そして、ようやく登場するあの人。
サンディの秘密が明らかになった、その日の夜。 フィリス達は偶然立ち寄った村で一晩、眠りについていた。
「………ここ、は………?」
そのときフィリスは、不思議な夢を見た。 自分が今いる場所が夢の中であると認識するのに時間はかからず、その景色を見てすぐにこれは夢だと気付いた。 ただ、今自分がいるその場所がどこかまでは、わからなかったが。
「イアーン、セルフィスー、クルーヤー! サンディー! いるなら返事をくれー! ……って、誰も返事するわけねーか」
フィリスは自分の行動に軽くツッコミを入れると、その景色をただ一人で見つめた。 地面は草の感触が残っているが、空は黒一色だ。 こんな寂しい空間に一人でいる、と、夢とは言え現状を改めて理解し実感したフィリスは、ポツリとつぶやく。
「………ひとりきり、か…………」
仲間達がずっと自分のそばにいたから、気にしていなかった。 だがこうして改めて一人だけになると、急激に寂寥感や孤独感におそわれる。 星空も見えないから、より強く感じてしまうのかもしれない。 一度、気持ちが沈みそうになったが、ここは夢の中の世界でしかないと思い、首を強く横に振る。
「まぁでも、夢だからヘーキだ……し……?」
そう笑って誤魔化した、その瞬間。 空にぽつぽつと小さな光が一つずつ灯っていく。 星か、とフィリスが呟いた直後、その星は一斉に流れていった。 その景色を見て、フィリスは目を大きく見開く。
「……ほし、ふぶき……!?」
世界を滅ぼそうとした堕天使との決戦の日を、思い出す景色だった。 天使達が一斉に星になり、永遠の救済を得たあの夜。 空に上っていく天使だった星達。 その光は、ずっとフィリスの記憶にとどまっている。
「なんで今更、この光景をあたしは夢でみてるんだ……?」
そんな疑問をフィリスが抱いた、そのとき。 彼女の目の前にローブをまとった女性が現れた。
「あなたは………」
何者かと問いかけようとしたフィリスに答えることなく、ローブの女性は白い翼を大きく広げ、全身から強い光を放ちそこから消えた。 その眩しさに一度目を閉じたフィリスだったが、光がやんで目をあけたのと、眠りから覚めたのは、同じタイミングだった。
「……………ああ………そう、だった…………。 さっきまでのは、夢………だったな……………」
「おはよーー」
「おはよう」
「ようっ」
「おはようございます」
ベッドから起きあがって仲間の顔を見て、フィリスは安堵する。 やはり彼らがいると安心できるし、自分は確かに強くいられる気がしたのだ。 だがそのとき、仲間達の表情に気づきそこに一言言う。
「あれ、みんなねむそーだね?」
「おお、お前も人のこと言えない顔だぜ」
「だろーな」
やけに印象に残るからしっかりと覚えている夢だ、それが気になって仕方がないのである。 眠そうな顔になっているのも納得だ。 だが、ほかの仲間達も同じだとは思ってなかった。 どうしたんだ、とフィリスが問いかけるより早く、クルーヤが口を開いた。
「あのね、私……不思議な夢を見たの」
「不思議な夢?」
「うん……真っ暗な空に草原に、私だけ立っている夢。 誰もいないから私、必死にフィリス達を探したの……だけど、誰もいなくて」
「……」
「そうしたら突然、小さな光がポツポツと、いろんなところに浮かんできて……そのいっぱいの光達が一斉に、空にあがっていったの……まるで、あの時のように」
「……それって……」
「オレが見た夢と同じじゃん!」
フィリスより先にイアンが口を開いた。 それにたいしフィリスはえ、と声を上げて驚き、イアンとフィリスの視線が合う。
「……まさか、フィリス……お前も、同じなのか?」
「そういうイアンこそ………」
「なんだ、あなた達もこの夢を見たの?」
クルーヤの問いに対し、フィリスとイアンは頷いた。 そこに、セルフィスも話にはいってくる。
「その夢なら、僕もみました」
「セルフィスもか」
「はい。 僕の場合は、昔からあり得たことなので気にしてなかったのですが……皆さんが語る夢の内容と一緒だったので驚きました」
