうとしたボクが聞いたのは、何故か思い通りに動かない蔦嬢から鳴った音だった。
「……な、なんだよ、これ……!?」
「綾瀬川や斑目のおかげで仕込む時間は山程あった。お前は俺に時間を与えすぎたんだ。お前の武器が八本の腕なら──俺の武器はこの大気にある、水の全てだ」
瞠目するボクを余所に、チビは空間を埋め尽くすようにズラリと並ぶ氷柱の群れを従えてボクに言い放った。
ハッタリだ!
冷や汗の流れる背中の感覚を無視し、ボクは無造作に"
「……無駄だ。俺の斬魄刀『氷輪丸』は氷雪系最強。砕かれても水さえあれば何度でも蘇るさ」
感じる霊圧と置かれた状況。
マズイマズイマズイとボクの本能がひっきりなしに喚き散らしている。
なんとか、なんとかしなきゃ、じゃなきゃ、那由他様に、ボクの力の証明が……!
事ここに至ってはプライドとか言ってる場合じゃない。
ヤミーに助けろと言うため目線を向ければ、アイツも浦原とかいう死神に押されてるじゃないかよ!
「八本じゃ少し足んなかったな──"
「"
「……な……!?」
聳える氷柱がボクに押し寄せ氷の牢獄へと囚われたボクに向け、極大の暴力とかした二刀一対と化した双刃がボクを切り刻まんと迫りくる。
そんなバカな……。
このボクが、こんなところで負ける?
ただ現世の死神どもで遊んでやるつもりで、那由他様にボクの価値を見てもらって、それで、それで──。
「なっ!?」
「チッ……マジかよ!」
「こんな所で終われるかよ……! ボクは那由他様より
身動きが取れないように拘束した上での攻撃特化の卍解による全力の一撃。これで決めるつもりだったろう死神の驚き顔にもボクの愉悦は滲まない。
ただ湧き上がるのは『破壊』の衝動のみ。
ああ、ボクはNo.6。司る死の形は『破壊』。
その本質をここで理解しようとはね。ハハッ、ここに来てから初めての事ばっかり。怒りを理解して、破壊の本質に触れられた。
ああ、ボクは今なら、きっと届く。新たなる階層へと。
この想いはきっと心情などではなく、ただ本能のあるがままで、ボクはそれが良いと
だって、ただ壊すだけの気持ちにボクの本質があるならば、ボクはきっと那由他様が望むボクにはなれない。
那由他様が見据える『目』には、『心』には、破壊など必要ないのだから。
だったらさ、このボクの気持ちはどこへ行く?
簡単な話さ。
“力”へと変えればいい。
「──"
女死神が呟いた瞬間、ただでさえ深手を負っていたボクの腹部から刀が顔を覗かせた。
ボクの視界内に居たはずの
幻惑、か。
ゴフッ、と喉からせり上がってきた血が口からこぼれ落ちる。これは、結構キッツいなぁ……。あれだけ死神たちをナメて掛かってたツケってやつかな……?
「……悪いけど、ここで決めさせてもらうわ」
それはこっちのセリフだっての。
悪いけど、ボクは今、存外悪い気分じゃないんだ。
スッと。
まるで何かを求めるように前へと伸ばした手。
目にした男死神たちは緊張したような面持ちで再度構え直すのが見えた。
そんな事はどうでもいいというように、ボクは言葉を
ゾアっと霊圧が異質な変化を遂げていくのを感じる。
ボクの背後で刃を突き立てていた女死神を慌てて離れていった。
ウルキオラ以外にも扱える十刃はいたが、こんな形で会得できたことには素直に喜べない。
しかし、これで死神共を蹂躙できる。破壊できる。そういった愉悦を感じ精神が高揚してきた。
……そんな時なのに。
頭上から降り注ぐ光の柱──
ちぇっ、せっかくだから使ってみたかったのに。
「……命拾いしたね、次会う時は容赦しないから。ア・ごめーん、次まで生きてたらの話だったね!」
第二階層を中途半端に解放したからか、帰刃と変わらない容姿のままで体の傷だけは綺麗さっぱりに治っており、ボクは余裕を持って死神に声をかけることができた。
しかし、虚圏に帰ってからが面倒だ。絶対に失態として言及される。
あーもうっ! これじゃ那由他様に合わす顔がないよ……。
死神たちに対しては表面上だけでも余裕を見せて煽ってみたけど、その実、忸怩たる思いで
悔しさで唇を噛むのを何とか堪えたまま、呆然としたままの敵さんを置いて、ボクたちは反膜のなされるがままに虚圏へと帰還するのだった。