もう何度目になるだろうか。
世界の破滅をねらうやつから、世界を守るためにまた戦います。
学者の依頼により、まぼろしの樹の謎を解明した一方でまた新しい謎を抱えることになったフィリス一行。 その翌日、セントシュタインをあとにしたフィリス達は、次の依頼をもとめて旅立とうとしていた。
「ちゃんと使っていかないと、運転手の腕がなまっちまう」
という理由で、フィリスはここのところ、ほかの場所への移動はルーラよりも天の箱船を利用している。 そのときイアンはふと、自分の隣にいたセルフィスのことが気になり、彼に問いかける。
「そういや、セルフィス。 お前もう体調は大丈夫なのか?」
「ええ、一晩休んだらすっかり」
彼らがリッカの宿屋で一晩やすむことになった理由は、このセルフィスにある。 セルフィスは謎を解くために難解な古代文字を解読していたのだが、徐々に顔色や空気が狂いだしていき、ついには倒れてしまったのである。 すぐに連れて帰り教会の人達に手当をしてもらったことで、セルフィスはこうして元気を取り戻したのである。
「ただ……」
「ただ?」
「僕……オンゴリの崖に到着してから気絶するまでの記憶がないんです」
それを聞いたとき、フィリスとイアンとクルーヤは硬直した。 あのときのセルフィスからは生気がまるで感じられなかったのだが、やはりあれはセルフィスであってセルフィスでなかったのだろうと直感で感じる。 一応あのとき何かを感じたシスターが、お清めをセルフィスにしてくれたのだが…どうやらそれは正解だったようだ。
「まぁ、あそこはワケありだから……ね?」
「………色々お察しします………」
その一言でなにかを察したセルフィスは、それだけを返した。 とりあえず全員の体調は万全と言うことで、まずは倉庫のチェックを行おうと、一同は車両の奥へと向かう。
「ヤバイよ~マジでヤバイよ~~!」
「サンディ?」
そんなとき、サンディがときたま引きこもっているという扉の前で、サンディがうなり声をあげているのに気づく
「このままじゃ世界が滅びちゃう……あいつが、外に出たら……やばいぃぃ~~~……」
「世界が滅ぶだって!?」
その一言にフィリスが大きく反応し、それによりサンディもまた、フィリス達がそこにいたことに気付いてフィリス達に飛びかかる。
「あ、フィリス! みんな! ちょうどいいトコにきたじゃん!」
「どうなさったんですか?」
「今、サイッコーにヤバイの! 破滅だよ!? 絶望だよ!? とにかく、中にいるヤツが出てきたら、世界が滅びちゃうんだよ!?」
「え、ええ!?」
「マジでヤバイからお願いっ! 中にいるチョーヤバイやつ、やっつけてきて!」
「なにこの急展開!?」
怒濤の勢いでサンディが扉の中にいるという、とんでもないものを倒せと依頼してきたのだ。 彼女のこのあわてようからして、冗談ではないと判断したフィリスは、仲間達と顔を合わせてうなずくと、サンディと向かい合う。
「とにかく、ここにいるんだな? その……世界を滅ぼすヤベーやつ」
「うん!」
「みんな、いくか」
「しゃーね! いっちょやったるかな!」
「見過ごすわけにはいきませんしね」
「世界を守るのも、慣れっこだものね」
そうして、サンディの望みを叶えるため、そして世界の滅亡を阻止するため。 フィリス達はサンディに開けてもらった例の扉をくぐるのだった。
「お願いだよ、絶対だからね!」
「まかせておけ!」
そしてここは、その扉の中。 そこには星空のような広い夜空のような、そんな空間が広がっている。 部屋とは言い難いその空間に、たたずむものがひとつ。
「クックックック……フォロボサーンも……フォロボッソも……フォロボセも。 皆倒し、魔空界はすでに、我がものとなった」
それは、太った肉厚の体に牙のそろった大きな口、ぎょろりとした鋭く赤い目、じゃらじゃらと無駄に豪華な装飾を身にまとった、一応ながらも女型の巨大モンスターだった。
