この物語では姫と王の立場が逆転してるのが、見ものですよね。
フィオーネ姫が、いにしえの魔神を復活させてしまった。 その理由は、セントシュタイン王国がこの魔神の力を利用してルディアノ王国を滅ぼしたという真相を知ったからだ。 そのためフィオーネ姫は魔神を蘇らせ、セントシュタインを生贄にルディアノを蘇らせようとしていた。
ところが、魔神は長年封印されたことによる憎悪によって、フィオーネ姫の要求を断り、この世界のすべてを滅ぼそうとしていた。
「とぁぁ!」
「ックッ!」
そのいにしえの魔神に、フィリス達は立ち向かっている。 このまま魔神が表にでたら、魔神はこのセントシュタインだけでなく、さらに多くの地を絶望にたたき落とすからだ。
「せっかく守ってきたのに、また厄介ごとをさらに押しつけられてたまるかってんだ!」
一度世界を滅ぼそうとしていた存在と戦って、満身創痍になったことがある。 戦いの中で倒れそうになったこともあったが、そこで倒れたらその存在は確実に世界を滅ぼす。 それを誰も許すつもりはなかったから立ち向かって戦い、勝利したのだ。 そのときも本当に大変だったのに、もう一度その苦労を味わえと言われたら、たまったものではない。 同じことを繰り返させないべく、復活したてで本領発揮できていないうちに倒すしかない。
「はぁっ!」
「ヘナトス!」
イアンがせいけん突きを放とうとすると、魔神はヘナトスの呪文を使い仲間達を弱らせる。 そのため、並の魔物なら一撃あるいは怯ませるほどの力を持つイアンの一撃を、魔神はたやすく全身で受け止められた。
「つ、つうじねぇ!?」
「ふんっ!」
「うわぁぁっ!!」
そのままイアンをはじき返し、イアンを壁にたたきつける。 直後にフィリスがはやぶさ斬りで魔神にきりかかるものの、やはり大したダメージにはならない。
「イオナズンッ!」
そこでクルーヤは、イオナズンを放って魔神を攻撃した。 魔力覚醒を行った後だったので、その力により威力は大きく、魔神に大ダメージを与えた。 おまけに、攻撃力低下の呪文も、攻撃魔法にはまったく影響がない。
「ぐぅぅ!」
「魔法攻撃なら、ヘナトスなんて怖くないもんねっ!」
「そうだなよし、これでいくぜバイキルト!」
そういってフィリスはまず自身にバイキルトをかけ、ヘナトスの効果をなかったことにし、再びはやぶさ斬りを繰り出した。 だが、それは大きなダメージにはなっていないことに、フィリスはすぐに気付く。
「っち!」
「スクルトがなければ、我は重傷であった。 だが、残念だったな」
自身の肌についた剣のあとを見て、魔神はフィリスの一撃は大きなものだと気づく。 そして、自身にかけた守りの呪文の効果が切れる前に彼女をつぶさねば、と思い、ある呪文を使う。
「ルカナン」
それは、相手の守りを緩める呪文であるルカナンだった。 それによりフィリスのみの守りを崩しその隙に攻撃をしかけた。
「うわぁぁ!」
「フィリス様っ」
「くぅ負けるかっ!」
フィリスはそれを受けながらも剣を手放すことをせず、むしろ強く握り返した。 すぐにでもチャンスをみつけて反撃にでるために。
「ゴォォオアアアッ!!」
そのとき魔神は、光る炎をその口から吐き出し、4人に同時に攻撃を仕掛けてきた。
「危ないっ!」
その余波が、隠れていた国王やフィオーネ姫にあたりそうになったので、セルフィスが二人の前に立ち彼らをかばった。
「セルフィスッ!」
「王様、姫様ご無事ですか?」
「私達より、貴方がっ」
国王と姫の身代わりとなって光る炎を受けたセルフィスは、全身に傷を負っていた。 その傷は、4人の中でもっとも大きいものだろう。
「僕なら、心配はいりません」
そう言ってセルフィスは立ち上がり、自らにベホイムをかけ、自身のダメージをすぐに回復させる。 そうして自分のダメージを跡形もなく消したセルフィスは2人に笑いかけ、弓矢を手にして構える。
「このとおり、大丈夫ですよ。 僕は決して倒れません。 たとえ………僕がどれほど傷ついても、その傷がどれだけ重かったとしても………。 彼らを見捨てるより………遙かにマシですから!」
そう強く言い、セルフィスは数本の矢を連続で放った。 それらの一撃は魔神の不意をつくには十分であり、自分の方に気づいた魔神に対しセルフィスは今度はイオナズンを放って攻撃した。
「これだけではないです! いてつくはどう!」
そう叫び、セルフィスは魔神に対しいてつくはどうの技をはなち、魔神にかかっていたスクルトの効果をかき消した。
