す、すんげー苦しかった……。
何アレ?
あれが体が弾け飛びそうになる感覚?
ビビッたぁ……。
なんてゼーハー言っていると気が付く。
ここどこ?
武家屋敷を思わせる質素な趣き漂う館。
広い広間のような場所で四つん這いになっていた俺は思わず周囲を見回してしまう。
『お待ちしておりました』
突然声が俺にかかる。
ギョッとして前へ顔を向けると、そこには超絶イケメンが正座していた。
え、誰?
『今まで姿をお見せできず申し訳ありませんでした。しかし、それも貴方様を想えばこそ』
恭しい態度で三つ指をついて頭を下げるイケメン。
いや、誰だよ。
なんとなく一護に似てる、てか『黒崎一護』そっくりやん。
え、マジで?
『私は貴方様の半身。魂魄の現身。さすれば、貴方様の
そんな事あるんだ……。
イメージとしては斬魄刀そのものに具現化した際の”体”が備わっているものだとばかり思っていた。
ってか、俺どんだけ苺の事好きやねん。
それならルキアでもよくない?
どちらかと言うと美少女の方が……あ、ウソですよ! だからそんな悲しそうな顔しないで!
あ、やっぱして? (ゲス顔
『分かってはいましたが……。ともかく、今は話を進めましょう』
なんか丁寧な言葉で話す苺とか違和感が凄いんじゃが。
『もう一人、紹介しておかなければならない者がいます』
『オレだよー! オレオレ!』
……えっ!?
君は、”もう一人のボク”!?
うっわ、俺と外見そっくり!
てかまんまか。
ほーん。
俺って傍から見ればこんな感じなのか。めっちゃ美人じゃん。
でも顔はにこやかな笑顔だ。より美人度が増していると言っても過言ではない。
むしろ海燕さんみたいな気さくな雰囲気が全面に出ており、勝気な吊り目や不適に笑っている口元、流れるように伸びた煌びやかな茶髪、出るとこは出てる高身長な俺の華やかさをより良い意味で引き立てている。
何それ羨ましい。
『お前、義魂丸飲んだだろ? オレがその疑似魂魄』
マジでっ!?
これが曳舟さんから見た俺だとでも言うのか!
ありがてぇ!
あれ?
でも曳舟製薬印の義魂丸って自我が極力抑えられてたはず。
『ああ、それな。虚化で魂魄がしっちゃかめっちゃかになった時に、なんかオレも取り込まれちまった。んで、お前の魂魄の影響受けて本来のお前の性格が再構成されたっぽい。てへっ』
くそぅ、俺の顔でそんな愛嬌のある仕草と言葉が吐けるなんて……!
『まぁまぁ。俺は別に他人から見える訳でもないしな。ここ、お前の精神世界やし』
あ、そっか。
なんとか俺のプライドは保たれた。
何十年も女で暮らしてたら、それなりに見た目は気にするようになる。
あ、そっか。ここ精神世界か。
今更ながらに俺は現状を理解する。
って事は苺似のイケメンは、俺の斬魄刀か!
理解おっせぇな、俺!
『その通りです』
理解が遅い事に頷かれた訳ではないだろう。きっとそうだ。そうだよな?
微笑むような優しい笑顔に免じて言及はすまい。
ヨン様とは違った純度100%の善意を感じる。
なんか涙出そう……。
『ここからが本題ですが、”彼”は現状、貴方様の魂魄と交じり合った状態です』
なんか真面目な話になりそうだったので、俺も黙って正座をし姿勢を正す。
『つまり、虚化とオレの影響でお前の魂魄強度はかなり上がった。本気はまだ無理だろうけど……まあ、40%くらいなら今すぐでもいけんじゃね?』
マジでぇ!
超嬉しいんですけど!
って、そうだよ虚化だよ!?
俺、ついにヨン様に切り捨てられちゃうんじゃないですか!?
うわーん、やっぱり何か失敗したんだぁ……。
『それは早計です。あの人は嬉しそうな表情をしていました』
『あれは何か実験が上手くいった時の顔ですな』
つまり?
『お前で何かの実験でもしてたんじゃね?』
やっぱり手駒の一つじゃったか……。
『でだ。ヨン様に認めてもらうためには、やっぱり強さを見せとくのが一番だろ?』
せやな。
『そこで、魂魄強度も上がった貴方様のため、ようやく私の”名”を教える事が出来るのです』
お?
おぉ。
おぉっ!?
てことはだ!
『遂にオレの始解が火を噴くZE☆』
いや、俺のだろ。
『こまけぇ事はいいんだよ。あ、あとそうだ』
ん?