「次は、この世界……!」
自分の経緯を独り言のように語ったその魔物は、自分のたどり着いた世界をみて、高らかに笑いながら名乗りを上げる。
「たたえよ、気高き我が名を! フォロボシータ!! 恐怖と邪悪を示す名を!!」
「うわぁー……」
先の独り言を含め、その名乗りも聞いていたフィリス達はジト目で目の前の大型モンスター・フォロボシータを見た。 そんなとき、フォロボシータはフィリス達の存在に気づき、声をかける。
「おーや? これまたかわいい子ネズミちゃん。 はじめまして」
「ね、ねずみぃ?!」
「クックック……またずいぶんとおいしそうな子だねぇ……クックック」
今回もまたねずみ扱いされ、フィリス達は不服そうな顔をした。 フォロボシータはフィリス達に対し笑い声を漏らしつつ、自分は別の世界からきたことを告げる。
「世界を滅ぼすためにアタシは、余所の世界からきたのさ」
「余所の世界だって?」
「さあ、魔空に君臨せし女神・フォロボシータの、最初の生け贄におなり!!」
そうフィリス達に告げるフォロボシータにたいし、フィリスはするりとほしくずの剣を抜きながら、問いかける。
「イヤだ、と言ったら?」
「あたしの命令は絶対だよっ! ということで逆らうのなら……あたしが直に食ってやる!」
やはり、イエスでもノーでも結果は変わらない。 だったら、自分達で結果を変えてやる。 という勢いで全員武器を構えた。
「っへ、自己中だなぁブスッ!」
「ホント、性格の悪さがそっくりそのまま外見に出てるわね!」
「不届きものは、浄化するまでです」
戦いの火蓋は、ここで切っておとされた。
「はぁっ!」
「ふんっ!!」
まず飛びかかったのはイアンであり、棍を大きく振り回しながらフォロボシータにつっこんでいく。 氷結らんげきという技だ。 それをフォロボシータは杖で防ぎながら、大きく振り回してイアンを吹っ飛ばす。
「うわぁぁ!」
「イアンッ!」
「くっそ、なんて馬鹿力だよっ……」
イアンは立ち上がろうとしたが、そこで真上からいくつもの流星が降り注ぎ一同を一斉に攻撃する。 そこでおいうちをかけるようにフォロボシータはマヒャドを放ってきた。
「アッハハハハハ! どうだいどうだい!!」
「よくも、やってくれたわね! メラゾーマッ!!」
「ぐぁぁぁぁ!!」
そこでクルーヤは反撃としてメラゾーマを放ち、その炎がフォロボシータを包み込む。 そこでセルフィスがさらにイオナズンを放って、フォロボシータを追いつめていく。
「どうよ!」
「こざかしいね! こいつでもくらいな! マホトーンッ!」
「なっ……」
そこでフォロボシータは魔法を操る二人がやっかいであると判断し、マホトーンを唱える。 それによりクルーヤの魔力が封じられてしまった。
「しまった……」
「おかえしだよっ!」
「きゃぁああっ!!」
魔法が使えなくなり焦るクルーヤにたいしフォロボシータは杖で殴りかかり、彼女の体を吹っ飛ばした。
「クルーヤっ……」
「……ぅっ……」
あの攻撃が痛恨の一撃だったようであり、クルーヤはそこで気を失ってしまった。 なんとかマホトーンを回避できたセルフィスがクルーヤにかけより、回復魔法をかける。
「てめぇ……ゆるさねぇぞ!!」
クルーヤのことをセルフィスにまかせ、フィリスは剣を握りしめてギリッとフォロボシータをにらみつけた。
フィリスが自分とイアンにバイキルトをかけ、二人がかりでフォロボシータに直接攻撃をしかける。 それをフォロボシータはその身に受けるが、倒れることはなく反撃でマヒャドからの流星を放ってきた。 その中でイアンは相手につっこんでいき、とうこん討ちをたたき込む。
「ぐぁぁぁ!?」
「どうだ!」
