ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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復活…だと…!?

 

 虚圏(ウェコムンド)へと帰還した俺──グリムジョー・ジャガージャックは際限なく高まる苛立ちを抑える事が出来なかった。

 

 普段からそういった()()を隠す事など憚らなかったが、今はそれに伴う不愉快さが俺の苛立ちを更に高めている。

 また、現世より戻ったからには藍染の野郎(ボス)に報告しない訳にもいかない。それすらも薪を()べる要素の一つになっていた。

 前回現世へ出撃した際は那由他に止められ、今回はウルキオラだ。

 

 毎回毎回毎回毎回!!

 

 奴らのせいで、俺は満足に戦う事すら出来やしねえ! 

 黒崎一護とあの女──有沢たつきだったか、とにかく俺が気に食わない奴らは俺がこの手で殺さねえと気がすまねえ! 

 

 失った片腕を残った方の腕で掴む。

 

 藍染や那由他の思惑なんざどうでもいい、ただ俺は俺が求める獲物を全力で狩る。そのための牙を誰かのために使われ、利用されようが関係ない。ただ存分に振るえない事が許せないだけだ。

 そして、俺の苛立ちを助長させる大きな要因。

 

 

 最後の一撃──あれはネリエルの奴だ……!! 

 

 

 未だ痛みが全身を駆け巡る。当たり前だ。先程片腕を吹き飛ばされたばかりなのだから。

 失った先の感覚が未だあるような、握ればそこに拳があるような錯覚と痛みを覚える。

 

 那由他の腰巾着風情が俺の狩りの邪魔をしやがって……!

 虚圏で嫌というほど感じ、那由他に纏わりついている霊圧を俺が間違えるはずがねえ。

 俺が現世へと行ったタイミングなのだ。どうやったかは知らねえが、ノイトラが何か仕組んだのは確かだろう。 

 

 

「相変わらず不機嫌そうなツラしてんなァ、えぇ?」

 

 

 チッと舌打ちをし、一睨みだけしてその横を通り過ぎる。

 以前と似たようなウザい絡み方をさせた上に、奴の顔はいつにも増してニヤニヤとしていた。

 

 破面No.5──ノイトラ・ジルガ。

 

 確かに奴とは現世へと行く前に言葉を交わした。

 しかし、そこで確認した内容とは、俺との共闘でもなければ利害の一致ですらない。互いに勝手に利用、いや、使用しているような感覚。お互いをお互いの欲望のために使う道具としか認識していない。ある意味では非常に虚らしい在り方だ。

 だからこそ理解できる。

 

 現世に行く前に奴が俺へと持ちかけてきた話。

 戦闘中に邪魔してきた攻撃から感じるネリエルの霊圧。

 そして、こいつが上機嫌に俺に声をかけてきた今。

 

 

 ──()りやがったんだろ、ネリエルを。

 

 

「ハッ! その目は俺が何をしたかを薄々察してるって感じか? まあ、バカでも分かるよなぁ」

 

 語りたくて仕方がない。誰かにこの快感を伝えたい。

 それは一種の自慰行為のようであり、倒錯した性癖に付き合わされているようであった。

 俺が聞きもしていない情報をペラペラと得意気に話すノイトラ(コイツ)には、きっと俺の姿など映っていないのだろう。

 

 ノイトラは裏切りの兆候があるとして、藍染に許可を得た上でネリエルの奴を追っていたらしい。

 

 ネリエルが俺達に合わせて今回現世へ行くとは予想してはいなかったようだが、どうやらネリエルを嵌める計画についてはザエルアポロも一枚噛んでいたようだ。

 どう根回ししたのかは知らないし興味もないが、現世行きのメンバーでなかったノイトラまでも現世へ行く事を藍染に許されていた。

 

 しかも那由他に知らされずに、だ。

 

 ただ、ザエルアポロとしては十刃の、特に那由他に近しい存在のサンプルが手に入ればと思っていたようだが誰かに邪魔をされたようだ。それが誰かまで教える義理はないみたいだが……俺にとってはどうでもいい。

 少し驚いたが自分の獲物ではないネリエルにそこまで関心はない。那由多の側にいるやつが消えて多少清々したくらいか。

 

「テメエのおかげだよ、グリムジョー。これほど上手くいくとは思わなかったが、これで那由他の奴がどんな反応をするかは見物だよなぁ……!」

 

 そういって俺の横に並んでくる。

 どうやら、藍染がいる場所まで着いてくる気らしい。那由他がそこにいるかどうかすら分からねえのに、そこまでして那由他の反応が見たいのか……。

 チッ。これも同じ穴の狢ってやつなんだろう。

 