『虚の力を手に入れたんだ。しかも魂の混ざったオレがいる。ただ、しばらくは霊圧の開放は出来るだけ控えといてな。馴染んでねーし。
それと、当分は無理だろうが鍛錬して”破面の力”を使いこなしてみせろ。
マジでぇぇぇぇぇぇ!!??
『多分』
急に不安にさせないでよ……。
『貴方様の斬魄刀は私なのでお忘れなく』
こんなイケメン忘れる訳がない。
『では、私の名を教えましょう。この場は彼と共に貴方様の魂魄を全力で支えます。しかし、長くは保ちません』
ん? そういえば俺ってばどうして精神世界になんか来たんだっけ?
『外の戦いは続いてっからねぇ。まあ、始解でなんとかヨン様を納得させてどうぞ』
忘 ☆ れ ☆ て ☆ た !
▼△▼
「彼方を駆けろ──『天輪』」
厳かとも言うべき清廉な言葉が木霊した。
私の堪え切れぬ衝動は口をついて出てしまう。
「流石だよ、那由他」
「!? 藍染サン! あの子を誰よりも救おうとしていたのはアナタだったはずです!」
浦原喜助が吼える。
普段の飄々とした様子すら見せないという事は、それ相応に焦っているという事だろう。
やはり、奴は未来への想像力が足りない。
私が認めるほどの優秀な頭脳を持っているのだが、情けない事だ。
「傲りが過ぎるぞ浦原喜助。最初から誰もあの子を救う事など出来ない。君も、僕も、神さえも」
「な、何を言って」
「彼女は救われるのではない──我々を救うのだよ。その慈悲深き”眼”によって、全ての人物を裁いてね」
「……結果もメチャクチャですけど過程を説明できないのは研究者として失格ですよ?」
「理解できないという事は、所詮君はその程度だという事だよ」
隊長格で虚化の実験を行い、浦原喜助と共に現れた那由他にも虚化を施す。
そうすれば、浦原喜助は他の者たちと同様に那由他の事も救おうとするだろう。
つまり、崩玉を使うはず。
私をして厳重と言わざるを得ない管理をしている崩玉だ。
浦原喜助自身に使わせないといけない。
そして、那由他の霊圧であれば崩玉による回復で他の者たちよりも早く順応し意識を取り戻すだろう。
そこで那由他が浦原喜助を襲えば良い。
中央四十六室には既に根を回している。
浦原喜助が審問にかけられた際には「藍染那由他は浦原喜助の悪逆非道な事件による被害にあったが、強い意思によって心を取り戻し果敢にも立ち向かった」と判断される。
ここで崩玉が手に入れば良いが、浦原喜助の事だ。恐らく無理だろう。
浦原喜助が拘束されたと知れば四楓院夜一も動くだろう。
それでも、逃げるとしたら現世しかない。
尸魂界内の穿界門は全て護廷十三隊が管理している事から考えると、流魂街からの脱出。
恐らく、四楓院夜一と親交の深い門番・兕丹坊、すなわち白道門から脱出するはず。
隊長格の私、三席のギンや調査隊に同行していた要はすぐに動くわけにもいかない。
しかし、那由他ならば──。
そんな期待をこめて好きにさせてみたが、まさかこの場で崩玉を使わずに虚化を制御してみせるとは!
──君は私の想像を超えたよ、那由他。
それはもはや創造だ。
新たな価値を創造している。
──さあ、次はどうするんだい、那由他?
荒波が如く渦巻く霊圧が段々と収束していく。
いや、これは
練り上げられ、形を小さく変え、周囲への影響を極力少なくしていく。
嵐の前の静けさ、といったところかな。
虚の仮面は右側の目のみを覆っている。範囲がかなり小さい。
これは虚化がまだ進みきっていないのか、それとも彼女が完全に制御しているからこそ外見が殆ど変わらないのか。
興味深い。
「浦、原さん……離、れて」
「那由他サン!」
浦原喜助に忠告……。
ふむ。
どうやら那由他は浦原喜助を逃がすらしい。
この場合はどういった事が想定されるだろうか。
大鬼道長の握菱鉄裁がいるのだ。
先ほど使おうとしていた”空間転移”と”時間停止”を用いれば問題なく十二番隊舎、すなわち崩玉の元まで飛ぶだろう。
それと、那由他の力を確認する事もできる。
虚の力をあまり公には……いや、浦原喜助の実験によって不幸にも身に着けてしまったとすれば良い。
総隊長を始めとした皆は那由他の才能を欲している。
例え虚の力だとしても那由他が完全に制御できているのならば切り捨てるとは考え難い。
むしろ、那由他の魂魄の問題がある程度は解消されるのだ。
浦原喜助を裏切り者として断罪するだろうが、その点についてのみは感謝すらするだろう。
それならば、わざわざ浦原喜助についていく必要性は薄い。
中央四十六室の決定に逆らう者が現時点でいるとも考えられない。
崩玉は浦原喜助が脱出する時にでも改めて那由他が向かえば良いだろう。
なるほど。
つまり、君は私に己がどれだけの力を付けたか見せてくれるためだけにここに残ると言うのだね。
構わないとも。
計画に支障はない。
そもそも崩玉も現世へいったところで消えるわけでないのだ。
後100年くらいはゆっくり寝かせて問題ない。
いずれ浦原喜助を表へ引き出すだけだ。
元はそのように考えていたのだから、なおさら問題などない。
「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ」
那由他の口から詠唱が漏れる。
三十番台の破道?
