ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

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まーた長くなっちゃいました。

1万文字弱です、ご注意を。


宣戦…だと…!?

 

 ノイトラが第二階層を使ったとこで頭が真っ白になった。

 

 普通にボコしちゃったよ……。

 

 ルキアの前に出たのが正解かも分かんないし。

 

 でも、ノイトラには苺のとこ行って剣八とも戦って欲しいから回復だけはしとこ、みたいなノリで場を離れてしまった。

 

 

 今はルキアと共に走りながら言い訳みたいな現状報告をしている。

 

 

 そして、ハリベルにはヨン様の元へと向かってもらい動向の確認をしてもらっていた。

 

 どうせ現世へと侵攻するまではハリベルの出番もないはずだし、俺の側近として認識されているハリベルがヨン様に従っている様をアピール出来れば大丈夫やろ、多分。(いつもの

 

 だって、原作だと一護たちのピンチに護廷の隊長さんが何人か助けに来てたし。

 そんな助っ人含めて一護たちを虚圏に幽閉するのが作戦の一部だったはずだ。

 もしそれが隊長さんたちが来る前に「現世行ってくるわ」とかヨン様にされたら本来の世界線と違いすぎて俺じゃどう対処して良いか分からんもん。

 

 と思ってハリベル、ついでに何故かやってきたゾマリにもお願いしたのだが……。

 

 

 これ、結構な采配ミスなのでは? 

 

 もしかして現世ではなく虚圏で()()()()のでは? 

 

 

 というのも、俺がノイトラから逃げ出し暫く経った後に直接頭の中に響いた声が原因だ。

 

 要っちの縛道の七十七『天挺空羅』により知った衝撃の真事実(笑)! 

 

 

 ──俺がいつの間にか裏切り者になっていた件について。

 

 

 しかも、もう現世行ってくるってさ。

 

 なんで(ファミチキください……)じゃねえんだよ! 

 どういう事!? はやない!? 

 

 そして、そんな認識のヨン様の元へ送り出したハリベルはどうなるでしょうか? 

 

 1+1より簡単だよ。ハリベルよ。「用済みだ」って言われて切り捨てられるよ。

 

 いや、アレって確か背後からザシューッ! っていう不意打ちだったから……少しは保つか? 

 

 市丸くんに要っちもいるから無理ですね。

 この際、市丸くんもこっちに寝返らない? 一緒にヨン様倒そうぜ? 

 って、そもそも俺的にはヨン様を倒す気なんて全然無かったんじゃが……。

 

 どうしてこうなった? 

 

 現状に対する理解が追いつかないまま、とりあえずノイトラを剣八の方にシッシッてした後。

 

 苺がウルキオラと再戦するってのは覚えてるんだけど……。場所はどこだっけ? 

 そんなあやふや知識の下、苺と織姫ちゃんが居る場所にはそのうち現れるだろうからと、とりあえず二人の霊圧を頼りに走っている。

 

 この後ってどういう展開だったっけ。マジで細かいとこなんて覚えてねえよ……。

 

 

「那由他殿、今のは……!?」

 

 天挺空羅によって伝えられた内容に驚愕の表情でもってこちらへと視線を向けるルキアに向ける顔など俺は持っていない。

 ごめんて、知らんかったんや。なんか俺が首謀者みたいだけど、本当に知らんかったんや……。

 

 俺が回道をかけたとはいえ、未だルキアの体は戦闘をするには心許ない。

 卯ノ花隊長に基礎的なことを直接指導してもらえただけで、流石に四番隊の本職の人には劣るはずだ。

 だから無用な戦いは避けようと、ちょっと遠回りをしてでも破面の子たちを避けたルートで苺たちの下へと向かっている。

 計算外だったのは、ルキアのスピードに合わせると案外時間が掛かりそうだった点。

 いや俺がアホなせいです。ルキアは悪くない! 