 俺だって、黒崎一護や有沢たつきを殺したいと思う源泉には、染み付いたような那由他への()()がある。

 この感情に名前を付ける事を恐れ、忌避し、そして何よりも決着を付ける事を存在意義としている。

 

 

 那由他(アイツ)への抵抗こそが、今の俺を俺足らしめているのだ。

 

 

 嫌でも認めなければならなかった。

 奴の『目』によって見透かされた俺が”俺”であるために、俺は強者を狩る存在であり続け、戦場にて自分を慰撫するしかない。

 俺が強者と戦いたいこの衝動も、自由に行動できない不満も、より強い存在である藍染どもに抑えつけられる苛立ちも! 

 全て俺個人が持っている感情であり、決して那由他によって生み出された仮初なんかじゃねえ! 

 

 それを証明するためには那由他をブッ殺すのが一番手っ取り早いと思うが、流石に今の俺じゃあアイツは倒せねえ。それくらいは分かるし、強者に挑むのと死にに行くのとは訳が違う。

 そういった点で考えると、黒崎一護と有沢たつき、こいつらは俺の獲物として実に食い気がありそうだ……! 

 俺の片腕をぶっ飛ばしたネリエルはノイトラにくれてやったんだ。コイツらは、必ず俺がこの手で潰すと決めた。

 

 だからだろう。

 

 ──ノイトラと同じ目的を持っているようで、根本は全く違うと俺は気が付いた。

 

 ノイトラ(コイツ)はただ()()()()を探しているだけだ。

 テメエが救われないが故に、その死に方に救いを求めた。ただ死に方だけはテメエで定めると、それだけを救いにして。

 

 にも関わらず、那由他はその死に方すら『目』によって見定めた。

 

 奴に覗かれた未来が確定する事を恐れ、ノイトラは奴の目を自身から逸らしたいだけだ。俺が戦うのは死にたいからじゃねえ。強い奴をブッ殺してぇからだ。

 俺は那由他への叛逆から、ノイトラは逃避から、それぞれの矜持を守っている。

 だがまあ、やってる事は一緒だ。

 俺等に価値を見出していない藍染とは違う。俺等に()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 だからこそ、俺は那由他を認められねえんだ……! 

 

 

 未来を、存在を、価値を! 

 全てを遥か高みから見下ろし確定させるその『目』が、とにかく気に入らねえんだ!! 

 

 

 隣で未だ興奮冷めやらぬ様子で口を廻すノイトラにウザったさを感じながらも極力無視し、俺は改めて定めた獲物たちを胸に抱き、藍染たちが待つ玉座へとたどり着いた。

 

 

 

 そこには今回出撃したメンバーと、何故か那由他の奴がいた。

 

 ヤミーは退屈そうに欠伸をかき、ワンダーワイスは膝を抱え込み座り込みながら爪を噛んでブツブツと何か言っている。珍しく静かなルピに目を向けてみればギリッとこちらにまで聞こえてきそうなほどの剣幕で歯を食いしばり睨み返してきやがった。

 その様子じゃあ、現世では死神共にいいようにされたようだな……。ケッ、くだらねえ。その程度の実力で俺からNo.6(セスタ)を奪ったと思っているなら笑える。

 

 しかし、今回に限って言えば那由他がここにいる理由は今ひとつ分からなかった。

 この現世行きは藍染が指示したものだ。まあ、黒崎一護らが絡んでいるから気になるのかもしれないが、那由他が直接関わっている訳でもない。

 

 いや、それほどまでに、黒崎一護(アイツ)らが那由他にとって想像以上に大切な存在だって事、か……? 

 その感覚はやはり理解こそ出来ないものの、獲物を狩る嗅覚とでもいうのか、俺の第六感がこいつはやはり間違っていないと告げていた。

 

 

 しかし、奴の様子は普段と変わらない。

 

 黒崎一護や死神たちが襲われ傷つき、いつも側に侍っている二人の内の片方(ネリエル)が居ないのにも関わらずだ。

 

 

 横の霊圧に揺らぎを感じた。そりゃそうだ。那由他の動揺する様を見に来たら()()なんだからな。

 そもそも、奴をどうこうしようとするのが間違っている。那由他はマジモンの化け物だ。今の俺らがどうにかできる様な存在じゃない。

 普段、俺らを人間のように扱い女破面たちを中心とした崇拝にも似た環境を構築しているせいで忘れがちだが、奴は破面ですら恐れるイカれた精神性を持っている。

 

 なんで虚から奪った力を虚に渡すんだよ。より恐怖を覚えるだけだ。

 なんで心を持ってねえ奴に心を説くんだよ。より絶望するだけだ。

 なんで死神が虚を助けるんだよ。存在意義が揺らがねえのか。

 なんで人間と一緒に暮らせたんだよ。そいつらテメエの()だろうが。

 なんで黒崎一護を特別視するんだよ。

 

 

 ──それは、世界の意思なのか……? 

