今回は思い切ったことをやってます。
どこのことかは、読みながら見つけてくださいませ。
ラヴィエルの預言に従い、カルバドの大草原を訪れたフィリス達。 ルーラの魔法で訪れたその場所は、以前訪れた時とまるで様子が違っていた。
「なんだ、これ……」
「真っ暗ね……おまけになんか、焦げ臭いにおいがするわ……」
草原を重い空気が包んでおり、あの穏やかさはいっさい感じられない。 この地の草木はどこかくたびれていて、周囲には魔物が溢れかえっており、その数は以前とはけた違いにも見える。 一体この草原にいま、なにが起きているというのだろう。
「とにかく、遊牧民のみんなが心配だわ。 集落へ急ぎましょう」
「そうだな」
そう声を掛け合い、4人は草原を進んでいく。 アイアンクックの群や、アサシンエミューの群などにおそわれながらも、それらはすべてクルーヤとセルフィスのイオナズンが一掃してくれる。
「グギィ!」
「なんだ!?」
突然魔物らしき声が聞こえてきたのでフィリスは条件反射で剣を抜き構える。 だが、その魔物の姿を見たフィリスは拍子抜けな顔になったと、その魔物の名前を口に出した。
「あんた、もしかして……ポギー!?」
「グギギギギ!」
「ポギー、無事なんだな!」
魔物、もといマンドリルのポギーも、フィリス達のこと覚えているようであり、彼女達に敵意を向けず普通に接してきた。 フィリス達も、ポギーが悪い魔物ではないことはわかっていたので、普通に接し無事を喜んだ。
「なぁ、今この草原はどうなってるんだ? 集落は? ナムジンさんや、みんなは大丈夫なのか?」
そんなとき、フィリスはこのカルバド大草原の異変について現状を理解するべく、ポギーに問いかける。 すると、ポギーはグギ、と短くないたあとで歩きだし、ちらちらとフィリス達の方をみてきた。
「ついてこいって、言ってるみたいだな」
「うん、いこう」
他に当てもないので、フィリスはポギーについていった。 彼につれてこられたのは位置などからして、カルバドの集落であることはわかったが、そこもまた以前とは違う風貌になっていた。
「おうちがボロボロだわ」
「なんとひどい……本当に、なにがあったというのでしょう」
建物は傷つき、人の気配はない。 以前はのどかで穏やかな場所だったのに、この変貌は何事なのだろうか。 そこで、最も大きなパオに向かってみると、そこには人だかりができていた。 フィリス達はその中でも最も目立つ男に気づき、彼に声をかける。
「あれは……ラボルチュ様!? おーい!」
「むっ?」
その男は前族長である、ラボルチュだった。 ラボルチュはフィリス達の姿を見ると、おおっと声を上げた。
「フィリス! その仲間の者も……よくきてくれた……! よく無事に、ここまでたどりついてくれたな……!!」
「ああ、貴方も無事でよかったです! でも、この状況は一体……?」
再会の喜びもつかの間、フィリス達はカルバドが今どのような状況なのかが気になりそのことについてラボルチュから情報を得ようとする。 フィリス達の質問に対し、ラボルチュは顔を険しくさせつつ族長のパオの中に入って現状を伝える。
「ことは10日ほど前のこと……突如カズチィチィ山のほうから見慣れぬ魔物の大群が現れ、カルバド草原に攻めいってきたのだ」
「ここでも……ほかの地と同じようなことが起きていたなんて……」
「我々は抵抗するために戦ったが、その中心にいる魔物が他とは桁違いな強さを持っており……今は防戦一方だ。 敵の根城はおそらく、カズチャ村だとはおもうのだが……」
「確かに、あそこなら魔物が根城にするにはうってつけだからな……」
おそらく今は、魔物の嫌うアバキ草も生えてはいないのだろう。 また新しいものが生えてこないうちに、この草原を滅ぼそうとしているのかもしれない。
「ところで、族長様の姿が見えませんが……またいつものように見回りにでているのですか?」
そこでふと、現族長であるナムジンの姿がないことにセルフィスは気づき、彼の所在について問いかける。 すると、ラボルチュの顔は苦々しくなり、4人に彼の現状を伝えた。
「……ナムジンは………」
「?」
「カズチャ村へ偵察にいったきり、戻ってこないのだ」
「なんだって!?」