 

 そのため、俺等が離れた後にノイトラが苺のとこへと猫まっしぐらな勢いで直進しだしたのには驚いた。

 ウソ、俺らより早く着くやん……。

 

 そしていつもの如く「この後どうしようか」なんて思考を逸らしていたからいけなかったのだろう。

 

 天挺空羅によってヨン様が現世へ侵攻する事を宣言した時点で予想して然るべき。

 

 虚圏にいる敵対勢力を押し留める指揮官かつ戦力として最も考えなければいけない相手。

 

 

 

「那由他様、止めさせていただきます」

 

 

 

 苺の下へと向かっている途中にある塔から、突如ウルキオラが飛び出してきた。

 

 ポケ◯ンじゃねんだよ! 野生のウルキオラとか怖すぎんだろ! 

 

 しかしウルキオラはヨン様への忠誠を裏切らない感じね。助かる! 

 

 どこまで原作ブレイクしているか分からんから、地味に知ってる展開に安堵を覚えてしまった。

 ここからはアドリブもアドリブだ。

 そもそも原作すら準拠できていない俺なんだが、まあ今までノリとネームバリューで生きてきたからね、しょうがないね! 

 

 ただ、この場には俺の他にもルキアがいる。

 

 先程も考えたが彼女はノイトラとの戦闘で負った傷を癒やしきれていない。

 原作ではルキアがこの場には居なかったはずという懸念点の方が重要ではと感じている俺であるが、ここでウルキオラとバトるのはそういった意味でもちょっと危険な気がする。

 

 そもそも君の相手は苺と織姫ちゃんだって言ったダルォ! 

 

「貴方の相手は一護と織姫さんです」

 

 ウルキオラの眉がピクリと動く。

 表情はほぼ変わらない。俺と同じ無表情先生だ。同類とも言う。

 

 俺と同類とか嫌がるかな? スマンな。

 

「……貴方は私と同類ですね」

「いえ……。俺は、決して那由他様の同類とは成れません」

 

 思わず口から零れ出てしまった独り言に全力で拒絶を返されてしまった。

 

 いや自分でもスマンなって心の中では謝ったけどさ、それって言葉の綾ってやつでサ。

 

 え、普通に結構ショックなんじゃが……。

 

 ウルキオラって結構俺の事を信頼というか、懐いてくれていたと思っていたのに。

 あれも嘘だったって言うの? 

 

 酷い、俺の純情を弄んだのね!? 

 

 

 

 

 ──え? 

 

 なんてコントをやっている場合でも無くなった。

 無くなってしまった。

 

 

 まだ虚圏出てないよ? 

 

 ウルキオラもここにいるし、なんなら空座町でお兄様と護廷の人たちがまだ戦ってもいない。

 

 

 それなのに。

 

 

 バラガン爺にゾマリ──それとハリベルの霊圧が、消えた……だと……? 

 

 

 え、なんで? 

 

 

 あ、逆に新しい霊圧反応が。

 

 

 これって……護廷の隊長たち? 

 

 

 ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むー、なー……んか多くない? 

 

 

 ……マジデ? 

 

 

 なんか色々とおかしない? (今更

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 ボク──市丸ギンは東仙統括官と一緒にモニタールームにて黒崎一護たちを観察していた。

 

 旅禍の奴らが”3ケタの巣(トレス・シフラス)”に入るまでは良かった。

 しかし、どういう訳か破面たちが裏切りを始めたんのには驚いたもんや。

 

 藍染隊長が圧倒的な力と恐怖によって支配してはるにも関わらずに動くなんて、どう考えても那由他(あん人)がなにかしたとしか思えない。

 

 これは藍染隊長に確認しに行かなあかんやろなぁ。

 

 少し離れた場所にて立ってた東仙隊長も渋い顔をしてはる。

 そら”統括官”なんて肩書を持ってはるんやから、破面の叛逆なんてこん人にとってみれば頭の痛い問題やろ。

 

 

 ──せやけど、その程度で済む問題やとも思っとる。

 

 

 せやからここまで冷静で居られるし、渋い顔程度の反応で済みなはる。

 

「……行くぞ。市丸、ワンダーワイス」

 

