ガナン編と言いたいけど、まだガナンがかかわるので、今回はあくまでベクセリアとさせていただきます。
セントシュタインの宿屋にて、新たな依頼を受けたフィリス一行。 その依頼内容は、ベクセリアという町まで届け物をしてほしいというものだった。 ベクセリアはこれまでに何度もいったことがあるし、さらに言わせてもらえば、仲間の一人・セルフィスの故郷でもある。
「これよ、このプラチナ装備一式があれば、息子をエルシオン学園に入学させられるわ!!」
「は、はぁ……」
そして、今。 そのお届け物を届けたところである。 依頼主は近所で教育ママとして知られる女性であり、自分の息子をなんとしてでもエルシオン学園に入れたくて勉強を強いているそうだ。 今回プラチナ装備の一式を注文したのも、息子をエルシオン学園にいれるためである。
「………そこまで強要したって、人の意志を無視して強引な手段を使ってる限り、意味ねーだろうよ……。 頭のイッたオバさんだな……」
「イアン、しーっ……」
イアンの言葉をクルーヤが必死になって止める。 一方例の教育ママは、届けられたプラチナ装備一式に満足していて、イアンがなにを口にしていたのか、まったく耳に入っていなかったようだ。
「ここまで準備が整えば、エリートにさせられる…絶対に大丈夫ですわよね……セルフィスおぼっちゃま!!」
「え? え、ええ……そう、ですね……?」
教育ママの気迫に押され、セルフィスはそう返事を返す。 彼女はセルフィスのお墨付きだと思いこんだらしい、これからどうしようかと計画を立てていた。
「これで戦闘の科目はなんとかなりそうねぇ……となるとあとは、ルーフィン先生に家庭教師をしてもらったほうがよいのかしら?」
「……義兄上、ですか……」
それは、ベクセリアの町に到着したときから聞いた、彼の評判についての話。 セルフィスが中心となり歓迎されていく中で、学者のルーフィンは町の人に勉強を教えるようになって、町になじんできているらしいことを耳にしていた。 セルフィスにとってルーフィンは姉の夫……義兄となる人物なので、彼の評判があがっていることは、うれしいことだった。
「でもこのところ、ルーフィン先生……古文書の解読に忙しいみたいだし、難しいかしら?」
「……古文書……?」
教育ママの口からでた古文書が、妙にひっかかる。 フィリス達は疑問を抱きながらも依頼を達成したので、一度その家をあとにした。
「さて、これからどうする?」
「どうするもなにも、ルーフィン先生や町長さんにあいさつをしようぜ。 久しぶりにきたんだし、セルフィスの顔を見たら喜ぶだろうしよ」
「そうだな、セルフィスもみんなと顔を合わせたいだろ?」
そうフィリスが確認をとるようにセルフィスに問いかけてみると、セルフィスは考え込んだような顔になっていた。 そんなセルフィスのことが心配になり、フィリスはセルフィスに顔を近づけ、もう一度声をかける。
「セルフィス?」
「うわぁっ!」
「うぉ!!」
フィリスに至近距離で声をかけられたことで、セルフィスは我に返ったらしい、大きな声で驚いた。 その声には、フィリスも驚く。
「だ、大丈夫!?」
「す、すみません……ちょっと、ボーっとしていて……」
自分がさっきまで考え事をしていて、仲間達のことを気にしていなかったことをセルフィスは謝罪する。 そんなセルフィスのことを気にかけつつも、自分達はセルフィスの実家やルーフィンを尋ねようかと考えていたことを打ち明ける。
「そうだったのですね、でしたら僕も賛成です。 父上や母上、義兄上と久しぶりにあいたいですし……あ、姉上のお墓参りもいかなくてはいけませんね」
「だな。 じゃまずは、エリザさんのお墓参りからいこうぜ」
「はい」
そうしてフィリス一行は、ベクセリアの町中を歩いていった。 まずはエリザの墓参りから始まり、道中でセルフィスを知る人と対話をしていく。 そしてセルフィスの実家である町長の家へ足を運び、その日は会食と思い出話に花を咲かせた。
「そうだ、父上。 このごろ、義兄上はどうしていらっしゃいますか?」
「ん? 町を探索していたのならば、お前も聞いていただろう?」
そんな会食の席にて、セルフィスは父親である町長に、ルーフィンの近状について尋ねてみる。 するとそう言われたので、セルフィスはそうなんですけどね、と苦笑しつつも自分の気持ちを伝える。
「ただ、父上の口からお聞きしたかったのです」
「まぁ、セルフィスったら……」
