戦士クエストとかよりはずっとマシな気はしますが。
「おはよー……」
「おー」
朝、天の箱船の中で一晩を過ごしたフィリス一行は目を覚まし、一カ所に集まった。 朝食として彼らは、セルフィスにきってもらったりんごを食べながら、昨日のことを振り返る。
「なんだかんだで、あのあと天の箱船で寝ちゃったんだよな……」
「ああ」
「今日もあたし、サンディをセンパイって呼ばなきゃならないんだろうな」
「みたいだな……そういえば、サンディは?」
「さっき、お化粧をしにいったわ」
そうサンディのことを話していると、誰よりも早く目を覚まして運転士の仕事をしていたアギロが声をかけてきた。
「そうだフィリス。 俺からお前にひとつ、提案があるんだが」
「どしたの、アギロさん」
「お前も中々に天の箱船の運転が板についてきたことだし……正式に天の箱船の運転士の試験を、受けてみないか?」
「え?」
「天の箱船って、運転士試験があったんスか!?」
アギロからの突然の申し出にフィリスはきょとんとし、そもそも試験が存在していたことにイアンは驚きツッコミをいれる。 そんなイアンにたいしアギロがあるんだなこれがと返していると、フィリスは頭をポリっとかいた。
「あたしにできるかねぇ?」
「なぁに、お前ならやれるはずだ。 俺の試験を受けて見ろ、な!」
そうアギロに笑顔でいわれ、フィリスは迷うが、ふと視界に入った仲間達がうなずくのを見て、フィリスは試験を受けることを決める。
「じゃあ、あたし……やってみるよ!」
「よしきた!」
フィリスが試験を受けることを決めたことで、アギロも気合いが入ったらしい。 彼女に試験のルールを説明しようとしていたら、そこにサンディが割り込んできた。
「ねぇねぇテンチョー!」
「さ、サンディ………センパイ」
「その運転士試験、アタシも受けたい!」
サンディは運転士の試験に興味津々のようだ、堂々とフィリスより前でにでて、アギロに告げる。
「ほら、アタシのがフィリスよりもキャリア長いじゃないッスか。 アタシのが試験受けるの、先でしょ!」
「…………」
「旦那?」
だが当のアギロの表情は厳しい。 そんなアギロにイアンが心配そうに声をかけると、アギロはサンディを厳しい目で見つめながら、重々しく口を開く。
「サンディ。 お前もう、天の箱船のバイト、やめろ」
「!?」
「はぁ? 何スか、それ。 テンチョーの冗談笑えないッス」
突然のリストラ宣告に一同は驚き、サンディはちゃかすようにいうが、アギロに答えを帰る気配はなく、冷たく厳しい態度でサンディにさらに言葉を突きつけていく。
「冗談でも何でもねぇ。 俺は本気だ。 今日限り、お前は天の箱船のバイトはクビだ」
「えっ」
「忘れたのか? お前はいつまでもフラフラ、バイトしてていい身分じゃあねぇだろ」
「それは………そうっスけど……」
「バイトごっこはもう終わりだ。 自分のやるべきコトを思い出せ。 待っているお方だって、いるんだろう?」
アギロの言葉に対しサンディは戸惑いながらも、反発する。
「そりゃ、アタシだって………ネ…………に……って………忘れたワケじゃないッスけど……。 でも……! そんな、いきなり……!」
「サンディ!」
アギロが怒鳴ると、サンディはその身を震わせ、アギロに向かって叫ぶ。
「……の……テンチョーのばかーっ!!!」
「あ、ちょセンパイ!?」
そう叫んだ後、サンディは箱船の奥へ猛スピードで飛んでいき、やがてガシャンという重い音が響きわたった。
「どこいっちゃったのかしら」
「サンディのやろう、気に入らないことがあると、すぐに自分の部屋に閉じこもりやがる」
「部屋に……」
「あの部屋の扉は、神様でもなけりゃあけることはできねぇ。 自分から出てくるまで待つしかねぇな」
「そうなんですね……ん……?」
アギロの言葉に対し、セルフィスはなにかひっかかるものを感じた。
サンディとの一悶着がありながらも、フィリスはアギロから天の箱船の運転士試験の説明を受けた。 ルールとしては、受け取ったスタンプカードに、ある組織のスタンプを全部おしてもらうこと。
「天の箱船を操作しながら人間界にいる、カデスの星のメンバーを探す、かぁ」
「そもそも、カデスの星ってなに?」
「あー、実はさ」
運転士試験のために探し出す組織というのは、アギロが中心となり結成された、カデスの星という組織らしい。 だがその組織をフィリス達は知らない。 そこで、唯一その組織のことを知っているイアンが説明をする。
「ほら、オレってさ……みんなとはぐれたあとガナン帝国に捕まって、カデスの牢獄でずっと奴隷として働いてた……っつったろ? そこで一緒に捕まって、一緒に反乱を起こして脱獄したやつら……そんなに人数はないけど。 そんな彼らと、オレと旦那で、カデスの星という組織を結成したんだよ」
「そんなことをしていたんですね……」
