今回はオリジナル鬼道が登場します。苦手な方はご注意下さい。
次の日の朝。
日中は特にやる事のなかった俺は、適当に流魂街へと散歩に出ていた。
最近は何かしようとしても誰かに止められるのだ。
もっと斬拳走鬼させてよぉ……。
本日は前から申請していた休日。
と言っても、ヨン様から『この日は休暇申請をしておくと良い』なんて言われていたからだけど。
日程がドンピシャ過ぎて引く。
マジであの人の頭ん中どうなってんだよ……。
『魂魄消失事件』の調査は九番隊。
だから、俺はぶっちゃけどこでどのような調査を行うかは分かっていない。
確か朝一では先遣隊が出て、その後に拳西さんとかが出張るらしいけど。
まあ、俺の出番は浦原さんが飛び出してからっぽいので、それまではのんびりとしていよう。
何を求められているのか全く分からない俺は思考放棄をしてその辺をブラブラとしていた。
そして「そろそろお昼かー」なんて考えていた時だった。
「う、うわあああああぁぁぁぁぁ!!??」
どこかから少年たちの悲鳴が聞こえてきた。
驚いて霊圧探知をしてみると、割と近くに虚の気配を感じる。
恐らく巨大虚。
席官レベルでないと対応できない。
今までは崩玉(仮)を使って流魂街の人々を吸引していたが、流石にこの状態を見過ごす事は死神として許されないだろう。
霊圧遮断コートも持ってきてないし「気付きませんでした」は通用しない。
俺、一応は五番隊の第八席だしね。
すぐさま瞬歩を使い、声の元凶へと急ぐ。
どうやら襲われているのは霊力持ちの子供のようだ。
霊力持ちと言っても、所詮は流魂街で暮らしているただの子供。
虚に会ったら何も出来ずに喰われるだろう。
──少し急ぐか。
懐から小さな麻袋を取り出す。
中には曳舟さん特製の義魂丸が入っているものだ。
曳舟さんの神髄を込めた義魂丸らしいので、浦原さんやお兄様も頑張ってくれてはいるが、未だに複製には至っていない。
補充のない弾丸のようなものである。
一応、似たようなものは浦原さんが作ってくれたが、性能としては曳舟さん製には劣っていた。
というよりも改造魂魄に近い。つか改造魂魄。
俺がきっかけで作られるとは思ってなかったわ。
この浦原製義魂丸は曳舟さんが”重度の副作用”と危惧していた意識の分裂が極端に起こる。
曳舟さんのは”コンピュータ”みたいな感じだが、浦原さんのは”もう一人のボク”状態だ。
そのため、まだ実用段階ではないらしい。
そして、今は俺一人。
ただでさえ決定力のない俺だ。
あまり時間をかけると襲われている子を危険に晒してしまう。
何気に初めて使う曳舟さん製義魂丸に緊張しながらも、俺は一粒、それを飲んだ。
瞬間、体の中でもう一つの自我が産まれた。
主張はしてこない。
しかし、自分とは別の自分の意識という、なんとも形容し難い存在。
本来は魂を肉体から強制的に抜き取るものなのだ。
俺の魂魄に疑似魂魄をぶち込んで、無理矢理に共存させているようなもの。
けれど、思ったよりも気持ち悪くはない。
流石っす、曳舟さん。
これなら、
瞬歩に込める霊圧を上げる。
問題は……ないな、よし。
そして、当社比で3倍ほどになったスピードに乗って駆け付けた現場は、既に何人かの犠牲が生まれていた。
「Uroooooooo!!」
不気味な雄たけびを上げる虚。
四足歩行型で背中から触手のようなものが出ているタイプだ。キモイ。
チラリと見た触手の先には一人の少年が絡めとられていた。
まずは助けるか。
一閃。
今までにない霊圧で持って切りつけた斬魄刀は、虚の触手をいとも容易く断ち切った。
「うわぁぁあ!」
重力に従って落下していく少年を空中でキャッチ。
ちょっと俺の胸で苦しいかもしれんが我慢してくれよ。
目を白黒としている少年を確認する。
怪我はないようだ。
後方に目を向けると、驚いたような数人の少年たちもいた。
さっさと
正直、霊圧の上限が上がって気持ち良い。
霊圧開放を出来るって素晴らしいわ。
まだ全力は無理だけど。
折角だから上位鬼道とか試してみたいが、これは訓練じゃない。実戦だ。
あまり遊ぶわけにもいかない。
思いついてはいて、簡単な事なら試したものがある。
その時は霊圧が足りなさすぎて大した威力じゃなかったが、今なら本来の威力で出せるだろう。
斬魄刀を虚に向ける。
かっこつけだ。ぶっちゃけ意味はない。俺のテンションを上げるという意味はあるが。
「破道の四・白雷、”疑似重唱”──」
俺の背後の空間が揺らぐ。
「 “
俺の周囲から百門の破壊光線が迸った。
ただの英雄王のゲート・オブ・バ〇ロンのリスペクトである。
ただし、俺の構成密度と霊圧を甘く見るなよ?
