ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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今話、ちょっち長いです。

1万文字程度あるのでご注意下さい。


圧倒…だと…!?

 

【悲報】俺氏、ようやく重い腰を上げる

 

 

 ……今更になって腰あげるとか山爺かな? 煽ってないよ、ほんとだよ。

 

 今、俺は(何故か)付いてきたハリベルと一緒に俺の部屋でカメラ越しに皆の戦いを眺めている。

 

 ネリエルとか織姫ちゃんとかの件に関してはもういいやって感じでスルーした。だってどうしたら良いか分かんなかったし。

 そもそも、もう過ぎたことは気にしないワカチコの精神で達観していたからいいんだ。

 

 いいんだったらいいんだ。

 

 

 でも、コレはちょっとねぇ……。

 

 流石に原作ブレイクすぎない?

 

 

 皆の戦いが原作と違いすぎて混乱中なのだわ。表情が微動だにしないのは仕様だが、体が硬直しているのはガチ。これがガバの末路か。

 もう贅沢は言わないので、せめて苺とGJJJ(グリムジョー)の戦闘からウルキオラのクソデカ「心か」までの流れはなんとしても見たい。

 

 ただまあ、たつきちゃんとルピくんが戦い始めたあたりで「アレ?」とは思っていた。

 破面編は好きなシーンが多く、別に俺がどうこうする必要はないと思って基本受け身の姿勢で待機していたのだ。

 

 そしたらこれだよ。

 どうしてくれるんですかねぇ。

 

『全部が自業自得だろ』

 

 ──オレくんに意見は聞いてませーん。

 

『いい加減に諦めてオレらも動こうぜ? 最近ほんとに表に出て無くてミステリアスなお姉さんというよりも存在感が無くなってきてんだから。見たいシーンが中々来なくてジャンプ読者も飽きちゃうよ?』

 

 ──え、何そのメタ視点……。ジャンプ読者って俺らの更に上の視点じゃん、やだ怖い。

 

 

 でもまあ確かに、オレが言う通りそろそろ動かないとマズイ気がする。

 

 ネリエルがネルにいつの間にかなってたっぽいから、「やっぱ世界の修正力パネェっす!」とか感動していた純粋な気持ちを返して欲しい。師匠、どういう事っすか!? 

 一護が虚圏に突撃した時点で彼の肩にしがみついていたネルを見つけた時はおったまげたモンだ。(遠い目

 それにルピくん普通に生き返ってるし。

 一護とドルドーニは何故か協力してるし! 

 

 

 何より俺が心待ちにしていたルキアの名台詞、

「海燕殿の心は、私が預けて戴いた……!」(中央

 が生まれるはずだったアーロニーロ戦がスキップされた件について。

 

 

 ──うぅ……酷え、これが、これが人間のする事かよ……! 

 

『まあ、ヤったの人間じゃなくて死神と虚だけどな。更に言うなら元凶は俺だしな』

 

 ──俺は俺の好きなシーンを見たかっただけなのに……! 

 

『清々しいほどのエゴで草』

 

 ──だぁぁ、一々うるせえな!? 

 

『ツッコミどころ満載な俺が悪い』

 

 ちっ、オレと遊んでる場合じゃねえ! 

 なんか知らんがアーロニーロはノイトラに粛清されちゃったし、その流れで今はノイトラが完全に無双状態となっている。

 チャド、ガンテンバインに続き今はルキアと戦っているようだが、ぶっちゃけルキア一人だとノイトラの相手は流石にキツイだろう。

 ノイトラ(あの子)って結構硬いから生半可な攻撃じゃダメージ入んないしな。

 

 一番マトモに原作っぽく進行しているのがザエルアポロと戦い始めた恋次だが……。

 これまた途中から雨竜だけでなく、十刃落ち(プリバロンズ)のチルッチまで一緒に加勢していた。

 

 どゆこと? 何で虚が死神とかと一緒に虚と戦ってんの? 

 マジで経緯が分からん。まだ千年血戦編じゃないお? 