セルフィスの言葉に対し、婦人はクスクスと笑った。 どうやら、夫とルーフィンが不仲だったときのことを思い出しているようだ。 町長は少し照れくさそうに咳払いをしながら、あのあとのことを打ち明けた。
「あれからというものの、ルーフィンは町のものに積極的に関わっておる。 自分の知識を自分だけのものにせず、町の皆の前にその姿を現し、自ら進んで勉強を教えているのだ」
「やはり、そうなんですね」
「それに、エリザの墓にも、毎日訪れているようだ」
そう、彼らはルーフィンの話を息子に聞かせた。 その話で盛り上がっている両親をみて、セルフィスは穏やかに笑う。 彼らの仲が安泰していることが、嬉しいことのようだ。 そんな息子に、母はある話をもちかけてきた。
「そんなルーフィンなのだけど、最近はある古文書の解読に夢中みたいなのよ。 今、どこまで進んでいるのか……気になるわね」
「古文書……ですか、そういえばそんな話を聞きました」
「ちょっと気になるよね」
「はい」
セルフィスは仲間達と顔を合わせてうなずくと、ルーフィンの今の状況を確かめることを約束した。
「このあと、義兄上のところにも伺おうかと思っていますし……僕たちが話をうかがってきましょう」
「そうか、では頼んだぞ」
「はい」
そうして実家を後にしたセルフィスは、仲間達とともにルーフィンの家に足を運んだ。
「あれって……」
その家の前に、フィリスは見覚えのある姿をした幽霊を発見する。 ほかの仲間達もその幽霊の存在に気付いており、特にセルフィスが驚いていた。 その証拠に、セルフィスはその幽霊を呼ぶ。
「姉……上……?!」
『え、もしかして………セル、くん……?』
それは、ルーフィンの妻でありセルフィスの姉である、エリザだった。 彼女はかつてこの町を襲った病魔の呪いによって命を落としたのだが、フィリスの助力によって成仏したのである。
「なんで!?」
『実はちょっとだけ、ルーくんのことが心配で、天国から戻ってきたんですよ』
「そ……そうなんだ……」
だが、そのエリザがこうして戻ってきている。 事情は先ほど彼女自身が話したとおりの内容で間違いないのだが、そういう形であっさり現世に戻ってきていいものだろうか。 フィリスは天使だった頃に現世にとどまる魂を成仏させていくのを仕事の一つとしてやってきたのだが、そこから私情で戻ってきた話など聞いたことがなかった。
『でも、セルくんにわたしの姿が見えるようになったなんて……そんなに修行をつんだのねっ』
「えっ……ええ、まぁ……」
フィリスが微妙な気持ちになっていることなど気付いていないらしく、エリザは生前と同じく明るい態度で弟と話をしている。 どうやら死した後に会えないと思っていた実弟とこうして話ができるのが、彼女にとっては嬉しいことのようだ。
「エリザさんなら害がないし、そういう理由なら現世にとどまっていても……まぁ、いいか?」
「……僕がこんなことをいってもいいのかはわかりませんが、姉上のためにも、そうしてあげてください……」
「オレも、なにもつっこまねーよ」
「私も」
そう、エリザの霊に対し各が感想を口にした、そのときだった。
「おや、セルフィス! みなさんもいたんですか」
「義兄上」
「ルーフィンさん、久しぶりだね」
この家の主である、ルーフィンが帰ってきたのだ。 彼に招かれるかたちで家の中に入っていった。 家の中に入った一同は旅の話や最近のベクセリアの様子などで盛り上がっていたが、やがて話は本題である、古文書の話に流れていった。
「……ええ、確かに古文書の解読はしますよ。 だけど……」
「だけど?」
「……実はこの古文書、肝心のページがこんなに汚れちゃっていて……読めないんですよ。 それで、息詰まってしまってるんです」
「うっわ、こりゃひでぇや」
そうルーフィンは、例の古文書をフィリス達に見せた。 その内容はほとんど汚れてしまっており、明らかに重要そうなページは読むことができなくなっていた。 これなら解読が進んでなくて忙しくなるわけだ、と妙に納得してしまったが、そこでクルーヤがある話を思い出す。
「それなら、確かセントシュタインで教わったわよね? まほうのせいすいがこういうシミに効く……って」
「僕もそれは知っているんですが、生憎持っていないし……道具屋にきいても切らしているようなのです。 遠くへ買いに行こうにも、僕には難しい話ですし……」
