ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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叛逆…だと…!?

 

 俺──黒崎一護は井上と那由姉がいるであろう場所、虚夜宮の回廊を駆けている。

 

 虚圏へ浦原さんの助けを借り突入したはいいものの、その後の事はサッパリだった俺達だ。後先考えていないと言われればその通りなんだが、今は心強い道先案内人がいる。

 

「こっちっス!」

 

 俺の背中にへばり付いている小さな女子の破面。

 ネルと名乗ったこいつは、何故か俺が虚圏へ向かう事に対して意欲的であり協力を惜しまなかった。

 

 三界の境界を割り砕くようにして虚の大地へと足を付けた瞬間、まさか十刃(ルピ)とカチ会うことになるなんて予想外も甚だしかったが、そこはたつきを信じている。

 あいつなら、後からきっと追いついてくるはずだ。

 後ろ髪を引かれる思いはありつつも、そんな懸念を振り払うようにネルの指示に従って不毛の大地を駆ける。

 

 すると、”白亜の城”とでも表現すればいいのか、とにかく真っ白でデケえ宮殿みたいな建物にたどり着いた。

 ここがどうやら藍染たち破面の根城らしいが……入口はどこだ?

 

 ここに来るまで大した敵に出くわさなかったが、俺達が侵入している事にまだ気が付いていない訳が無い。突入した瞬間に十刃の一人が待ち受けていたのだ。

 あまり時間をかける余裕もないが、必要以上に目立っても余計な面倒が増えるだけ。ここは順当に入口を探してそこから――。

 

「一護って、なんか見た目よりも真面目っすよね……」

 

 ネルがどこかポカンとした顔で零した感想になんとなく恥ずかしくなる。

 

 そ、そうだよな。敵の根城に仲間を助けに来たんだ。わざわざ入口から入らなくても良い。いや、そうしたら敵から見つかりやすくなるし、別に真正面からじゃなくても……って、そういやさっき十刃に見つかってたな。今更か。

 すげえ勢いで言い訳みたいな思考が頭を駆け巡るが、ええい細かい事を考えるのは苦手だ! 

 

 俺はネルをぽいっと後方へ放り投げ、背負った斬月を引き抜き恥ずかしさを誤魔化すように目の前の壁へと叩きつけた。

 ドゴオオオオオオン、と凄まじい破壊音を辺りへ撒き散らし空いた穴を確認する。

 

 よし! 思ったよりも簡単に出来た通路に少し拍子抜けしたが、まあ楽でいいな。

 

「……一護たちってこんなんすか?」

黒崎(アレ)を僕と一緒にしないで欲しいね」

 

 後ろで石田とネルがなんか言ってるが無視だ! 

 

「侵入できたのは良いが、通路は5つ……どうする?」

 

 するとチャドがあえて空気を読まずに至極真っ当な質問を口にした。

 流石に敵地のど真ん中。石田も直ぐに表情を切り替え思案気な顔する。

 

「順当に考えればどれか一つが奥へと繋がる正解の道ってことだろう。……時間はかかるが一つずつ当たるのが得策だと思う」

 

 これには俺とチャドも静かに頷いた。

 現世で戦った破面たちの実力は嫌でも理解している。一対一の決闘でなら別だが、ここはできるだけ確実に進む方が良い。それに、お互いの状況を伝える連絡手段もない今、霊圧に頼った単独行動は危険だろう。たつきが離れた今は3人しかいないのだから、少しでも協力し合うべきだ。

 

 前までなら、自分一人で背負おうと考えただろう。

 俺一人で井上も、那由姉も救ってみせると息巻いていただろう。

 しかし、今ならこいつらがどれだけの信念を持ってここに立っているか分かっているつもりだ。

 仲間(ツレ)の存在を頼りに出来る、そう信じられる。

 

 だからこそ一緒の道を進もうと考えた、その時だった。

 

 

「たわけっ! 何故勝手に虚圏へ入った!!」

 

 

 袂を分かつしかなかったと思っていた仲間の姿がそこにあった。

 

「ルキア……、恋次……!」

 