 

 つか、このままだと一護vsGJJJやその後のウルキオラにノイトラとかの横槍が入りかねない。

 それだけは許容せんぞ、俺は! 

 

 

 ──という訳で冒頭の決意へと戻る訳だ。(メタい

 

 

 

 しかし、動くと決めたは良いものの、目下最大の障害が俺のすぐ後ろに仁王像が如く屹立している。

 気配だけで周囲を威圧するような存在感を持つ女傑。

 そう、(推定)俺大好きっ娘、ハリベルちゃん(XX才)である。……女性の年齢を探るなんて失礼な真似をしてはいけない。いいね? 

 

 さて。

 巫山戯たくなるほどどうすれば良いか分かんない現状、側にいるハリベルをどうするべきかですら悩む。日本語ってややこしいね、言ってて何を言いたいのか分かんなくなるわ。違う、こんな風に思考があっちゃこっちゃ行くから俺はアホなんだ。悲しいなぁ……。

 まーじでどうでも良い事で時間を潰すのが俺の特技だと思う、真剣に。

 

 で、ハリベルは俺に付いていく気満々、っぽい。

 つまりは俺の指示待ちという訳だ。

 

 じゃあ、そこまで変な行動を取らなけりゃ大丈夫やろ、多分。適当にヨン様の様子でも見てきてもらおう。

 原作だとハリベルはスタークやバラガン爺たちと一緒に現世へ行って死神たちとチャンバラするんだから、そこまで変な指示でもなかろうて。

 その間に俺は一番原作が崩れてそうなところ行くかー。

 

 そういえば、織姫ちゃんは今なにしとんじゃろ? 

 

 もう考えるのも面倒になってきた俺はふと思い出した織姫ちゃんの様子を見てみることにする。手元をちょちょいと操作しモニターに映る画像を織姫ちゃんが監禁されている塔へと移した。

 プライバシーもへったくれもないが、まあ捕虜みたいなもんだから仕方ないヨネ! 

 

 そして呑気に盗撮画面を覗いたら、なんとGJJJが織姫ちゃんの部屋へと殴り込みをかけている所だった。

 

 えっ!? 

 

 ……あ、そういえばGJJJが苺との再戦のために織姫ちゃんの回復を利用するんだったっけか。

 

 目に飛び込んできた内容に一瞬驚くが、そういえばと芋づる式に原作の記憶が蘇ってくる。何気に優秀よね、この体。幾度となく助けられてるわ。主に無表情先生とかに。

 

 グリムジョーは一護を極上の獲物として定めていたため、同じ条件下で打ち倒すことに拘っていたはずだ。

 自分はコイツより文句無しに(つえ)ぇ! って自慢したいのだろう。

 可愛いかよ。可愛いよね、GJJJ。そんなガキっぽい所が愛しいと思う所存。

 

 しかし、なんかロリとメノリが必死に織姫をGJJJから守ろうとしている。

 ロリってば原作だと織姫をイジメて鬱憤を晴らしてたメスガキッズだったのに、立派になって……。お母さん嬉しい。

 

 でもなんで? 俺が織姫のお世話を直接頼んだから、とか? 

 んー、そこまで必死になる理由はよう分からんが、まあ特に不都合がある訳でもないのでスルーしておく。

 だってあの二人じゃどうあがいたってグリムジョー止めらんないでしょ。残当。

 

 ってことはそろそろ苺はウルキオラにぶっ殺されるのかぁ。

 うーん。ここは原作通りに進んでるし、苺たちには下手に手を出さない方が良いかなぁ。

 それよりかはノイトラ止めた方が……多分良いと思う。自信無いけど。なんだ、いつもの事じゃん。……最近、自虐に磨きがかかってきたな。

 

 でもノイトラと剣八の対戦も見たいしなぁ、俺がここでノイトラ止めた後どうすんじゃいって話ですわ。

 これは悩ましい問題ですな。

 

 そんな感じで、俺がウンウンと声に出さずに無表情で考え事をしていると、後ろに控えていたハリベルが唐突に声をかけてきた。

 