それを受けたフォロボシータはうなり声をあげるが、すぐに杖を振り回してイアンを攻撃する。 それをしっかりガードして受け止めたイアンは後方に吹っ飛ばされながらも着地し、体勢を立て直そうとする。 それに続いてフィリスがはやぶさ斬りを繰り出し、フォロボシータを切り裂いた。
「よし!」
「なめるなぁぁ!!」
「うわぁぁぁ!」
フォロボシータはマヒャドを放ちフィリスを攻撃し、自分との距離ができたところでめいそうを行い自分の傷を回復させる。
「クッ……!」
「ベホイムッ」
そこでフィリスのマヒャドによる傷が深いと気付いたセルフィスは、フィリスに回復の魔法をかけて彼女の傷を消す。 それで傷が癒えたことに気付いたフィリスは、再びフォロボシータにつっこんで、再びはやぶさ斬りを繰り出した。 フォロボシータはフィリスに攻撃を仕掛けようとしたが、そこでイアンが飛び出してばくれつけんを放ちフォロボシータをボコボコに殴る。 だが直後に二人とも、フォロボシータの杖による攻撃を受けてしまった。
「……うぅ………」
「クルーヤさん、気がつきましたか」
「セル、フィス……」
そんなとき、セルフィスの腕の中で気絶していたクルーヤが意識を取り戻した。 紫色の瞳を何度も瞬きさせながら、クルーヤは今の状況を確認する。
「みんな、は………」
「敵……フォロボシータは、まだあそこにいます。 今は、あの二人が戦ってくださっています」
「……!」
それを聞いて、クルーヤは戦っている彼らをみる。 そして、しばらく眠っていたからだろうか、自分の魔力が戻ってきていることにも。
「やらなきゃ! セルフィス、力を貸して!」
「しかし、貴女は……」
「大丈夫よ、もうマホトーンは消えたわ! 私だって戦えるもの、このまま黙っていられないわよ!」
「……そう、ですね」
無茶だろうと思ったセルフィスだったが、クルーヤが真剣な表情でそう伝えてきたので、彼女も戦わせようと決めうなずく。 そしてセルフィスはまず弓矢を構え、その弓矢をフォロボシータの顔面めがけて放つ。
「メラ……ゾーマ!!」
その矢がフォロボシータの顔に見事命中したところで、クルーヤはメラゾーマを放ち再びフォロボシータを火だるまにする。
「クルーヤ!」
「今よ……この力でガンガンせめて! バイキルトッ!」
そして、彼女達にかかっていたバイキルトの効果が切れかけていることに気づき、クルーヤは再びその魔法をかける。 それにたいしフィリス達はうなずき、炎の中でもがくフォロボシータにつっこんでいく。
「ぐぁぁぁ!」
「させねぇよ!」
その炎を振り払い再び力を解き放とうとしたフォロボシータに、イアンはとうこん討ちを放つ。 その一撃を受けたフォロボシータはぐぇ、と醜い声を上げ体勢を崩し、そこにフィリスが飛び込んでいった。
「ハァッ!」
「なっ……」
「つらぬけぇっ!!!」
そう叫び、フィリスはフォロボシータの顔面に剣を突き刺した。
「アァァァァァァァァーーーーーッ!!」
瞬間、その切れ間から怪しい色の煙を出しながら、フォロボシータは断末魔をあげた。
「な……なん、て……ことだい」
フォロボシータが体勢を崩したことで、フィリスは着地する。 自分の命がつきようとしているなか、フォロボシータはつぶやく。
「魔空5きょうだいの、頂点にたつ……この、あたしを……フォロボシータを倒す、なんて……お前達、なにもの………」
「ハッ、世界を滅ぼそうとするヤツとの戦いには、とっくに慣れっこなんだよこっちはよぉ!!」
「ぐ……ごふっ!!!」
フォロボシータの言葉に対し、フィリスはそう強く言い返した。 その直後にフォロボシータは息絶え、この世から消滅した。
「さっきのセリフ、オレらだから言えた感があるよな……」
「そうね……」
フィリスの言葉に対しそう感想を漏らしていると、静かになったことでなにかを察したらしいサンディが、扉を開けてその空間に入ってきた。
「………おわった?」
「ええ、敵は消えました……もう大丈夫ですよ」