 藍染が護廷に対して宣戦布告し尸魂界を去っていった後、現世へと戻った俺に対して喝をいれたように。

 再びルキアは俺の前へと、同じ目的のために立ち上がってくれていた。

 

 ……いきなり浴びせられた罵倒と一緒に殴られなきゃ、もっと素直にそう思えたんだけどな。

 

「何故、私が戻るのを待てなかった!」

「だってあのまま戻って来るかどうかなんて分かんねえじゃん……」

「必ず戻る! どんな手を使ってもだ!」

 

 分かってはいた。

 きっとコイツラは最初からそのつもりだったって。

 だけど死神として組織に属する以上、何かしらのしがらみはあるはずだ。今回はその制約が顕著だっただけで、当たり前のようにこいつらを頼るのは違うと思っていた。

 

 歯車が回るようにいつか必ず近づく存在ではないんだ、人間()死神(ルキア)は。

 

「何故貴様は待てぬ! 何故信じられぬ! 我々は……仲間だろう、一護……!」

 

 もしかしたら、俺が那由姉に置いていかれたからこその距離感だったのかもしれない。

 無自覚な拒絶。背負いこむ事で、他人が傷つかないと錯覚していた。

 

「ああ……そうだな……」

 

 それを覚ましてくれるのは、いつだってお前だったな、ルキア。

 

 総隊長に帰還命令を下されたルキアたちがどうやってここまでこれたのか、とかの疑問は尽きない。ただ、今はそんな事をくっちゃべっている場合でもない。

 

 

 目の前に広がる道。

 いきなり分かれているため、どうするか迷っていた道だ。

 これだけの人数がいればより早く潰していける。

 

「こうして丁度五人が揃ったのだ。別々の道を行こう」

 

 そう、ルキアが口を開くまでは。

 

「な、何いってんだ!? 相手は十刃だぞ、全員一緒に行動した方がいいに決まってんだろ!?」

「やめとけ」

 

 驚愕する俺に対して、恋次は静かに「戦士にとって侮辱」だと言った。

 

 

 こいつらの価値観、時々分かんねえんだよなぁ……。

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 ──ネルは、一護について行かなければならないっス。

 

 気が付いたら人間に、しかも死神に拾われていたっス。

 いや、死神だけじゃなくて虚みたいな女の人もいたっスけど、なんていうか、多分人間だったっス。

 

 そらもう初めはビビったっスよ。破面であるネルは殺されるんじゃねえかって。

 ただ、幸いにも優しくて面白い人達だったから良かったっスけど、どうして現世にいたかも分からなくて、一護たちに拾われた後からしか記憶がなくて……。

 自分が何をしたらいいのかも分からないのはスゴイ不安ッスけど……。

 ただ、自分の使命のような焦燥感とも義務感ともとれない、なにかに背中を押されている感覚が、常に体を焦がしているっス。

 

 一護の部屋で目が覚めた時には居た死神たつも、なんか良く分がんねえけど帰っていったし、一護たつの大事な人は虚圏にいるらしい。

 それを助けたいけど、どうやら死神たつは協力してくれねえみてえだ。

 だったら、ネルが一護を助けてやんなきゃならねえっス! 

 

 だから、ネルは虚圏へ一護たちと一緒に行く事を決めたっス! 

 

 

 浦原? とかいう、多分死神の男の人に開けてもらった黒腔(ガルガンタ)を通り辿り着いた虚圏。

 そこは久々なのか、ちょっとよく分からなかったっス。

 

 ここに来るまでには色々とあって話せば長くなるっスけど、結局はネルも連れてきてもらえたのでOKっス!

