また次のストクエ話を、おたのしみに!
そうして、ガナン帝国城にてかつてのガナン王国の王・ガンベクセン王を討ち、その御霊を鎮めたフィリス達は、今回の一連の流れの発端となった町・ベクセリアに帰還した。
「みなさん、きていたんですね」
「ルーフィンさん」
そのとき、彼らを発見したルーフィンが声をかけながら駆け寄ってきた。
「義兄上、どうしたんですか?」
「いや実は、あのあと町中を調べ、そしてもう一度ほこらにも足を運び……古文書の謎を僕なりに追いかけていった結果……興味深い話を見つけたんだ」
「興味深い話?」
そう説明をしたルーフィンは、ファイルから手紙らしきものを取り出し彼らに見せた後、そこに書かれていた文章で判明したことを、彼らに話し聞かせた。
「……かつてここをおさめていたガナンの国王は、自分の息子が成人したら王位を譲るつもりだったようだ。 だが、その直前で暗殺されたらしい、ということが……この資料で判明したんだよ」
「………」
「……よく、わかりましたね……そんな、大昔のこと……それも、暗殺の日と王位継承の契約の話を」
「国王が暗殺された日と、この書状が書かれた日はちょうど一日違いだったこと……そして、書状の文章と例の古文書を照らし合わせて、判明した事実をてらしあわせ、僕なりにまとめたんですよ」
そう、ルーフィンは説明し、セルフィスの方をみた。
「……これを見つけ、そう推測ができあがったとき……僕はキミに見せようとおもっていたんだ」
「僕に、ですか?」
「ああ……将来的にこの町を守る町長は、自分ではなくセルフィスがなるものだって、エリザが僕によく話していたんだ。 キミだったら、この町をまもるいい町長になれそうだから大丈夫だって言ってた」
「……姉上が……」
そのような話は初耳だった、セルフィスは驚きながらもルーフィンの話に耳を傾ける。
「そのときがきたら、自分と僕で彼を支えようと言っていたけど…正直僕はそれを受け流してた。 でも、様々なことがあって、ベクセリアと自分の距離も知って、そしてベクセリアの謎も知って……彼女の分まで、キミの助けになろうって決めることが出来たんだ」
「……義兄上………」
「今回、僕が見つけた資料をキミにみせ、そして僕の推測を聞かせたのも……キミがベクセリアを守るための、手伝いのひとつのようなものだよ」
ルーフィンはルーフィンなりに、エリザの遺志をついでいこうと決めたらしい、そのためにもこのベクセリアの真実は、次期町長であろうセルフィスに知ってもらったのである。 そこには、セルフィスがこの真実を追い求めようとしていたことに彼が気付いていたから…というのもあるだろう。
「………」
「……とはいえ、キミは確かまだ修行中の身だったね。 町長云々の話は、キミが考えて決断をすればいい。 たとえどっちになっても、僕はその答えを受け入れるよ」
「……義兄上……ありがとうございます………」
ルーフィンの言葉に対し、セルフィスは静かにほほえみつつそう返した。 彼の表情と言葉を受けたルーフィンは、また会おうとだけ言い残して帰って行った。
ルーフィンと別れた4人はひとまず、エリザの墓参りを行い、自分達がさっきまで体感してきたことやルーフィンからの新情報を重ね合わせていき、
「悲しいすれ違いだったのね」
「……まぁ、あいつが王……もとい、皇帝の地位についたときにやろうとしたことを考えてみれば……ヤツに王位を継がせるのはマズイ話だったかもしれねぇ」
そう言った後、イアンは首を横に振りながら話を続ける。
「…………とはいえ、そこはタダの結果論だ。 ガンベクセン王が王位を譲る話をちゃんとしてりゃ、ちったぁマシだったかもしれねぇな」
「ガナサダイの早とちりと臆病が生んだすれ違い、それがガナンの王国の終わりであり、帝国の始まりなのね」
そう、それぞれでガナサダイとガンベクセンの関係が正しければ、たがいにわかりあえれば、もう少しまともだっただろうし、多くの悲劇が生まれずに済んだかもしれない。 そう敵に対し複雑な気持ちになりかけていた仲間達を、フィリスはバッサリ斬るかのように口を開いた。
「いずれにせよ、もう起きたことは変えられないし、あたしはガナサダイを……生涯通して、許す気はない」
「フィリス」
「あたしは、簡単にヤツが犯した罪も悪事も許さない。 どんな事情があっても、あたしから大事な人を奪ったことに変わりはないんだ。 やむをえない事情の一つや二つで、簡単に帳消しにしちゃいけない罪ってのも存在する……。 それでも許してしまったら、んなもんは慈悲でも寛容でもない……。 現実から目を背けるための、適当な言い分だ」