そう、セルフィスがサンディに笑いかけると、世界滅亡の脅威が去ったことを実感し安堵の笑みを浮かべながら、フィリス達に礼の言葉を言う。
「ありがと、みんな! マジでヤバイやつだったでしょ? 倒してくれて助かったわー!!」
「そいつはいいんだけどさ、なんであんなのが急に出てくるんだよ」
そもそもの疑問だった。 こんな場所は知らないし、神聖なものであるはずの天の箱船の内部…あの扉の奥にあんな危険物が存在しているなど、想像できないしそんな話も聞いたことがない。 なのになぜ、ここにそのようなものが出現してしまったのか。 フィリスが問いかけると、サンディはぽつりとつぶやいた。
「実はね、アタシ。 とうとう………ネ…………に……」
「え?」
「あ、ううん! なんでもない! とにかくちょっと、実家に帰ろうとおもってさ………」
「実家あるんだ」
その突っ込みを受け流しつつ、サンディはあの魔物を呼んでしまった理由について語る。
「久々にこの通路を動かしたら、手違いでなんかとんでもないところにつながっちゃったみたいで……ちょーキモくてちょーヤバイの出てきちゃうし。 マジあせったわぁ」
「そういうことだったのか……この通路って、なんなんだ?」
「うーん、旅の扉ってやつ? 今じゃあまり見かけない気もするケド」
この部屋と、奥にある光の渦。 それについてサンディはそう説明しながら、この場所が無事に自分の実家につながっていることを確認する。
「うんうん、今度は大丈夫みたい! じゃ、アタシは実家にかえってくんね! いってきまーす!」
「あ、サンディ!?」
まだ話は終わっていない、とフィリスはサンディを呼び止めようとしたが、すでにサンディは渦の中に消えていってしまった。 残された4人は、ポカンとする。
「……行っちゃった」
「ああ……いっちゃったな」
どうしたものか、と戸惑っていたそのとき、フィリスはあることに気づき絶叫をあげる。
「あぁぁぁぁ!!!」
「フィリス!?」
「どうしたの?」
「なにがあったんですか!?」
イアンとセルフィスとクルーヤはあわててフィリスの方をみると、フィリスは自分の剣を指さして、今の状態を伝える。
「………ちょっと、剣にヒビはいったんだけど………」
「うわ、まずいじゃんそれ! 大事なもんだろ!」
「うん……」
彼女の今愛用しているほしくずの剣は、ただ珍しく、貴重な剣というだけではない。 フィリスにとっては、今なお尊敬してやまぬ大事な師匠の形見なのだ。 とても大事なものにとんでもない傷が付いてしまったことに、フィリスはショックを受けたらしい。 これでは、折れるのも時間の問題だろう。
「……仕方ない、地上の鍛冶屋にでもみせるよ……」
「え、でもそれって……天使界のものよね? 地上でなんとかなるの?」
「わからん!」
「おい」
だがこのまま落ち込んでても仕方ないと感じたのか、フィリスはそのうちなおしてもらおうと決め、気持ちを引き締めなおした。 そして、意識はサンディがくぐった旅の扉に目を向ける。
「それよりも。 ねぇ、サンディの実家? に続く道が残ってるんだけど……どうする?」
この道は、開いた本人曰く実家につながっているそうだ。 この道を使った先にあるというサンディの実家と呼ばれる場所。 そこにいけば、自分達がずっと気になっていたこと、その真実にたどり着けるかもしれない。 そう思った一同は、決めた。
「いくしか、ねーか」
「でしょうね」
「サンディさんのこと、気になりますしね」
「よし、いくぞ!」
そう声を掛け合い、4人はサンディの実家と呼ばれる場所へ向かったのだった。 ただ、今は真実を知りたくて。
フィリスのあの剣、どうなるのかも見ものですが…まずは、サンディの正体からいきましょうか。
私も色々思うところはありますが、それは次回のあとがきで語ろうと思います。