ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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突入…だと…!?

『すぐに来い──緊急事態だ』

 

 破面の女の子を拾ったあたし──有沢たつきの所に来たのは、確か十番隊の隊長さん。

 現世へ破面が襲来してから一晩たった朝。お互いがボロボロの様相だったけれど、それを労うヒマもないほどの逼迫した表情だった。

 無言で頷き、しかし破面(この子)をどうするか悩む。

 この場には未だ傷つき伏している一護もいるのだ。

 

「……ぐっ! 俺も、行く」

「馬鹿! 無理すんなって!」

 

 あたしは慌てて一護をベッドへと押し付けた。女が押し倒すなんて格好なのに、色気もクソもない。

 グリムジョーに付けられた傷跡は治っていない。そもそも、こんな深い傷が()()()()()()と思っていたことが間違いだったんだ。

 

 その理由こそが……恐らく、さっきの隊長さんが言う緊急事態なんだと思う。

 

 

 昨日から、織姫の霊圧を感知できない。

 

 

 気が狂いそうになるほどの怒りを、今まで師匠に言われてきた精神鍛錬の応用で抑える。

 今までも那由他さんが出るたびに何とか鎮めてきたこの激情も、今回ばかりは我慢できるか自信がない。

 

 一護は一護で自分が足を引っ張った。実力が足りなかった、情けないってウジウジしてるし。見てる方がイライラしてくる。アンタで実力不足なら、あたしは何だってんだよ。

 

「俺も、行く……!」

 

 だけど、この目はダメだ。

 死んでも曲げない。あたしが、いや、きっと──那由他さんが大好きな目だ。

 

 

 

 △▽▽

 

 

 

「霊波障害の除去は?」

「完了したようです、繋げます」

 

 ここは織姫の部屋。

 織姫のお兄さんの事件を機に引っ越したマンションの一室だが、今そこにはあたしを含めて多くの人物がいた。

 昨日の破面襲撃に際しての情報を整理するためにも尸魂界の人と交信する必要がある。そのための装置を織姫の部屋に設置しているのだが、なんだか見た目がキモい。妙に肉感的と言うか。

 

「……浮竹? 総隊長じゃねえのか?」

 

 現世へと救援に駆けつけた死神たちのリーダー、日番谷冬獅郎くんが画面越しに問いかけた。

 

「代わって頂いた」

「理由は?」

「井上織姫が現世へ向かう穿界門に入る時、最後に見届けたのが俺だからだ」

 

 その言葉に、この場にいた全員が少なからず反応する。

 

「穿界門を通過する際に彼女の護衛に付けた死神二人が生存して戻ってきた。彼ら二人の話によれば、井上織姫は破面に拉致、若しくは──既に殺害されたものと思われる」

 

「「ふざけんな!!」」

 

 あたしと一護が即座に吠えた。

 

「しかし!」

 

 そして、遮るように大声を発した浮竹さんに驚き口を噤む。

 あたしたちが黙ったのを見届けると、静かに続けてこうも言ったのだ。

 

「那由他の存在が確認されている以上、井上織姫を殺害しているとは考え辛い」

 

 ふう、と画面の向こう側で一息吐いた浮竹さん。こんな報告をすればあたしたちの頭に血が上るなど分かっていたのだろう。けれども言わないわけにもいかない。

 だからこそ、こうやって面と向かって誠実に伝える事にしたのか。……大人だなぁ。

 

 誰かに託せるってのは、それだけで強さだ。

 自分で成せない悔しさを飲み込んで、それでも目的を達する手段を冷静に判断し、その上で他人を信頼する行為だ。

 実力が足りないんじゃない、自分じゃ出来ないんだ。担当する役者じゃないんだ。どれだけ願っても、自分以外の適任が存在するんだ。

 

 あたしだったら、きっと我慢できない。

 それらを飲み込んで、他人に託すってのは本当に大人だなって。あたしはそう思う。

 

「それではこれより日番谷先遣隊が一、六番隊副隊長・阿散井恋次。井上織姫を奪還するため虚圏へ向かいます!」

 

