引き続き、ナザム村から始まります。
不思議なお話のはじまりです。
翌日、フィリス達は村長に挨拶をしてから再び旅にでようとしていた。 村長は、挨拶にきたフィリス達に娘の一件について、あらためてお礼の言葉をいう。
「昨日は娘のミルチャがまったくお世話になりました」
「いや、いいんだ。 んで、そのミルチャちゃんは?」
「早速、希望の泉にでかけましたよ。 今日も友達と遊ぶといって……」
それを聞いて、フィリス達はドキッとした。 なぜならミルチャの友達になったというあの少女は、すでにあの場所…もとい、この世にすら存在していないのだから。 焦りつつもフィリスは、別の方向に話を運ばせようとある話を持ち上げた。
「そ、それよりも村長さん! あんたまたなにか悩んでそうな顔をしていたぜ! またなにか困り事かい!?」
「またなにか、を2回言ったなお前」
「む……わしの顔、そんなにわかりやすいですか?」
「わかりやすいっす!」
フィリスに自分の顔のことを言われた村長は、思い切って自分が今なにに悩んでいるのか、そしてフィリスになにを頼みたいかを正直に打ち明けることにして、口を開いた。
「……実は、折り入ってまたひとつ、お願いしたことがあるのです」
「はいきた!」
村長は、窓越しにナザム村を見渡して、フィリスに依頼の内容を打ち明ける。
「ご存知のとおり、我々は竜の門の守り手という村の使命を長く忘れきっておりました。 そして、そのような大事な使命を忘れておきながら、過去の因果……もとい、誤解を恰も村のオキテのようにたててしまっていた」
「……ああ、それであたしは危うく見殺しにされるところだったんだよな」
こういうところで釘をさすフィリスに対し、村長は耳が痛いと呟きつつ話を続ける。
「このような事が二度と起きぬよう、わしらは語り継いで行くべき事を、石碑として残すことにしたのです」
「へぇ、そうなのか」
「そのために、ドミールの里にいるという、竜の語り部をお呼びしたのですが……約束の日を過ぎても、未だにいらっしゃる気配がない」
「なるほど、それは心配ですね」
「そこで、フィリス殿。 どうかドミールへ行き、竜の語り部をつれてきてはもらえんでしょうか」
ようは、重要な人物をこの村まで護衛してきてほしいというものだった。 たいして難しくないであろうこの依頼を、フィリス達は受けることにする。
「まぁ、いいけど」
「おお、貴女ならそうおっしゃってくれると思っておりましたぞ」
「……都合いいなおい」
「まぁまぁ、ドミールの里まで行って、ちゃっちゃとつれてこればいいだけだし、いいだろ!」
そんな話をしながら一同は、村長の家を出てナザム村の外にでて、ルーラの魔法で一瞬でドミールの里へとんだ。 高いところにある集落のようなその里で、フィリスは以前にこの村を訪れたときのことをもいだし、つぶやく。
「ドミールの里かぁ……最後にきたのは、グレイナル様への報告だったかな?」
「あの人のおうちに、竜の火酒をお供えしにいったときのことね」
フィリス達はここ最近、この里を訪れた。 それはガナン帝国との戦いに終止符を打ち、世界に平和が戻ったことを伝えるため。 亡きグレイナルのカタキを無事にうてたことを、犠牲を無駄にしなかったことを伝えるためだった。
「さて、竜の語り部って人を捜そうぜ。 みんなに聞いていけば、みつかるだろうし」
「そうですね、まいりましょう」
ドミールの里をめぐり、フィリス達は語り部を探す。 そして、宿屋の女将から有力な情報を聞くことができた。
「語り部のにいさんなら、うちの宿屋で休んでいるわよ」
「休んでる?」
「実はケガをしちゃったみたいで……最近うわごとばっかりで、様子が変なのよ」
どうやら約束の日にこなかった理由は、ケガをしてしまったからのようだ。 それなら理由として納得はいくが、うわごとをいってうなされるほどにひどいのだろうか。
「そんなにひどいケガなの?」
「うーん……足をくじいたんだって言うけど、本当にそれだけのせいなのかって感じなのよね」
そう宿屋の女将は語り、フィリス達はその語り部の容態を気にする。
「まぁナザム村まで来られなかった原因は、判明しましたね」
「そうね、少し話を聞いてみましょう」
そう4人は話し合い、宿屋に入って店主に事情を話し、その語り部と会わせてほしいと相談した。 そして面会の許可をもらい、フィリス達は語り部が休んでいる部屋にはいった。
「この人か」
