ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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克服…だと…!?

 

「……ちっ。んだよコイツ、カスがよ」

 

 俺──ノイトラ・ジルガは足元に転がる浅黒い肌を持った男を軽く蹴り飛ばす。

 大して力を入れていないにも関わらず、その巨体とも言える図体(ずうたい)は宙を舞い数mは吹っ飛んでいった。

 

 虚とも死神とも違う力を腕に宿していて面白そうとは思ったんだが……。

 

「勝てりゃ良いけどよォ、歯ごたえが無さすぎるのも問題だな」

 

 ニヤニヤとして嘲笑を抑えずに浮かべる。

 

 虚圏(ウェコムンド)へと入ってきた侵入者の中で一番近い奴から行ってみたら、”3ケタの巣(トレス・シフラス)”の所だったから、問答無用でブチのめしちまったじゃねえか。

 

 那由他に対して尻尾を振ってる負け犬共だ。俺が求める強さなんて持ってるはずがねえ。

 

 

 ――ネリエルを殺した後の那由他の反応を思い返す。

 

 

 何も無かった。

 

 そう、何も無かったんだ……! 

 あいつは、自らの側近であるネリエルが消えた事に対して、何も反応を示さなかった!! 

 

 普段から人の心について説教たれてるクセに、本人が一番ヒトの心がねえんじゃねえか? 

 だとしたら滑稽だ。那由他を信奉している奴ら、皆まとめて滑稽だ。

 

 だが、そんな簡単に俺の”感情”は割り切れねえ。

 

 感情は心から生まれると思ってるんなら、バカバカしくて殺したくなる。

 感情は”欲望”から生まれるんだよ……! 

 

 欲望に心なんかいらねえ。ただ欲するがままに、邪魔を排除すればいい。

 『欲する』という行為そのものを欲する”欲の塊”が虚であって、目的もないままに彷徨うのが虚なんだからよ! 

 無駄に感情なんてもんを手に入れるから、余計な欲が出る。より何かを欲する。明確な目標を、本能ではなく理性で判断出来るようになる。

 

 ”それ”が虚にとって持ち得ないモノである事に、ようやくそこで気付くんだ。

 

 どうやったって手に入らないから救われない。それに気付いて初めて、俺らは悲嘆し力を手に入れる。

 他者から奪い取れば良いと。

 

 

 

 そこに那由他は現れた。

 

 

 

『私が与えます』、と。

 

 

 

 奪い、与え、奪い、与え。

 心を説いて、虚に寄り添い、そして優しく抱き込むように喰らい殺す。これほどの恐怖が虚にあるだろうか。

 俺は那由他に与えられた『恐怖』と『力』を”心”に刻み、これまであいつを殺したくて仕方なかった。

 

 そんなムシャクシャしているところに侵入者の報告が届いた。

 

 丁度良い。手当たり次第に強い奴らをぶっ潰す事に問題はねえよなぁ。だって侵入者を排除するんだ。それは藍染サマにとって利益だろ? 

 

 この際だ、死神だろうが十刃だろうが関係ねえ。

 戦いに卑怯もクソもねえ。

 強い奴が生き残る、それだけだ。

 逆に言えば殺されたやつは弱く、生き残った奴こそが強いのだ。

 

 だから、どんな手を使おうと勝てばそれで良い。

 俺より強い奴が居なければ、俺が最強だ。

 

 ──俺は死にたい。

 

 ただ死ぬだけではダメだ、戦場で、戦いの中で死にたかった。

 俺が強くなればなるほどに強い奴が引き寄せられる。

 より激しい戦いとなり、いずれ俺は戦いの中で死ねるだろう。

 

 俺は斬られて、倒れるよりも前に息絶える。

 

 そういう死に方をしたいんだ。

 

「刺されないのですね、止め」

「テスラか……。当たりめえだ、雑魚を千匹殺したところで、誰が俺の最強を認める?」

 