術の起点を指先じゃなくて空間に固定するってかなり大変なんだぞ?
めっちゃ頑張った。頑張りどころが違う気もするが、まあ細かい事は気にするな!
オサレは何よりも優先されるのだ。
もんの凄い音と破壊の嵐が吹き荒れた。
自分でも引く。
え、こんな威力出る?
一応、元は破道の四なんだけど……。
周囲の木々はなぎ倒され、地面にはぽっかりと大きなクレーターが出来ていた。
モチのロン、虚は跡形も無く消し飛んでいる。
断末魔の悲鳴すら許さなかった。
お、おう……ちょっと予想外。
二次災害みたいなの起きないよね?
周囲の人たちに被害出てない?
後ろを振り返ってみると、爆風で吹き飛んだ少年たちが転がって目を回していた。
マジでゴメン……。
とりあえず、地面に降りて抱えていた少年を自由にしてあげた。
なんか物凄いキラキラとした目を向けてくる。
ふっ、君も俺に憧れてしまったかい?
まあ、自分で言うのは何だが、今のは俺でもかっこよかったと思う。
オサレかどうかは別問題だ。
そもそも、俺はOSR値に詳しくない。概念は知っているが。
「怪我は」
「だ、大丈夫です!」
思ったよりも元気そうである。
まあ、良かった良かった。
そういえば、義魂丸の効果ってどれくらい続くのだろうか?
なんて考えていたら疑似魂魄の気配が消えかかっていた。
アブねっ!
霊圧抑えて抑えて……よし。
しかし、この少年は俺の霊圧を近くで受けても平気、とまではいかないが大丈夫そうである。
将来有望そうだ。
──将来有望?
そういえば、どこかで見たことあるような顔つきをしている。
「名は」
「あ、はい!
……。
ヤベェ、拳西さんじゃなくて俺が助けちまった!
どうしよう、これじゃ69に憧れを持てなくなってしまう!
ええと、ええと……。
「私は69が好きです」
「は?」
「
自分でも何言ってんだと思うよ?
でも、69は69の入れ墨がなきゃ69じゃないだろぉ!?
もう無理矢理にでも『69』を意識に刻み込ませなあかんねん!
──100年後くらいに気付いたが、彼がむっつりスケベになったのは俺のせいかもしれない。
「なんだ、こりゃぁ……」
俺が檜佐木少年に対し必死こいて69、69と繰り返していたら、誰かが焦ったように飛んできた。
あ、拳西さんだ。
「那由他じゃねぇか。こりゃ一体どういう事だよ」
修平くんがいるんなら調査地もここら辺だよねぇ……。
どうしたもんかね。
お兄様の計画に支障をきたしたら不味い。俺が殺される。
「虚討伐を」
「お前、今日は休みって言ってなかったか?」
「はい」
「なんつーか、ほんと相変わらずの馬鹿だな、お前」
何で唐突に馬鹿にされてんのぉ!?
いや、確かにバカみたいな出力で鬼道ブッパしちゃったけど。
自然破壊と引き換えの人命救助だよ!
護廷十三隊っぽいだろ!