そう、ガナサダイへの憎悪を今もかかえているフィリスをみて、イアンとクルーヤは不安そうな顔をしていた。 そんな2人の顔に気付いたフィリスは、彼らに笑いかけながら話を続ける。
「安心しなよ、もうヤツはいない……あたしはすでにカタキを…巨悪を絶ってる。 だから……それを誰かにやつあたりして、憎しみを広げたりなんかしない。 大事な人を奪われたからといって、同じことをさせたりしない……自分の悲劇を利用して、好き放題なんてしないよ」
「……そうね、フィリスって、そんな人だもんね」
「だな。 自分がつらい目にあったからといって、それで悪事を働いたりするのは、ただ頭の弱い八つ当たりでしかねーもんな」
フィリスは決して、その敵を許すことも憎しみを捨てることもしないだろう。 だがそれ以上に、それに飲まれ他者を自分の思うがままに動かし、苦しめることをよしとしないだろう。 彼女はハッキリとした正義をもつ人物であると、イアンとクルーヤは知っている。
「あ………セルフィス」
「礼拝はすんだのか?」
「ええ」
そこに、ベクセリアの教会で自身を落ち着かせるため、そして考えの整理をするために礼拝をしていたセルフィスが帰ってきて、フィリス達と合流してきた。
「ずっと……礼拝の中で思っていました」
「なにを?」
「僕が……旅の中でずっと、ガナン帝国を気にしていたのは……ベクセリアこそが真のガナンだったから……そして、僕はきっと、この地を代々守ってきた人間の一人の、子孫だったからかもしれません」
そこでフィリスも思い出した、旅の中でセルフィスはガナンというワードに反応したり、その存在に強く興味を示していたことを。 今回のガナンとベクセリアの関係をたどってみれば、そうなったのにも納得がいく。
「だからこそ、以前のフィオーネ姫の話に耳を傾けそのお心に寄り添うことができたのでしょう………僕も、彼女と同じように……祖先の記憶を、自身の血を通じてつないできたのでしょう……」
そして、つい最近関わった姫と自分を重ね合わせたのだった。 彼女もまた自分の祖先の無念を晴らそうとしていた…自分の中に流れる血と、そこに宿る記憶をたどったことによって。
「……もしも、あなたと旅をしていなかったら、僕も、あの方と同じことを、していたかもしれません」
セルフィスは、ある種の可能性についてそうつぶやいたのだった。
そうして、4人はその日はベクセリアの町に泊まることにした。
「考えてみれば、ほこらで幽霊に遭遇してその願いを叶える……のは昨日のことだったからいいんだけど、そこからが怒濤だったんだよな。 どっかへいった王様の幽霊を追っかけてガナン城いってギュメイ将軍と再会して王と戦って……よくまぁこれだけのことを一日で終わらせたよな……」
「たしかに」
実はガンベクセン王を追いかけて倒すまでのこと、そしてルーフィンからある真相を聞かされるまでのことすべては、本日行われたことである。 さすがにこれだけのことを一気にこなすとなれば、疲労は半端ではない。 なので、このままベクセリアで泊まることにしたのである。 ちなみに宿泊先は、セルフィスの実家である町長の家だ。
「………」
そこで夕食をごちそうになり風呂にも入り、3人は来客用の部屋で泊まることになり、セルフィスは久しぶりの自分の寝室で眠ることになった。 そうして彼らは安心して一晩休むことができるのだが、夜になってクルーヤは一人目を覚まし、バルコニーに出て物思いにふけっていた。
「………イアンもフィリスもセルフィスも、みんな背負ってるものとかあるのね………」
イアンは過去に自分の失態により両親も積み上げた実績も全部なくしており、セルフィスは自分の故郷の秘密を知りそこには実姉の死も関係していた。 フィリスに至っては、そもそも彼女の正体の時点でふつうじゃないし、その後たどった運命は重い。
そんな仲間達と自分を比べて、クルーヤは重いため息をついた。
「私はそういうのが……ないんだなぁ」
「お前はそれでいいんだよ」
そうつぶやいた次の瞬間、背後から声が聞こえてきたので振り返ると、そこにはイアンがいた。
「わ、イアン聞いてたの!?」
「おー、まぁな……あいつらは寝てるけど」
「……うん、寝かせてあげて」
独り言を聞かれた、それはもう仕方のないことだと観念したかのようにクルーヤは、言葉を続ける。
「私……孤児、ではあるけど……育ての親もいるし……友達もいるし……。 私って過去にそんなに苦労を背負ってないなぁ……って、みんなをみて思っちゃったの」