 そして、その意図を汲んですぐさま声を挙げられる人がいる。

 組織ってのはあたしに合ってないとは思っていたけど、こうやって信頼関係を言葉と行動で示されると少しカッコいいなって思う。

 

 

「ならぬ」

 

 

 しかし、そんなあたしたちを裏切るように平坦な声が響く。

 浮竹さんの後ろにもとから居たが、声を出す前と後で存在感が全く違う。これが気配を殺してたって感覚かな。はるか高みにある実力の片鱗に触れ、あたしの背中に人知れず冷や汗が伝う。

 

 護廷十三隊の山本総隊長が地に響くような声で厳かに宣言する。

 

「破面の戦闘準備が整っておると判明した以上、日番谷先遣隊は即時帰還、尸魂界の守護についてもらう」

 

 画面越しどころではない、現世と霊界という距離があるにも関わらず、あたしは山本総隊長の霊圧によるプレッシャーを感じていた。ハハ、こりゃバケモンだ。

 那由他さんやあの藍染の霊圧も桁違いだったが、やっぱりこの人もスゴイや。

 

「なら、俺たちが井上を助けに行く。虚圏への入り方を教えてくれ!」

 

 そして、一護の諦めの悪さも筋金入りだ。あたしもそんなとこは気に入っている。

 ここで諦めるようなら、そもそも尸魂界から帰ってきた時点で折れていただろう。

 

「ならぬ」

 

 けれども、返ってきたのは先ほどと同じ否定の言葉。

 ぶっちゃけ、まあ、予想はしていた。この流れで許可してくれると思うほどあたしは頭お花畑じゃない。隣の一護はすげえショックを受けたみたいだけど……。ピュアかよ。

 あたしの代わりに周りの奴らが反応してくれるから、あたしがなんか冷たい奴みたいじゃないか。

 

 現世へと駆けつけてくれた日番谷くんたちは、結局総隊長の言葉に従い尸魂界へと帰っていく事となってしまった。

 

 藍染の目的は『王鍵の創生』。

 重霊地である空座町とその住人を生贄みたいに材料にして創り出すらしい。そのため現世と尸魂界側で連携を取って態勢を整えようって話だった。

 

 ただまあ、現世側の協力者があたしたちは良いとして浦原さん、そして師匠たち『仮面の軍勢(ヴァイザード)』なんだけど……。

 よくわからないがどうやら死神たちとは昔の因縁というか、随分と微妙な関係なんだそうだ。

 浦原さんなんてこっちで初めて会った時なんかは、何故か日番谷くんたちに滅茶苦茶ガン飛ばされてて小さくなってたし。

 師匠たちに至っては死神とは基本的に馴れ合うつもりがないらしい。それでも那由他さんの件もあって、協力だけはするようだ。

 

 しかし現世への襲撃によって、どういった訳か崩玉を使っての破面化は普通に行われているっぽい事が分かった。つまり、藍染の手駒が揃いいつ動いてもおかしくないという事だ。

 こうなれば死神たちは尸魂界の守護に就かざるを得ない。織姫だって捕まっちゃってるなら、あの力を何かに利用されるかもしれないし守りを固める他にないのだろう。

 

 去っていく死神たちの中、朽木さんは「すまない、一護」とだけ零していた。

 他の皆も同じ思いを抱きながらも、きっと胸の内に言葉をしまい込んでいたのだろう。

 

 そんな彼らを見届け、隣で必死に怒りを抑えつけている一護を眺め、あたしはこれまでの訓練が無駄じゃなかったのだと改めて拳を握った。

 

 

 ──あたしは、自分の感情をコントロールする修行を重点的に行ってきた。

 

 

 全ては虚の力を使いこなすためだ。

 虚は根源的な欲求を強く持つ。そのため、虚化した際に自我を見失わないようにするためには、自身の感情をコントロールするのが一番手っ取り早かったのだ。

 虚から囁かれる猜疑心、羞恥、怒り、不安、怯え、驕り、怠慢、虚飾など。それら弱みを克服し、虚を真正面から叩き潰す。そうやって、あたしは虚の力を支配下においた。

 

 逆に言えば、あたしが動揺したら取って食われるのだ。

 自分一人では出来なかった。これも師匠たちのおかげだ。

 

 ──少なくとも、織姫を、那由他さんを助け出すまでは付き合ってもらうからね。

 

『ハッ! アタシの力を頼らなきゃ、か弱い人間様のクセに随分といきがるじゃん』

 

 あたしは内なるアタシに、中指突き立てて共存している。

 

 

 

 △▽△

 

 

 

 一護、チャド、石田、そしてあたし。

 ついでに保護した破面の女の子もいるけど……。この子なんなの? 