 東仙統括官はボクと彼の傍らで体育座りをしていた破面『ワンダーワイス・マルジュラ』の名を呼び、くるりと踵を返して出口へと向かっていきはった。

 

「どこに行きはるんです?」

「決まっている。藍染様の下だ」

 

 分かりきったボクの質問に対しても律儀に答える様は、なんや相変わらずの堅物やなと思うけど、それはそれでいつも通りの様子に安心感を覚えた。

 ボクもボクで少し動揺してたんやなぁ。

 流石にこんな大胆な動きをするとは思ってへんかったから。しかもこのタイミングで。

 

 この那由他さんの動きに藍染隊長はどんな反応をするのか。

 

 それだけでもしっかりと確認しとかんと……。

 

 

 

 藍染隊長の下へと行ってみれば、そこには藍染隊長と向き合う十刃のトップ3がいはった。

 

 なんや、これから現世行くからて集合した……って訳でもあらへんよねぇ。

 

「どういうつもりかな?」

 

 相変わらず余裕の笑みで見下ろす藍染隊長は、分かりきっているであろう事をあえて問い質しとる。

 言葉にさせる事で精神的に追い詰めたいんかね。

 

「ふんっ! 儂はそもそも貴様に忠誠など誓っておらん」

「俺はほら、姐さんに救われてんでね。その恩返しとでも思ってもらえれば」

「……」

 

 あらら。

 ハリベルだけは無言で睨み返しとる。

 

 さすが那由他さんの”右腕”っちゅうとこかな? 

 もう片方の腕は既に無くなっとるみたいやけど。

 

 ……ザエルアポロに融通利かせたんがボクだって事もバレてはるんかな? 

 

 まあ、そないな事がバレてはっても、今更どうこう言われる事もないやろ。

 

 井上織姫を拐ってきた時の様子も見る限りじゃあ、何とも思っとらへん。

 相も変わらぬ兄妹っぷりやなぁ、この二人は。

 

 一体、何がその"目”には見えてはるんですかね。

 ボクには黒崎一護の"死”しか見えとらへんのに。

 

 

 ──乱菊の笑顔すら、今のボクじゃぁ見られへんゆうのに。

 

 

 まあ今はええわ。

 

 しかしこれ、ボクや東仙統括官が相手せなあかんのかな? 

 ややわぁ、ボクは藍染兄妹みたいに強ぉないんですけど。

 

「予想よりも動きが早かった……。那由他に一枚上手をいかれたかな」

 

 ただ、平然としとるこん人を見れば、まあ恐らくは愉しんではるんやろ。

 

 那由他さんがどう動くのか。どうしてこのタイミングだったのか。何を目的としているのか。

 

 藍染隊長には、ある程度の予測──ゆうてもほぼ確信やろなぁ──が立ってるみたいや。

 ボクにも教えてくれはりませんかね、ほんと。

 

 

 バラガンは再び虚圏を統べるため、スタークは孤独を癒やした恩義のため、ハリベルは那由他さんが望む世界のため。

 

 それぞれが抱く想いに違いこそあれ、皆が藍染隊長へと立ち向かう。

 

 どう足掻いても勝てないから従ってたっちゅうのに、難儀なもんやな。

 

 

「”朽ちろ”──髑髏大帝(アロガンテ)!!」

 

 

 破面の最高戦力を前にして、無視するに等しい藍染隊長の独り言は大帝(バラガン)の気に障ったらしい。

 

 そもそも藍染隊長を相手に様子見なんて愚の骨頂や。そら最初から全力やろな。

 それに巻き込まれるんは嫌なんやけど……。

 

 なんて思ってたらスッと手をかざしてボクらを止めはる。

 

 ああ、ご自分で処理するんやな。楽でええわ。

 

 

「『 (ア・モォ──ーゥルゥ) 』!!」

 

 

 へ? 

