ヨン様の妹…だと…!?   作:橘 ミコト

7 / 51
日間一位、あざますっ!!
泣きそう。


白哉…だと…!?

 

 一心さんが『隊長に俺はなる!』とか言い出したらしい。

 

 どこぞの海賊王よりかはなれると思うけど。

 急にどうした? 

 

 今度、席官試験を受けるらしいし原作じゃ真咲さんと出会うまで十番隊隊長だったしね。

 君ならきっとなれるよ。

 

 時間がある時にでも激励にいってあげよう。

 

 現五番隊八席だからね! 

 きっと気合も入るだろう。私に憧れてるって言ってたし。

 

 と思って十番隊隊舎に行こうとしたら海燕さんに止められた。

 

『ほんと立ち直らせるの大変だったんだからな……。これ以上刺激しないでくれ、マジで』

 

 どこか疲れた様子で愚痴のようなものを言われた。

 

 何事? 

 

『いや、予想はついていたんだ。きっとお前に悪気はないんだろうさ。むしろ無理矢理にでも止めなかった俺が悪い。……ただな? こう、もっと婉曲的にな?』

 

 かなり婉曲表現したと思ってたんだが……。

 

『駄目だ、こいつ分かってねぇ……。とりあえず、あの人の悲哀を仕事の方に誘導させた俺を労ってくれ……』

 

 よく分からんが撫でれば良いのか? 

 

 

『だっからそういうとこだっつぅんだよ!!??』

 

 

 理不尽だよぉ……。(涙目)

 

 俺はただ「憧れの人よりも側にいてくれる大切な人が見つかりますよ」って意味深に教えてあげただけなんだが。

 憧れとか言われると照れるがヨン様も言ってるだろ? 

 正確にはまだ言ってないけど。

 

 きっと、それは好きって感情からは遠いんだ。

 

 恋人のように相手を受け入れ理解するためには憧れからは離れなさい、というありがたい俺の訓示だぞ? 

 

 流石ヨン様、いい事言うわぁ。

 

 黒崎真咲さんにも憧れなんてもん持たれたら大変だからな。

 今の内に憧れと恋心は別物だって教えられてよかったよ。

 

 そして、あのポカンとした顔の一心さん。

 面白かったわ。ククッ。

 

 

 いい事したわ、俺!  

 

 

 別に俺の事を好きとまでは思ってなかっただろうけど予防接種みたいなもんやろ。

 今の内に憧れに抗体持っといて。

 

 

 

「何じゃ、今日は随分と機嫌が良さそうじゃな?」

 

 先日の事を思い出して心でニマニマとしていたら、一緒に歩いていた夜一さんから声をかけられた。

 

 相変わらず夜一さんは人を良く見ていらっしゃる。

 なんで分かるのかなぁ……? 

 

「ふっ、今日は喜助も気合が入っておったしのお」

 

 何か浦原さんにあったんだろうか? 

 

「奴は今、『蛆虫の巣』という場所に行っておる。とある人物に会いにの」

「……涅マユリ」

 

 夜一さんが驚いた顔で俺を見た。

 

 そういや、この時期のマユリンって蛆虫だったな。

 浦原さんのおかげで技術開発局副局長兼十二番隊第三席になるんだっけ? 

 

 ひよ里ちゃんが苦労しそうだなー。

 

 他人事である。

 愚痴ぐらいは聞こう。

 

 どうせもうすぐしたら暫く聞けなくなるんだから。

 友達のよしみだ。

 

 

 

「お主……どうしてそれを知っておる?」

 

 

 

 あ、ヤベ。

 

 夜一さんが普段とは違う剣呑な気配を出し始めた。

 そら隠密部隊としては蛆虫の人物を知ってるなんて見逃せないわな。

 

「砕蜂に」

「あやつがそのような事を……?」

 

 訝しげだ。

 

 そら適当に言ったからな! 

 

 しかも砕蜂ちゃんは「夜一様ぁぁぁ!」って言うくらい忠誠心高いからね。

 

 関係者で俺と一番仲が良い子。それで咄嗟に思い浮かんだからってだけで謂われなき罪を被せてしまった。

 後で謝っとこ。

 

『もう、那由他姉様はしょうがないですね!』

 

 とか言って許してくれるだろう。

 流石そいぽんチョロイ。

 

 

 いや、だから夜一さんを説得できてないから。

 

 

「危険分子をまとめて」

「しかし、既に収容されとる者じゃぞ?」

「お兄様も」

「ああ……」

 

 

 

 そこで納得するんか。(困惑)

 

 

 

 自分で言っといてなんだが、それで良いのか隠密機動総司令官及び同第一分隊「刑軍」総括軍団長、護廷十三隊二番隊隊長! 