 

 浦原商店の地下に開かれた黒腔(ガルガンタ)の前。

 織姫を助けるために揃ったメンバーを見渡し一人首をかしげた。

 

 破面の女の子──ネルと名乗ったその子は、一護からとにかく離れようとしなかった。

 どうやら記憶を失っているようで、どうしてあそこで倒れていたのかはサッパリらしい。

 

 ただ、「一護を守らきゃいけないんっす!」と頑として譲ろうとしないのは一同困り果てていた。

 当の本人が弱すぎて、どう考えても一護に守られる側だったし。

 

 ただ、虚圏がどのようなところだったかは覚えているようで、道案内はできると協力を申し出ていた。

 始めは破面だし信用できないだとか、そもそも小さい子供で戦闘能力がないから危険だとか反論していたが、織姫が行方不明になったことで四の五の言っていられないと腹をくくることになった。

 

 あたしはネルの事をあまり信用していない。

 

 どれだけ幼く可愛らしい少女でも、この子は破面だ。その嫌悪感が拭いきれない。

 一護なんかは持ち前の善性ですぐに守る対象へとなったみたいだが、あたしはそこまで割り切れなかった。

 

 そもそも、これだって藍染の罠かもしれない。

 あたしと同じ予想を日番谷くんは立ててたみたいで、尸魂界へと帰る間際にあたしに忠告を残していった。

 

『今回の現世への侵攻……。もし織姫の拉致が目的なら、俺らはまんまと引っ掛かったって事だ。そして、お前らが助けに行く事も織り込み済みだろうさ』

 

 まあ、そら分かるか。

 総隊長に止められても、あたしたちは止まらない事。そして、藍染の野郎もそれを迎え撃つ準備をしているであろう事。

 

 分かった上で、向かうんだ。

 

「アタシは、藍染さんに井上さんの能力が狙われるであろうことを見過ごしました」

 

 虚圏へと向かうあたしたちに向けて、浦原さんが懺悔するようにポツリと言葉を漏らす。

 

 この場にいる皆が同じように驚いた。

 それは到底許されるものじゃないし怒りも湧くけど……、でも、どうしてだろう。少し、そんな行動を取った気持ちを察する事が出来た。

 

「……それは那由他さんの存在がある限り、絶対に安全だと確信を持っていたからです。それでも見過ごしたことは事実ですから、アタシにできる事は全てお手伝いするつもりッス」

 

 これは浦原さんなりの贖罪なのだろう。

 どうして防がなかったのか、あなたなら何か対抗する手段も思いついていたのではないか。

 そんな非難が喉まで出かかるがグッと堪える。それは八つ当たりだ。

 

 強くなったつもりでも十刃の1人──グリムジョーを相手に3人がかりですら勝てなかったのは自分だ。

 これじゃあ藍染に勝てる訳がない。焦る気持ちが募るがなんとか心の平静を保つ。

 

「まあ、責められるのには慣れてるッス。まずは貴方達の道を開きましょう」

 

 寂しそうな、罪悪感を抑えたような。なんとも言えない表情で空元気と分かる言葉を吐いた後、浦原さんは虚圏への道標を示した。

 

 

「『我が右手に界境を繋ぐ石 我が左手に実在を縛る刃 黒髪の羊飼い 縛り首の椅子 叢雲(そううん)来たりて我・(つき)を打つ』」

 

 

 霊圧による物理的な風が吹き(すさ)び、地面が鳴動するような重低音を轟かせながら、その()は開いた。

 朽木さんを助けに行くときにも似たような感じの穴を通ったことはある。あれは確か……穿界門? だっけ? もう忘れたが、とりあえず目の前のコレとはどうやら全然違うらしい。

 感じる霊圧からしても微かにだが虚の気配が漂い、尸魂界へ向かう時よりも何となく薄気味悪く感じる。

 

「破面たちが行き来するこの穴は『黒腔(ガルガンタ)』と言います。中に道はなく霊子の乱気流が渦巻いているため、霊子で足場を作って進んでください。……暗がりに向かって進めば虚圏に着くはずです」

 

 視線だけでお互いの意思を確認する。

 

 

 この四人で、織姫も那由他さんも助け出してみせる!! 