 ネルは破面である事は分かってるし、十刃の方々や藍染様の事も覚えてるっス。

 でも虚圏で過ごした具体的な記憶が、なんでかポロっと落っことしたように忘れてるんスよねぇ……。

 

 

 何か、そう。とても大切な”何か”を忘れている気がするっス。

 

 

 その答えが、もしかしたら一護についていく事なのかもしれないっス。

 この胸を突き動かす気持ちが何なのか、一護なら教えてくれるかもしれない。

 そう感じたっス。

 

 それでも、ネルはただの無力な破面っス。

 

 戦闘力もほとんど無い、破面とは名ばかりの雑魚っス。

 そんなネルは一護に付いていく事ばかりを気にかけていたせいで、「そういえば助けに行く女の人ってどこにいるんスか?」と虚圏に着いてから聞けば、「藍染の野郎に捕まってる」と返されたっス。

 

 ……。

 

 

 エ゛!? アイゼンって、あの藍染様っスか!? 

 

 

 正直、一護についてくのは早まったと思ったっス。

 でも黒腔を抜けて迷っている内に十刃のルピ様に遭遇しちゃったもんで、これはもうネルは裏切り者って事確定っスよ。強制的に選択肢を潰されたっス……。

 

 

 

ただ、ここまでの目に会っても、一護から離れる気だけは全く起きなかったっス。

 

 

 虚みたいな霊圧を持っている女の人を置いていき、藍染様がおわす虚夜宮(ラス・ノーチェス)にたどり着けば、一護は豪快に壁を破壊して中に侵入。

 そこは5つの分かれ道に分かれる広間のような空間になっていたっス。

 隠密行動する様子がないのも臆病なネルからしてみれば信じられなくてハラハラしたっスけど、分かれ道で団体行動を取らずに単独で制圧していく手段を取ったのはもっと驚いたっス。

 

 皆がそれぞれの道を選び駆け出した先。

 

『ネルは、ネルはまだっ! 一護と一緒に居たいッス!』

 

 己の感情の赴くままに、ネルはただ一護の背を追いかけたっス。

 道は一本道で迷うことなく進む。一護は足を止めることなく突き進み、その信念を肌で感じるように霊圧を滾らせていたっス。

 

 そして、次の広間のような場所に出た彼を待ち受けていたのは、

 

 

 ──No.103(プリバロン・エスパーダ)ドルドーニ・アレッサンドロ・ソカッチオ

 

 

『吾輩すら倒せぬようでは、十刃など到底倒せぬということさ、坊や(ニーニョ)

 

 戦いの最中、ドルドーニ様が那由他様に対して並々ならぬ想いを抱いている事を知ったっス。

 でも、ネルは何で『那由他様』という言葉を聞いただけで、こう、胸が苦しくなるっスか……? 

 

 なんか、忘れちゃいけない"何か”。とぉっっても大切な、そんな"何か”を忘れてるような……。

 

 

 

「藍染様にとって、十刃落ちである吾輩たちなど価値が無いに等しい」

 

 唐突に聞こえてきた言葉にハッっと我に返る。

 

 そ、そうっス! 今は一護の戦いの方が大事っス! 

 ドルドーニ様が自らの能力暴風男爵(ヒラルダ)を解放。一護は防戦一方になってるっス。

 力の激突による霊圧の風がネルの体をビリビリって震わすし、一緒に瓦礫なんかも飛んできて怖いっスけど。

 

 でも、一護をヤらせる訳にはいかないっス! 

 

「い、一護!」

「ネルは危ねえから下がってろ!」

「おやおや……。お嬢ちゃん(ベベ)を気に掛ける余裕など──舐めている子にはお仕置きだよ、坊や(ニーニョ)

 

 !? 

 

 あれを、ネルは知ってるっス。

 この霊圧の高まり。

 ネルみたいな雑魚破面が見たことも、ましてや出来るはずないのに。

 あれは! 

 

 

「喰らいたまえ――『虚閃(セロ)』」

 

 

「い、一護ぉぉおお!」

 

 ネルの体は勝手に動いていて、気がつけば一護の前に両手を広げて飛び出していたっス。

 受けたらひとたまりもない。

 そんなの見るまでもなく明らかで。

 

 でも、ネルは()()()()っッス。

 

 この体の使い方は──。

 

「……虚閃(セロ)を……止めた……!?」

 

 一護からも、ドルドーニ様からも驚愕した気配が伝わってくるっス。

 自分でもどうやってるか、その理屈みたいなモンは分かんないっスけど、でも出来るとは何故か確信を持てたっス。

 

 ドルドーニ様の虚閃を受け止めるだけでなく、そのまま口の中へと含み飲み込む。

 そして、自身の力を上乗せして……解放!! 