 肩書長いんじゃぁ! 

 よく覚えてたな俺。仲良いからね! 

 

 そいぽんと早口言葉代わりにして遊んだ肩書だ。

 ちなみに、彼女はいつも“総括”のあたりで噛む。「しょうかちゅ」になる。

 

 可愛いかよ。

 

 なお、俺は口下手でも滑舌が悪い訳ではない。

 文字の羅列を口から繰り出す事など朝飯前である。

 

 文章にするのが苦手なだけだ。単語の羅列ならいける。

 なにその謎仕様。

 

 

 しかし、まさか「お兄様」の一言で納得してくれるとは思っていなかった。

 

 俺の言葉だけ取ればお兄様が危険分子みたいなんじゃが。

 ……困った。間違ってないわ。

 

 

「……全く。あまり褒められた事ではないぞ? 次からは事前に言え。儂を通した方が早い」

「はい」

 

 ゴメン、そいぽん、お兄様……。

 那由他は悪い子です……。

 

「どこへ?」

 

 とりあえず話題を変えよう。

 夜一さんが忘れてくれる事に期待。

 

「話題を逸らす気満々じゃろ、那由他」

 

 バレてーら。

 

「ふんっ。まあ良い。後で惣右介に聞けば分かる事じゃろ」

 

 

 マジでごめんなさい、お兄様! 

 

 

 後がめっちゃ怖いんじゃが。これで捨てられたりしないよね……? 

 

「今は朽木家へ向かっとる。那由他に会わせたい坊がおっての」

「白哉殿?」

「なんじゃ知っておったか」

「銀嶺隊長から」

「あの爺、那由他に唾つけておったか……」

 

 いや、白哉の奥さんは緋真さんでしょ? 

 俺がなる訳ないじゃん。

 むしろ俺が恋のキューピッド役買って出るわ。

 

 あ、そうだ。ダイソンのついでに探しとこ。

 

 崩玉できたし、マユリンも出所するし、死神で実験始めたし。

 

 

 そろそろかー。

 

 

 副隊長組との女子会は結構楽しかったんだけどな。

 少し寂しくなる。

 

 ま、原作通りだから大人しく虚になってもらおう。

 

 大丈夫、死にやしないから。

 

 

「着いたぞ」

 

 なんてぼんやりと考えていたら朽木家の豪邸に着いた。

 

 四楓院家へ遊びに呼ばれた時も思ったが、五大貴族パネェッス。

 お家が超デカい。迷子になりそう。

 

「儂にちゃんとついて来るんじゃぞ?」

 

 子供じゃないんだからさぁ……。

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

「白哉」

 

 庭でいつもと同じように素振りをしていた時だった。

 爺様に私の名前が呼ばれる。

 

 いつも厳めしい顔をしているが、爺様は現朽木家当主として、そして六番隊隊長として活躍されている私の誇りだ。

 

「爺様!」

 

 思わず顔に笑顔が灯る。

 

 当然のように忙しい爺様と顔を合わす機会も最近ではめっきり減った。

 今日はゆっくりしていかれるのだろうか。

 

「客人じゃ」

「客人?」

 

 瞬間、嫌な予感がしたと同時に私の横顔へ何か柔らかいものが当たった。

 

 

「!? こんの化け猫!」

 

 

 どうせアイツだ。

 四楓院家当主の癖に俺をいつも揶揄って遊んでくる性悪。

 

 私は条件反射で手に持つ木刀をソイツめがけて横薙ぎに振るった。

 

 

「ん?」

「なに?」

 

 

 私の視界に一瞬だけ惚けた声を漏らした四楓院夜一が映る。

 

 なんだと? 

 何故、化け猫がそこに? 

 

 瞬歩で移動したのかと最初は思ったが、未だ隣には気配がある。

 

 じゃあ、私の横には誰がいるのだ? 