 俺に声を掛けた優男風の破面をチラリと見やる。

 俺の従属官(フラシオン)であるテスラは、付き合いだけで言えばかなりの長さになる。だからこそ、俺に対して諫言ともとれる言葉を吐けるんだが、俺とコイツには明確な上下関係があった。

 

 だからこそ、コイツは一歩を踏み込んでこない。

 

 俺とコイツの歪だけれど、ある意味では信頼とも言えるだろう。

 そんなコイツとの遣り取りに俺は苛立ちがスッと収まるのを感じた。

 

 ちっ……。

 

 こんなすぐに倒れるような雑魚にはもう用は無い。

 だからといって止めを刺す義理もない。生き残ったんなら運が良かったんだろうよ。俺にはもう関係の無い事だ。

 

 さっき吹っ飛ばした野郎は侵入者だとして、もうひとりは……見たことはある。よく那由他の後ろにくっついている奴だ。

 確か十刃落ち(プリバロン)だったと思うが……。まあ、別に名前を思い出したいわけじゃねえし、放置でいいか。

 ついでにブチのめしたが、こいつもまだ息がありやがるな。二人揃って生き汚い野郎どもだ。

 

「チッ、一番近かった霊圧のやつをアーロニーロの野郎に取られちまったか……」

 

 次に向かおうと思っていた侵入者と思しき霊圧にアーロニーロの野郎が接触しやがった。

 仕方ねえ、他の奴のところに行くか……。

 

 

 ……いや、待てよ? 

 

 

 アーロニーロも那由他に心酔している破面の一人だ。

 

 反逆の疑いありでネリエルの件が許されてんだから、

 

 

 

 

アーロニーロにだって、許されるよなぁ……!

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

「ふう、悪いな。オレはどうも昔から『陽の光』ってやつが苦手なんだ。宮の中に光は届かない。──仮面ヲ取ッテ挨拶スルヨ」

 

 

 私──朽木ルキアは那由他隊長と井上救出のため、山本総隊長の指示を破り恋次と共に虚圏へと踏み込んだ。

 

 そして五本の回廊を仲間が各々進み、私の視界が広がった空間に出た時に茶渡の霊圧がフッと消えた。

 その感覚に硬直してしまった一瞬の隙を縫うようにして、私は()()()()に声を掛けられたのだ。

 

「オレの名はアーロニーロ。破面No.9(ヌベーノ・エスパーダ)──『アーロニーロ・アルルエリ』

 

 

 ──”9”の数字を名乗った破面は、海燕殿の顔をしていた。

 

 

「……表、青空だっただろ? あの青空は虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の内側に藍染が創ったものだ。あの青空の光が差し込む場所全てが藍染の監視下になる」

 

 恐らく、この破面の支配領域なのだろう。

 視界が広がった先には青空が広がり度肝を抜かれたが、その中でも光を遮断するような暗闇と化している宮の中へと誘導され、奴は口を開き私への説明を始めた。

 

 しかし、海燕殿の容姿……。

 

 数十年前の事件を忘れる事など出来ない。

 私の中では、とても苦いと同時に決意を促し前へと踏み出した大事な契機でもあったのだ。

 ただ、ここで海燕殿の姿形をした人物と会話をする事になるなどとは予想もしていなかったので……。

 

 私の動揺を見て苦笑したような顔をしながらも、相手の口は止まらない。

 言っている内容はとても重要だと理解してはいるのだが、それが頭に入ってこない。

 

「か、海燕殿……? 本当に、海燕殿なの、ですか?」

「オウ! 皆大好き、海燕副隊長だぜ?」

「……」

「んだよ、ツッコめよ……」

 

 どこか困ったように頬をかく仕草。

 感じる陽だまりのような暖かさ。

 私の全てが目の前の存在を海燕殿だと訴えている。

 

 だからこそ、私はホッとした。

 

