フィリスとリッカの友情をかきたい。
「宿王グランプリ?」
「ええ」
それは、旅の途中でセントシュタインの宿屋に立ち寄ったときのこと。 そこでしばらく休息をとることを決めたフィリス達に、ルイーダは依頼があると言って声をかけてきたのだった。 その依頼に関係のあるワードが、宿王グランプリなのだ。
「実はね、宿王グランプリがついに開催されることになって、調査員が宿屋の審査にくるの! で、前回グランプリのこの宿屋には、主催者のセントシュタイン国王が直々にみえるんですって!」
「ええ!? 国王自ら赴くのですか!?」
国王が宿王グランプリを主催するだけならまだしも、自ら審査に赴くなどありえるのだろうか。 もしルイーダの話が事実であるならば、国王は行動力が有り余っていると言えよう。 衝撃の話を聞いたフィリス達に、ルイーダは引き続き話をする。
「それで、リッカに意気込みを聞いたら、あの子……いつも通りにがんばるわ、て……なーんか緊張してるのよ……」
「……リッカ……」
フィリスはリッカのことを信じている。 彼女の経営するこの宿屋は今も心が安らぐだけでなく、ウォルロ村にいたとき、彼女に助けられたときも、フィリスは彼女の献身的な姿勢に救われているのだ。 あれを否定するものなどいるはずがない、という確信がフィリスにはあった。 だから緊張しているとはいえリッカなら大丈夫だと思っていた。 そんなとき、ルイーダは大声を上げて今のままではいけないと告げる。
「でも、いつも通りはマズイわよっ! だって相手は超VIPだもの!」
「ルイーダさんが一番興奮してやすぜ」
「そこで、フィリス達に私からお願い! リッカのために国王様をもてなす、最上の品を用意してくれない!?」
「えぇ!?」
「それが、私があなた達に出す依頼よ!」
ルイーダの依頼というのは、リッカが宿王グランプリで優勝できるように手助けをしろというものだった。 宿王になるにはまず、国王の審査を完璧に通らなければならない。 そんなルイーダの気迫に押されたフィリスだったが、親友のために彼女の依頼を受けることにしたのだった。
「まぁでも、ほかならぬリッカのためなら……あたし、がんばってみるよ!」
「うんうん、さすがね! あなたならそう言ってくれると思ったわ! ありがと、フィリス!」
「それで、あたしらはなにをすればいいんだ?」
彼女が自分の依頼を受けてくれると知ったルイーダは、一枚のリストを取り出してその内容を彼女たちに伝える。
「あなた達が用意するべき品は、ここにピックアップしておいたわ!」
「おぉ」
「まずは天使のはねとにじいろの布きれ。 これで最高級のベッドを用意するわ」
「うんうん」
「次にさえずりのみつ。 この蜜を使って、超おいしいハニーティーをいれるの!」
「なるほど」
落ち着いてルイーダが選出したというアイテムの一つ一つとその用途をきくフィリス。 だが、次にルイーダが口にしたアイテムを聞いて、目を点にしてしまう。
「最後に、プラチナクッキー!」
「?」
「この世にふたつとないお茶受けで、最高のおもてなしを演出するのよ!