 

 疑問が胸中に浮かぶも既に腕は振り始めている。

 思考の空白を埋めるように『パシッ』と乾いた音が鳴った。

 

 呆然と隣を見上げる。

 

 随分と大柄な女だった。

 

 いや、大柄といっても体は華奢だ。

 身長が高いだけである。

 

 その女が私が振るった木刀を何かで弾いたようだ。

 恐らく“縛道の八・斥”だろう。

 

 

 その女が、何故か私に抱き着いていた。

 

 

 

「可愛くて、つい」

 

 

 

 私の頭を抱きしめている女は平坦な声で意味の分からない事をいった。

 目の端には笑い転げている化け猫と満足そうな顔で顎に手を当てている爺様がいるが……。

 

 どういう事だ? 

 

 可愛い? 

 

 誰が? 

 

 

 ……私が? 

 

 

 と、同時に私の頬に当たっている柔らかい感触のモノが何か理解出来た。

 

 

 

「なぁっ!? な、な、なな、な、なぁぁあ!?」

 

 

 

 途端、顔が沸騰する。

 

 頭が整理出来ない。

 

 木刀すらも手から零れ落ちた。

 

 化け猫は息をするのも苦しそうだ。

 

 私も押し付けられたもののせいで少し苦しい。

 

 なんだこの柔らかいモノは!? 

 

 

「失礼しました。あまりに可愛かったもので」

 

 

 すると、女はスッと私から離れる。

 

 瞬きの合間に離れたので体がついていかない。

 虚空に向かって手をワタワタとさせている私だけが残った。

 

 

「ぶわっぁはっはっはっはははははあああああ!!」

 

 

「笑い過ぎだ!?」

 

 遂に床をダンダンと叩き始めた化け猫に真っ赤なままで怒鳴る。

 

 なんだ、つまり、揶揄われたのか? 

 

 キッと鋭い目つきで離れた女を見る。

 

 服から見るに死神。

 頭の横で結った長い茶髪や容姿は綺麗だが、如何せん顔が怖い。

 爺様で慣れていたつもりだったが、思わず「うっ」と声が漏れてしまった。

 

「藍染那由他です」

「は?」

「藍染、那由他です」

 

 別に聞き取れなかった訳ではないのだが。

 

 名乗った、という事なのだろう。

 調子が狂う。

 

「朽木白哉だ」

 

 一応返しておいた。

 

「知っています」

 

 

 こ い つ !  

 

 

「ひぃぃぃいい、くっ、苦しっ、苦し、ひゃひゃっははひゃひゃひゃ!!」

「いい加減うるさいぞ四楓院夜一!?」

 

 収まりかけた顔の火照りがまた再燃し始める。

 

 

 なんなんだ、この無表情な女は!? 

 

 

 四楓院家の関係者か? 

『藍染』という苗字に聞き覚えは……五番隊の副隊長が確か藍染だったか。

 

「いやぁ、良いもんをみれたわい。那由他を連れてきた甲斐があったのぉ!」

「儂も良い物が見れた。やはり白哉の妻には」

「銀 嶺 殿 ?」

「う、むぅ……」

 

 化け猫が爺様を笑顔で威圧している。

 少し前に隊長になったばかりとは言え、奴は四楓院家現当主。

 爺様とはある種対等な関係だ。

 

 少し悔しい。

 

「ほれ、白哉坊。女子の柔肌はどうじゃった? ホレ、言うてみい」

 

 ニヤニヤとした顔が鬱陶しい事この上ない。

 

「儂の時よりもなんだか嬉しそうじゃったのぉ。儂は少し寂しいぞ、白哉坊。ついに色を覚えてしまったか?」

 

 こいつは一体何をしに来たんだ!? 

 

「っと、あまり揶揄っていても時間が勿体ないの。今日は、ほれ。そこにおる那由他を紹介しに来たのじゃ」

「藍染那由他です」

 

 何回名乗るんだ、この女は。

 

「どうやら大層白哉坊の事が気に入ったようじゃのお。これは()()()()()()が笑顔で朽木家に乗り込んでくるかもしれんぞー?」

「ふんっ! 死神だろうと返り討ちにしてやろう」

「なんじゃ、それほど那由他を嫁に欲しいのか?」

「ち、違っ!?」

「なんじゃー、何故そこまで強く否定しておるのじゃー? 怪しいのー?」

 

 時間が勿体ないんじゃなかったのか! 

 

「白哉は才があるものの、少し頭に血が上りやすい。常に泰然自若としている那由他殿に鍛錬に付き合ってもらおうと思っての。儂が呼んだ」

「爺様が……?」

 

 あの爺様がそういうのだ。

 恐らく、実力は高いのだろう。

 

 待て。

 

 ……『藍染那由他』? 