要っちの視線、目は見えてないだろうけど、が痛い。めっちゃ見てくるぅ……。
「まあ良い。で? そのガキが襲われてたのか? 俺らも虚の気配に感づいてこっちまで来たんだが……出遅れたようだな」
興味深そうに周囲の様子と霊圧を探っている拳西さん。
なんか面白そうな顔してんなぁ。
「それで、なんで那由他ちゃんは『69』を連呼してたの?」
白ちゃぁぁぁあああん!?
「ん? 『69』?」
「拳西のお腹に書いてあるやつ?」
「ばっか、お前。これは『69』じゃねえ! 『陰陽』だ!」
エッ!?
「そうだったの?」
「あったりめぇだろ。なんで69とか意味分かんねぇもんを書いてんだよ」
そういうもんだとばっかり。
だって師匠が決めた事なんだもん。
「そもそも、『陰陽』って何?」
「現世で知ったんだが、陰陽師とか言う鬼道っぽいのを使う連中が大事にしてた考え方だ。なんかカッコイイだろ?」
それなら、6か9の穴の部分を黒く塗りつぶしてよ。
にわか感が半端ない。
「そうなんだー。拳西のお腹を見る度にリサちゃん『厭らしいやっちゃな』って言ってたけど、なんで厭らしいの?」
「別に厭らしくねぇけど!?」
なんかわちゃわちゃしてきた。
そうだ、ここは修平くんを理由にここから離れよう。
「この子を安全な場所まで送ります」
「そうか? 悪ぃな」
「いえ」
「那由他!」
「はい」
「帰ったら、ちょっくら稽古しようぜ?」
うわぁ、悪そうな顔していらっしゃいます。
だけれども、それは叶わないのですよ。残念ながら。
悲しいなー。
ペコリとお辞儀だけして、その場を俺は瞬歩で離れた。
修平くんはキチンと安全なところへ運んだ後にバイバイしたのだが、
「あの、名前は!?」
「……藍染那由他です」
「那由他さん! 俺、那由他さんみたいな死神になってみせます!」
だから違うだろぉぉぉ……!
▼△▼
眠れないです。
今日、『魂魄消失事件』の調査へ向かった六車サンと久南サンの霊圧反応が消失しました。
明らかな異常事態ッス。
総隊長は早急に後発隊を立ち上げ派遣しました。
ボクも参加しようとしましたが、総隊長に一蹴。
ひよ里サンを先走って現場へ向かわせてしまったのは悔やんでも悔やみきれません。
『彼女は強いよ、ウチのリサちゃんほどじゃないけどね』
京楽サンの仰っているように、ボクはひよ里サンの帰りを信じて待つのが正しいんでしょうね。
でも、
「喜助殿」
「鉄斎サン……止める気ですか?」
「いえ、共に四楓院家で一時期お世話になった身。貴方を一人では行かせませんぞ。そして──」
「な、那由他サン!?」
「私も止めたのですが、どうやら相当に意思は固いようです」
「しかしっ!」
彼女は強いッス。
それは知っています。
しかし、今回の『魂魄消失事件』。これは恐らくボクがずっと研究していた虚化の弊害です。
つまり、誰かが虚化の研究をしているという事。
そして、その”誰か”で思い当たるのはと言えば──。
そんな場所に那由他サンを連れていける訳がありません。
もしボクの予想が当たっていたら、那由他サンには相当なショックを与える事になるでしょう。
ボクが那由他サンの改善を目指して行っている研究ですら、彼女は心を痛めているのです。
「駄目ッス」
「勝手についていきます」
「だから……!」
「ここで霊圧を開放しても良いですよ」
「「!?」」
そんな事をしたら那由他サンの体が保ちません。
それくらい那由他サンだって分かっています。
「それだけの、覚悟って事ッスか」
那由他サンも、今回の事件の首謀者が誰か気が付いたって事でしょうか。
ならば、彼女が家族として止めたいと思うのも当然の事。
「……分かりました。でも、無理だけはしないで下さい。約束です」
「はい」
あまり当てになりませんが、言わないよりかはマシでしょう。
こうして、三人で森を駆け抜けた先にいたのは、
「おや、もう来たのか。浦原喜助」
予想通りの人物でした。
「あんまり当たって欲しくなかったんスけどねぇ」
緩い言葉を吐きながらも、体の隅々にまで神経を行き渡らせる。
何通りかはありますが、どのような手段で虚化へ誘導するか気が抜けません。
周囲を見渡します。
三番隊隊長・鳳橋桜十郎。
七番隊隊長・愛川羅武。
九番隊隊長・六車拳西。
八番隊副隊長・矢胴丸リサ。
九番隊副隊長・久南白。
鬼道衆副鬼道長・有昭田鉢玄。
そして、十二番隊副隊長・猿柿ひよ里。
五番隊隊長の平子サンはまだ辛うじて意識はあるようですが、どこまで保つのやら……。
惨憺たる有様ッスね。
笑えないッス。
予想していた中でも最悪の現状でした。
被害者も……加害者『藍染惣右介』も。
「……こんな事して那由他サンが喜ぶとでも思ってるんスか?」
言ってから失言だったと気付きます。
慌てて那由他サンを横目に見ますが、彼女の顔はいつも以上に強張っていました。
霊圧の揺らぎも強い。
やっぱり連れてくるべきではなかったッス……!