 

 突如、虚空から部屋全体へと響き渡るように声が響いた。

 

 ただ、こんな頓狂な事を言うんは一人しかおらへん。

 

 そやった。こいつも那由他さん側やったな。

 あまりにもあんまりな狂信者やから無意識の内に考えから除外しとったわ……。

 

 ボクを含めた東仙統括官、そして藍染隊長の四肢が不可視の拘束を受けた。

 

 

「我が神の”愛”を伝えんがため、貴殿らを”愛”の従僕と化す! 甘んじて我が”愛”を、そして神の”愛”を受け入れよ!!」

 

 

 また濃い奴が来おったなぁ……。ホンマにこいつの相手嫌やなんですけど。

 

 しかも厄介なんが響転(ソニード)の練度。

 

 那由他さんに褒められたんか知らんが、アホみたいにそればっか鍛えおって。

 今では十刃最速どころか藍染隊長に匹敵する速度にまで達しとる。

 

 ”最速の響転”を謳い、鏡花水月とは別の物理的なスピードで分身みたいなモンまで作り出すんはやりすぎやろ! 

 

 その攻撃を避けるんは可能やけど、本体を叩くのに面倒くさい事この上ない。

 なんせこっちの攻撃が中々当たらんのやから。

 

 更に鬱陶しいんが、ゾマリが補助に回ったときや。

 

 

「『 (ア・モォ──ーゥルゥ) 』!!」

 

 

 確かに藍染隊長ならゾマリの束縛なんて数秒も必要とせんで抜け出せる。せやけど、逆に言えばそれだけの時間は必要ってこと。

 

 そこに、

 

 

「”蹴散らせ”──群狼(ロス・ボロス)

 

「”討て”──皇鮫后(ディブロン)……!

 

 

 十刃のNo.1から3まで揃ってたら、そら話は違いますやろ。

 

 

「ふふっ……。那由他も随分と私に期待していると見える。これだけの壁を一斉に用意してくれるのだからね」

 

 

 ……まあ、藍染隊長が愉しんではるんやったらええか。

 

 ボクらは後ろで眺めてはるだけやし。東仙統括官なんて、この後の事の準備してはるで。呑気すぎやろ。

 

 藍染隊長たちは虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋を砕き屋外へ移動。

 この様子なら直ぐに黒崎一護たち旅禍にも伝わるやろなぁ。そもそも虚夜宮(ここ)、殺気石で出来とらんし。

 

 とは言え、藍染隊長が遅れを取るわけあらへん。

 割と直ぐ十刃側が不利になっとる。

 

 

 ……分かってたつもりではあったんやけど、あの面子でも正面からじゃ歯が立たへんのか。

 

 

 こら余計にボクが今、藍染隊長を後ろから襲うーなんてシナリオは却下やな。

 

 まだ那由他さんや破面、死神を利用させてもらいましょ。

 

 

 お? 

 

 なんや、スタークが戦線を離脱するんか。

 No.1が離れたら、そんなん直ぐに負けるんとちゃう? 

 

 ああ、どうせこれも那由他さんの指示やな。

 

 全く。兄妹揃って人を使うんがごっつ上手い事ですわ。

 

 

「那由他様ぁ!! 万歳、万歳、バンザァァァアアアイ!!」

 

 うわ、自爆特攻かいな……。

 

 どうせ藍染隊長なら無事やろうけど、服汚れんのは嫌やろなぁ。

 その不機嫌な霊圧は現世にでも当ててもろて下さないな。

 

 たく、ボクの計画が那由他さんや藍染隊長に上手くバレてへんといいんやけど。

 ここであんまり希望的な事は考えんでおこうか。

 

 

 護廷が現世で藍染隊長を討てるとは思っとらん。

 

 那由他さんが乱菊を救ってくれるとも思っとらん。

 

 

 だからこそのボクなんや。

 

 

 つまり、ボクに失敗は許されへん。

 

 絶対にボクが守ったる。

 

 乱菊を傷つけん世界を、ボクが守ってみせる。

 

 ああ、尸魂界を離れる時に乱菊に謝っといて良かったわ。

 

 多分、ボクはマシな死に方をせんと思うから。

 

 

 

 でも──()()だけは殺しとくから、堪忍な。

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 破面の裏切り。

 

 それは確実に藍染たちに衝撃を与えたはずだった。

 

 恐怖によって我々を完全に支配していると傲っていた奴にとって、この動きは予想外の動きであったはずだ。

 

 それなのに……! 