4人が同時に同じ夢を見る、そのようなことがありえるのだろうか。 そこでフィリスは、最後に翼をもつ女性の話をするべきだろうかと、一瞬迷ったものの、それ以上なにも話さなかった。
「まぁ、今となっちゃあたしらも……普通の人間っていうのはちょいムリがあるからな。 なんて言えばいいのかわかんねぇけど……いろんなことを経験しすぎて、4人とも同じ夢をみちまったのかもしれねーぜ」
「そうかもな。 ま、こういう不思議なこともあり得るってことでいいか。 弊害があるわけでもねぇし」
「そうね、もう私達いろいろ不思議体験しちゃったもの。 今更どんなビックリがきても動揺したりしないとおもうわ……たぶん」
天使を仲間にして各地で問題を解決させて、巨悪と戦い神とも出会い、ついには世界を救ってしまった。 元天使のフィリスだけでなく、本来は普通の人間であったイアンとセルフィスとクルーヤは、旅の経験故にもはや普通の人間ではない。 そんな自分たちの立場に苦笑しつつ、4人そろって同じ夢を見ることもあるだろうという話で片づけた。
「……本当に、そうなのでしょうか………」
そうして朝食のために部屋を出ていこうとする3人の後ろで、セルフィスだけが不安を覚えていた。 あの夢に対する不安だ。 セルフィスは、4人でともにみたあの夢は、ただの夢ではないと感じていたのだ。
「でも、皆さんを不安にさせるわけにはいきませんね。 この夢は覚えておくとして、なにかあったときに再び話に出せばよいのでしょう………」
だが、何もわからないことにたいする不安を他者に抱かせるわけにはいかない。 ということで、この夢に対する疑問は、セルフィスは覚えていながらも胸の奥にしまっておくことにしたのだった。
「セルフィス、どうしたの? もうすぐ朝ご飯よ、はやくいきましょ!」
「はい、今まいります」
そうして朝食を食べ終え、旅の支度を終えた4人は再び旅立った。 次はどこを目指そうかという話をしていた、その時だった。
「キャーッ!」
「!?」
そのとき、どこからか悲鳴が聞こえたのでそちらに向かってみると、そこにはりゅう兵士やにじくじゃくの群に囲まれた、旅の商人達の姿があった。 旅の荷物が乗った馬車も荒らされ、ひいていた馬も殺されたようだ。 商人達も、いつこの魔物に殺されてしまうのかとおびえている。
「きしゃーっ!!」
「うわぁぁ!」
「マヒャドッ!」
この状況を放っておけない、と4人は迷わず彼らに駆け寄り、まずはクルーヤが魔物達に向かってマヒャドを放つ。 それを受けた魔物達は一斉に弱り、そこにセルフィスがイオナズンで追い打ちをかける。
「大丈夫か!」
「あ、ああ……命拾いをしたよっ」
「この近くに村がある、そこへ駆け込めば大丈夫だ! みんな! この人達はオレが護衛するから、こいつらの相手は任せたぜ!」
「ああ!」
「はい!」
「ええ!」
商人達を村まで連れて行くと告げたイアンに対し、フィリス達はうなずき、魔物と向かい合う。 りゅう兵士が何体か、商人やイアンを狙ってつっこんでいったが、それはすべてイアンが氷結らんげきを繰り出す。
「はっ! であぁぁっ!!」
フィリスはりゅう兵士の剣をはじいた後で大きく切り裂く。 愛用の剣がグレードアップしたおかげか、魔物も前より易々と倒せるようになった気がする。
「ドルモーアッ!」
それに続けと言わんばかりに、セルフィスも闇の攻撃魔法を繰り出して、魔物を倒す。 クルーヤも再びマヒャドを放って、にじくじゃくを一掃する。 それでその場の魔物をすべて倒せた、と思ったが、直後にまた別の魔物の軍勢が現れて襲いかかってきた。 まだ戦うのか、と思ったがもう一度追い返してやるという気迫で、3人は戦う姿勢を崩さなかった。
「うわぁぁ!?」
「フィリス!」
その中の一匹、にじくじゃくが上空からフィリスに襲いかかる。 その爪によりフィリスは首を捕まれてしまい、フィリスはもがく。 一方、彼女の首を絞める魔物の力も強くなっていた。
「う、ぐぅ……!?」