以上、4つ! どれもとっても貴重なものだから、大変だと思うけど、がんばってね!」
プラチナクッキーなんていかにも珍しいシロモノ、どうやって手に入れればいいんだろうか。 そう疑問を抱いていることはお見通しだといわんばかりに、話を聞いていたロクサーヌが、情報を提供してきた。
「プラチナクッキーを作るためにもっとも大事な材料は、ゴールデントーテムという魔物が持っていることがありますわよ」
と。
そうして、ルイーダやロクサーヌの情報を頼りに、指定されたものを次々に集めていくフィリス達。
「とりあえず、さえずりのみつと天使のはねとにじいろの布きれは入手できたわね」
「天使の羽は手に入れすぎたが、ベッドを作るならこれくらいないといけねぇしな」
「天使のはねといっても、あたしのこれはゆずらねーよっ!?」
「ああ、わかってるって」
フィリスは自分の髪をまとめている髪飾りについた羽を提供することを断固拒否した。 そんなフィリスにたいしイアンは苦笑しながらつっこむと、残されたアイテムについて相談をする。
「さて、残されたのは……プラチナクッキーというヤツだよな」
「そんなクッキー、私も初めてきいたわ」
「ゴールデントーテムという、金色のスライムが3匹重なった魔物が材料を持っていることがあるとロクサーヌさんが言ってましたが……これは、苦戦しますね」
ゴールデントーテムという魔物にも、この世界を旅した彼らですら知らない。 非常に発見が難しい魔物なのだろう、そんな魔物から手に入るアイテムをもってこいというなんて、ルイーダも中々に鬼畜だ。 そうまでしないと厳しい世界なのだろうか、宿王というのは。 そんなことを気にしていると、懐から以前に依頼を果たした報酬で手に入れた洞窟の地図が出てきた。
「あ、この前もらった地図」
「……そういや、こういう地図って滅多にみつからない魔物がでるらしいウワサをきいたぜ……かけてみるか?」
「もうほかに手がかりはねぇ、やるぜ!」
「ええ、もうやっちゃうしかないわ! 当たって砕けろよ!」
そう話し合い、フィリスたちはその地図の洞窟へ向かう。 その場所はウォルロ村の近くだった。 その洞窟の中はまるで遺跡のような内装になっており、フィリスたちはそこに突撃し、魔物を倒しながら突き進んでいく。
「あ、もしかしてあれじゃない!? ゴールデントーテムって!」
「……金色のスライムが3匹重なっている……間違いありません!」
「よし、あいつを倒すぜ!」
そうして発見したゴールデントーテムを討伐するために、4人はその魔物に挑もうとしていた。 4人の気迫に驚いて恐怖を覚えたゴールデントーテムは逃げ出す。
「ちょ、逃げるんじゃねぇぇっ!!!」
4人は逃げていくゴールデントーテムを追いかけ、ゴールデントーテムは追いかけてくる4人から逃げる。 やがてゴールデントーテムは壁際に追いつめられ、イアンが先頭にたってゴールデントーテムに向かって言う。
「さぁもう逃げられねぇぜ! 命がおしけりゃ、そこにもってるクッキーのもとをよこしなぁっ!!」
「なんかカツアゲみたいになってるわよイアン!」
やはりそういうところは元不良なのだ。と仲間たちは今のイアンを見て感じていた。 そんなイアンが怖くてゴールデントーテムは震え上がり、その身を激しく震わせると、金色の袋に入ったものを落とした。 イアンはそれを拾い上げて、あけてみる。 そこには、甘い香りのする白金色の粉が入っていた。
「これは……もしかしてっ」
「ああ、これがプラチナクッキーのもとだ!」
「じゃあこれを使えば、そのプラチナクッキーが作れるのね!」
目的のものが手に入った喜びにより、4人はゴールデントーテムが逃げていったことに気付いてなかった。 それに気付いたのは数分後のことだったが、今回は目的を果たしたので倒さなくてもいいかという判断にくだり、4人は一度洞窟を出て行った。
無事にもてなし道具の材料をそろえてきたフィリス達は、リッカやルイーダの待つセントシュタインの宿屋に帰ってきた。
「リッカ!」
「あ、フィリス! どうしたの?」
宿屋に帰ってきたフィリス達を、リッカはいつものように迎え入れる。 そして、ルイーダに言われたもてなしの品を彼女に差し出した。
「おまちどぉ! 最高のおもてなしの品を持っていたぜっ!!」
「ほ、ホントに持ってきたの!?」
「さすがね、すごいじゃない! 私が頼んだもてなしの品を全部集めてくるなんて!」