そのまほうのせいすいはいま、このベクセリアにはないらしい。 それを聞いたフィリスは、自分の荷物袋からまほうのせいすいを取り出した。
「だったら、あたしが持ってるから使ってよ」
「よろしいのですか?」
「かまわないさ」
「……ありがとう。 では、さっそく」
フィリスからまほうのせいすいを受け取ったルーフィンは、それで古文書のシミを掃除し始めた。 そのときふと、フィリスのそばにいたサンディが、あることに気付く。
「そういや、この古文書のマーク、見覚えがあるよネ?」
「そうだっけ」
そうして、ルーフィンは古文書のシミをすべて取り除くことに成功した。
「みなさん、お待たせしました。 これでようやく古文書が読めるようになりましたよ」
「おおぉ……!」
「なにが書いてあるのでしょうか」
「気になるな」
こうなれば、自分達も古文書の中身を知らなければ引き下がれない。 その古文書に対する好奇心を受け取ったルーフィンは、この古文書の中身を彼らに話し聞かせることにした。
「では、読んでみますよ」
「お願いします」
「………何々……」
ルーフィンは、古文書を声に出して読み始める。
「タイトルは、ガナンの歴史書……」
「………ガナン…………!?」
「ベクセリアの森にそびえる、巨大な城……そこは賢明なる国王の統治が行き届き、国民はそのガナン国王を……愛していた。 だが、ガナン王国に暗雲が立ちこめる。 国王は暗殺され、亡骸は封印のほこらに埋められた。 ガナン王国ははるか東にその拠点を移し、王国から帝国へと、名前を変えた……」
ルーフィンは冷静に、シミで汚れて読めなかった全文を読み上げていたが、その目には驚愕の色が宿っていた。 そして、すべてを読み終えた後、セルフィスは愕然としながら口を開いた。
「……ガナン……王国……! ガナン王国……だって……!」
「せ、セルフィス……」
「このベクセリアが、かの忌まわしき、ガナン王国だったなんて……!!」
自分が長く過ごしていた、そして強く愛する故郷である町。 いつかは跡を継ぎ自分が守るべき地。 その正体がまさか、自分がその悪行を目の当たりにし戦っていた、あの国の本来の在処だったとは。 呆然とするセルフィスの横で、ルーフィンも語る。
「……ガナンの名前は歴史学者で知らないものはいない……300年も昔に、世界を征服しようと各地に攻撃を仕掛けてきた、悪の国……。 しかし、そう世界に恐怖を与えながらも、突如として滅んだとされる……ナゾの帝国………」
「………」
「その様子だと、あなた達も知っているようだ……」
「まぁ……いろいろあってな。 でもまさか、この町がホントのガナンだったなんて、ビックリだぜ」
「僕も、こんなナゾが潜んでいたことに、驚いていますよ」
そうルーフィンは口にした後、ナゾ解明かなとつぶやきつつ、フィリス達に言う。
「……この話はどうか、秘密にしてください。 町の人を騒がせたくはありません」
「…………」
「……セルフィス、キミも……町の人だけでなく、ご両親にも言ってはいけない。 ……それが、この町のためなんだ。 わかったね?」
「……はい……」
ルーフィンはフィリス達…とくに、セルフィスにたいし、今回の件は秘密にすることを約束させた。 フィリス達はそれにたいし首を縦に振ったが、セルフィスだけが動きが鈍かった。
『……セルくん……』
そんなセルフィスの姿を見て、姉は不安を顔に出す。 彼女に対しフィリスは大丈夫だとこっそりつたえつつ、4人はルーフィン宅をあとにしたのだった。
「そういえば、あの遺跡……」
「あそこに、なにかあるんですか?」
「地下に、墓のようなものが見つかったな……もしかしたらそこに、ガナン帝国につながるものが、あるかもしれない」
家を出る前、そう、ルーフィンはベクセリアとガナンのナゾについて、つぶやいていた。 封印のほこらに亡骸を封じたとあの古文書にも書いてあった。 となれば、真実にさらに近付く手がかりもそこにあるのではないか。
「……みなさん……」
「………どうした?」
ルーフィン宅をでた後、セルフィスはずっとうつむかせていた顔を上げて、フィリスとイアンとクルーヤに対し、言った。
「……お願いです、僕とともに………封印のほこらを一緒に、調べてください。 ベクセリアとガナンの関係……そして、その奥にあるさらなる真実を……もっと、よく知りたいんです……!」
この真相はセルフィスに降りかかる試練、ですかねこれは…。
これから色々と話がすすんでいきます。