「……申し訳ありません。もしや行動を起こすのが早かったでしょうか?」

 

 なんてこった、ハリベルが眉間に深いシワを刻みながら話す内容を理解できていないZE★。

 

「黒崎一護に最初に接するのが十刃落ち(プリバロンズ)という指示でしたので、行動を起こすのはこの段階かと愚考しておりました……。あまり口に出しては()()に露見する危険性も高まりますので、私独断での指示です。他の者に責はございません。この失態は必ずや私自らの手で雪いでみせると、この場にて誓わせて頂きます」

 

 こんなに饒舌なハリベル初めて見た。(小並感

 

 そして一欠片も言ってる意味が分からない。情報量増えてるはずなのに、おかしいな。

 頭が真っ白なまま、とりあえず画面を愚直に見続ける。それ以外に何をすれば良いか本気で思いつかなかった。

 俺はアホ、ハッキリ分かんだね。

 

 

 じゃあ、とりあえず一番原作から離れているであろうルキアでも助けに行くか。(白目

 

 あ、ハリベルは適当にヨン様のところにでも行ってきて、どうぞ。

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 私──朽木ルキアは十刃の一人、ノイトラ・ジルガと名乗った男と刃を交えていた。

 

 それは(ひとえ)に、那由他殿、ひいてはアーロニーロ殿()の想いを受け取ったからだ。

 

 確かに、此奴は強い。

 私などでは本来太刀打ち出来ないのではないか。そんな考えが浮かぶほどに。

 

 しかし! 

 

「貴様は言ったな、アーロニーロ殿を”つまらない雑魚”だと!」

 

 海燕殿の事件を想い返す。

 私が大した力を持たず、周囲の善意によって自己を肯定していた時。誰が言葉を預けてくれたのか。誰が意思を預けてくれたのか。

 

 那由他()()が尸魂界を追われた時。

 私が悲嘆に暮れ、無力を嘆いた時。誰が叱咤してくれたのか。誰が責務を問い詰めたのか。

 

「貴様の言葉には”信念”がない! だからこそ他者を蹴落とせる。だからこそ、他者の痛みを、(いた)みを理解しようとしない!」

 

 ノイトラは忌々しげに口元を歪め、されど愉悦を滲ませた。

 

「だったらどうしたよ、えぇ!?」

 

 振るわれた鎌が如き、異形の刀を受け止める。

 流したかったが受け止めざるを得なかった。それだけ速く、そして重い一撃に思わず(うめ)き声が漏れる。

 

「俺の何を知っている? 俺の何を理解した? 俺が為すことに文句がありゃぁ、その手でねじ伏せてみろや!」

 

 その細腕からは信じられない剛力でもって吹き飛ばされ、カハッと口から血の飛沫が舞う。

 

「テメエは弱ぇ、それ以上でも以下でもねえ。……これ以上に必要な事があるかよ?」

「ある!」

「……気に食わねえ。その顔が、その意思が、その”心”が! 俺にとって何もかも!」

 

 もはや癇癪と表現しても良いだろう。

 しかし、伴う力が彼我の差が、私にとっては絶望的とも言える壁となって押し寄せてきていた。

 

 だからなんだ。

 

「貴様は那由他殿を知っているのだろう」

「あん?」

「私とは違った一面を、貴様は知っているのだろう」

「……だから何だ?」

「私は教えを抱いている」

 

 威勢良く啖呵を切るまでは良かったが、その実、相手との戦力差は圧倒的で、もはや戦闘ではなく蹂躙に近かった。

 ノイトラは卑怯だろうと勝てば良しという考えなのだろう。だからこそ、アーロニーロ殿は奴の凶刃に倒れた。そして、私の霊圧から読み取った実力から、奴は相手にならないと踏んでいる。

 

 であれば、存外に粘る私に段々とイライラとしているはずだ。

 

 やられそうでも意地で立ち向かう。

 どうしてそこまでして戦えるのか疑問に思う。

 それが此奴にとって、きっと不愉快なものになるだろう。

 なら簡単な事だ、私にとっては。

 

 ここで立ち続ければ、いずれ勝機は訪れる……! 