 

 

「あの霊圧ばかりが高くて扱いは下手と噂の藍染那由他か?」

 

 

 ギンッと音が鳴りそうなほど女の視線が強いものに変わった。

 迫力が凄い。

 思わず落ちてしまっていた木刀をすぐに拾い上げ構える。

 

 いや、させられた。

 

 それだけの気迫があった。

 

 こいつ、ただものじゃない。

 

 腐っても四楓院家の当主が連れてくるような奴だ。

 甘く見る訳にはいかない。

 

「ほうほう。一瞬で白哉に構えさせたか。流石じゃな」

「扱いが下手? 巷ではそんな評価になっておるのか?」

「そうらしい。儂も詳しくは知らんがな」

「かぁー。皆も見る目がないのお」

「下は知らぬが上は別よ」

「それはそうじゃろ」

 

 呑気に話している爺様たちに気を割く余裕がない。

 

 女の霊圧は確かにそこまで高くないが、練られ具合が尋常じゃなかった。

 霊圧にこのような扱い方があったのか。

 

 自然と頬に冷や汗が流れる。

 

 暴風のように周囲へ撒き散らすものではなく、まるで静かな湖面に放り投げられ体が沈んでいくような重たさ。

 手足の自由が利かず、対面しているだけで息が上がりそうだ。

 

「まあ、那由他の息抜きのようなものじゃ。白哉坊は遊んでもらうが良い」

 

 舐め腐って!? 

 

 私は手にグッと力を込めて瞬歩を使って藍染那由他に接近した。

 

 相手は木刀すら握っていない事に、この時の私は気付く余裕さえなかった。

 

 

「!?」

 

 

 視界から相手が消える。

 

 こちらの瞬歩よりも早く動いただと!? 

 ならば、後ろか! 

 

 素早く後ろへ一閃。

 しかし、空を切った。

 

 上だったか! 

 

 慌てて空を見上げるがそこにもいない。

 

 ならば、どこに……! 

 

 

 ポンと頭に手が置かれた。

 

 

「は?」

 

 我ながら間抜けな声だったと思う。

 

 

 何故ならば、()()()()藍染那由他がいたからだ。

 

 

 しかし、体は日々の鍛錬を裏切らなかった。

 頭で考えるよりも先に目の前の存在へ木刀を振りぬこうとする。

 

 それでも、

 

 

「”縛道の一・塞”」

 

 

「なぁっ!?」

 

 私は一瞬で体中を拘束された。

 速度、構成、効果範囲。どれもが今まで見たことがない完成度。

 

 これが……縛道の一? 

 体中の自由を奪われるようなものだったか? 

 

 六十三の”鎖条鎖縛”ではなく? 

 

 確かに目に見える形での拘束ではない。

 後ろ手に手首と足首を縛られているような感覚だ。

 

 だが、しかし、この強度は何だ。

 

 改めて目の前を見上げる。

 しかし、奴は俺の隣にいた。

 

 どういう、ことだ……? 

 

 

「訳が分からん、という顔じゃな」

「爺様」

 

 不敵に笑う爺様が縁側から降りてきて私の側へと寄る。

 

 

「今のは瞬歩で消えたのではない。“縛道の二十六・曲光”じゃ」

 

 

 爺様が子供へ言って聞かせるような、ゆっくりとした口調で話し始める。

 

「正確には疑似重唱の詠唱完全破棄、じゃがな。全く、とんでもない事をする」

 

 “疑似重唱”? 

 

 そんな私の疑問を読み取ったのか、爺様は話を続けた。

 

 

「同じ鬼道を同時に使用する事じゃ。本来は威力を高めるために分散しないのじゃが、今回は那由他殿自身を隠すためとお主に幻影を見せるための二つに使っておった。那由他殿は始めに“曲光”で自身を消すと同時に白哉の横へ移動。次に白哉の反撃を見越して“曲光”による幻影をお主の目の前に再現してみせた。つまり、お主はずっと誰もいないところへ向かって木刀を振っていたに過ぎん

 

 

 絶句した。

 

 なんだ、それは。

 

 

「さらに言えば、“塞”を防がれた時のために目くらましの“縛道の二十一・赤煙遁”と捕獲用に“縛道の九・崩輪”を。白哉坊が下がった場合には“縛道の三十七・吊り星”でもって釣り上げる。そこまで那由他は準備しておったぞ? 二十番台や三十番台を完全詠唱破棄で行使できる那由他じゃ。わざわざ“塞”を詠唱破棄という形で口に出したのも釣りじゃよ。まあ、結果からしてみればあまり意味はなかったかもしれんがの」

