サンマロウで魔物に連れ去られたティルを救出したフィリス達は、ティルを無事に町まで送り届けた。 その際、弱まっていた町の守りを、セルフィスを中心とした聖職者達が祈りを込めて清めたことで、強めたのであった。
「ティルを助けてくれた上に、町を清めてもらって……もう感謝の言葉しか言えないぜ」
「ありがとう、フィリスさんにみんな!」
「無事でよかった……これからは、気をつけてくれよ」
「うん!」
清めが終わった翌日、フィリス達はティルとそう言葉を交わして、サンマロウの町を後にした。 まだ凶暴な魔物が現れた原因もわからない今は、町の外にでないように勧めて。
「ふぅん、その宝石をねらう魔物……ねぇ」
「うん」
そして一同はアギロホイッスルを使い天の箱船に戻り、例の宝石のことと魔物のことをアギロに話した。 そうして今世界に起きている、エルギオスとはまた別の異変をアギロは知る。
「なにか、わかりませんか?」
「……いや、わかんねぇな……俺も今、世界に起きている異変を知ったところだ。 宝石のことだって、同じだ」
「そういえば、アギロさんには言ってなかったな……」
実のところ、フィリス達もこの宝石がなんなのかはわかっていないのだから、説明のしようがないのだ。 当初は、旅の資金に困ったときに換金するために持っていようと決めていただけだったから。 だが、破片同士が近くにあるとくっついてひとつの宝石になることや、魔物がねらっていることなどから、やはりただの宝石ではないようだった。
「あたしにも、この宝石が持ってるチカラがどんなものかはわからねぇ……だけどっ」
その宝石をみていたフィリスは、つぶやく。
「こいつをねらっているのが、あんなあくどいヤツらだったら、絶対にこの宝石をわたせねぇ。 それだけはわかる」
これがただの宝石でないと決定づけた、先の件のことを思い出しているようだ。 このまま宝石を渡していたら、さらわれたティルだけでなく、サンマロウの人々が犠牲になっていたかもしれない。 今後も同じことがおきたとしても、決して宝石を渡すことなく魔物は倒すべきだとフィリスは言う。
「そうね」
「そうですね」
「そうだな」
そのフィリスの言葉に、クルーヤとセルフィスとイアンは力強くうなずく。 そして、イアンは今後の目的を口にする。
「まぁ元から決めてはいたけれど……洞窟の地図を探し出して攻略して、いろんな依頼をききつつも、その宝石の謎も解明しようぜ」
「ああ」
「よし、こんな感じでいいかな?」
「お、だいぶ手慣れてきたじゃねぇか」
とりあえずその後は特にやることも急ぐ用事もないので、フィリスはアギロ指導の元、天の箱船の操縦を行っていた。 フィリスはすんなりとそれになじむことができ、アギロが思っていた以上に教えが進んでいた。
「だてに天使界一の天使の弟子じゃない、ってことだな」
「はは、ある意味ではイザヤールお師匠様のご指導の賜、かもね!」
そう師匠のことを思い出しつつも、フィリスはふとある違和感を抱いて、アギロの方を向く。 自分は師匠のことを、アギロにはなしたことがなかったからだ。
「というかアギロさんに、お師匠様の話ってしたことあったっけ?」
「ああ、オレも話だけはきいたぜ」
「いつのまに耳に入れてたんだよ」
「アギロの旦那、侮れねーな……」
「あまり気にしすぎると体に毒だぜ、さぁ指導を続けるぞ」
アギロは自分のことを多くは語らない、少し疑問をいだけばこうしてはぐらかされる。 そうして疑問を抱きつつも天の箱船の指導を受けたフィリスは、それが終わったあとでサンディに声をかける。
「サンディ、今指導が終わったよ」
「ああ、おつかれさまー」
フィリスのその報告をきいたサンディはそう軽く返事を返しつつ、ふと思っていたことを口に出す。
「そういやさ、アタシずーっと思っていたことが、あるんだけどさ」
「ん、どうしたんだ?」
「フィリスは、アタシのことを先輩と呼ぶべきだとおもうのよね」
「はい?」