彼女なら詠唱完全破棄でも容易く行使できる位階だ。
虚の力を手に入れた今となっては上位の鬼道すら片手間に出来る事だろう。
ならば、
「蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ──破道の七十三・双蓮蒼火墜」
やはり!
今まで試す事すら叶わなかった上位に位置する鬼道を使えるようになっている。
浦原喜助や握菱鉄裁も驚愕の表情。
那由他は出来て五十番台だった。
それがこうも容易く行使できるとは。
蒼炎が眼前に迫りくる。
私とした事が。
受けるか防ぐかで迷ってしまった。
「何してはるんですか。あないなもん受けたら流石の藍染副隊長でも大変でしょう?」
ギンが私と一緒に瞬歩でその場を離れる。
受けてみるのも一興かと思ったのだが……。
どうやらギンは私よりも那由他の方を警戒しているようだ。
「ここは私が」
平子真子との争いで少々霊圧が減っている要が前へ出ようとした。
「いや、不要だよ。彼女は僕をご所望のようだ」
この場で彼女の晴れ舞台を誰かに渡すなどあり得ない。
私はまだ彼女には鏡花水月を使っていない。
よって、純粋な斬拳走鬼によって彼女の強さを測れる。
ここで完全催眠など無粋だ。
そして、彼女の目を催眠で曇らせるなど、私の矜持が許さなかった。
「さあ、君の強さを見せてごらん、那由他」
那由他が斬魄刀を構える。
浦原喜助も遅れて構えた。
哀れだな。
那由他の意図にも気が付かない。
貴様は邪魔だ。
「縛道の七十九・九曜縛」
「なっ!?」
まだ戦闘経験が浅い。
研究者の性だろうか。
隊長格としての力を持ってはいてもまだまだだ。
しかし、握菱鉄裁は厄介だ。
「この程度で止められるとお思いか!」
……もって数秒か。
やはり、私もまだまだ足りないという事だろう。
しかし、数秒あれば十分。
「浦原さん、皆さんを、頼みます」
こちらに始解した斬魄刀を構えながら那由他は言う。
早くここから離れろと。
彼女の斬魄刀は美しい変化を遂げていた。
刀身がないのだ。
鍔は偃月、柄は漆黒に染まっている。
実にシンプル。
だが、それ故に能力は一見して判断する事が難しい。
刀身が見えていないだけでそこにあるのか、はたまた刀身を他の形に変化させているのか。
彼女の強さは既に隊長格と同等の位置にある。
しかし、逆に言えばまだその程度だ。
ここで出し切らせて早く虚化に慣れてもらおう。
「……。すぐに戻ります。鉄裁サン」
「承、知!」
悔しそうな顔が実に滑稽だ。
私は歪む口元を隠しもせずに、消えゆく浦原喜助たちを見送った。
「さて、那由他」
「はい」
先ほどまでの苦しそうな演技ももうない。
いつもの楚々とした顔に戻っている。
やはり面白い子だよ、君は。
「君の力を試してみようか?」
一瞬だけ藍色の瞳を大きくさせた那由他は静かに斬魄刀を構えた。
「もう斬魄刀の能力は把握しているね?」
「はい」
「よろしい。では、来なさい」
その後、ギンと要に止められるまで私たちの舞踏は終わらなかった。
▼△▼
「那由他サン!?」
鉄裁サンの鬼道によって研究室へと戻り、すぐに崩玉を使っての回復に努めました。
これは使う事なんてない、と思ってたんですけどねぇ……。
しかし、事態は緊急を要するもの。
分の悪い賭けだとしても、四の五の言っている時間すら惜しいです。
そして、私が平子サンたちに崩玉を使用してしばらく経った頃。
那由他サンが戻ってきました。
全身が血みどろのボロボロになって。
「無茶はしないって言ったじゃないッスか!」
「喜助殿、それより早く手当を!」
「っ!」
あの場に一人残った彼女がこうなる事なんて分かっていたはずです。
ああ、やっぱりボクは”正解を選ぶだけ”が取り柄のクズですねぇ……。
「浦原、さん」
「まずは治療を。すぐに四番隊の卯ノ花隊長へ──」
「浦原さん」
彼女の力強い声に視線を戻します。
体中に傷がついていて見るだけで痛々しいです。
しかし、その瞳には有無を言わさぬ迫力がありました。