 

 

重奏虚閃(セロ・ドーブル)

 

 

「!?」

 

 ドルドーニ様が放った虚閃よりも更に強力となった虚閃が返っていく。

 

 崩玉を手に入れる前の時点だったとは言え、十刃の地位にあった者の虚閃である。

 これを打ち消されるどころか技に転用されるなど、考えてもみなかったのだろう。

 

 まともな反応すら出来ず、ドルドーニ様にネルの吐き出した虚閃が正面からぶつかったっス。

 

「この技は……? ……!? いや、もしや、()殿()は……!?」

 

 けれども、これで倒されるようでは”十刃落ち(プリバロンズ)”すら名乗れない。

 額から血を流しながらも、その姿は健在で戦闘に支障を与えるほどのダメージは負っていないようっスね。

 

 3ケタの数字は”剥奪”の証。

 この程度で倒れていては、いざという時に()()()の盾になる事すら叶わない。

 

 ”あの方”……?

 

 どうしても出てこない名前に少し頭痛を覚える。

 

 ただ、ネルを改めて見た()()()()が何かビックリしてるッスけど……。

 ネルは()()()の事なんて知らないッスよ? 

 

 あれ? 

 なんかネルの中でドルドーニ様の扱いが段々ぞんざいと言うか、馴れ馴れしいと言うか……。

 

 ──同僚に対する遠慮のなさ? 

 

 よく分からないっスけど、ちょっとネルが抱くドルドーニ様の印象が変わってるような気がするっス。

 

「……なるほど。これが那由他様のご意思か

「! オッサン、あんた那由姉の事を知ってんのか!?」

「吾輩はオッサンではない!」

 

 どうでもいいところに憤慨したドルドーニ様は、ハッとした後にコホンと軽く咳払いをする。恥ずかしかったんスかね? 

 

「知っているか、だって? その質問に答えるならば、勿論(クラロ)! と言わざるをえない」

「だったら話は別だ。こんなとこで無駄な足踏みをしてる時間なんてねえんだ」

「……ならば、坊や(ニーニョ)は全力を出したまえ」

「なに?」

 

「卍解より更に上、”虚化”と言うのだろう?」

 

 一護がギリっと歯を噛みしめる音がネルにまで聞こえてきたっス。

 ドルドーニ様と一護がネルを挟んで、まるでネルが居ないみたいに話すのも釈然としないっスけど……。

 一護が虚化をするのも何となく嫌だって感じたっス。

 

「ここにネリ……お嬢ちゃん(ベベ)がいる事で吾輩の意思も固まった」

 

 今まで『帰刃(レスレクシオン)』によって圧倒的な実力を披露し、構えすらも余裕を感じさせていたドルドーニ様。

 そんな強者であるNo.103(プリバロン・エスパーダ)が、どこか緩かった雰囲気を霧散させ真剣な表情で隙なく構えたっス。

 

坊や(ニーニョ)の目的が”仲間を助ける事”で暴力がその手段だと言うのならば、吾輩の目的は”全力の坊や(ニーニョ)()()()()()”だ」

 

 そこには、冗談など許さない。一護と対等な勝負を望む戦士がいた。

 

「……分かった」

 

 そして、これに応えないのは一護ではない。

 

 そう那由他様ならば言うだろう。

 

 那由他様? 

 会ったこともない、はず、っスよね……? 