「私のために……フィリス、みんな! ありがとう!」
「へへっ、友達のためならこのくらい当たり前さ!」
ルイーダに賞賛され、リッカにお礼を言われたフィリスは、それに笑顔で答える。 準備が整ったところでリッカと宿屋の従業員達はベッドを作ったりクッキーを作ったりして、国王を全力でもてなす準備をしたのだった。
「ベッドもクッキーもお茶も、準備できたわっ」
「……しかも、グッドなタイミングよ。 もうすぐ国王様がみえるって、連絡が入ったの」
「いよいよ、この瞬間が訪れようとしているんですのね」
ルイーダとロクサーヌは、じきに国王が来ることで胸を躍らせていた。 リッカも、あくまでもいつも通りにいようとしているらしい、姿勢を整えていた。
「あたしらは、片隅にいたほうがいいよな」
「ええ」
フィリス達は、酒場の席の端っこで用意してもらったお茶を口にしつつ、じきに現れるであろう国王を待っていた。
「誰かきたわね」
「国王様でしょうか」
この宿屋に客がきたことを知らせるベルがなり、皆は国王がきたのかとそちらに視線を向けた。 だが、宿屋にはいってきたのは国王とはかけはなれた、みずぼらしい容姿をした、どこか囚人を連想させるような男だった。
「なんだ、あのオッサン……?」
「ふぅふぅ……ど、どうもッス……今、部屋、あいてるっスか?」
「はい、ございますが……大丈夫ですか? お顔の色があまり優れていませんよ」
顔色のことを指摘された囚人風の男は、少し戸惑っていたが、懐から少しだけ硬貨をだし自分の全財産をみせた。 それをみたリッカは、少し目を丸くする。
「まぁ」
「……実は、これぽっちしか金がなくて、ロクにものを食べていないんス……。 それでも、泊めてもらえるッスか?」
「……」
囚人風の男は、本当にひもじいおもいをしてきたようだ。 今にも死にそうな枯れた声でリッカに確認をとる。 そんな男に、リッカは微笑みかけた。
「ええ、もちろんですとも。 それではすぐにお茶をいれますね。 テーブルでお待ちください」
その応対は、いつもどおりだ。 お金がなくて困っていても、それでもお客としてきているなら放っておくことはしない。 そんなリッカの性格のよさを感じられる流れだったが、直後に彼女がとった行動に一同は目を丸くする。
「はいどうぞ、極上のハニーティーとプラチナクッキーですわ」
「り、リッカちゃん……?」
「んっ、んめぇ! なんじゃこのハニーティー! すきっぱらにしみわたるッス!!」
囚人風の男は、ハニーティを勢いよく飲み、クッキーも口に次々に放り込んでいく。
「わぁ、あれを出すなんて太っ腹だなぁ」
「まぁまだあるだろうけど、ガツガツ食ってるぜあのオッサン」
その様子を、フィリス達は苦笑しながら見ていた。 そして、席に戻ってきたリッカにルイーダはあわてて注意をしてくる。
「ちょっと、リッカ! どういうつもり? あれは国王様にお出しするために……」
「ウォッホン、失礼するよ」
ルイーダはリッカを注意していたが、その直後に本日の特別な客がきたので、咳払いをしながら自分のポジションに戻った。 その直後、ある身なりのいい人物が宿屋に入ってきた。
「きたぜ」
「ああ」
それは、フィリス達が何度も会った、セントシュタインの国王でまず間違いなかった。 リッカは国王が相手でも、いつものようにお客を迎える姿勢で挨拶をする。
「いらっしゃいませ! チェックインはカウンターにて受け付けます!」
「ちょっとリッカ! お迎えにあがらなきゃ! 相手をどなたと思ってるの?」
ルイーダは小声でそう怒るが、リッカはあくまでも同じように応対する。 そして、宿泊者リストに名前を記載した国王を、席へ案内する。
「はい、記録ありがとうございます。 それではすぐにお茶を入れますね。 テーブルでお待ちください」
だが、リッカが案内した席は、先ほどの囚人風の男と同じ席だった。 流石にムリがありすぎないかと、皆が不安をかかえた。
「おいおいおい」
「………なんだね、この小汚い男は? この男も客だと申すのか?」
「もちろん、大切なお客様ですわ」
国王の言葉に対しリッカはそう、堂々と答えると、国王に対してもハニーティーを差し出す。 リッカの言葉に対し国王はふん、そうか…とだけ答えながら、ハニーティーを口にする。 その光景を目にしたルイーダは、眉間にしわを寄せつつ、つぶやく。
