イアンがいい味出してます。
それは、セントシュタイン王の依頼をきいたあとのこと。
宿に戻り一服をしようとしていたフィリス達に、リッカが相談を持ちかけてきた。
「今度はルイーダさんがため息を……?」
「うん」
彼女が気にしているのは、この宿屋にある酒場を切り盛りしている女性・ルイーダのことだった。
「なんか………遠い目でため息をついたり、私がどうしたんですかって聞いても……こたえてくれないし………心配なの」
「へぇ………あの人そんなことするんだな………」
「イアンッ」
「ねぇ、フィリスだったら……ルイーダさんの秘密を聞き出せるんじゃない? それで、どうしたらルイーダさんが元気になるか、考えてほしいんだ」
リッカの願い、それはルイーダの悩みを聞いて解決させること。 それを一同は、依頼として受け取る。
「そうだな、あたしもリッカの話を聞いてたら気になったし………やってみるよ」
「じゃあこれも、依頼として引き受けましょう」
「そうね!」
「よーし、じゃあ早速…ルイーダさんに話を聞きにいこうぜ!」
そう声をかけて依頼を達成するために、フィリスはまずルイーダに話を聞きにいこうとする。 だがそれを、イアンが制した。
「待て、フィリス」
「イアン?」
「ここはオレが聞いてくる、お前達はここで待っていてくれ」
「え?」
突然そう言い出したので何事かと思えば、イアンは一人でルイーダの元へ向かい、声をかけた。
「ルイーダさん」
「あ、イアン…どうしたの?」
「なに、リッカがあなたのこと心配してるみたいだから……気になっただけでさぁ」
「………」
最初はいつものように応対していたルイーダだったが、イアンの言葉で自分の心情を察知されたと感じたらしい。 普通ならリッカには心配をかけた、心配かけてゴメンとでも言いたいが、その度胸は今のルイーダにはない。 相手がイアンであればなおさらだ。
「まぁ……イアンは今じゃ立派な冒険者だものね、はなしていいかも」
「お、いいんですかい?」
「………むしろ私がはぐらかしても、貴方はなかなか察しがいいもの。 私が話さないと、許さないでしょうね………」
ルイーダは、イアンがあまりにも察しがよくかつ他人の隠し事に敏感な姿勢をよく知っている。 だから、ルイーダはここ最近で自分がなにに思い悩んでいるのか……その理由を白状することにしたのだ。
「……私がちょっぴり元気をなくしていたのは、貴方達がリッカをつれて、冒険にでたのを知って……昔を思い出したからよ」
「ああ、このあいだの………」
「…………実はね、私かつては………貴方と同じ世界をまたに掛ける冒険者だったの。 そして、私には当時……いつも一緒に旅をしていた一人の仲間がいたの…………でも、その人とはあることがキッカケで、別れることになり、冒険者をやめて酒場を開くことにした…………」
「えっ」
まさかルイーダに、そのような大事な人がいたとは。 そして、冒険をやめるほどの別れを経験しているとは。 相当ショックだったのだろうか。 ルイーダはさらに、その人物のことを語る。
「その人の名前は………ミロ。 別れたのは……風を愛する人たちが生きる地だったわ…………」
「…………」
「私がこの酒場にいるのは、その人との約束なのよ……だから、この酒場を離れられない。 でも、この前あなたとリッカが冒険にでたのをみたら……そのときを思い出してしまったのよ………」
「………そうだったのか。 オレってば………バチアタリっすかね………」
イアンがそう申し訳なさそうに言うと、ルイーダはいいのよ、と返しつつイアンに告げる。
「あなたは、今の仲間を大事にしなさい。 せっかく、いいパーティーなんだもの」
「……うっす………」
ルイーダに対しそう返したイアンは、フィリスの元に戻った。
「あ、イアン……どうだった?」
「………ああ、実はさ………」