首を絞める力に負けず、必死に振り払おうとしたフィリスだったが、そのときにじくじゃくの目がひどくよどんでいる事に気付く。 人間に襲いかかるような魔物だから、そんな目をしていて当然かもしれないが、また別のものを感じたのだ。 にじくじゃくは、自分が首を絞めている相手をみて笑っている。
「クカカカカ」
「このっ……!」
その笑い方が不気味に思ったフィリスはにじくじゃくの腹を思い切り蹴り、少し離れたところで剣を振るい、にじくじゃくを切り裂いた。 それによりにじくじゃくは息絶え、フィリスは立ち上がる。
「大丈夫ですか!」
「ああ、問題はないぜ!」
頬についた返り血をはらい、セルフィスにそう返すと、クルーヤが最大の攻撃魔法を放つ体制に入っていた。
「よし、一気に決めちゃうわよ! いいわね!」
「どうぞ!」
「マヒャデドス!!」
冷気の攻撃魔法の最上位のものを、クルーヤは派手にかまして、そこにいた魔物軍団を今度こそ壊滅させた。
「よし、いっちょうあがり、だな!」
「そうね。 イアンは大丈夫かしら……」
「おーい!」
イアンと村人の安否を気にしていた、そのとき。 その声とともにイアンがフィリス達に駆け寄ってきた。
「イアン、無事だったか!」
「あの商人の方々は?」
「ああ、大丈夫だ。 ちゃんと村に送り届けたぜ。 もちろん、オレもみての通りなんともないぜっ!」
「そっか、よかったわ」
そうして4人はそれぞれの役目を無事に果たせたことと全員の無事を、喜び合った。 そして、魔物に殺された馬を土葬し弔った後、イアンはそうだ、と思い出したように自分の荷物袋から、あるものを取り出して仲間に見せる。 それにたいし、フィリス達は驚いた。
「あ、これ……!」
「おう、例の宝石のカケラだぜ」
それは、フィリス達が地道に集めている宝石のカケラだったのだ。
「ということは、あの人たちは、これを持っていたから狙われた……ということなのでしょうか?」
「だろうな。 さっき、助けてもらったお礼だっていってくれたんだよ。 欠けてて小さいから、安物だろうけど…て言ってたけどな。 オレがこれでいいっていったら、すんなり譲ってくれた」
「マジでか」
とりあえず、また宝石のカケラが手に入ったので、元々持っていた宝石と照らし合わせる。 すると、このカケラもまた元の宝石にくっついて、一つの宝石になったのだった。
「こうしてみると、結構集まってきたほうだとおもうわ」
「だな」
「完成したら、どうなるのか……ますます気になりますね」
かなり宝石が一個の完成型に近づいてきている。 と、誰もが思っていたそのときだった。 真上から、声が聞こえてきたのは。
「見つけた。 それこそ、女神の祈り………」
「誰だっ!」
聞いたことのない声だったので、4人は一斉に身構えて警戒をする。 すると、真上から翼の音をたてながら一人の女性が舞い降りてきた。 銀色の短い髪に、青い切れ長の目をもった女性のその姿に、一同は驚く。
「!?」
「え………!?」
「て………」
「………てん、し………!?」
その姿は紛れもなく、天使だった。 もうこの世界に天使はいないと思っていた4人は驚く。 特に、フィリスが驚いていた。 戸惑う4人に、天使は名乗る。
「私の名前は、ラヴィエル。 運命の天使」
「運命の天使……ラヴィエル………」
「私は今まで、多くの人々の運命を見つめながら、探していたのだ……女神の祈りという、奇跡の力を持った宝石を」
「宝石だって!?」
天使・ラヴィエルの言葉を聞いたフィリス達はまた驚き、手元にある例の宝石をみた。 宝石は今も、マゼンタの光を放っている。
「まさか、これが……?」
「そう、それこそ奇跡の宝石……女神の祈り。 それを手にしたものの願いをかなえるという神秘の宝石だ」
「願いを叶える……?」
「だが、その宝石は大昔に砕け散り、力を失ってしまった……各地では小さくてきれいなだけの、ただの石のかけらにすぎない。 それに、特別なものの願いしか、かなえてはくれないのだ」
そう、女神の祈りという名前が付いた宝石についての説明をするラヴィエルは、彼女たちがその宝石を手にしていることに対し疑問を抱く。