「はぁぁ!」
「うがぁぁ!!」
直後、フィリスは魔神に切りかかった。 その傷を背中に受けた魔神は振り返りつつフィリスに反撃をする。 その攻撃を受けたフィリスは傷を負ったが、その顔にはにやりと笑みを浮かべていた。
「っへ! 攻撃をねらっているのは、あたしだけじゃねーんだよっ!!」
「なにっ!?」
「うぉぉぉっ!!」
フィリスがそう言うと、別の方向からイアンがつっこんできて、先ほどはあまり効果のなかったせいけん突きを今度こそ食らわせる。
「ぐほぉぁぁぁ!?」
「よーし、仕返し完了!」
その一撃を受けて、今度は魔神が壁に強くたたきつけられた。 ヘナトスがバイキルトによりかき消されていて、その上テンションをためることであげていたので、威力は抜群だ。
「ぐ、おのれ……」
「おっと、とどめはお前に任せようか? クルーヤ!」
「ええ、まかせといて!」
クルーヤの魔力があがっているのに気付き、そう声をかけてきたイアンはそう彼女に声をかける。 それにたいしクルーヤは、ウィンクしながらそう答えた。
「とどめいくわよっ! メラゾーマよりでっかいの、お見舞いしちゃうんだから!」
そういってクルーヤは杖を高く掲げて、その上に巨大な火の玉を作り出した。 その大きさも熱量も、メラゾーマより大きい。
「メラガイアーッ!」
そのメラガイアーは魔神に命中し、そこに大きな火柱がたつ。 その業火に包まれた魔神は、断末魔をあげた。
「グォオォォオオァァァ!!!」
「よっし!」
「ま………まさか、我がニンゲンなどに……やられるなど………ありえぬ………! こんなことは……ありえっ………!?」
自身の体が炎により灰になっていき、熱にとかされていく中、魔神は自身がまもなく消滅するのを感じた。 その現実を受け入れがたい中で、魔神は自分の視界に入ったをみて、ある予感を感じ取る。
「キサマ………まさ、か………!?」
「……」
最期の最期で、いにしえの魔神はフィリスの正体に気がついたが、それ以上はなにも言えないまま灰となり煙となって、その場から消滅してしまった。
「消えた、けど……」
「勝てた、のかしら……?」
「おそらく……な………」
「だと、よいのですが………」
いにしえの魔神は消滅したものの、自分達の勝利を確定していいものかわからず、思わずそう口にする。 不安を覚えているクルーヤや気を抜いていないフィリスがそう呟いていると、サンディが出てきて周囲に気配がないことを一同に告げた。
「ダイジョーブ、ヘンな気配は感じないヨッ!」
「そっか」
それをきき、フィリス達もようやく勝利したことによる達成感を感じたようだ。 魔神の消滅によりセントシュタインの崩壊は免れたことを知ったセントシュタイン王とフィオーネ姫が、フィリス達に声をかけてくる。
「よくやってくれた、そなた達! 今回ばかりは、もうダメかと思ったぞ!」
国王は戦いに勝利したことでフィリス達の無事と、セントシュタインが守られたことを喜んで、彼女達を称えた。 一方フィオーネ姫は、ただ呆然とした様子だった。 体も、まだ震えているようだ。
「…………わ………私、は、わた………く……しは…………」
「姫様!」
「フィオーネ!」
そして、自分のしようとしていたこと、してしまったことをブツブツとつぶやきながら、彼女はその場で崩れ落ちてしまった。 すぐに国王が受け止めたため、その身体が地面につくことはなかった。
「…………気を失っているようですね………」
セルフィスが姫の容態を瞬時に確認し、外傷はないことや先程までの出来事から、精神的なものにより気絶をしてしまったのだと気付きそれを冷静に伝える。
「しょーがねーだろーな。 こんなことがあったあとじゃ……」
「ええ……」
「心配はいりません、国王様。 フィオーネ姫様は、お休みなられれば大丈夫です。 すぐに意識を取り戻し、目を覚ますでしょう……」
「う、うむ……そうか。 それでまずは安心じゃな」
セルフィスから姫は大丈夫だと告げられた王は頷くと、この場から離れることを提案する。
「………とにかく、今は一旦ここを離れるとしよう」
「わかりました」
まずは国王と姫からその部屋を出ていき、それにフィリス達もついて行こうとした、その時だった。
「お、おい……フィリス!」
「どうしたイアン?」
イアンは棺桶の中でなにかが光っていることに気付き、それに近づいて光ったものの正体を確かめる。 そして、光っているものの正体に気付いてすぐにフィリスを呼び寄せた。