「唯一、ナムジン様の乗っていた馬だけが帰ってきたんだが、その馬も傷だらけで……帽子もボロボロの血塗れだったんだ」
「ナムジン様は簡単に死ぬタマではねーべ……だけども……」
帰ってきた馬はかろうじて一命を取り留め、手当を受けているところのようだ。 その馬の傷や、今手に持っているナムジンの帽子をみて、彼らも気が気でないらしい。 ポギーも、そちらへ向かいたいがナムジンからこの集落を守るよう強く言われてしまったために動けないようだ。
「……お前達になら頼めそうだ。 カズチャ村へ赴き、ナムジンを探し出してはくれないか? 頼む……! ナムジンを助けてくれ!」
フィリス達の実力を見込み、ラボルチュは息子の救出をフィリス達に頼んできた。 それにたいしフィリス達は顔を合わせてうなずきあい、その依頼にたいする答えを出した。
「もちろん! 頼まれずとも、話を聞いたときからそうすることを決めてましたよ!」
この頼みを引き受けてくれたことに対し、ラボルチュは感謝の言葉を継げたのだった。
魔物たちが根城にしているポイントであり、ナムジンが消息を絶った場所であるカズチャ村を目指した。 そこはすでに滅んだ地であるため元々暗い空気が包む場所ではあったが、それが悪化しているようだった。
「前きたときよりも、崩落が進んでいるわね……」
「ああ……気を引き締めていこうぜ」
カズチャ村に足を踏み入れた4人は、その変化に対し緊張を覚えていた。 ボロボロなのはわかっていたことだが、それに拍車がかかっているようだ。 そんな、次はどこが壊れるのかわからない場所を、できるだけ魔物に見つからないように進んでいる。
「真に討つべきは元締めだ。 だから無駄な戦いを避けて力を温存させようぜ」
「そして、族長様も助けましょう。 誰かが犠牲になることは、僕達にとってもっとも望まないことですから」
「そうだな……」
セルフィスの言葉を聞き、フィリスは剣を握る手に力を込めた。 元からそうするつもりではあるが、改めてここにいる魔物を全滅させて彼を助けたいと強く願っているのだ。
「きゃあ!」
「あぶねっ!」
そんなとき、どこからか闇の攻撃が放たれて4人に襲いかかってきた。 それを皆でガードをしてダメージを軽減させると、それが発端となったかのように魔物の群が一斉に現れて、フィリスを一斉にとり囲う。
「な、なんだ!?」
「こんな魔物達、前は住んでなかったわよね!?」
「ああもう、先を急いでるというのに!」
「やむをえませんね……!」
魔物の群は自分達に牙をむいている。 それに応じるため4人は武器を手に取り魔物の群と向かい合う。
「向かってくるのなら! 道を妨げるのなら! あたしらが一匹残らずぶっ殺してやるから覚悟しな!」
そう叫ぶと同時に、フィリスは魔物にきりかかった。 彼女が切り捨てたのは黄色い悪魔の魔物・イエローサタンであり、フィリスの剣にその身を裂かれつつも彼女にかみつこうとしたところ、フィリスの剣によりさらに傷口を開かれたことで息絶えた。
「フッ!」
「はぁ!」
「イオナズン!」
イアンは回し蹴りを食らわせ、セルフィスは弓矢で相手の急所を的確に撃ち、クルーヤは攻撃魔法で全体的にダメージを与える。
「おい、こいつらのボス! でられるもんならでてこいやぁぁーーっ!」
数が減ってきた頃、フィリスは魔物の群に向かってそう叫んだ。 すると、その声に応じるかのように、奥からなにか重々しい声が聞こえてきた。
「フゥゥゥゥゥ……」
「……あいつが、そうなのか?」
「そのようです……他の魔物とは何かが違いますから……」
そこに現れたのは、竜のような顔と大きな体をもち、ぎょろっとした双眼が特徴的な魔物だった。 この魔物の気配は、他の魔物とも普通とも違うものを感じるため、ボスであることは間違いない。
「このイデアラゴンに、なんの用だ?」
「イデアラゴン?」
「このようなところに4つ、人間がいるとは……もしや、この間とらえた人間の仲間か何かか?」
「とらえた、人間?!」
その言葉にフィリスは胸がざわつき、繰り返す。
「この草原を根城にしていた遊牧民どもの長、だったか……生意気にも我らを偵察していたから、軽くひねったのだよ」
「なにっ!?」
「我らに降伏すれば、命だけは助けてやろうと言ったのだが……一向に首を縦に振らないのだ。 だから、地下に幽閉してやった!」