「………雲行きが怪しいわね……」
「そうでしょうか」
「セルフィス?」
ルイーダの厳しい言葉に返すように、セルフィスはそう曰くありげに呟く。 一方でフィリスは、リッカは必ず国王に賞賛されるはずだと信じて、つぶやく。
「リッカなら大丈夫、あたしは、信じる……」
そうしてグランプリの審査は進み、リッカ達は精一杯、国王をもてなしたのだった。
翌日。
宿屋のカウンターには、昨日駆け込んできた囚人風の男と国王の姿がった。 リッカは2人同時に、挨拶をする。
「おはようございます、お客様! ゆっくりおやすみになれましたか?」
「ええ! もう、サイコーッス! あんなにふかふかのベッドで休んだの、生まれて初めてッス!」
囚人風はこの宿屋のサービスに感動したようであり、目を潤ませながらそう感想を口にする。 一方の国王も、その感想には同調をしているようであり、うんうんと頷いていた。
「ワシもじゃ。 よいベッドであった……しかし、この小汚い男と同じものが用意されているとはな……」
「………」
「どうなっちゃうの?」
国王のその言葉に誰もがゴクリ、と息をのんだ、そのときだった。
「恐れ入りました!!!」
「「「「「ええぇぇ!?」」」」」
なんと国王はリッカの前で、土下座をしたのだ。 一国の王らしくないその行動に、フィリス一行だけでなく、リッカも驚いている。
「ちょ、ちょっと王様! そんな、やめてください!!」
「……客を分け隔てなく扱うとは、なんたる心意気! 関心したぞリッカ!」
「へ?」
囚人風の男がそう口を開いたので、その場にいた一同が口を開ける。 そんな一同の前で囚人風の男は一瞬で、立派な身なりの男性に変身した。 その顔や風貌に見覚えのあるフィリス達は、席を立ち上がり声を上げた。
「「「「あーっ!!」」」」
「え、えぇぇ!? うそぉ!? お……王様が、ふたり!?」
「ワシこそが、本当のセントシュタイン国王。 その者はワシがやとった偽物じゃよ。 ほっほっほ……!」
「なんつーこった……」
この真実に対し、一部始終をみていたフィリス達はただただ呆然としていた。 まさか国王が変装をして人を試そうとしていたなど、誰も想定していなかったからだ。 国王はこの宿にフィリス達がいたことにも気付いていたようであり、大きく笑いながら、審査の結果を話し始めた。
「だまし討ちのようなまねをして、すまなかったな。 しかし! お主の宿は完璧であったぞ! もてなしの品も最高! もてなし方も最高! まさに最高の一日じゃったよ」
国王はリッカの応対や宿屋のクオリティを高く賞賛した。
「それでは、審査の結果を楽しみに待つがよい! ご苦労であったな、リッカよ」
「は、はい! ありがとうございました!」
そう国王は高らかに言い放つと、偽の国王を連れて宿屋を出て行った。 リッカはすぐに我に返り、頭をぺこりと下げてお礼を告げた。
「なんとまぁ、この間も思ったけど、ホントに行動力のある王様だよな」
「うん」
フィリス達はそう国王の行動に対する感想を口にしており、その一方でルイーダはため息をついていた。 そのためいきは結果に対するものなどでは決してなく、自分の考えが的外れだったことに対してである。
「あなた達にはみっともないとこ、見せちゃったわね……。 私の言うこと、全部裏目だったんだもの」
「いやいや、あたしらも全然気づかなかったし……なのにルイーダさんだけを攻めるのはお門違いでしょ」
そうフォローをするフィリス達に救われたのか、ルイーダは静かにほほえむ。 そして、国王からほめられて一安心し微笑むリッカに対し、ルイーダもまた笑みをこぼしたのだった。
「でも、驚いたわ。 リッカに宿屋のオーナーとしての力があんなについていたなんて……」
「元々、リッカはいい子だから……ちゃんと力を手にすることができたんだとおもうし、それを発揮できて認められたんじゃないかな?」
「……ふふっ……もう彼女を子供扱いできないわね」
「そうですね」
ルイーダは自分のやっていたことや気にしていたことが取り越し苦労だったと実感し、笑ったのだった。
「あたし、これからもリッカを応援するぜ!」
「ありがとう、フィリス」
フィリスの裏表ない言葉と笑顔に、リッカも明るい笑顔で返したのだった。
次回は本番戦をお届けします。
このイベントを見返すと、全体的にリッカの魅力を再確認できますね。