「破道の八十八・飛竜撃賊震天雷砲!!」
「縛道の八十一・断空」
鉄斎サンが上位鬼道を放ち、すぐさま藍染サンが縛道でもって迎え撃つ。
大鬼道長の上位鬼道を詠唱破棄した断空で防ぐッスか!
「ば、馬鹿な!? 私の飛竜撃賊震天雷砲を詠唱破棄で防ぐなど……!?」
これは藍染サンが実力を隠していたって事でしょうね。
予想はしてたッス。
那由他サンの実力を鑑みるに、藍染サンの実力も恐らく高いだろう、と。
それに、わざわざ藍染サンがこの場にいるという意味はもうボクたちには隠す必要がない、という事ですかね。
つまり、このままではボクも消される!
斬魄刀を開放しようと柄に手をかけた時でした。
藍染サンの行動の方が早かったのです。
「ぐぅっ!?」
慌てて声の方へ振り向くと、
「ガァァァァァアアアアアアアアアア!!??」
那由他サンの顔面に、虚の仮面が浮かんでいました。
「藍染サンっ!!!」
この人は、本当に手段を選ばなくなってしまったんスね!!
普段は感情の起伏が少ないあの那由他サンが、ここまで苦しそうな声を上げている姿など初めてみました。
いえ、今はそんな呑気な事を言っている場合じゃありません。
どうするべきか。
救ってみせます。
必ず!!
「君は勘違いしているようだね、浦原喜助」
「何ですって?」
耳朶にスルリと入ってきた藍染サンの言葉に思わず反応してしまう。
「那由他は既に死神などという枠に囚われる範疇を超えている。にもかかわらず、未だ魂魄という存在によって制限されているのだ。……愚かだとは思わないかね?」
「自分の妹を”愚か”なんて言うんスか? 普段からは考えられない言葉ッスね」
「それこそ愚かな思考だよ、浦原喜助。私はその枠に当てはめようとする君たちを指して愚かと言ったんだ」
「ぐっゥゥウウゥゥッゥゥウアアアアア!!」
「喜助殿!」
これ以上は那由他サンの魂魄が保たない!
藍染サンから注意を逸らせない今、どのような手を打てば皆を……!
「これより禁術を行使します!」
「鉄斎さん!?」
「”時間停止”と”空間転移”です! この場で見た事はお忘れくださいますよう!」
場が二転三転しています。
しかし、まずは虚化を施された皆さんの安全を確保するべきッスね。
そんな時。
那由他サンが一つの義魂丸を口へ入れました。
瞬間、彼女の霊圧が膨大に上がります。
普段の凪いだ静かな湖面を思わせる美しい霊圧は見る影もなく、荒々しい暴風が物理的な圧力となって周囲へと吹き荒れました。
「な、何を!?」
──するつもりですか。
そう問いかける前に、
彼女の口から、聞いたことのない
「流石だよ、那由他」
背筋を駆けのぼる、薄ら寒い声が聞こえました。
ちょっと長くなりそうなんで分割します。
本日の夜には続きを投稿できる、と思います、多分、恐らく…。なので、しばしお待ちを。