「まだ、生きてるのか!?」
「ああ……すぐに殺してはつまらんからなぁ。 ただ、閉じこめてそのままにしてあるから、今どうなってるかはわからんがな!!」
そう言ってイデアラゴンは大笑いをした。 彼の言葉を聞いたフィリスは、すいせいの剣を握る手に力を込め、歯ぎしりをたてつつ敵を睨みつける。
「て、めぇ……!」
「さぁ戯れ言は終わりだ、お前達も捕らえて、我らのエサにしてやろう!!」
「だったら!」
お前達を全部殺す。 そう言おうとしたフィリスは自分に飛びかかったゾンビナイトの攻撃を盾で受け止めてから斬ろうとした。 だがそのとき、イアンの棍による技・黄泉送りがゾンビナイトを瞬殺した。
「イアン!」
「フィリス、聞いたわよね!? 族長様は地下よ!」
「えっ!?」
「この敵はすべて、僕達が引き受けます!」
「だから、お前は彼を助けにいけ! 任せるぜ!」
「わかった、必ず助ける!」
仲間達の声に対しフィリスはそううなずいて答え、地下への階段に向かって走っていった。 それをイエローサタンやゾンビナイト、グリーンドラゴンなどが追いかけようとしていたが、イアンがそれを妨げる。
「まぁまぁ、まちなよ。 オレらがてめぇらのお遊戯に付き合ってやっから……心配すんな」
そういって、イアンは指をボキボキとならした。
仲間達が魔物を引き受けている間に、フィリスは地下の階層を突き進む。 どこかに、自分達の探す者がいるとおもって。
「ッ!?」
そんなとき、血のにおいがした。 それにフィリスは気づいた。 すぐに血のにおいをたどり、ある牢屋の前にたつ。 そこにいたのは、長い黒髪の、フィリスと年の近い青年。 傷だらけの彼は今、鎖に両腕を拘束されている。
「ナムジンさんっ!!」
それが誰なのかに気付いたフィリスは、名前を口に出しながら慌てて牢屋をあけようとする。 だがそこはしっかりと鍵をかけられていた。 一瞬焦りを見せたフィリスだったが、すぐにさいごの鍵のことを思い出しそれで鍵を開け、牢屋の扉を開けて彼に駆け寄る。
「ナムジンさん、ナムジンさん!」
必死に名前を呼ぶが、意識のない彼は返事をしない。 まだ死んではいないようだが、このままでは危うい。 剣をふって鎖を断ち切ったフィリスはナムジンの身体を受け止めた。 その体があまりにもぐったりとしていて軽かったことから焦りを覚えたフィリスは、なんとかして彼を救えないかを考える。
「……そうだ、世界樹のしずく!」
そこでフィリスが思い出したのは、以前にもらった、世界樹のしずく。 それを使えば確実に、彼を救えるに違いない。 急いでそれを取り出し飲ませようとしたが、意識のない彼の唇は動かない。 そこでフィリスはそのしずくを一気に口に含み、そのまま彼の口とあわせ、口移しをすることで彼にしずくを飲ませた。
「……っ……」
「!」
これで彼の体内に世界樹のしずくが流れていったはずだと、フィリスは彼の顔をじっと見つめた。 すると、眉と口元がわずかに動き、やがて彼は目を開けた。
「……」
「なぁ、あたしがわかるか!?」
「……フィ、リ……ス……?」
声はかすれていて、途切れ途切れではあるが、ナムジンは視界にはいった少女の名前を口にする。 それをきいたフィリスは安堵の笑みを浮かべて、ナムジンに抱きついた。
「フィリス……!?」
「………よかった……死ななくて、よかった……」
突然抱きつかれて戸惑うナムジン。 その行動で彼の意識は一気に戻り、そのままの体制でフィリスはぽつぽつと言葉を漏らしていく。 それを聞いたナムジンは、彼女に何かを告げようとした。
「グォォォォーー!」
そのとき、2人の前にある魔物が現れる。 それは全身に甲冑を纏いその手に大型の武器を持った魔物・サタンメイルだった。 その一撃を食らいそうになったフィリスは彼を抱えた状態で回避し、攻撃を受けることはなかった。 しかしそれにより、フィリスの髪をまとめていた紐は切れ、ポニーテールはバラバラにとかれる。
「なっ……」
「貴様っ……!」
フィリスは長い空色の髪をなびかせつつ、剣を抜いて構える。 サタンメイルは再びフィリスに攻撃を仕掛けようとしたが、それをフィリスは盾で防いでから剣を大きく振るいその身を切り裂く。
「うあぁぁ!?」
「フィリス!」