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

「クソ、クソ、クソッ……!」

 

 ボク──ルピ・アンテノールは屈辱の只中にいた。

 

 現世にて死神たちを仕留めきれず、那由他様より頂いたNo.6をよりにもよってグリムジョーに取り戻された。

 しかも正面切っての実力でもってだ! 

 

 認めるしかないと分かっていながらも、許容しかねる現実。

 ただ自身が不足していると証明した事に他ならない。

 

 侵入者たちが来たとは連絡が来たが、その話し合いの場にすらボクは参加出来なかったのだ。

 それがどれだけボクのプライドを傷つけたかなど、言葉で語るまでもないだろう。

 

「クソッ……! こうなったら、侵入者をボク一人の手で全員始末して、少しでも挽回しなくちゃ……!!」

 

 親指の爪を噛み、イライラとした気分を紛らわすために忙しなく動く。

 こんな姿は全然かっこよくない。くそっ! 全部あの死神どものせいだ! 

 

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)に帰ってからも散々である。

 

 那由他様の顔をまともに見られない。折角No.6を賜っておきながらこの体たらく。自分に対しても怒りがフツフツ滾る。

 

 それでも、ボクがまだ我慢していられるのは現世にて掴んだ感覚。

 『刀剣解放・第二階層(レスレクシオン・セグンタ・エターパ)』が大きい。

 

 

 これは十刃に名を連ねている者でも、未だ数名しか至っていない境地である。

 

 

 グリムジョーの奴も使えたからNo.6を賭けた戦いでは遅れをとったが、死神どもに勝ちきれないなんて事は今度こそないだろう。

 

 だからこそだ。

 だからこそ、ボクはもう一度訪れるであろうその機会を切望していた。

 

「侵入者って、どうせあの女を助けに来る死神どもだろ? ……アハッ」

 

 人知れず、思わず漏れた嘲笑の声が空気に溶ける。

 今のボクなら容易く屠れる。それだけの実力だという自負がある。

 ボクのように数日で明らかな進化をする者がいるかもしれないが、それは極稀なケースである事は確かだ。であれば、侵入者にこちらの力を認識されていない今こそが絶好の好機とも言える。

 

「そうだ……だから、ボクがここ居ることは間違いなんかじゃない」

 

 虚夜宮にて自らの領域を持つ十刃とも違う。

 三桁の数字を持つ十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)とも違う。

 

 ボクが虚圏の外縁に飛ばされたのも、侵入者を迎え撃つ場所に立っているのも。

 

 全ては自らの実力を示し、汚名を(そそ)ぐため! 

 

 

 決して、那由他様に捨てられた訳ではない。

 

 決して!!! 

 

 

 ──だから、この出会いは必然なんだ。

 

 

「……何処に行くんだい? 侵入者さん?」

 

 

 目の前には四人。

 知っているのは一人も居ないが、このタイミングで来る奴の目的なんて分かりきっている。

 ボクは気軽に声を発しているけど、その内心なんてマグマのようにドロドロだ。

 

「!? こいつ、十刃の!」

 

 メガネをかけた白い奴が慌てて距離を取り、他のやつも合わせて下がった。

 

「石田、知ってんのか!?」

「黒崎、君はもっと報告を聞いて頭に留めておけ! こいつは確かNo.6のルピという破面だ!」

 

 メガネの言葉に皆が構えを取る。

 斬魄刀を構えるのは黒崎一護だとして……。拳で戦う浅黒いやつ、弓を構える白いメガネ、そして……。

 

「へえ、そこの女の人。もう虚じゃん。なんで人間のマネごとなんてしてんの?」

 

 体に穴を開けてる人間なんて、居るわけないのにね。

 