「ということは、イアンもメンバーってこと?」
「まぁそうなるな……あと、脱獄に協力したとして、お前達も特別メンバーとしてカウントされているらしいぜ」
「いつのまに!」
特に会話も経験していないし知らされてもいないのに、いつメンバーに迎え入れられたのだろうか。
「とはいえ、一度カデスの星の結成をはなしただけで……今はどこにいるのかは、オレにもわかんねぇけどな」
「そうなのか……」
「まずは一つずつ町をあたっていこうぜ。 あいつらのことだ、町の中にいるだろうし」
「わかったよ……というわけで、天の箱船、うごけー!」
そういってフィリスは天の箱船を操りながら、ひとつずつ町を巡っていった。 まずはウォルロ村で一人、続けてベクセリアで一人……と、見つけていく。 サンマロウに立ち寄った際も一人を見つけたが、なぜここにいるのだと、衝撃を隠せなかった。
「はぁ……はぁ……ようやくスタンプ全部そろったぁぁぁぁ!!!」
「なんか知らないけど、全員分お疲れさん!」
そして、今。
フィリス達は最後の一人である、ウロツキーにたどり着きスタンプを入することができた。 人を捜したり多くの場所に足を踏み入れたりして、かなり疲れがたまっている。 そして、最後の一人のウロツキーは、まさかのカデスの牢獄の見張り台にいたのだ。
「にしてもあなた、どうしてこんなところにいるの?」
「いやぁ。 この牢獄が今、どうなってるのか少し気になってよぉ……」
ちらり、とウロツキーは墓地をみた。 そこはかつて、自分の働いていた場所だ。
「あそこに、この牢獄で死んでいったやつらが……今も眠ってるんだ。 オレはずーっと、あそこで墓を作っていた……数えるのがイヤになるくらいにな………」
「………」
「そこのことが、やっぱり気になってよ……。 もう誰がいるのか覚えてないけど、せめてキレイにはしてやりたいし、適当でも花でも手向けて弔ってやりたいし……ガナン帝国はもうないから、安心して眠ってくれとかいってやりたいから……時々であっても、ここにきてあいつらに話しかけたいんだ」
「……そう、なのですね。 ここは、負の遺産でもありますが……だからこそ、残すべきところなのでしょう」
そういって、セルフィスは自分も弔うといって祈った。 そんなセルフィスにたいしウロツキーは、ありがとうなと声をかけた。
そしてウロツキーは、もうすでに人の気配も魔物の気配もないガナン帝国城を見つめ、思ったことを口に出す。
「にしても、俺達をさんざんこきつかったガナン帝国も。あっちゅーまに滅んだよな……」
「…………」
「イアンも、どういう経緯で巻き込まれたのかはわかんねーけど、よくあの過激な労働に耐えたよな! 俺達の中じゃダントツに若いのに、こっそり抜け出すのも、俺達を助け出すのも……よくやったぞ!」
「あ、ども……」
当時の重労働ぶりや、兵士に変装して抜け出し仲間とともに帰還して脱獄のために戦うという、まさに無茶としか言えない作戦を思い出して、イアンは苦笑する。 結果としてガナン帝国と戦う運命にあったとは言え、自分は完全に巻き込まれたんだなとフィリスが思っている前で、ウロツキーは陽気に話を続けた。
「今度同窓会でもやりてぇな、もちろんこの場所で!」
「それでいいんスか」
カデスの星のメンバーが集まることは大歓迎ッスけど。 というイアンの話に対し、ウロツキーはいいじゃねぇかと豪快に笑いながら、さらにある話を持ち込んできた。
「そうだ、せっかくだしひとつ……おもしろい話をしてやるよ」
「おもしろい話?」
フィリスが首を傾げると、ウロツキーはカデスの牢獄にまつわる話を彼女たちにした。
「……大昔、この牢獄を作ったのは、サンドネラってヤツらしいんだ」
「サンドネラ?」
「オレ、聞いたことがあるんだよ……その名前。 ここの看守をしていたガナンの兵士達がはなしているのを小耳に挟んだんだ。
『サンドネラ様は、どうして蘇らないのだ。』
『サンドネラ様が蘇れば、ガナン帝国はもっと強くなれるのに。』
……ってさ。 ガナン帝国の関係者だとは思うけど、あそこにはいなかったみたいだぜ」
「………そう話をするってことは、結構ヤバイのかしら……その、サンドネラって人……」
サンドネラの存在は、初耳だ。 先ほど彼が口に出すまで、その存在の名前すら聞いたことがなかった。 兵士達がそう話をしているということや、牢獄を作らせたことなどから、サンドネラは帝国屈指の危険人物である可能性が高い。 4人がその存在に疑問を抱いている一方、ウロツキーは陽気な態度のまま話をする。
「よくわからねぇが、そのサンドネラってののおかげで、オレ達巡り会えたんだな」
「そんなまとめかたでいいのかな」
「サンドネラ、ばんざーい! カデスの星ばんざーい! カデスの星に栄光あれ!」