サタンメイルを倒した直後、どこからか爆発が起きてフィリスを吹っ飛ばした。 すぐに体勢を立て直して自分を攻撃した敵の正体を確かめると、そこにはイデアラゴンの姿があった。
「お前は……!」
「てめ、なんで!」
「あの人間達は今もなお、我がシモベどもと戦っていよう。 お前達はここで、我が手によりその命を絶つのだ!」
「そんなこと……」
「させるかよ!!」
そのとき、イアンが飛びかかってイデアラゴンに氷結らんげきをイデアラゴンに食らわせた。 さらに、ドルモーアとメラゾーマも飛んできてイデアラゴンを攻撃する。
「みんな!」
「フィリス、大丈夫!?」
「お、族長さんも無事みたいだな!? とりあえず救出成功か!?」
その場に、イアンもセルフィスもクルーヤも現れた。
「ぐ……おのれぇぇぇ!! 我をなめてかかっているのか!」
「ああ、ナメてんぜ」
立ち上がりながら怒って放たれたイデアラゴンの言葉に対し、イアンはすんなりとそう返した。
「自分だけ助かるため、手柄をとるために下っ端を利用するやつなんざ、ハナからオレらの敵じゃねぇよ」
「僕達は、互いに答えるために別行動をとったにすぎませんので、同一視しないようお願いします」
「そして、私達も魔物はそれなりにいっぱい倒したし、フィリスも約束通り族長様を助けられたわよ!」
クルーヤはフィリスの方を向いて、にっこり笑いながらウィンクをした。
「ね、フィリス!」
「……ああ!」
そんなクルーヤの言葉に対しフィリスは力強く笑って頷き、剣の切っ先をイデアラゴンに向ける。
「お前に殺される人は……一人も出させないっ!!」
「なまいきをぉぉ!! イオナズン!」
イデアラゴンはイオナズンを放ったが、それをクルーヤの同じ魔法が妨げる。 そしてセルフィスがドルモーアを放ち、イアンがその腹部に拳をいれ、ひるませる。
「ギガ・ブレイクッ!」
「うぐぁぁぁーーーーっ!!」
そうして、フィリスが今の感情のすべてを込めた剣技がイデアラゴンにヒットし、致命傷を受けた。
「う……ぐぉ……」
「さて、もうテメェはなんもできてねぇぜ」
「あ……ぐぁ……ま、まだ、まだ……死にたく、ないぃ……ようやく、ようやく……この地を我がものにできそうだったのに、死ぬのはイヤだぁぁぁ……ころ、さないでくれぇぇぇ……!」
「はぁ? なに言ってんだてめぇ?」
野望を口にしながら必死に命乞いをしようとするイデアラゴンに対し、イアンはあきれたように言う。 だが言っていることはハッキリ言って支離滅裂もいいところだし、さっきまで自分達はおろかナムジンのことも殺そうとしていたのに、今更許されるとでも思っているのだろうか。
「……そ、そうだ! 草原の民の長よ! お前は以前、草原を征服しようとした魔物を許したのだったな!? 」
そんなとき、立ち上がったナムジンの姿が視界に入ったらしい。 イデアラゴンは彼に懇願し始めた。
「その寛容さがあってこそ、長をかたれるのだろう!? であれば、我の命も救ってくれ! まだ民の屍もでていないし、お前も存命なのだろう!? そこまでの大罪は我は犯していないはずだ! そのときの魔物と同様に、その大きな器を持ってして我を許してくれ! よいだろう!? お前は一族を統率する長なのだから、これくらいのことは、許してくれるのだろう!?」
「な、てめ……」
「……」
フィリスがトドメをさしてやろうとしたとき、イデアラゴンの額に一本の剣が突き刺さった。 そこから奇妙な色の血が流れている。
「な、に……?」
「他者の器の大小の意味を、はき違えるな!!」
その魔物に対し、ナムジンは激しく怒鳴りつけた。 剣をイデアラゴンに突き刺したまま。 あの液体を魔物から流させたのは、彼だったのだ。
「元から許しをこうために他者を苦しめようなど……許してもらえるだろうと甘ったれたことをぬかす者に、与える許しなど存在しない! 簡単に許してすませられる罪など、この世にはない! そのことをその身に刻んで……消えろ!」
そして剣を抜き取り、そのままイデアラゴンの顔を大きく切り裂いた。 それによりイデアラゴンは断末魔すらあげることなく、霧となって消滅していった。
「……ナムジンさん……」
「あくまでも私は、一族を束ねるもの。 民を傷つけるものには、牙をむくつもりだ……誰になんと、思われようともな」