 

「悪いが、見せてやれるのは一瞬だけだ」

 

 一護が顔に手を翳すようにして腰を落とし、

 

 

「……完敗だよ、清々しいほどにな」

 

 

 本当に一瞬。

 たったの一振りで、先程まで猛威を振るっていたドルドーニ様の『暴風男爵(ヒラルダ)』を断ち切った。

 その速度はネルには瞬きの間すらも必要ないほどの神速で、何が起こったのか初めは全く理解出来なかったほどっス。

 

 崩れ落ちるドルドーニ様。

 既に意識は無いのか、ピクリとも動かない。

 ……し、死んじゃったんスかね。

 

「大丈夫だ、ネル。死んじゃいねえよ」

 

 まるでネルの内心を読んだみたいにピタリと言い当てられて、思わずビクリと方を揺らして驚き一護へ振り向いちゃったっス。

 

「……こいつから那由姉について聞き出さなきゃいけねえからな」

 

 ネルがじっと見つめると、なんだか居心地悪そうにそっぽを向いて言い訳みたいな事を言い出す一護。

 ふふっ。短い付き合いではあるけど知ってるっスよ。一護は仲間想いで、敵であろうと無闇に命を奪うような事は絶対しないっス。

 

 

 ──那由他様から、それはもう痛いほど伝わってきたっスから! 

 

 

 ? 

 あれ、またっス……。

 

 もどかしくて、胸がキュってなって、とっても悲しい気持ちになって。

 でも、どこか誇らしい。

 

「しかし、オッサンが起きるまでここで待機してる時間の余裕なんてねえし……。仕方ねえ、背負って先に進むか」

「あ! それならネルにいい考えがあるっス!」

 

 ネルの唾液には弱いっスけど回復効果があるっス! 

 だからこうしてのどちんこをこねると……。

 

 

「ゲボァぁぁぁ……」

 

 

「何をする!!??」

 

 予想以上に早く回復してネルもビックリっス。

 

「ネル、お前のヨダレって実はスゴイんじゃねえの?」

「知らなかったっす、ネルにもそんな秘められた力が……!」

「ヨダレではない!! それはゲロと言うのだ!!」

 

 ズビシィ! とドルドーニ様に指さされて怒られたっス。折角治してあげたのに……。

 っていうか本当に元気っスね。仮にも一護の虚化の攻撃を受けたのに。やっぱり手加減したって事っスか。

 

「はあ、全く……敗北の余韻にも浸らせてくれないのかね?」

「悪いが時間がねえんだ。知ってる事を教えてくれ」

「で、あろうな」

 

 一つ息を吐き出し、ドルドーニ様は口を開いたっス。

 

 現在の虚夜宮の状況と十刃を始めとした破面勢力や配置など。

 それはもう、罠かと疑うほどに素直にペラペラと話すもんっスから、途中で一護の方が慌て始めて止めたほどッス。

 

「お、おい、オッサン! 俺が言うのも何だけどよ……。その、そんな色々と教えちまって良いのか?」

「まあ、藍染殿()には処分されるであろうな」

「なら!?」

 

 

「ならば那由他様のために、この命を使いたい」

 

 

 一点の曇り無く断言したっス。

 その姿は一護が息を呑むほどに堂々としており、なんら恥じることなき信念を貫いていると感じるに十分すぎるほど。

 

「吾輩は十刃に返り咲きたかった。いや、違うな。──那由他様の側で、その力を奮いたかった」

 

 一護にとってはドルドーニ様に止めを刺さず、戦いながら感じた違和感があったんだと思うっス。

 それがこうして実感できる形で言葉としてぶつけられ、一瞬戸惑ったようだったっスけど。

 

「吾輩は全力の坊や(ニーニョ)を倒せば、藍染様に認められ、またあそこに立てるのではと夢想した。那由他様は地位に拘りなど持たない。分かってはいる。しかし、吾輩にとって、あの場所は堪らなく心地よかった……」

 

 しかし、すぐにニヤリと人好きする笑顔をドルドーニ様は浮かべたっス。

 今まで一護に語って聞かせたのが、まるで誰かに聞かせる()()であるかのように。

 

「とまあ、吾輩の些細な欲望こそあれ、本題は違う。そこなお嬢ちゃん(ベベ)の正体がまだ明かされていないのならば、吾輩から言うべきではないのであろう。しかし──」

 

 未だ一護との戦闘で負った傷が完治した訳ではないっス。

 確かに動くことは出来るかもしれないっスけど、戦うなんて無理。誰が見ても明らかな容態のドルドーニ様は、それでも立ち上がり一護と目線を合わせて宣言したっス。

 