 

 

 奴の精神性が理解出来ず、ただ不気味に映り、異常者として受け入れる他がない。

 それ以外に、那由他を形容する表現が思い浮かばなかった。

 純粋な力でもって屈服を強要してくる藍染の野郎の方が理解できる。だが、那由他は理解できない。

 だから、認めたくないが、アイツは恐ろしいのだ。

 

 それでも、黒崎一護を殺した後は、いずれ──! 

 

 

「皆、揃ったようだ。……では、主賓を招き入れようじゃないか」

 

 俺の隣で硬直しているノイトラを軽く流し見した後、視座の高い玉座から俺等を睥睨する藍染が口を開いた。

 その見下した目は気に入らないが、逆らった所で俺に得がないのはとうの昔に理解している。今は気にするだけ無駄だ。……今はな。

 

 それに、藍染よりも黒崎一護に興味が出てきた。

 

 初めて戦ってみたが、認めよう、奴は強い。

 俺が狩るに値する獲物だ。始めは那由他の大切なモンをぶっ壊したくて狙ったが、これは嬉しい誤算だった。あの女もだ。

 藍染が招き入れた存在など俺にとってどうでも良い。ここに来る途中にも考えていた次の獲物について内心で舌舐めずりをし思考を飛ばす。その片隅で視界に映った女へと反射のように視線を据えた。

 

 胡桃色のロングヘアに、どこか自信なさげな雰囲気。頭につけた髪飾りか? なんか妙な霊圧を感じるが大した力じゃねえ。その時点で俺の興味は女から失せた。

 

「な……那由、他……さん?」

 

 藍染によって呼ばれた、なんつったか……井上織姫? って奴は、那由他の姿を見つけたようだ。ああ、コイツも現世で那由他の世話になったとかいうガキなのか。

 そらご愁傷さまだな。

 テメエの知ってる『藍染那由他』なんて存在、始めッからいねーんだよ、馬鹿が。

 

 那由他の姿を見つけた織姫は少し固まった様子だったが、那由他が体を織姫へと向け手を広げると、なかば体当たりするように那由他へ体をあずけ泣き出した。

 俺にとってはどうでも良く、いつまでこの茶番を見ていれば良いのかと段々イライラしてきた。

 そんな俺の気配が伝わった訳じゃないだろうが、那由他と織姫(アイツら)を白けた眼で見ていたら、唐突に藍染が織姫に話しかける。

 

「早速で悪いが、君の力を見せてくれるかい、織姫。どうやら君を連れてきた事に納得のいかない者もいるようだからね」

 

 藍染の言葉にチラリと端のほうにいたルピの野郎を見る。

 どうやら現世では死神相手に負けて死にそうになったらしい。悔しそうに歯噛みしているルピが肩を震わせながら怒りと屈辱に耐えているようだった。

 負け犬に興味はねえ。

 

「当たり前じゃないですか……、こんな女のために僕らが戦っていたなんて」

「済まない。君がそんなにやられるとは予想外でね」

 

 那由他の前で赤っ恥をかいたルピは悔しそうに目線を逸らす。

 偶然かは知らないがまた目線が合ったので鼻で笑ってやった。無様だ。

 ルピはいつもの飄々している雰囲気をかなぐり捨て、憤怒の形相でこちらを睨んだ。

 

「では、そうだな……。君の力を端的に示すために」

 

 藍染は勿体付けるように言葉を区切り、集まっている一同をぐるりと見渡す。

 そして、今思いついたと何でもないことのように一言。

 

 

「グリムジョーの腕を治し、その上でルピと殺し合いをさせてみよう」

 

 

 そう言った。

 

 一瞬、奴が何を言ったのかを理解するのに静寂が流れ、飲み込んだ後には皆が一様に驚く。

 破面にとって、例え同僚であっても力を誇示し貶める事など日常茶飯事だ。弱肉強食はこの世界の絶対的なルールであり、憚ることない真理だ。

 だがしかし、藍染はそれを推奨している訳でもなければ容認している訳でもない。あくまで黙認だ。先程ノイトラが自慢気に話していたネリエルの件などが良い例だろう。

 