 

 

 私──ティア・ハリベルは既に満身創痍となっている部下である従属官(フラシオン)たちと肩で息をしながら、たった一人の男と向かい合っていた。

 

 私が那由他様の命を受け藍染の居る座へと着いた時。

 

 そこでは既にバラガンとスタークが奴と対峙しており、盟約は反故にされていなかったと一先ず安堵した。

 

 先手は取れていた。これは間違いない。

 

 後からこの場へと来た東仙と市丸が差こそあれど驚いていたのは気配で察している。

 藍染ならば腹心である彼ら二人にさえ全てを伝えることはないだろう。

 

 しかし、奴は神ではない事もまた事実。

 

 ならば、どこかに抜け穴があるはずだと今回の計画を入念に仕込んできた。

 

 中でもNo.1のスタークとNo.2のバラガンを仮初とは言え仲間に引き入れたのは大きい。

 

 現世へと侵攻する際に、藍染とて本命である王鍵創生にかかる露払いに手数は必要だろう。

 その手駒となるべき破面(我ら)が離反したのだ。影響は少なからずあるはず。

 

 そうであるべき、なのに……! 

 

 先ほどと同じように歯を食いしばり、眼前にて悠然と立つ力の権化を見つめる他になかった。

 

「この程度か……。那由他が用意したにしては他愛ないな。まだ他に仕込んでいると見るのが妥当か。……ふふっ、どこまで私を愉しませてくれるのか」

 

 既に我らの事など眼中に無いのか、霊圧で探ると奴の視線は遠く那由他様を見据えていた。

 

 

 させん! 那由他様の邪魔など、させてなるものか……!! 

 

 

 

──刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(セグンダ・エターパ)──

 

 

 私は力を解放させ真なる皇鮫后(ディブロン)の姿を現す。

 

 身に雷と見紛う黄金の霊圧を纏い、元の白より変色した黒い外装はより鋭利さを増しスピードに特化した物となった。

 

 

 ──那由他様に与えられた力によって、現十刃の多くは第二階層へと至った。

 

 

 当初はウルキオラしか扱いきれず実用的な能力ではなかったものの、今ではNo.6までの者が手足の如くその暴威を振るえるだろう。

 

 しかし、それすらも目の前の存在には無意味だった。

 

 第二階層を解放したにも関わらず、その圧倒的とも言える力の差を嫌でも感じ取り冷や汗が止まらない。

 

 現在ここに留まっているのは私とNo.2のバラガン、そしてその従属官たちだ。

 

 スタークには那由他様や黒崎一護にとって重要な人間──井上織姫の安全を確保するため離脱してもらった。

 

『……仲間が死んで減るのが嫌だから、俺はこっちについたんだが?』

 

 破面になる前なら馬鹿にしたであろう言葉も、今ならすんなりと受け入れる事ができる。

 そして、そんなスターク(こいつ)だからこそ、()()()()()事にかけては破面の中で最も適していた。

 

 勿論、ここでNo.1に抜けられるのは戦力的には取り返しのつかない穴となる。

 しかし、そもそもが勝つつもりなどない。

 

 那由他様からはただ一言、

 

『お兄様のところへ』

 

 そう下命されたのみだ。

 

 このタイミングで大敵である藍染の元へ向かう意味は、正直私には良く理解出来ていない。

 しかし那由他様が望むのであれば、私は喜んで死地へと赴く。

 

 何の躊躇いもなく、この身を捧げられる。

 

 

 司る我が”死”の形は──『犠牲』。

 

 

 犠牲なき世界など在りはしない。

 

 しかし、()()なき世界もまた在りはしない。

 

 必ず誰かが居る事で、世界は世界たり得るのだ。

 

 その誰かの為に犠牲が必要であるならば、我が『犠牲』は那由他様の為に──。

 