 私の中の海燕殿は決して色褪せた過去の存在ではないと。

 今も私の中で息づく先達で、尊敬すべき先輩で、頼れる副隊長で。

 

 そして、

 

「海燕殿は、死んだのです」

 

「……なに?」

 

「私の至らなさ故に、その役割を那由他隊長に押し付けてしまいました。けれど、私の中で受け継いだ海燕殿の意思は、絶えず煌々と燃え盛っています」

 

「なら、朽木(クチキ)。お前はもう海燕(過去)に囚われていないと、そう言うんだな?」

 

 

「はい!」

 

 

 幻影や幻覚でないのならハッキリと伝えたかった。

 

 自分の口から、愛すべき副隊長へと伝えたかった。

 

 感じる全てが海燕殿と言うのなら、目の前の存在はきっと海燕殿なのだろう。

 

 でも、彼は死んだのだ。

 私の目の前で死んだのだ。

 私が彼を看取ったのだ。

 

 だから伝えよう。

 

 

 ――私はもう、大丈夫です、と。

 

 

 海燕殿(アランカル)は、私の知っている海燕殿のように、ニカッと悪戯小僧のように屈託なく笑った。

 

「オレの所に来たのがクチキ、お前で良かったよ……ッテ、海燕モ言ッテルダロウネ」

 

 それだけ言うと、海燕殿は崩れるようにその姿を変え、そこには第9十刃(アーロニーロ)がいた。

 

「試ス様ナ真似ヲシテ済マナイネ。()()ノ中に居ル海燕ガ、ドウシテモ会ッテ話シタイッテ言ウカラサ」

 

 壁越しに聞こえる音のように、何処か聞き取りにくい発声をする破面。

 こいつは明らかに敵である存在だ。

 しかし、どうしても、今の私はアーロニーロに刃を向ける気になれなかった。

 

「貴様がアーロニーロか」

「改メテ名乗ッテモ良イガ時間ガナイ、コノママ進メサセテモラウゾ。……海燕ノ姿ヲシタ事ニ対シテ怒ルトモ思ッタガ、存外ニ冷静ナノダナ」

「いや、始めからある程度の察しはしていた……。それにあの時、私は那由他殿に救われたのだ」

「……ソウカ、ソレハ誇ラシイナ」

 

 その姿は異形と言って差し支えないだろう。

 本来は頭部がある位置に試験管のように細長いガラス瓶が鎮座しており、その中には2つの球──いや、顔か。二人で一人、といった感じなのだろうか。

 

「僕ラノ帰刃(レスレクシオン)ハ『喰虚(グロトネリア)』。喰ッタ虚ノ能力ヲ奪ウ能力ダ。コレヲ利用シテ昔喰ッタ虚ニ宿ッテイタ副隊長ノ形モトレタンダケド……ヨッポド強イ意思ヲ持ッテタンダロウネ。僕ラノ中デスラ、微カニ存在ヲ感ジラレルヨ」

「海燕殿……」

 

 ここで感傷にも浸っていられない。

 目元に浮かんだ涙を誤魔化すように一度強く目元を袖でこすり、改めてアーロニーロを見つめ、一応だが問うてみる。

 

「貴様の能力、駆け引きもなく素直に教えて良いのか? 私たちは敵同士だろう」

「先ノヤリ取リデ為人(ヒトトナリ)ハ理解シタツモリダ。ソシテ、死神ノ”力”ヲアル程度ハ計測出来テイル。ダカラコソ、今カラ話ス作戦ハ僕ラノ目的ダケデナク、貴様ニモ利ガアル話ダヨ」

「その目的とは?」

 

 

那由他様ヲ救ウ」

 

 

 私はその言葉に驚き言葉が出なかった。

 

「那由他様ハ”僕ラ”ノヨウナ者ニモ、分ケ隔テネク”人”ヲ説イテクレタ」

 

 那由他殿は、心を持たぬ虚すらも抱き上げたというのか……。

 