 だからこそ、この場で奴が宣った内容に破面(オレら)は動揺した。

 それは暴力を絶対強者が肯定するものであり、那由他の考えとは正反対とも言えるものだから。

 

「勝ったほうを”No.6(セスタ)”として認めよう」

 

 そんな事など当たり前に気が付いているだろう。

 兄の方を立てているのか、那由他は黙ったままだ。

 つまり、コイツは分かっていてオレとルピの野郎を殺し合わせるって事か……。

 

 いや、待て。

 後半の衝撃でスルーしちまったが、『オレの腕を治す』……? 

 そんな事出来るわけ──。

 

 今度こそ那由他に良いところをみせようと張り切るルピの野郎が視界に入ってきて鬱陶しい。

 俺が急な展開にイライラとしていると、井上織姫()がこちらへと歩いてきた。

 

 上目遣いにおずおずとこちらの表情を伺う仕草に盛大に舌打ちをする。

 ビクッと反応されたが知ったことか。その見るからに弱そうなナリで近づいてくるのが、とにかく神経を逆撫でしてきやがる。

 その後ろから那由他すらも近づいてきて、いよいよ「何のようだ、アァ!?」と恫喝しようかと思ったその時。

 

「『双天帰盾』──”私は拒絶する”」

「……あ?」

 

 ネリエルの一撃で跡形もなく完全に消し飛んだ俺の腕が、まるで時間を遡るようにその姿を露わにしていく。

 

 なんの冗談か分からないが、ものの数秒で本当に腕が生えてきやがった……。

 

 

 

 ──そこからは、

 

 

 

ハ、ハハ、ハハハハハハハハ!!

 

 

 ルピと俺が戦い、どれくらいヤッたかなんて知らねえ。

 ただ、十刃同士の戦いが許されるなんて相当久々だ。腐ってもNo.6を名乗ってた奴と真正面からぶつかりゃ、俺もただじゃ済まねえ。

 虚夜宮から飛び出し、()()()()虚圏の荒野にて刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(エグンダ・エターパ)をぶつけ合った。

 

 第二階層をルピの野郎が扱えるとは予想外だったが、再び傷ついた体から血を流しながらも、最後に足で立っていたのは俺だった。

 

 ルピは俺に上半身を吹き飛ばされ、下半身だけがそこで横たわってやがる。

 どうせこの死体もザエルアポロあたりが適当に研究材料とかいって利用するんだろう。俺には関係ねえが、全力でぶつかった相手だけに、さっきまで自分でも雑魚扱いをしていたが、他人に雑な扱いをされるのも胸糞悪く感じてしまう。

 

「では織姫、ルピを治してあげてくれないか?」

 

 そう考えていたら、俺達が戦っている間、少し距離を取りながらも静かに見ていた藍染がゆっくりと口を開いた。

 

 ああ、そういう事かよ。

 ここにきて、ようやく俺にもなんとなく分かった。だから那由他も何も言わなかったんだろう。

 

「は、はい……。『双天帰盾』──”私は拒絶する”」

 

 近くに那由他がいるからだろうか。

 最初ほどは緊張せず、スムーズにルピの体を回復させている様子の女を見やる。大した力だが……ありゃどういう理屈だ? 

 いや、どうせ聞いても分からねえ。俺にとって、力は誇示するものであり、相手を打ち倒すものであれば十分だ。

 

 ただ、自分が殺したやつを眼の前で生き返らせた事実だけは認める。

 そして、こいつも那由他の大事なもんだと理解した。

 

 ネリエルの件から見ても、コイツには何が効くのかよく分からない。

 それでも俺にとっては黒崎一護と有沢たつきをぶっ潰すのが先だ。

 

 あの二人になら――井上織姫(コイツ)は使える、か? 

 

 本気を引き出す餌になれば十分だ。しかも、回復して万全の状態で雌雄を決する事が出来るじゃねえか。

 いつか利用するためにも、こいつには死なれちゃ困るな。

 まあ、藍染っていう強者が庇護するんだから、万が一はないだろうが。それに、あのウルキオラが女の管理するらしい。

 だったら、俺はいつか黒崎たちが虚圏に来た時に動くべきだ。

 

 俺は”王”。

 

 狙った獲物は、絶対に俺の手で仕留める。

 

 

 ──『破面・No.6(セスタ・エスパーダ)』へと復帰し、俺は獰猛な猛りを吐き出すように嗤った。

 

 

 

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