そうナムジンは彼らにいって、剣を鞘に納めたがそのときめまいを起こしてひざを折った。 慌てて4人は彼をとり囲う。
「大丈夫か!?」
「ああ……一命は取り留めたとはいえ、まだ少し魔物に囚われていたときのダメージが体にあるようだ……」
「無理もないわ、もう数日間ここに閉じこめられてたんでしょう? 生きてるのが不思議よ……」
「……すまないが、私とともに集落へ戻ってくれないか。 君達に護衛をまかせたい」
「もちろん、そうさせてよ」
「時折、僕も回復の魔法を使います」
そう話をしながら、彼らはナムジンを護衛しつつ帰ることになった。 そのとき、フィリスの荷物袋から一個の瓶が落ちたので、セルフィスはそれに気付いて拾い上げる。
「ん、このビンは……」
セルフィスは、フィリスが落とした瓶がなにかに気づき、フィリスとナムジンをみた。
そうして5人は無事に集落に帰り、魔物の群とその元締めは敗れ去りこの草原が攻撃されることはなくなったことと、族長ナムジンが生還したことを伝えた。 ラボルチュはフィリス達に礼を言う一方で、無茶なことをしたとナムジンを盛大に怒鳴りつけた。 ナムジンはその怒声で傷をさらに痛めつつもその意味をかみしめていたのだった。
「はぁ……父上に久し振りに盛大に怒鳴られたせいか、頭がグラグラする……」
「グギギッ」
あのあと、ようやく再び平和が訪れたことで安心している民達をみとどめ無事を伝えたナムジンは、傷の手当を受けた後で自分の寝室に帰ってきた。 そこには、自分にかわり草原を守ってもらっていたポギーの姿もあり、2人だけではなしをする。
「わかっているよ、ポギー。 父上は、私を心配していたのだということくらい」
「ギギッ」
「……うん、シャルマナにも礼を言わないとな。 あれでも、草原のみんなを守ろうとがんばっていたみたいだから」
そして、ナムジンは母のことも思いだしてつぶやく。
「母上も……私がそちらへ向かうことを望んでいないだろうからな……」
そういいながら、ナムジンは包帯まみれの自分の姿を見た。 本当に、今生きていることが我ながら不思議に思えるくらいだ。 やはり自分は、志半ばで命を絶つべきではないのだろうと、自分の背負うものを通じて感じていた。
「ナムジンさん、いる?」
「その声は……フィリス?」
そんなとき、この部屋の前でフィリスの声がしたので返事をすると、そこにフィリスが入ってきた。 今の彼女は装備をはずしており、簡易な姿をしていた。 そんな彼女が一人でここにきたことに疑問を抱いたナムジンは、首を傾げつつ用を尋ねる。
「フィリス、どうかしたのか?」
「もう、平気か?」
「うん、私はもう平気だよ。 これも、フィリス達のおかげだ」
「……」
「ありがとう、フィリス。 本当に……君達には助けてもらってばかりだ。 君達には感謝していて信頼もしているから、ちゃんと礼もしたいとも思っている。 だから、少し待っててくれ……っ」
そうナムジンはフィリスに笑いかけながら告げると、フィリスはなにも言わずにナムジンの胸に顔をうずめてきた。 つまり、フィリスはナムジンに抱きついたことになる。
「えっ、ふぃ、フィリス!?」
突然抱きつかれ、ナムジンは赤面しつつ焦る。 まさか彼女はこんな大胆な行動にでる人物だとは思わなかった。 どうしたらいいかわからないナムジンにたいし、フィリスはぽつぽつと告げる。
「………突然で、ごめん……。 ただ、あなたが、ちゃんと生きてることを、知りたかったんだ。 直にこうやって、確かめたかったんだ……」
「……?」
「もう、もう……あたしは、あたしの目の前で誰かが犠牲になるところ、みたくない……。 あのときも、助けられなかったのかもしれないとおもうと……こわくてこわくて、たまらない」
それをきき、フィリスの心情に気付くナムジン。 そんな彼に、フィリスはあることをお願いしてくる。
「もう少しの時間だけでいい。 ここで、こうやって……あなたが生きていることを、確認させてくれ……」
「……いいよ」
それをきき、フィリスは彼の心臓の音をききながら静かに微笑む。 一方、ナムジンもまたそっと、彼女の背に腕を回したのだった。
いかがでしょうか。
こういうのも必要かもしれない、という発想からこの展開にしました。