「これ!」
「あっ……」
「例の宝石だわっ」
それは、今世界各地で見つかっている、あの宝石だった。 フィリスはそれを拾い上げて、持っていた宝石とくっつける。 すると宝石は今までと同じようにくっついて、一個の宝石になった。
「まずは回収完了、だね」
「ああ」
そうして4人はその部屋を出ていき、国王と合流した。 フィオーネ姫は先程駆けつけたメイドにより姫の自室に連れて行かれ、寝かせられたようだ。
「ワシにはまだ、なにがどうなっておるのか……話をきいてもさっぱりで、まだついていけない。 だから話は、フィオーネが目覚め次第、詳しく伺うこととする。 それまでそなた達は、この国の宿屋で休んでいてくれ。 あの魔神との戦いによるダメージもあるだろうしな……そして、ともにフィオーネの話を……聞いてほしい」
「わかりました」
「それと………このことはなるべく、口外しないでくれ………」
「ええ、わかっています」
そう国王にいわれ、フィリス達はセルフィスのベホマラーで回復した後、リッカの宿屋に帰っていった。 リッカになにかあったのかと問われたが、魔神のことはなにもいわずただ強敵と戦ってたとだけ告げた。
そして、翌日のこと。 意識が戻ったフィオーネ姫は、例の本と指輪を手に、会議室を訪れていた。 その会議室にいるのは、国王とフィリス達4人、城の老学者であるイロホン、そしてこのフィオーネ姫だけである。
「………さて、フィオーネ。 あの書物に書かれていたことを、教えてくれるな?」
「………はい………」
フィオーネ姫は、表情を曇らせたまま、あの本に書かれていた歴史の真実を彼らに打ち明ける。 まずは、魔神の正体を改めて説明をした。
「私が地下より蘇らせ、フィリス様達があのとき打ち倒したあの魔神は、かつての国王が、帝国からセントシュタインを守るため、呼び出したものなのです」
「…………その帝国ってのは、ガナン帝国のことでいいんだよな……?」
「ええ」
ガナン帝国という国の存在ならば、かつて世界征服をねらっていた悪の帝国ということで国王も名前だけなら知っていたらしい。 だが、それをフィリスが知っていることが、国王には不思議に思うものだった。
「そなたら、ガナン帝国を何故……?」
「なに、あたしらも帝国とちょっとした因縁があったってだけです。 さて、続きをお願いします」
「………魔神は国を守るための代償としての生け贄を求め、国王は同盟国であった、ルディアノの民の命を差し出した……。 それにより……この国は救われましたが、その後…………魔神の力をおそれた国王が、魔神を棺に封じたのです…………」
「………………なんということだ。 そんなことがあったとは………儂は全く知らなかった…………」
「そうでしょう。 かつての国王は……この忌まわしい真実をルディアノという国ごと、歴史の中から葬り去ったのです………。 あの国王の手記を私がみつけ、鍵を探そうとしなければ………永久に歴史の真実は……闇の中に……………」
「………おお、なんと………なんということだ…………」
フィオーネ姫の語った真実に、国王はショックを受けているようだ。 自分が国を継ぐにあたり、歴史にそのような不祥事があったこと、そして取り返しのつかないことをしていたこと。 国王はこの真実を受け入れようと持ちこたえている。
「……この指輪は、封印のカギとして………後にセントシュタインに嫁いだメリア姫に、託されたのでしょう………」
そういってフィオーネ姫は、メリア姫の幽霊から受け取った例の指輪を見せた。 幽霊のことにはふれず、自分が偶然見つけたといって。 そして、真実を知った彼女は、そのときからずっと胸の内に抱えていたものを、打ち明ける。
「………私は………ずっと考えていました。 メリア姫は……果たしてどんな気持ちで、この国に嫁いでこられたのか………。 愛する人と引き裂かれ………祖国を滅ぼしたカタキとも言えるこの国に、なにを思ったのか………と………」
「………メリア姫とレオコーンのこと、か………」
その2人には、フィリス達も大きくかかわったことがある。 愛し合っていた2人は悪魔の運命により引き離され、望まぬ形で終わりを告げてしまった。 その悲恋を、知っている。 そのことを思い出したフィオーネ姫は、己の中でよみがえりつつある怒りの感情のままに、打ち明ける。
「………メリア姫の気持ちを思うほど………私は、許せなくなったのです! 自分達の命を守るため、罪のない人々を生贄とした、この国こそ……滅びてしまえばいいと、私は………!」