 

 仲間である井上のため、そして何よりも自身の在り方を誇れるように。

 那由他殿と約束したのだ。決して自分に恥じるような事はしないと、自らを誇れるようになると。

 

 強くなると。

 

 そう、亡き海燕殿にも誓ったのだ! 

 

 それに、私以外にも私の仲間が戦っている。

 同じ志を持った、頼もしき同胞が! 

 

「浅黒い男なら俺が殺したぜ?」

 

 私の心を読んだかのようにニヤアと厭らしい笑みを浮かべながらノイトラが一言呟いた。

 思わず肩がピクリと上下に動いてしまう。

 

「死んでなどいない! 私はそう信じている!」

 

 だからこそ、私はこんなところで諦めるわけにはいかないのだ。

 

「とんだ楽観視だな。……もういい加減飽きたわ、死ねよ」

 

 途端、奴の霊圧が桁違いの怖気を伴い膨れ上がった。

 

 

「”祈れ”──聖哭螳蜋(サンタテレサ)

 

 

 私の体は重力を何倍にもしたように動けなくなり、汗が溢れるように零れ落ちる。

 

 二本の腕は四本に増え、甲殻類のように鈍色に光る様は人がイメージする”死神”に近いのではないだろうか。

 片目を眼帯によって隠している姿は十一番隊の更木隊長を思い起こさせ、錯覚とは理解しながらも私よりも強いと思わせる風格を幻視する。

 

 察するに余りある。

 単純な力比べでは、私は此奴には勝てないだろう、と。

 

 私はここから先に進めないかもしれません。

 しかし……相打ちしてでも、ここで一人は止めてみせます……! 

 

 目をつぶり最期を覚悟するなんて事はしない。

 せめて最期の一時までは、この目にて奴の姿を刻みつける。

 私の心は折れていないと、此奴の心底に刻みつけてみせよう。

 そのための刃を離すこともなく、私は毅然と向かい合わせの姿勢を崩さない。

 

「俺のこの姿を見ても変わらねえか。ケッ……とんだイカレ野郎だぜ」

「……私は女だから”やろう”ではないぞ?」

「そんだけ言えれば大したもんだ」

 

 なんだ? 

 先程までの荒々しさが随分と鳴りを潜めている。

 

 油断せず相手との間合いを測りながらも隙を伺う。

 一見して構えもしていない姿はどこにでも打ち込めそうな程に無防備だ。

 しかし、感覚的に理解した。

 

 ──どこに斬り掛かっても返される。

 

 暴力の権化とばかりに縦横無尽に力を振るうかと思いきや、存外に”武”というものを心得ているらしい。

 此奴のような性格の者が武道を修めているとは予想外だったが、私にとっては手痛い状況だ。

 

「なんだ? こねえのか?」

「……貴様こそ」

「そうか、なら

 

──直ぐに死んでもいいんだな?

 

 

 それは直感だった。

 

 

「っ! ”次の舞”――『白蓮』!」

 

 私の斬魄刀『袖白雪』は氷雪系に属する。

 日番谷隊長の『氷輪丸』こそ有名だが、天候すら操る氷輪丸に対し袖白雪は局所的な瞬間氷結を得意としていた。

 それは例えば相手を凍結させたり、攻撃を防ぐための氷の盾を一瞬で作り出すなどだ。

 

 本来ならば波濤となって相手へ押し寄せる氷河は、ただ身を守るための殻として私の周囲へと瞬時に展開される。

 

「ぐっ……!?」

 

 瞬間、敵の攻撃を受け眼前で氷が砕け散り、舞い散る氷片で視界が塞がれてしまう。

 マズイと理解は出来るが、体の反応は意識を凌駕することが出来なかった。

 

 

「下らねえ」

 

 

 耳元で聞こえた声を認識した瞬間に、私の胸元が縦に割れた。

 

「え」

 

 

「言ったろ、雑魚に用はねぇんだ」

 

 視界がブレ、体の力が抜けていく。

 

 何が、おこ、った……? 