唐突すぎるサンディの提案に対し、フィリスはすっとうきょんな返事をしてしまった。 どういうことだよ、とフィリスが問いかけると、サンディは自分を先輩と呼ぶべき理由を語る。
「だってアタシはさ、ずーっと前から天の箱船のバイトじゃん? で、あんたはピチピチの新人ちゃん。 つまり、フィリスはアタシのことを、サンディ先輩って呼ぶべきだと思った……というわけなの!」
「そ、そーゆーもん?」
「そーゆーもんなの」
理由を説明されても、いまひとつ理屈がわからないフィリスは顔をひきつらせる。 そこに、仲間達が流れるように合流してきた。
「なんだなんだ、なにか新しい遊びか?」
「なにをなさっているんですか?」
「うわ、みんなきた」
「なによその反応」
「こっちは遊びなんかじゃなくて、真剣な話をしているんですケド」
サンディはフィリスにたいし、自分をセンパイと呼んでほしいと話をしていたことをイアン達に打ち明けた。
「先輩、ねぇ……」
「そういうわけだよ! じゃ、早速先輩ってよんで! よんで!」
「…………」
そう頼み込むサンディに対し、フィリスは頭をポリポリかきながらも、サンディの方を見て頼まれた呼び方をする。
「センパイ?」
「もっと!」
「サンディセンパイ!」
そうフィリスが大きな声で呼ぶと、サンディはうれしそうに笑った。 それは、優越感からくるものだった。
「ふっふふふふふ……! いい! センパイって呼び方、すっごくいい気分!」
「いいのか、これで」
「じゃあ、センパイからの愛あるメッセージをきいてね! これからセンパイであるアタシの言うことは、なんでもきくコト!」
「あー、はい?」
サンディの唐突な言葉に対し適当に返事をするフィリス。 そんなフィリスをイアン達は遠目に見ていた。
「じゃ早速だけど、焼きそばパンかってきて! 5秒以内ね!」
「はっ?」
そんなありきたりな命令あるか、というかそれは命令というかパシリだろ。
フィリスはそんなことをおもいながら、カウントダウンをするサンディをジト目でみる。 サンディは、そんなフィリスの表情にすぐに気がついた。
「なにその顔。 やだぁ、ジョーダンに決まってるでしょ! アタシ、ダイエット中だもん。 焼きそばパンとかいらないしっ!」
「ダイエットしてなかったら買わす気だったのかよ」
「つーことでこっからマジ話ね」
「つーとこでで流したわね」
「実はさ、アタシ今着てるこの服にちょっと飽きてきちゃってさ……新しいのにしたいんだよね」
「なるほど?」
「ということで、センパイから愛の命令! アタシの新しい服を作るための材料を、集めてきて!」
そんな漫才のような会話をしつつ、サンディはフィリスにある頼みごとをしてきた。 これは、依頼の一環と言うべきだろう。
「材料は、4つ! ちょうのはねと、レインボーチュチュと、ゆめみの花! そしてミスリルこうせきをひとつずつね!」
「どういうファッションになるつもりだよ」
「それは後のお楽しみ、これを全部集めてくれたら、アタシの秘密をおしえちゃうから! そんじゃ、よろしく~~!」
そうして、フィリスはサンディの頼みを聞くことになってしまった。 隣で話を聞いていたイアン達に、サンディのほしいものの話をしてみると、イアン達もサンディの願いを叶えるのに協力すると言ってくれた。
「一応全部、地上をまわれば手に入るものばかりですし……がんばりましょう」
「しゃーない、さっさと集めてきちゃおうか!」
そう話を合わせ、4人はまず地上に降りた。 元々錬金素材のために持っていたゆめみの花やちょうの羽、ミスリルこうせきは持っていたので、あとはレインボーチュチュだけだ。 確かセントシュタインの店でみたことがある、という話を聞いて店に行ってみたところ、打っていたのはカラフルチュチュという服だった。 最初はにたような服かと思えば、どうやらこれを錬金することでレインボーチュチュが作られるらしい。 さっそくその服を購入してリッカの宿屋へ向かい、錬金釜のカマエルにそれを作ってもらう。