 

 

 

 

 

 

 

『何トナクダケドネ、ボクタチハキット、碌ナ死ニ方ヲシナイト思ウンダ』

 

 アーロニーロは言っていた。

 

『人間ノ頃ノ記憶ナンテ、全ク覚エテハイナイ。ダケド、コノ姿ヤ能力ヲ見テイタラ分カルサ』

 

 自分はきっと、”地獄”へ落ちる事になるだろう、と。

 

『ダケド、ソンナボクタチダケド……。那由他様ニ出会エタ』

 

 嬲り、犯し、殺し、盗み、踏みにじり、脅し、嵌めて、悦に入ろうと。

 

『他者ヲ、虚ヲ喰イ物ニシテキタ”(セイ)”ノ中デ唯一、他者ノ為ニ動ケタ時間ダッタ』

 

 教えてくれたから。

 

『コンナボクニモ、”心”ガアルト、信ジテ疑ッテスライナカッタ』

 

 ”愛”してくれたから。

 

『ソレダケデ、ボクタチハ救ワレテイル。──救ワレタンダ』

 

 

 

 

 

『アヨン! あー、あたしらの言葉にリアクションすることなんか見たことねえけど、こいつってなんか聞こえてるのか?』

 

 そうだった、破壊と殺戮しか振り撒かないコイツでさえも、何故か那由他様の言う事だけは聞いていたな……。

 

 確か、那由他様の「死覇破面(アランカル・パルカ)」に触発され真似て創ったという。

 

 

「ミラ・ローズ! スンスン!」

「おう!」

「ええ!」

 

 私の従属官である娘たち、『エミルー・アパッチ』、『フランチェスカ・ミラ・ローズ』、『シィアン・スンスン』の三人は左腕を千切り空中へ放る。

 

 

「「「混獣神(キメラ・パルカ)──『アヨン』!!!」」」

 

 

 渦を巻くように一つへと混ざり、そこには一体の巨大な合成獣(キメラ)が立っていた。

 

「アヨン、何としてでもあたしらが撤退するまでの時間を稼げ! 数秒で良い!!」

「ハリベル様! しっかり!!」

「あたしたちが何としても時間を稼ぎます! せめてハリベル様だけでも!!」

 

 一瞬、意識が飛んでいた。

 

 ぼうっと眼前の光景を眺めていた事に気が付き、ハッと周囲を確認しようとするが上手く体が動かない。

 

「私は、一体……?」

 

「藍染に背後からやられました! 傷は深いですが致命傷ではありません! ここは撤退するべきです!!」

「!? 那由他様に、任されたのだ……! ここで引く訳には……!」

「その傷では無理です!?」

 

 実際、ミラ・ローズに支えてもらわなければ立つことさえもままならない。

 自分の失態に奥歯が砕けそうな程強く力が籠もった。

 

「バラガン様も、撤退を……!」

 

 

「ほざけ!!!!」

 

 

 大帝の一喝に、彼へ撤退を促した従属官の一人が「ヒッ!?」と情けない声を上げ後ずさった。

 

「藍染は殺す。この儂の手で、必ずだ!!」

 

 第二階層を解放しているのは奴とて同じ。

 しかし、その髑髏の見た目を踏まえたとしても、なお全身がボロボロに見える。

 

「この儂に力を与えたことを後悔するがいい。儂は王、儂は神、永久に死なぬ、永劫貴様を狙い続けるのだ、藍染惣右介ぇ!!」

 

 しかし、奴は決して屈していなかった。

 

「グッ……! 私、も」

「貴様は邪魔だ、ハリベル」

「何っ!?」

「シャルロッテ!」

「は、ハッ! ここに!」

 

 唐突に自身の従属官の一人、『シャルロッテ・クールホーン』を呼ぶバラガン。

 

 奴が何をしたいのか分からず、邪魔だと言われた不服を込め、私は視線を逸らさない。

 

「ハリベルを手伝え」

「ハッ! ……は?」

「貴様、それは!?」

 

 この私に、貴様も逃げろと言うのか……! 