 

「他の侵入者は……強ぇ奴はどこだ」

 

 構えていた斬魄刀諸共に体を真一文字に叩き切られた。

 それを何とか認識した途端、折れた斬魄刀の欠片と共に私は無様に地へと投げ出された。

 

 斬られたのか……? 

 動き出しすら見えず分からなかった。

 そこまでの隔絶した実力差だったのか? 

 それすら理解出来ていなかった。

 

 もはや私に対して意識すら抱いていないノイトラを視界の端に捉える。

 

 ……負けたのか、私は。

 

「チクショウ、那由他の奴をぶっ壊すには、あの高みから引きずり下ろすには、どうすりゃ、誰を殺せばいい……!?」

 

 ノイトラが何かを言っている。

 しかし、言っている内容を理解出来ない。

 

 辛うじて見える相手の足元へ顔を向けようとするが、それすら億劫になるほどの虚脱感を体が襲う。

 

 すまない、一護、井上、恋次、たつき、茶渡、石田。

 

 申し訳ありません、那由他殿……! 

 

 

 

 

 

 ──元々私は、剣の才には乏しかった。

 

 鬼道は霊術院の頃の成績は良かったが護廷の中では並。

 私は本当に護廷十三隊(ここ)に居て良いのだろうか。

 私の心は何処にある? 

 

 私は、何のために十三隊(ここ)にいる……。

 

 海燕殿の事件を想い返す。

 

『戦いにはニ種類ある──”命”を守るための戦いと、”誇り”を護るための戦いだ』

 

 海燕殿の言葉を思い出す。

 

『それはな、結局同じモンを守れって意味だと俺は思うんだ。それが”心”ってやつだ』

 

 那由他殿の言葉を思い出す。

 

『”心”は体の中にはなく、何かを考える時、誰かを想う時、そこに”心”は生まれるのです』

 

 海燕殿の残したモノを思い出す。

 

『お前がこの先戦う時、絶対にしちゃいけねえ事が一つある──それは、一人で死ぬことだ』

 

 那由他殿の残したモノを思い出す。

 

『”心”は仲間に預けて行くのです』

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァッ……ハァッ……!」

 

 

「……へえ、まだ動けんのか」

 

 

 気が付いたら、私は二本の足で立っていた。

 

 もう動けない。手足の感覚も痺れたように判然とせず、今は立っているのかどうかも自信がないほどに意識が朦朧とし始めている。

 

 このような状態で戦えるとは思えない。

 

 しかし、ここでただ地面に転がっている訳にもいかない。

 

 既に彼我の戦力差は嫌と言うほどに理解した。

 奴の一撃を回避するどころか受け止めることすら出来なかったのだ。

 

 無意味かもしれない。

 無駄かもしれない。

 徒労かもしれない。

 滑稽かもしれない。

 無様かもしれない。

 

 それでも。

 足掻き苦しみ、醜くとも。

 

 私は海燕殿の”心”を預けて戴いたのだ。

 

 

 ならばこんなところで、一人では死ねぬ!

 

 

「だったら殺してやるよ。テメエの弱さを恨みながら死に晒せやァ!」

 

 狂気を迸らせこの状況を愉しんでいるノイトラに、私は迷わず一歩を踏み込む。

 

 

「”三の舞”──白刀(しらふね)……!」

 

 

 思い出したのだ。心の在り方を。

 たとえどれだけの強さを相手が持っていようと、そこに”心”が無ければ、恐れるものなど何も無い……! 

 

 私たちは、那由他殿の”愛”も、預けて戴いたのだ! 