「黒崎一護、貴公が吾輩と刃を交え乗り越えた今こそ、我らが那由他様のために動き出す時。藍染殿は現世にて王鍵(おうけん)創生を行うつもりだが、死神勢力の分散を目的として井上殿と那由他様をも利用している」

 

 一護は驚いてるっスけど、ネルは何故かそこまで驚かなかったっス。

 なんとなく納得できた? みたいな。そんな感じがしてるっス。

 

「動き出すって、俺等は元々そのつもりで虚圏(ここ)に来たんだ。そら手伝ってくれるのは助かるけどよ……!」

「我らが忠誠を捧げたのは那由他様! であれば、我らが主を助けに向かうは道理というものであろう!」

 

 慌てて声を上げる一護を遮る形で音を被せるドルドーニ様。

 ここで、「ん?」と一護が首を傾げたっス。まあ、気になるっすよね。

 

「我()?」

 

 だって、ここに居る破面って、ネルとドルドーニ様しか居ないっスから。

 してやったりといった感じに口角を上げ、ドルドーニ様は遂に名を挙げた。

 

 ネルは覚えていないっスけど、間違いなく、我らは仲間だと。

 

 そう信じられる、同胞(はらから)の名を。

 

 

 

 

破面・No.107──『ガンテンバイン・モスケーダ』

 

 

 

破面・No.105──『チルッチ・サンダーウィッチ』

 

 

 

破面・No.9(ヌベーノ)──『アーロニーロ・アルルエリ』殿

 

 

 

破面・No.7(セプティマ)──『ゾマリ・ルルー』殿

 

 

 

破面・No.3(トレス)──『ティア・ハリベル』殿

 

 

「十刃の御三方は吾輩たちと同じ、那由他様の意思を継ぐもの」

 

 

 加えて藍染殿に不満を抱えておられた、

 

 

 

破面・No.2(セグンダ)──『バラガン・ルイゼンバーン』殿

 

 

 那由他様に恩義を感じている、

 

 

 

破面・No.1(プリメーラ)──『コヨーテ・スターク』殿

 

 

 御二方も利害の一致によって動いてくださる手筈になっているらしいっス。

 また、那由他様に信奉している女性を中心とした破面たちも一護たちへ間接的とは言え敵対せず協力的に行動するようで。

 

「黒崎一護、貴公のお仲間もきっとどなたかに合流している事だろう」

 

 もう、一護は途中からポカーンとしてるっスね。

 まあ気持ちは分かるっスよ。死神たちとも決別に近い形で気合入れて虚圏に突入してみれば、敵側のほぼ半数がいつの間にか寝返ってて味方になってるんスから。

 ただし、これだけの人数が動く、しかも最も注目されているであろう一護の前で話をしたって事は、

 

「負傷した侵入者……。いえ、反乱分子を処分せよとの命令です」

 

 藍染様にも当然バレバレって事っスよね。

 

 ──葬討部隊(エクセキアス)

 

 侵入者討伐および戦闘での敗者に止めを刺す任務を負う処刑部隊として知られている。

 先頭に立つのは葬討部隊隊長っスかね。人型っスけど仮面は全く割れておらず、牛のような動物の頭蓋骨をそのまま象った仮面を着用してるっス。

 

「誰の命令かね……?」

 

 既にドルドーニ様が裏切り者として判断されているのは確実。

 しかし、それでも堂々した立ち振舞で問いただす姿には貫禄すら滲み、傷ついた姿にも関わらず霊圧だけで相手を威圧してるっス。

 

「申し上げられません」

 

 端的に断りの文句を述べ、葬討部隊が皆一斉に抜刀した。

 

「言うじゃないかね、小僧共(ホベンスエロ)──!」

 

 そして、いざ先に進もうと一歩を踏み出した時だった。

 

 苺にとってとても馴染み深く、そして頼りになる存在の霊圧。

 ネルにとっても、さっきまで一緒に行動をしてた存在の霊圧が、

 

 

「チャドの霊圧が、消えた……?」

 




ナ「何も知らない件について」
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