「私はお兄様を、逃しました」
「……そうッスか」
恐らく、ワザとでしょう。
彼女の優しさを知っている身としては、彼女に兄を討てというのが酷だという事くらい分かります。
それくらいの人情は持っているつもりです。
「すみま、せん……」
それだけ呟いて彼女は気を失いました。
薄っすらと目には涙すら浮かんでいます。
どれだけのものを彼女に背負わせてしまったのでしょうか。
本来ならば、その実力を遺憾なく発揮して歴史に名を残す死神となれるのに。
これも、私が足りないせいですかね……。
しかし、事ここに至っては藍染サンの暴挙を許す訳にはいきません。
いくら那由他サンのためとは言え、護廷の隊長格を何人も手にかけたのです。
まずは総隊長に報告し、しかる後に──。
「浦原喜助殿。中央四十六室からの捕縛命令が出ております。抵抗なさらぬように」
参りましたね。
既にボクは藍染サンの術中って訳ですか。
▼△▼
目が覚めたら朝だった。
いつの?
あれから何日経ったん?
でも俺生きている。
ヨン様審議に受かったんだ!
マジで焦ったよ。
浦原さんについていったら虚化させられるんだもん。
そういう事は事前に教えて欲しい。
でも、結果としては俺の魂魄強度も上がってるし、始解も開放できたし。まあその点は感謝しても良い。
上から目線でごめんなさい。
勿論めっちゃ感謝してますとも!
で?
あれからどうなった?
確か、斬魄刀の始解をしてヨン様と凄いバトルを繰り広げた後、「ほら、もう自由だよ」ってパズーの鳩みたいに開放されたのだ。
苦労して十二番隊舎まで行った後、浦原さんに介護してもらったような気がするんだけど……。
「気付かれましたか」
側には卯ノ花隊長。
ここ四番隊舎か。ちょっとびっくりしたわ。
で、どうなったん?
「元十二番隊隊長の浦原喜助は非道な実験を自身の部下を含めた数名の隊長格に行い中央四十六室によって有罪の判決が下りました。貴方はあれから二日ほど眠っていたのですよ」
俺の欲しい情報を的確にくれる卯ノ花さん、流石っす。
「そうですか」
「あまり驚いてはいないのですね」
そら大まかに原作通りだしな。
俺が虚化したって事以外は。
「貴方に関しては、確かに魂魄強度が上がっていました。また、今の様子を見ても正気を保っている様子。じきに総隊長がいらっしゃって詳しく話されるでしょうが、貴方に関しては当然ですが無罪です」
良かったー。
ヨン様に呆れられたら一緒に始末されてたでしょ。
「……そして、浦原喜助は四楓院夜一の
驚いた方が良いのかな?
とりあえず、精一杯目を大きく開けてみる。
「四楓院夜一は虚と判断された実験対象の隊長格全員を拉致。貴方も同様に連れ去られようとしていたのですが、寸前で気が付いた藍染副隊長によって阻止されました」
おう。俺も現世へ連れてかれるとこだったのか。
別に連れてかれても良いっちゃ良いんだが、ヨン様が阻止したって事は駄目だって事だ。
気を失ってて良かった!
意識があったら俺にその判断は出来んかったわ。
セーフ!
演技でも何でもなく普通に驚いてるなう。
「護廷十三隊は浦原喜助によって、大きくその力を削がれ威信は地に落ちました。新たな隊長格には多くのものが求められます」
卯ノ花さんの話は終わらない。
まあ、既定路線とは言え尸魂界にとっては前代未聞の大問題なのだ。
一応、真剣に聞いとこ。
「そこで、新たな隊長に、那由他さん、貴方が選ばれるでしょう」
……。
……は?
「浦原喜助の実験とはいえ、結果的には貴方の力は隊長格に匹敵するまでに安定化されました。今までの業務に対する姿勢や功績を考慮しても当然の異動でしょう」
ちょ、ま。
「お兄様の藍染副隊長も五番隊隊長へ昇進が決まっており、那由他さんに対しても全ての隊長格が賛成の意を示しています。ふふっ、あの十一番隊にも認められているなんて、流石ですね」
ヨン様ぁぁぁぁぁあああああああ!!??
明日も時間あるんで、余裕あればお昼と夜の二回投稿します。
まだ一文字も書いてないけどね!