その部屋のベッドで横になっているその男性は、詩人がまとうようなローブをきていて、側には楽器をおいていある。 周囲の人々の話が本当であれば、この男性こそが、竜の語り部なのだろう。
「うーん……ぅうん……ら、て……」
「へ?」
「は!」
少し何か、うわごとを口にしていた男性は唐突に意識を取り戻し、そこにいたフィリス達に気付く。
「……あなたは?」
「ああ、あたしらはさ……」
フィリス達は自分たちは、ナザム村からきたことやそこの村長に頼まれて竜の語り部を護衛しにきたのだとつたえる。 話を聞いた男性は自分こそがその語り部であると認めつつ、真っ赤にはれ上がっている自分の足を見せた。
「実は、山道で足をくじいてしまって……それいらい、ずっと寝込んでいたのです」
「まぁ、痛そう……」
「約束の日をすぎていたとも知らず、なんととんだご迷惑を……しかし、この足ではとても……」
語り部がそう口にしたので、セルフィスはかがんでその容態を確かめる。
「確かに、無闇に動いたりしたら悪化してしまいますね……」
「お前の回復魔法でもか?」
「あれはあくまで一時的に傷をふさいだり回復をはやめるだけのものです。 こういうのには、あまり効果をみせないのですよ」
そういいつつ、これには強力な湿布薬が必要になると、セルフィスは気づき口にする。 その話を聞いた語り部は、あることを思い出しフィリス達にたずねる。
「そうだ」
「え?」
「突然ですが、つきのめぐみととうこんエキス……それからおしゃれなバンダナを持っていませんか? なんでも、特性の湿布薬の材料になるんだそうです。 持っていたら、私にください」
そのアイテムがあればいいのだろうか、フィリスはすぐに荷物袋を取り出してそのなかを漁る。 すると、語り部の言っていたアイテムがそこにちょうどあった。
「ちょうど、あるといえばあるけど……」
「私にいただけませんか」
「ああ、いいよ」
それで本当によくなるなら、と言ってフィリスはその3つを語り部にあげた。 語り部はありがとうございますと言って、早速湿布薬をつくりはじめる。
「おしゃれなものを選ぶ理由ってあるのか?」
「さぁ……それは僕にもわかりません」
そうある疑問についてコソコソと話をしていると、語り部はその湿布薬を足にあてがいしばらくすると、ベッドから起きあがった。
「よっと!」
「わぁ!」
「うん、もう大丈夫です! さすが特製というだけはありますね!」
「いや回復はやすぎだろ! どんだけ効き目あるんだ!」
「すごい薬ですね……僕も初耳です!」
こんなに効果が出るなんて、と驚き戸惑う一同に語り部はこの湿布薬についてはなした。
「実はこの薬の作り方は、山道で出会ったラテーナって子が、教えてくれたんです」
「えっ!?」
語り部の口からでた、思わぬ名前に対しフィリスは驚き、その名前が正しいのかと語り部に問いかける。
「ラテーナ……!? その子、本当にラテーナっていうのか!?」
「ええ。 あの子が助けてくれなかったら、今頃魔物のエサでしたよ……本当に、本当にいい子だった……」
「……」
「なんでも、竜のなみだを探して、このドミールにきたとかで。 まるで古い歌そのまま……の……」
事情を語っていた語り部は、徐々に顔色を変えていった。
「そ、そうだ! ナザムへ行く前に、あの子に……ラテーナに会って、お礼を言わなくては! 確か火山の山頂へいくと言ってたっけ……というわけで、すみません! 私、ちょっと行ってきます!」
「あ、ちょっと!」
フィリス達にそれだけを言い残し、語り部はさっさと宿屋を出て行ってしまった。 語り部があっさり元気になったことやすぐに立ち去って言ってしまったことに対し、宿屋の店主も女将も呆然としていた。 フィリス達も、語り部が口にした名前に対し、戸惑いを隠せなかった。
「い、行っちゃったわ!」
「どういうことだよ、ラテーナさんはもう……!?」
「色々疑問は残りますが、今はあの語り部を追いかけることが先決です! 至急、あの人を追いかけましょう!」
「あ、ああ!」
セルフィスに冷静になだめられたフィリスは、彼らとともに語り部を追いかけて火山の山頂へと向かったのだった。
「いたわ、語り部さんよ!」
そして、火山の山頂にはその語り部の姿があった。 彼の姿を見つけることができたフィリス達は迷わず彼に近づき、おいと声をかける。 それにより語り部は、フィリス達がここまできていたことに気付く。
「あ……旅の方」
「まったく……勝手に動くなよな!」
「……すみません……わざわざここまで、追いかけてきてくださったんですね……」