「……」

「だんまりか、つっまんなーい」

 

 やれやれとかぶりを振って煽る。苛立ちをぶつけている自覚はあるが、それを悪い事だとは思わない。

 そもそも悪い事をしてはいけない、なんてお利口さんな訳ないし。

 

「ア・ごめーん」

 

 だから、こうして相手の神経を逆撫でし、冷静な判断を奪えるのなら、ボクは躊躇わず敵の弱い部分を抉る。

 

 

 

「那由他様も“虚”だし、キミってもしかしてコッチ側?」

 

 

 

「て、っっっっめえええええええ!!!!」

 

 黒崎一護が即座に反応した。

 単純で純粋で、反吐が出るほどだ。

 

「“縊れ”──蔦嬢(トレパドーラ)

 

 解放した能力で攻撃を受ける。

 別に素直に受けなくても良かったんだけど、多分ボクの鬱憤をコイツにぶつけたかったんだろう。

 自らの正義を信じて疑わない偽善者に、ボクはグリムジョーに対する怒りとは別種の憤りを感じていた。

 

「なにさ、お前も虚の力を宿してんだろ! グリムジョーとの戦いで解析したデータはボクも持ってんだよ!」

「ぐっ!?」

 

 那由他様の見定める世にボクがいない? 

 そんな事はありえない! 

 

 お前らの正義は虚を滅ぼすことであって、お前らの世界を守ることである。

 だが決して、ボクらの世界を脅かす存在であって良い道理なんてないんだよ!! 

 

「藍染様はお前らの世界を滅ぼすのかよ! 空座町っていう町が一つ消えるだけじゃないか! その結果、藍染様という新たな統治者が誕生し世界が平和になるというなら、何故お前達は虚を倒す!?」

 

 帰刃(レスレクシオン)によって生まれた八本の触腕がボクの背後で旋回を始める。

 

「那由他様が求めた“人間らしい虚”っていうのを、お前らは否定するっていうのかよ!?」

 

 

 ……違う。こんな事を言いたかったわけじゃない。

 にも関わらず、ボクの口は存在することへの希望を吐き出していた。

 自分でも不可解だ。

 どうしてボクは、この場で侵入者に叫んでいるのだろう。

 

 それは破面になる前……いや、虚になる前の、なにかの"心”の残滓だったのかもしれない。

 

 

「……一護。ここはあたしに任せて先に行ってくれない」

「たつき……?」

 

 戦闘中にも関わらず俯いてしまったボクの頭に振ってくる音。

 それは一人の名乗りであり、ボクと正面切って拳を交える意思表示。

 

「あたしの名前は"有沢たつき”。あんたと同じ──虚だよ」

「……人間でしょ、キミ」

「そう思ってくれんなら嬉しいけど、今は虚でいいよ」

 

 なに、コイツ? 

 困惑以外の反応が出来ない中、たつき(ソイツ)は言った。

 

 

「あたしがあんたの想いを抱いてやる。だから遠慮せず殴ってきな」

 

 

 クイッと首を動かし他の奴らを先へ行くように促す(たつき)

 死神を引き止める気なんて、この時には既に失せていた。

 

「……ボクはさぁ、基本的に間違った事を指摘されるの嫌いだし、相手の揚げ足を取るのが大好きなんだよね」

「なんつークソガキだよ……。あたしはそういった曲がった性根が大っキライだね」

 

 ──これで殴れる。

 

 目の前の存在は敵だと思える。

 那由他様の面影を重ねる事もない。

 

 そう、敵だ。

 

 恐怖より生まれた(ボク)らにとって、“人”とは敵であるはずなのだ。

 

 だからこそ、那由他様は眩しいのだ。

 

 

 恐怖を持たないあの方は、虚を“人”として見るあの方は、

 

 

 ──月のように静かで、太陽ように(ボクら)の“心”を焼き焦がす。

 

 

 那由他様より賜った『No.6』の数字は、名を変えてでも貫き通す!! 

 

 

 

破面(アランカル)“元”No.6(アンテリオール・セスタ)──ルピ・アンテノール。全力で縊り殺してあげる」

 

「六車流拳術・免許皆伝──有沢たつき。推して参る」

 

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