「それを手にしている君達は……もしや、天使と、その加護を受けし者達、なのか?」
「……ッ!!」
「……もし、そうだと言ったら……あんたはオレ達になにをするつもりだ?」
「い、イアンさん!」
ラヴィエルの言葉に対し、フィリスは図星をつかれたと肩を動かし、それに気付いたイアンがラヴィエルにそう問いかける。 慌ててセルフィスがイアンの口の悪さを注意しようとしたが、それより先にラヴィエルが口を開いた。
「そう警戒をするな、私は君達の正体はすでに気付いている……私は運命を見つめる天使なのだからな……」
「じゃあ、私達のことに気付いたから……あなたは声をかけてきたのですね?」
「そうだ。 現に君達は、私をみて会話もできているだろう」
ラヴィエルの言葉に、4人は一斉にハッとなった。 天使はもうすでにいないとはいえ、普通ならその姿を目撃し会話をすることは本来不可能なのである。
「……そうか……んで、あたしがこの女神の祈りを持っていると知って……あなたがあたしの正体を知っているのなら……あなたは、なにをするつもりなんだ?」
フィリスがそういぶかしげに問いかけると、ラヴィエルは冷静に話を続ける。 敵ではないと伝えるために。
「危害は加えない、君の正体を知っているならなおさらだ。 今はただ……私は、女神の祈りが完成するのを待つだけだ」
「女神の祈り、が………」
「すでに同士はいないが、地上に降りて数百年………私は今もなお運命を見つめ続ける。 輪をはずれ天使の資格を失ったいまも……」
「……………」
「君達がその女神の祈りを手にした者なのであれば、女神の祈りを完成させられる者達なのであれば……私はその宝石が完成するのを待つ……星を見つめながら………」
そういい、ラヴィエルはその背の翼を大きく羽ばたかせながら、天高く飛んでいってしまった。 そのとき彼女は、フィリスの髪をまとめていたものに気付いたが、彼女は何も言わずフィリス達の前から姿を消してしまった。
「あんな天使もいたんだな」
「ああ……あたしも初めて知った……」
「というか、今もこの世界にとどまっているのも意外よね……いったい、何者なのかしら?」
天使は皆、あの夜に星となったはず。 女神セレシアもそう言っていたのだから。 唯一残された天使と言えば、元がついていて今は人間となっている、このフィリスだけだ。 思わぬ遭遇にフィリス達は戸惑いつつ、
「この宝石……女神の祈りのことはわかったけど、また謎がふえちまったな。 あの……ラヴィエルさんのこと……」
「………」
今のこの世界で自分以外の天使をみたことが衝撃だったようだ、フィリスは今も戸惑いを隠せず宝石をみて語った。 その横でセルフィスはなにかを考え込んでいるような動作をとっており、やがてあることに気づき顔を上げる。
「まさか、以前ナムジンさんが仰ってたのは……彼女のことではないのでしょうか?」
「えっ?」
「ほら、彼……言ってたではありませんか。 大きな翼を持つ人のような影を見た……と。 あのときはフィリスさんが見間違いだと慌てて言っていたので、彼もそうだろうと思ったのかもしれません」
「……だが今回、ラヴィエルさんという天使にオレ達は出会った。 だから今思えば、その影はラヴィエルさんだったのかも……と、いうことだろ?」
「はい……」
霧の影で見える可能性もあるのだろうか。 とはいえ、彼にはその影については見間違いと説明してしまった以上、追求は難しい。 いずれにせよ、この女神の祈りが完成さえすれば、真実がわかるかもしれない。
「やっぱり、このカケラを地道に集めていけばいいんじゃねーかな」
「それがベストよね」
そうフィリスは女神の祈りを胸に抱きつつ、ラヴィエルにあったときに感じたことを口に出す。
「ただ……」
「ただ?」
「………あの人、なんだか懐かしい感じが、したんだ……」
というわけで、ラヴィエル登場です。
ロクサーヌ同様、メタ的方面でしか絡みがなくて本編で動かないから、ずっとだしにくかったです。
でも、この長編のキーアイテムを決めたら、動かすことができて一安心です。