 

 

 私の”心”が此処に在るなら、それが私が”此処”に居るべき理由だ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしてその凶刃は、誰かによって防がれた。

 

 

「て、テメエは!?」

 

 

 それは、まるで海燕殿の事件の時にみた光景。

 

 

 たなびく美しい茶の髪を携え、華奢な手足とは裏腹に大きく偉大な背を我らに示してくれた。

 

 

 

 

 

「よく、頑張りましたね」

 

 

 

 

 

「那由他、殿……?」

 

 

 未だ状況を上手く飲み込めない。

 

「どうしてテメエが……こんなところまで出張ってくんだ、那由他ァァア!?」

 

「話は後で。まずはこの場を切り抜けます」

「は、い……!」

 

 細かい事情は分からない。

 目の前の那由他殿が本物かどうかも分からないし、どうしてこのタイミングで此処に来れたのかも分からない。

 

 しかし、私の知っている那由他殿が共に斬魄刀を持っている事実に、否が応でも心は弾み高揚する。

 

 霊圧から感じる、気が付いたら陽だまりに手を置いていたような暖かさは……。

 ああ、やはり那由他殿だ! 

 変わってなどいなかった! 

 

 敵の目の前であるにも関わらず安堵してしまい、ただでさえ上手く動かぬ体から完全に力が抜けてしまう。

 心を奮い立たせて挑んでいたのだから、これは再び立ち上がるにもしばらくの時間が必要そうだ。

 

 私は、この時点で既に”()()()”の事を考えていた。

 

 普通ならば叱咤されて然るべき愚かな思考であるが、この時ばかりはどうしても己を律する気にもなれなかったのだ。

 それだけ、私の中で那由他殿の存在は大きく、そしてその実力も圧倒的だった。

 

「認めねえ、俺は認めねえぞ、那由他ァ!!」

 

 ノイトラは先程までの余裕や嘲笑をかなぐり捨て、まるで追い詰められた動物のように牙をむき出し吠えた。

 

 

 

―― 刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(セグンダ・エターパ) ――

 

 

 

 ただでさえ強い虚の霊圧が、今までとは全く異質なモノへと変化していく。

 

 これまでは上から押しつぶす物理的な圧力が私たちを襲っていたが、それに加えまるで空間を真っ黒に上塗りするように霊圧がその場を支配していった。

 

 那由他殿の後ろに庇われるようへたり込んでいたからか、その影響は直接私へと干渉はしてこなかったが、見ているだけで気分が悪くなるほどの重圧を与えてくる。

 ノイトラは私に対して力の一欠片すら見せていなかったのだ。

 

 逆を言えば、那由他殿を相手取るためには、これだけ本気にならなければ()()()()()()のだろう。

 

 那由他殿は泰然自若とした姿を崩さず、ノイトラへと向かい合ったままだ。

 山を思わせる不動の様子に頼もしさが募る。

 

 しかし、未だ構えすらせず固まったまま動かないのは何故なのか……。

 

 那由他殿の一挙一動すら見逃さないと、ノイトラも隙を伺いながら迂闊に動けないようである。

 いや、戦況が硬直しているように見えてきっと水面下で激しい攻防の読み合いが成されているのだろう。ノイトラの実力はやはり相当高いと見られる。

 

 私一人では無謀だとは分かっていたものの、ここに那由他殿が訪れなかった場合を考えると臍を噛んでしまう。

 まだまだ私も力が不足している……。

 

「……来ねぇならこっちから行くぜ?」

「どうしても、やるのですか」

「あぁ?」

「貴方は戦いの中で死にたいのでしょう」

「……だから何だ」

「私に貴方は殺せません」

 

 ノイトラの愕然とした顔が、那由他殿の背中越しに見えた。

 私もどういう事なのか理解できず、思わず彼女の後ろ姿を見上げてしまう。

 

 

「勝負にすら……殺す価値すらねぇって言うのか、てめえは……!?」

 

「その役目は、私ではないはずです」

 

 

「巫山戯んじゃねえ!!!」

 

 

 ノイトラが激昂し、那由他殿を殺そうと霊圧を更に爆発させる。

 

 瞬間、那由他殿の姿がブレ、

 

 

 

「……なん、……だとッ……!?」

 

 

 

 ノイトラが地に伏した。

 

 

 それは正しく瞬殺されたと表現する他ない、圧倒的な力の差だった。

 

 

 始解をしたのだろう。

 見ればいつの間にか那由他殿の斬魄刀の刀身が無くなっている。

 