「お嬢様のお頼みとあればこのカマエル、いくらでも錬金をしましょう!」
と、言葉を話せる不思議な錬金釜・カマエルは語った。 彼の協力のおかげで無事に、サンディの望みの品が手に入ったのであった。
「にしても、これがレインボーチュチュか……ハデだなぁ。 あたしはこれきろって言われたらムリだわ……」
「そう? 私は全然いいわよ」
ハデでふりふりな服は、フィリスの好みではなかったようである一方、クルーヤは興味津々だった。
「なんかあげちゃうのもったいないなぁ……」
「クルーヤってこういうのホントスキだよな」
「いいじゃない、私だって女の子だもんっ! フィリスはそういうのに疎すぎ……というか興味なさすぎよっ」
「あたしはいいよ」
女の子らしい格好を拒み続けるフィリスに対しクルーヤはそういうが、フィリスは再び断った。 そんな2人のやりとりを見ていたイアンは、話を進める。
「まぁ入手方法がわかっているんだったら、また手に入れればいいだけだ。 今回は先約に渡してやろうぜ」
「そうね」
イアンの言葉にクルーヤも納得し、4人はレインボーチュチュを天の箱船へと運んでいったのだった。
「お、やるねぇ! 全部集めてきてるじゃん!」
「まぁなんとかな」
「それじゃ、早速もらうよ!」
「どうぞ」
そういってフィリスはサンディに、頼まれたものすべてをプレゼントした。 それを受け取ったサンディにたいし、イアンは問いかける。
「もらうだけか?」
「ここで着替える訳ないでしょ! えっち!」
「えっちって……まさか僕達のことですか!?」
「ああ、オレらだろうな……」
男である自分たちのことを言われたと気付いたセルフィスは軽くショックを受け、イアンは苦笑する。 彼らにはサンディに対し性的なものはいっさい感じていないし、のぞく気もなかっただけになおさらだ。 そんなイアン達に対し苦笑いをするフィリスとクルーヤにたいし、サンディは上機嫌で言う。
「んじゃ、これからもすばらしきセンパイ……サンディ様の言うことをよーくきくように!」
「はーい」
そう軽く返事をして、この日の依頼は完了としようとしたそのとき、フィリスは立ち去ろうとしたサンディを呼び止める。
「まった!」
「ん、なによ?」
「ひとつ、忘れてますぜセンパイ」
「忘れてるって……ああ、アタシの秘密を教えるって約束のこと?」
サンディがそう問いかけると、フィリスはコクコクとうなずいた。 それで約束のことを思い出したサンディは考え込みつつも口を開いた。
「んー……実はね。 アタシ……今は、こんなトコでバイトなんかやってるんだけど……」
「うん」
「………アタシ……アタシは……本当は……ネ………………に……」
「ネ? なに、ネって」
サンディらしくない、歯切れの悪い言葉に4人が食い入るように耳を傾けていると、サンディはあわてて首を横に振る。
「や、やっぱ恥ずかしい! ま……また今度ねっ!!」
「あ、ちょ、サンディ!?」
「センパイをつけなさい!!」
「サンディセンパイッー!」
フィリスはそうよびなおして呼び止めようとするが、サンディは止まることなく奥の車両へ飛んでいってしまった。 残された4人はポカンとしてしまい、奥にいたアギロはため息をつく。
「なんか、メンドクセーことになったな……」
「うん」
「このままで大丈夫でしょうか………」
「でもきっと気まぐれだし、長続きしないわよ……彼女も気分が変わって飽きるかもしれないし、それまで付き合ってあげましょ」
「クルーヤ、なにげにヒドいぞそれ……」
クルーヤの言葉に対しイアンがそうツッコミを入れるのだった。 そうして彼女たちはしばらく、サンディを先輩とよぶことになったのであった。
「あれ、というかオレ達も、サンディをセンパイと呼ばなきゃならなくなってる?」
「いつのまに……」
というわけで、フィリスとサンディは先輩後輩の関係になっちゃいました。
そしてすっかり忘れていた、サンディの秘密の話にも転がっていきます。