「…………」
「もちろん、そういうのって比べるもんじゃないのは……わかってるんだけどね」
「あったりめぇだろ」
クルーヤの言葉にイアンはハッキリとした言葉で返して、話を続ける。
「それに、同じ苦しみを背負ってほしいなんて思わないぜ。 オレはもちろんだけど、フィリスもセルフィスも、自分と同じくらいの苦しみを誰かに背負ってほしくないし、背負えばいいなんて少しも思わない」
「……イアン……」
「一応、お前が自分とオレ達の過去を比較してなにを思っていたか……それはだいたいの予想はつく。 オレ達の苦労を自分は同情しかできないのが、お前には苦痛なんだろ?」
「……うん……」
クルーヤが自分と仲間の過去を比較して、なにに思い悩んでいたのか。 それは、自分は仲間のつらい過去を知っていても、それにたいして可哀想だと思いこむことしかできないことだった。 自分で体感したわけでもないのに恰も共感している、単なる同情にほかならないことにクルーヤは自分で気付いていた。 彼らの抱えているものは重いものであるのに変わらないし、助けになりたいのに、同情しかできない自分がもどかしいのだ。
「気持ちは分かる、という安っぽい同情しかできない自分が……なんかイヤで……私はどうしたらいいのか、たまにわからなくなるの」
「……お前にとって、オレ達は大事な仲間という気持ちはあるのか?」
「そんなの、当たり前よっ!」
イアンの問いにたいし、クルーヤは強く反発した。
「だったら、お前はこれからも、お前にできることをやって……オレ達をしっかり支えてくれればいいさ。 そして、オレ達のことを仲間として大事してくれれば、オレ達は背負うものを重く感じないですむ。 それで、十分な助けになってるんだからさ……お前も、自信持てよ」
「……うん!」
そうイアンにいわれ、クルーヤは明るくうなずく。
「私これからも、みんなに襲いかかる魔物やわるいやつを、魔法でバンバンぶっ飛ばして、みんなを助けるからねっ」
「おう、その意気だぜ! お前はそこにいるだけで、頼もしいんだから……魔法の腕前が、さらに磨きをかけてるんだからよ!」
「ふふっ、ありがと!」
クルーヤは、自分の迷いをはらして笑って見せた。
そして、翌日。 朝食を用意してくれたというので全員で食卓に向かう。
「みなさん」
「セルフィス」
そこへむかう途中、フィリス達は自室から姿を見せたセルフィスと合流した。 セルフィスは昨晩、自分は将来的にどうしようかを一人で考え、そして答えを見つけたことを打ち明ける。
「一晩、ずっと考えて決めました……。 僕は、いつか……この町を守る地位を、受け継ぎたいとおもいます」
「本当か!?」
「はい。 だけど、受け継ぐのは……その瞬間は。 父上が僕にそのことを告げたとき、正式に発表された時です」
そこには、ガンベクセンとガナサダイのことを重ねていた。 自分は自分だけの意志で、人の上に立つことをしないこと。 そして人の上に立つには先人の許可と認定をもらうことにしたこと、人の上に立ったからには果たしたいことなどをはなした。
「……僕……ベクセリアの新町長になったら、この町を支えたいのです。 ほかのみなの助けを受け、みなを信じ……多くの人の心を救う人に……なりたいです」
「……セルフィス……」
「僕は、そのときのために……己を律していきたいと思います……みなさんとともに……引き続き、貴女方をお守りし……己を精進し続けることを、ここに誓いましょう」
そういってフィリス達の前にセルフィスはひざを折り頭を垂れた。 そんな彼の真剣な姿勢にたいし、まずはイアンが動き出してセルフィスの頭に手を置きぐしゃぐしゃとなでてその緑色の髪を乱した。
「わわわっ!!」
「大げさだし、かたっくるしぃんだよ!」
「そうよ、私達……仲間じゃない! 一つのパーティじゃない! 今更そんな挨拶いらないわよ!」
「あたしらは、あんたを信じてて……頼りにしてんだからな……!」
イアン、クルーヤ、フィリスのそれぞれの言葉を受け、セルフィスははにかんだ。
「はい……!」
そして、その様子を、セルフィスの両親はあたたかく見守っていた。
「セルフィスは、いい人に巡り会えたのね……」
「……うむ、ああして人に信頼され、強く思われる存在……それもまた、人を率いるものの器の証だ。 ……エリザのいっていたとおり、あいつは、いつかいい町長になれるだろう……」
「ええ、私もそう思うわ」
次回はおまけ話のようなものです。