 確かに卍解を会得したものは無言で始解を行使する事が出来るが、ここまでの早業などどれだけの極地へと到達すれば可能なのか見当もつかなかった。

 

 しかも相手は帰刃の更に上の階層へと解放したように思われる。

 現世でも見た破面たちの刀剣解放より凄まじい、未だ嘗てない霊圧を感じた。

 

 それも始解で、たったの一太刀で斬り伏せてみせたのだ。

 

 

 もはや尋常ならざる領域である。

 

 

 けれども、ここで那由他殿と出会えたのは僥倖というより他にない。

 井上の状況も那由他殿なら把握しているであろうし、何より那由他殿がこちらに付いてくれるというのならば百人力、いや、千人力といっても過小だ。

 

「なゆ、た……殿」

「今、治療します」

 

 本来ならば今直ぐに駆け寄り抱きつきたい。

 私の夢ではないと、その身に触れて確かめたい。

 

 しかし、私の体は意思に反してピクリとしか動かず声も微かに漏れる程度の音量。先ほどノイトラに負わされた傷がこうも体を地面へと縫い付けている。

 

 

「アーロニーロ……。第一期”(エスパーダ)”の生き残りであり我が同志よ。最期はさぞ無念であっただろう……」

 

 

 突如聞こえた声にビクリと肩が震える。

 この気配は……破面……!? 

 

 直前まで感じなかったのが嘘のように膨大な霊圧を持つ破面が、私の背後にてアーロニーロ殿に声を掛けていた。

 この強さは、恐らく十刃だ。

 那由他殿がいるここにわざわざ現れたのだから考えなし、という事もないだろう。

 

 新たな敵の出現に際し、私はなけなしの気力を振り絞り再び大地へ足をつけ立ち上がろうと試みる。

 

 ここで倒れているなど、私の矜持が許しはしない! 

 

「死神の少女よ。その怪我で無理をするな。そもそも、私は敵ではない」

「……なに?」

 

「私は那由他様より”愛”を賜りし十刃。破面・No.7(セプティマ・エスパーダ)──『ゾマリ・ルルー』

 

 私の側へと歩み寄ってきた破面の男は慇懃とも言える所作で一礼だけした。

 

 引き締まった肉体に浅黒い肌はどこか茶渡を思い起こさせる。

 ただ、その頭部は見事なまでにスキンヘッドだった。

 

「貴殿と同じ、那由他様を信奉し、その威光を広める”愛”の伝道師である……!」

 

 そして、何を言っているかもよく分からなかった。

 

 恍惚の表情で天を仰ぐように両腕を広げている。

 バッと思い切りよく急に広げられたものだから、ピクリとも動かなかった体がビクリと跳ねた。なんか釈然としないのだが。

 

「……ゾマリさん」

「はっ!」

「……ハリベルのところへ」

「御心のままに、我が神よ」

 

 それだけ言うと、彼は来た時と同じように突然その姿を消した。

 まるで嵐、と言うには静か過ぎたが、なんとも表現し辛い御仁であった……。

 

 ま、まあ、敵でないなら良いか……。那由他殿も何も仰っていない事だし。

 

 

「止めを刺せよ……」

 

 律儀に待っていた、という訳でもないだろう。

 ゾマリと名乗った十刃のインパクトに若干負けているノイトラがポツリと零した言葉には、妙に哀愁が漂っていた。気がする。

 

「ルキア、移動しますよ」

「は、はい! え? あ、はい。え?」

 

 これまたいつの間にか回道にて傷を癒やされていた事に気がつく。

 それにノイトラを置いていって良いのだろうか……。

 

「……後悔すんぞ」

 

 チラリと視線だけをノイトラへ向けると、那由他殿にしては珍しく何も声をかけずに、なんと回道をノイトラへ掛けその場を後にする。

 

 私は頭が混乱したまま、その後姿を追いかける事しか出来なかった。

 

 

 

 

「俺は……戦士ですら、ねえのかよ……!!」

 

 

 去り際にノイトラが発したその嘆きにも似た独白は、嫌に私の耳に残った。

 

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