そう大声をあげて、サンドネラという存在とカデスの星にたいする参拝の声を上げるウロツキー。 そんな彼に対し、これでいいのかと苦笑いをするフィリス達。 イアンは、フィリスに今すべきことを告げる。
「あいつは今はそっとしておこうぜ。 今はスタンプを集めた証を、旦那に提出することを優先しよう」
「だな」
なにはともあれ、カデスの星のメンバーのスタンプを全員分集めきったのは事実だ。 これをアギロに提出すれば、フィリスは運転士として認められるはずだ。
「じゃあ、あたしらはもういくぜ!」
「ああ、アギロの旦那によろしくな!」
そう、ウロツキーに別れを告げて4人は、天の箱船に戻っていったのだった。
天の箱船に戻ってきたフィリス達をアギロは迎え入れ、フィリスが集めたカデスの星のスタンプが押されたスタンプカードを確認する。
「よし、スタンプ全員分そろってるから合格としよう! カデスの星に栄光あれ!」
「栄光あれ!」
アギロに認められ、運転士として認められた喜びから、4人は揃ってそう答えた。 アギロはフィリスの合格を自分のことのように喜びつつ、彼女にその証を与えようとしていた。
「お前に運転免許をやる……と、言いたいところだが」
「え?」
「その前に、サンディのヤツをよんできてくれ。 いくらなんでもそろそろ、あいつも落ち着いただろうしな。 頼んだぜフィリス」
アギロの叱責を受けてすねているサンディのことを思いだし、フィリスはそういえばそうだったと笑いつつ、彼女を呼びに行くことを決めてうなずく。
「そうだね、あたしも……サンディが気になるし! いいよ、いってくる!」
そう声をかけて、フィリスは箱船の奥へと向かう。 その奥の方には金色の装飾がほどこされた白い扉がり、鍵がかかっている。 これが、サンディの引きこもっている部屋なのか、と思いつつフィリスは扉をノックしてサンディを呼ぶ。 一応、センパイとつけながら。
「サンディーセンパーイ」
「なに、フィリス?」
「あのね、実はあたしさ!」
声からして、まだ落ち込んでいるのだろうかと思いつつ、フィリスは自分が運転士試験に合格したことを告げる。 これが追い打ちをかけたりしないだろうかという一抹の不安はあったが、本当のことはいわなければならないから。
「……えっ!? フィリス、運転士の試験……合格できたんだ! すっごいじゃん! おめでと!! あんたまじすごすぎだって!」
「へへ、ありがとな」
そういわれて、フィリスはまず安心した。 サンディは落ち込んだりフィリスを妬んだりせず、ただフィリスが一つのことをやり遂げたことを、まるで自分のことのように喜び、素直に賞賛してくれているからだ。 そして、サンディは扉越しにつぶやく。
「………そっか……」
「ん?」
「フィリスががんばってるのに、センパイのアタシが、いつまでもウジウジしてらんないね」
そしてサンディは、ずっと胸の内に秘めていた思いを打ち明けていく。
「あのね、フィリス……アタシずーっと前からかなえたい夢があったんだ。 でも、天の箱船のバイトは楽しいし、あんたと冒険するのおもしろいし……だから、後回しにしていたの」
「………」
「テンチョーが怒るの、無理ないよね。 こんなにフィリスだって………がんばってるんだもんね!」
その台詞とともに扉が大きく開き、明るい表情のサンディが姿を現した。
「決めた! アタシも本気出すよ! アタシ……アタシも! ……ネ…………に………!」
「それ、なんなんだよ」
以前からサンディがしきりに口に出す言葉にフィリスは疑問を抱き、今回もその意味を問いかけた。 だがサンディは真実を口にせず、首を横に振る。
「ううん、今はまだダメ。 ちゃんとやり遂げてから言うから!」
「……まぁ、元気になったなら今はそれでいいよ」
だがフィリスはムリにそれを問いつめたりはしない。 今はサンディが元気を取り戻してなにかを決心したことのほうが大事だから。 2人でアギロの元へ帰ろうと歩き出す。 サンディはそれにたいしうなずきつつ、フィリスにあることを告げる。
「あと、もうセンパイと呼ばなくていいよ」
「なんで?」
「もう立場逆転してるんだもん、あんたの方が偉いジャン! それに……センパイとかコウハイとかの上下関係みたいなもの、アタシらにはあわないでしょ? だから、いつも通りによんでねっ!」
「そっか。 なら、そうしようか!」
たった一日の先輩後輩関係がおわり、サンディはアギロの前できっちりと頭を下げて自分の甘さを反省し謝罪をする。
「しょーじき、アタシが悪かったッス。 もう、逃げないっす」
「なぁに、わかりゃあいいんだ。 頑張れよサンディ!」
「チョー楽勝だから、見てて!」
そのサンディの潔さやなにかの決意を受け取ったアギロは、満面の笑顔でサンディを励まし、それにたいしサンディも強気に笑う。 フィリス達は、そんな2人の対話を見守っていたのだった。
次回は、ちょっと事件発生です。
ひとつの話としてまとめるのは難しいです、ほんと。