 

 

 全く、気が付けなかった。

 

 次期朽木家当主として修練に明け暮れていた私は、周囲からの期待に応えるための努力と、それに見合う成果を出してきた。

 

 しかし、

 

 

「気付いておるようじゃな。彼女が使ったのは全て中下位鬼道。

──お主が『既に習熟した』と、馬鹿にしておった位階の鬼道じゃ

 

 

 本当に、言葉が出てこなかった。

 

 藍染那由他は一体どれだけの策を張り巡らせていたと言うのだ。

 

 疑似重唱と多重詠唱を別々に使っていたとでも言うのか? 

 

 なんなのだ、その練度は……。

 

「これで分かったか、白哉よ。お主はまだ驕るには足りん」

「……はい」

 

 私には、頷く事しか出来なかった。 

 

「那由他殿は霊圧を万全に使用する事は出来ん。つまり、鬼道そのものにそこまでの霊圧は籠っておらん。だからこそ儂らも見抜けた。しかし、それ即ち相手が劣っていると、果たして言えるかのお?」

「……言え、ません」

 

 いつの間にか庭の砂利の上で私は正座していた。

 

 確かに、私は驕っていたのだろう。

 爺様や父様に届くとは思っていなかったが、そこらの死神に負けるとも思っていなかった。

 

 その上、私が軽視していた下位の鬼道でもって完封された。

 まだ手を残していたにも関わらずだ。

 

 

 これが──藍染那由他。

 

 

 他人の評判に踊らされ、調子に乗っていた私に発破をかけるために爺様が呼んだのだろう。

 出会った瞬間とは対照的に、私は冷や水を頭から被せられた気分だった。

 

 

「私が手解きしましょう」

 

 

「え?」

「白哉殿なら、すぐに私など越せるでしょう」

「それは願ってもないが……那由他殿も随分と忙しいのではないか?」

「いえ、それほどでも」

「嘘をつくでない! いい加減お主は休暇というものを知れ!」

「休暇は貰っています」

「鍛錬しておったり他所の隊舎で仕事の手伝いをする事を休暇とは呼ばん!」

 

 唖然と目の前の様子を眺めていたら、藍染那由他から困ったような雰囲気が出ていた。

 表情は変わっていない。無表情のままだ。

 

 つまり、彼女は不器用なのだろう。

 

 何事にも真っ直ぐに、努力を惜しまず、己の欠点を理解しながら、それでも前へと進める人なのだろう。

 

 

 ──トクンと鼓動が跳ねる。

 

 

 驚いて思わず自身の胸に手を当ててしまった。

 更に慌てて姿勢を正し前を向くと、

 

「白哉坊よぉ~、那由他は止めておいた方がよいぞ~? 優し~いお兄様がおるからのう?」

 

 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた化け猫がこちらを向いていた。

 

 四楓院夜一のこの嗅覚は何なのだ!? 

 

「ぐっ!? つ、次は負けない!」

 

 私はそれだけ言ってその場を瞬歩で離れる。

 耳まで赤くなっているのが自分でも分かった。

 

 違う、これは、緊張だ! 

 

 藍染那由他の実力は認める。

 だが私の──とにかく認めん! 

 

 

「こりゃ春は近いかのぉ」

「銀嶺殿、十番隊の噂を知らんのか?」

「なんじゃ?」

「いや、なんじゃ……悪い事は言わん、止めておいた方が良いぞ」

 

 

 

 そんな会話を背後に聞きつつ、私はとにかく駆けた。

 

 

 

 

 ▼△▼

 

 

 

 

 はあぁ……白哉きゅんカッコ可愛かった……。

 

 俺のあるかどうかも分からない乙女心がキュンときた。

 乙メン心だろうか。

 

 原作開始時点の冷徹な白哉もクールで良いが、やはり反発心の強い頃の白哉くんは良い。とても良い。ちゅき。

 

 

 まあ、一番はチャン一とルキアだけどな! 

 

 

 出会い頭にいきなり抱き着いたのは不味かった。

 我慢できなかったんだよね。

 

 後に冬獅郎きゅんに会った時も注意しなければ。

 君は桃ちゃんと一緒に曇っててくれればそれで良い。

 俺のファン心を抑える修練をしなければ。

 

 より不愛想になりそうで怖い。

 

 苺とルキアに会った時とか怖いなー。大丈夫かなー。

 奇行に走らないようにしとかないと。

 

 

 でも、いきなり殴ってくる事ないんじゃない? 