「ソシテ、一部ノ者ニノミ伝エラレタンダ。那由他様ガ『黒崎一護を助けろ』ト仰ッタ、ト」

「そ、それはつまり!」

 

 ここが宮の中であり藍染の監視下から離れているとは言え、あまり大声で叫ぶわけにもいかない。そんな理性がギリギリで働き、私はなんとか途中で口を噤む事が出来た。

 しかし、それが本当なら那由他殿はまだ虚になってはおらず、自らの意思で行動出来ている事を意味する。

 

「コノ(メイ)ハ本当ニゴク一部シカ知ラナイ。ソレコソ、側近ノハリベルや僕ラミタイナ那由他様側ニ付クト確信出来ル”()()”ダケダ」

 

「僕ラハ今カラ君ヲ先ヘト誘導スル。ソコニハ君ラノ仲間ノ女ガ居ルハズダ」

「井上か! しかし……」

「何ダイ?」

「貴様はどうなる? 藍染に逆らったら……」

 

「僕ラハ、既ニ那由他様ニ救ワレテイル」

 

 そう、ハッキリと言い切った。

 

「”心”ヲ持タナイ僕ラニ、欲スル僕ラに、那由他様ハ教エテクレタンダ」

 

 その想いは、とても純粋で素直で、私の中で虚という存在の定義を揺るがしかねない。

 

「自分デハナク誰カノ為に動ケタラ、ソレハ”心”が有ルカラダ、ッテ。ダカラ、僕ラガ那由他様ノ為ニ動ク時、ソコニハ”心”ガ有ルハズナンダ」

 

「……ああ。アーロニーロ殿()、改めてよろしく頼む」

 

 そう言うと、表情はよく分からないが、アーロニーロは無邪気に笑ったような気がした。

 

 

 

 

 そして、壁を突き破り飛来した大鎌によって、アーロニーロの頭部に設置してあったフラスコのようなカプセルは、粉々に粉砕された。

 

 

 

 

「──……は?」

 

 

 

「ヒャッハハハハ! 那由他様、那由他様って連呼してウザったかったんだよなぁ、アーロニーロ(テメエ)はよぉ!!」

 

 握手しようとして、差し伸ばした私の手の先には誰もおらず、巻き上げられた砂塵によって視界が陰る。

 それでも、先程の攻撃によって頭部のカプセルは砕け散り、中に収まっていた二人が投げ出されたように床へと打ち付けられている姿だけは、視界の端に映って見えた。

 

「ノイ、トラ……!?」

「ナ、ナユ、タ……様……」

「僕ラハ、アラユル苦痛カラ解放サレタンダ……!」

「那由他様ニヨッテ、心ノ在リ方ヲ……!」

「オシ、エ。ラレ、テ」

「スク、ワ……レ……」

 

 

『アリガトウ……ナユタ、サマ……ゴメンネ……バイバイ』

 

 

「あ──ん? マジで今の一撃で終わったのかよ? ケッ、つまんねえ雑魚だったか。所詮は元下級大虚(ギリアン)か。那由他の力で中級大虚(アジューカス)にまで上げてもらったらしいが、まあクソザコには変わりなかったなぁ!」

 

 

 馬鹿笑いを上げ、アーロニーロを嘲笑する男。

 

 私は怒りのあまり声すら上げられず、硬直した顔のままに乱入者を見据えた。

 

「貴様、名は……?」

 

「ああん? 誰だテメエ?」

「名乗れと言っている」

 

 激情に支配されそうな心をなんとか保たせる。

 

「アーロニーロをぶっ殺せて、俺は気分が良い。見逃してやってもいいぜ?」

 

 

 

「名乗れと言っている!!!!」

 

 

 

「……んだ、テメエ」

 

 

「十三番隊所属、朽木ルキア。貴様を殺す者の名だ、死んでも覚えておけ……!!」

 

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