そう語る語り部は元気がなかった。 どうしたんだと問いかけてみると、語り部は残念そうな表情と声で、自分のしたかったことができなかったことを伝える。
「結局、ラテーナには会えませんでした……。 きっと、どこかで入れ違ってしまったのでしょう」
「……」
「……不思議な人でした。 青い服を着て竜のなみだを探していて……まるで、子供の頃にきいた歌、そのままなんです」
「歌?」
「せっかくですし、この歌、お聞かせしましょうか……」
そう言うと語り部は、楽器をならしつつその歌の一節を歌ってきかせる。
「青い娘は竜に言う。
あなたのなみだ、このビンに……竜のなみだをわたしにください。
けだかき竜は笑ってこたえる。
我になみだなどはない……。」
その歌を、フィリス達は黙って聞いていた。 そして語り部はこの歌のことについて解説をする。
「ある日、青い服をまとった娘が、グレイナル様の元を訪れた……その時のことを歌う、古い古い歌です」
「そうですね……グレイナル様ももう、ここにはいらっしゃいませんし……歌になるくらいなら、大昔のことに決まってますよね」
そう、セルフィスが歌の歌詞や解説に対する感想を口にすると、語り部は少女に対するおもいを口にする。
「出来ることなら、ラテーナに、もう一度お会いしたかった……」
「そっか……そうだよな……」
「……けれど、悔やんでも仕方ありませんね。 縁あれば再び出会うこともある。 私は私の使命を、果たしましょう」
語り部は一度顔をうつむかせると、すぐに顔を上げて彼女たちに告げる。 そのときの彼は、笑みを浮かべていた。
「さぁ、おまたせしました。 一緒にナザム村へ向かうとしましょうか!」
「ああ、バッチリ護衛するぜ!」
そのときの語り部の表情をみたフィリスは、彼の気持ちの切り替えや自分の使命感にたいする思いに応えるため、彼を無事に目的地へ送り届けることを誓った。
「……じゃあ、またな」
と、かつてこの場所をすみかにしていたある竜に告げて。
ドミールの里からナザム村までの道は、ルーラの魔法で簡単だった。 ナザム村にはいり村長の家まで彼を送り届け、村長に事情を説明したことで、無事に依頼ははたされたのであった。
「貴女達のおかげで、私は無事にたどりつけました……感謝しても仕切れません」
「娘のことだけでなくこうして語り部の方まで……本当にありがとうございます!」
まさか立て続けにナザム村で、村長の依頼を受けることになろうとは予想だにしていなかった。 もっとも、依頼がないかを問いかけたのは自分たちなのだが。 とにもかくにも、依頼は完遂したので報酬としてお金をもらえた。 これだけあれば、数日は旅ができるとほどのお金を。
「それにしても、こうして歴史を記す石碑を創るために、私の口伝を役立てようとは……この村の村長さんは、とても歴史を重んじる方なのですな」
「重んじすぎたせいでトラブル招いたけどな」
「フィリス!」
そうからかうように言うフィリスに、クルーヤはあわてて制止をかける。 そんなやりとりをよそに、語り部は自分の使命を果たせることに喜びを覚えていた。
「私にお役目をくれるのは、とても嬉しいことです」
そうして村長に手を貸そうとした語り部だったが、そこでふとあることが気になり語り部は、村長に問いかける。
「…………ところで、村長さん」
「うむ?」
「ラテーナという娘が……この村に、立ち寄りませんでしたか……?」
その女性の名前に対し、フィリス達もピクリと反応した。 一方、村長はその名前に関する情報を記憶から引っ張り出そうとしたが、そもそも知らない名前だったのでその行動は無意味だった。 なので、語り部にたいして首を横に振った。
「そういう話は、聞いたことがないですな……」
「……そう、ですか」
ここにラテーナはいない、と知った語り部は残念そうにためいきをついて首を横に振る。 だが、すぐにシャッキリと顔を上げた。
「まぁ、ご縁があればいつかは……」
そう、希望を抱いたようだ。 そのことにたいし真実を知っているフィリス達はその真実を口にせず、ただ今の彼の姿に対し、呟く。
「もうこの村にいる時点で、縁をつないでるよな……あの人」
「だな」
それだけを口にし、フィリス達は村長の家を後にしたのだった。
すっごい今更ですけど、ナザム村って一歩間違えればレブレサックですよね。
同じ轍を踏まないようになっていってほしいです。
次回は、関係あるようなないような、ちょっと不思議な話になります。