 

「勘違いするな!」

 

 けれども、続く言葉に私は何も言い返せなくなった。

 

 

 

「儂は那由他の味方ではない。藍染惣右介の敵だ」

 

 

 

 シャルロッテも、王であるバラガンを立てているのだろう。

 悔しそうに俯いてはいるが、決して反論はしなかった。

 

 

「話は終わったかい?」

 

 

 わざわざ待っていてくれたのだろう。

 馬鹿にしているとしか思えないが、その油断が今はありがたい。

 

「……死ぬなよ」

「フンッ! 誰にものを言っておる」

 

 

 そこからは振り返らずに場を離れ、程なくして――

 

 

 

 ──破面No.2(セグンダ・エスパーダ)『バラガン・ルイゼンバーン』の霊圧は完全に消えた。

 

 

 

「……」

 

 重苦しい空気が漂う中。

 皆が言葉を発せなかった。

 

 ただ、藍染惣右介という、圧倒的な力の前に、何を言っても無意味にしか思えなかった。

 

 

 そんな時だ。

 

 頭へと直接話しかけられるように声が鳴り響いたのは。

 

 

 ──縛道の七十七『天挺空羅』

 

 

 驚き隣を見ると、私を担いでいたミラ・ローズたちも同じように顔が強張っている。

 

 これは藍染による宣戦布告だと、そう理屈なしに理解できた。

 

 

 

 ▲▽▲

 

 

 

 侵入者諸君、那由他の行動に敬意を評し先んじて伝えよう。

 

 

 ──これより我々は、現世へと侵攻を開始する。

 

 

 本来は死神勢力を分散するつもりだった。

 

 けれども、那由他の行動によって破面の大半が寝返った現状では、それらを纏めて虚圏に閉じ込めたほうが戦力の分散という目的に即している。

 

 そもそも、黒崎一護たち旅禍の加勢にきた()()()()()()を虚圏へと誘い込むことには成功した。

 

 

 予想外だったのは那由他の指示さ。

 

 

 彼女は未だ虚の力に侵されながらも君たち全てを愛しているようだ。

 

 人間も、死神も、破面──私も。

 

 

 だからこそ、那由他は現世にて君たちの前に立ちはだかった。

 

 その程度の実力では、私を打倒する事など出来ないと考えたからだ。

 

 今でも足り得てはいないだろうが、少なくとも奮起し修練に励む起爆剤とはなった。

 

 そして、私はそれを理解した上で彼女の好きに動いてもらっていた。

 

 

 私はこれより空座町を()し去り王鍵を創生する。

 

 そして、憎き霊王を私自らの手で堕とすのだ。

 

 那由他の身は霊王によって縛られている。

 

 そのような支配など、私は認めない。

 

 那由他のためならば、私は全ての行動を是としよう。

 

 那由他を救うためならば、私は全ての行動に躊躇いを持たない。

 

 那由他の”目”が見届ける未来は、私がこの手で掴み取ってみせる。

 

 この世界には最初から真実も嘘もない。

 

 あるのはただ厳然たる事実のみ。

 

 にも関わらず、この世界に存在する全てのものは自らに都合の良い”事実”だけを”真実”と誤認して生きている。

 

 だからこそ、自らを肯定するに不都合な”事実”こそが、(ことごと)く真実なのだ。

 

 

 故に、私は反旗を翻した。

 

 

 護廷に、霊王に──那由他に。

 

 彼女の”目”が私を止めるべきと断じたならば、私は決して止まることなど出来ない。

 

 それは真実を肯定する事に他ならないからだ。

 

 ならば、私は那由他すらも超えてみせよう。

 

 ”真実”を”虚構”へと()としてみせよう。

 

 

 

 私は愛する妹を救うため、世界を敵に回すと決めたのだ。

 

 

 

 

 では、後の事は任せたよ。

 

 

 ──ウルキオラ。

 




つ、遂にストックがないなった…。(白目

これからは週一更新くらいを目安に頑張ります。
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