「それは…………」
「馬鹿者が!」
それは違う、とフィリスがフィオーネ姫の言葉を妨げようとしたが、それより早く国王がそれを妨げた。
「王様……」
「お父様……」
「確かに、かつての国王がルディアノにしたことは、決して許されるものではないじゃろう………」
国王は、フィオーネ姫に対しさらに言葉を続ける。
「だが、そんなことをして何になる!? あの黒騎士やメリア姫が……それを喜ぶと思うか!?」
「………いいえ………」
それをきき、フィオーネ姫は少し考えた後、首を横に振ってそう答えた。 そして、それをみたフィリス、クルーヤ、イアンが口を開く。
「………仮に……魔神が、あなたの願いを聞いてセントシュタインを犠牲にルディアノをよみがえらせたとしても、また何年後かに同じことを繰り返すだけですよ」
「悪いのは当時のセントシュタイン王だし、そのためになんの罪もなければ関係のないこの国の民をみな犠牲にしようとして……それでよみがえって喜ぶものなんて、いません。 私だったら、それで復活するなんてイヤです」
「………残念ながら、あなたは皮肉にも、もっとも許されないと自分で思っている相手と、まったく同じことをしようとしていた………あなたが、当時のセントシュタイン王の生き写しになろうとしていたんだ」
「…………ッ!!」
フィリス達の言葉を聞き、フィオーネはさらに己のしようとしたことを思い知らされる。 それに対しよく言ってくれたと国王はかえすと、話を続ける。
「そう、この国が犯した罪は重い。 ならば儂らは生きて、その償いをするべきじゃ」
「……そうですね、罪は償うべきもの。 たとえどれほど許されないことでも、どれほどの時間がかかっても………大事なのは、本気で償うという意思を持ち続けることです」
「その通りじゃ。 そして、フィオーネよ。 お前は確か、ルディアノへ帰ろう団とやらに加わっておったな……?」
「……はい、お父様……」
どうやらフィオーネ姫がその団体に加わっていたことを、国王は知っていたようだ。 だが国王はそれを責めることはしない、むしろ、逆のことを考えていた。
「ならば………その団の活動を、国を挙げてもり立てていこうではないか。 そして、何年かかることになろうとも……ルディアノをよみがえらせよう!」
「は、はい……!」
それこそが、罪を背負ったセントシュタイン王家自分達がルディアノへの贖罪であり、メリア姫とレオコーンの無念を晴らす方法だ。 それに気付いたフィオーネは力強くうなずいた。 そうしてルディアノ再建を約束し宣言した国王は、フィリスたちのほうを向く。
「さて、フィリスたちよ。 お主たちには礼のしようもないほどに力を尽くしてもらった。 これは、儂からの礼だ受け取ってくれ」
そういい国王は、ある銀色の宝玉をフィリスたちに差し出した。
「これって?」
「それはシルバーオーブというもので、我が国に伝わる不思議な宝玉なのだ。 とっておくもよし、売って金にするのも良し……好きにするとよかろう」
「うわぁ、売るのもったいないなぁ……」
その銀色の宝玉を受け取ったフィリス達は、宝玉を袋に入れた。 フィリスが報酬の宝を受け取ったのを確認した後、国王とフィオーネ姫は、彼女達に告げる。
「そして、儂は誓おう! かつての王が犯した過ちを……決して繰り返させはせぬと!」
「………フィリス様達には、色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません………。 過去を忘れないようにするために、あの本はここにいるイロホンさんに預けます」
「うむ、確かに預かりましたぞ」
そういってフィオーネ姫は本をイロホンを手渡すと、ルディアノへの想いにこの国への想いをのせて、告げる。
「これからは………ルディアノとセントシュタインの民……その双方を愛し、他のなにものでもな………私達の力で、未来を作るためがんばっていこうと思います!」
「ああ、またあたし達も力を貸す……だから、がんばってください!」
「はい!」
過ぎた時間、過去の過ち………それは簡単には戻せないし、取り戻せないこともあるだろう。
だが、それで歩みを止めればすべてが終わり、なにもできなくなる。
だったら、たとえ悪あがきであったとしても………先へ進むべきだ。
苦痛かもしれない……だがそれでも、進むべきだ。
力強き道しるべを、たよりに。
次回は閑話休題です。