 

 ついいつもの癖で反応しちゃったじゃないか。

 これは銀嶺隊長たちのせいだ。俺は悪くない! 

 

 ただ、白哉から「霊圧高いだけのグズ」呼ばわりされたんは非常に悲しかった。

 

 いや、その通りなんだけどね……。

 

 思わず涙が出そうになるのを堪えたら、メッチャ敵意向けてくるやん? 

 

 涙に気付かれないように曲光と予備で赤煙遁を瞬時に張った俺は偉い。

 突っ込んできた白哉くんをどうすれば良いか分からなかったから、その後は危なくないように大人しくさせたんだけど。

 

 流石に隊長格としょっちゅう鍛錬してれば、この時期の白哉くんなど敵ではないさ。

 

 原作開始時期なら確実に負けてた。

 だから心配しないでも良いよ? 

 

 むしろ、俺が白哉くんのご尊顔を眺めたかったから「訓練手伝いますよ!」って言ったら何故か夜一さんに呆れながら説教された。

 

 

 海燕さんしかり、なんだか最近説教ばかり受けている気がするぅ……。

 

 

 

 

 そんなこんなで、時間がある時には朽木家へ行って白哉くんと遊んでいた。

 

 彼はすぐにムキになったり動きがまだ単調だからか、とりあえず俺は負けてない。

 でもきっとすぐに追い越されるだろう。

 

 だって原作だと隊長だよ? 

 

 勝てる訳ねー。

 

 

 なんて呑気な日常を送っていたら、

 

 

 

 

「今日、山本総隊長からの招集があった」

 

 いつものヨン様劇場が始まった。

 

 今は夜中。皆が寝静まり、人の動きが極端に少なくなった時間。

 浦原さんが作ったとかいう霊圧遮断コートを拝借して使っているが、細かい事はどうでも良い。

 

 

「案件は 『魂魄消失事件』 について。これに対して、六車拳西を含む九番隊の精鋭が調査に当たる事になった。明日の朝一で彼らは尸魂界を立ち流魂街へ向かう」

 

 

 わーお。

 

「ちょうど良い機会だ。この際、隊長格を使った虚化の実験を行おう」

 

 もう、さも「丁度良い」っていう風に言ってるけど、全部ヨン様の掌の上なんでしょう?

 

 さあ、始まるザマスヨ!

 

「要は六車拳西と共に調査に同行。ギンは私と一緒に実験の準備をしようか」

 

 行くでガンス! 

 

 ……あれ、俺は? 

 

「九番隊の虚化が起これば彼らの霊圧反応を観測できなくなる。総隊長はすぐに他の隊長格をこの調査へ投入するはずだ。隊長格が消えるなど護廷十三隊にとって異常事態、実力があり古参の朽木銀嶺、京楽春水、浮竹十四郎は尸魂界の守護につき動かないだろう。救護担当である卯ノ花烈と隠密機動を配下に持つ四楓院夜一も同じだ。そして浦原喜助は隊長になったばかり、他のある程度は経験を持つ隊長格数人が向かってくるだろう」

 

 フンガァァー!

 

 スラスラと出てくるヨン様の推測に少しテンションが上がってきた。

 

 合ってるよ。合ってるよ、ヨン様! 

 流石ヨン様お兄様ぁ! 

 

 

 

「そこで――那由他には九番隊が消滅した後の救援隊に混ざって欲しい」

 

 

 

 え? 

 

 ……どうやって? 

 

 だって、隊長格しか入れないんでしょ? 

 俺じゃ無理じゃね? 

 

 

 

「きっと、浦原喜助が動くはずさ。那由他は彼と行動を共にすれば良い。

 

──私が何も言わずとも分かっているだろうがね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワッカンネッェェェェェェ!!???

 

 

 

 

 

 

 

 え、マジでどうしよ!? 

 

 とりあえず浦原さんについていくのは良いけど、マジでその後どうすんの!? 

 

 

 

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 不愛想さんの仕事に殺意を覚えた瞬間だった。

 

 




ヨ「楽しみにしているよ」(ニコニコ
ギ「何してくれはるやろ」(ワクワク
カ「きっと凄いに違いない」(キラキラ

ナ「  」(チーン

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。