イアンはルイーダから聞いた話を、フィリス達に同じようにした。 話を聞いたフィリス達は、ルイーダの過去を知り、解決するにはどうしたらいいかを考える。
「………そうなんだ……」
「それで、ルイーダさんが冒険をやめるキッカケとなった場所は、風を愛する人達がいる場所……なのよね?」
「ああ、そんなことを言っていたぜ」
「………風………」
そのワードがフィリスには引っかかり、今までの旅を思い出す。 そしてやがて、ある場所のことを思い出した。
そうしてフィリスがルーラの魔法で向かったのは、カルバド大草原の中にある、遊牧民の集落だった。
「カルバドの集落?」
「風と聞いて思い出したんだよ、ここを………」
そう思い出しながら語っていると、どこからか馬の嘶きが聞こえてきた。
「ヒィン!」
「うぉっ!?」
その嘶きに驚いていると、馬に乗っていた人物が馬の上から声をかけてきた。 その人物はフィリス達を知っているし、フィリスもその人物を知っている。
「フィリス、それにみんな……!」
「ナムジンさん!」
その人物とは、遊牧民族の族長・ナムジンだったのだ。 思わぬ再会にナムジンは驚きながらも、馬から下りてフィリス達に声をかけてくる。
「まさか会えるとは……なにかあったのかい?」
「ああ、実はさ……」
とりあえずフィリス達は、ルイーダとミロのことをナムジンに尋ねる。 すると、ナムジンの口から思わぬ返答がかえってきた。
「その名前は、私も聞き覚えくらいはあるよ」
「ホントに!?」
「ああ………私よりも父上の方が詳しい。 そちらに話を聞いてみては、どうかな」
「わかった、そうする!」
そうしてナムジンの話を受け、フィリス達は彼の父である前族長・ラボルチュに話を聞くことにする。
「まさかのビンゴだったな」
「うん」
「……しかしまさか、あなた方からその名前がでるとは思わなかった。 もしや、知り合いか?」
「まぁ、しりあいっちゃ知り合いだぜ」
そう対話をしている間に族長のパオに到着する一同。 ナムジンはそこにいた父ラボルチュに帰還を告げつつ、フィリス達がきていることや彼女達が尋ねたいことまで全部伝えてくれた。
「ラボルチュ様」
「まずは、久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりです………実は今回、ルイーダさんとミロさんという2人の話を聞きたくて、おたずねしたんです」
「あなたは、なにか知ってるんですか?」
フィリスがそう言うと、ラボルチュはうむと言いながら頷く。
「知ってるもなにも……ルイーダ様とミロ様は、我ら遊牧民の英雄だ」
「え、英雄!?」
まさかそう呼ばれる存在だったとは。 思わぬ情報に4人は思わず口を開けてしまう。 そんな4人のリアクションをよそに、ラボルチュは話を続ける。
「ミロ様とルイーダ様は……野の花をなでる初夏の風のように………ふらりとこの草原に現れた。 明るく強く、そして美しい2人は、すぐにオレ達と心を通わせた。 集落には笑いが絶えなかったよ」
「………だが………その楽しい日々は、長くは続かなかった」
「えっ………どうして………」
そんな楽しい日々が突然終わってしまうことがあるのか、戸惑うフィリス達に2人は話を続ける。
「………あるとき……魔物の大群が集落をおそい、ミロ様とルイーダ様は、我ら遊牧民とともに剣をとった。 魔物の大群は追い払ったものの………その時ミロ様は子どもを庇い、命を落としてしまわれたのだ…………」
「えっ……」
「その亡骸はのちに、ルイーダ様が手厚く葬ったと聞く。 これが、この地の英雄……ミロ様の話だ……」
「ミロ様は今もどこかで、集落を見守ってくださっている………我ら草原の民はそう信じているよ………」
想像を超える真実に対し、フィリス達は言葉を失った。 その心の傷が原因でルイーダは旅をやめて酒場を始めたのか。 それで一カ所にとどまったのか。 とりあえずルイーダの過去を知ったフィリス達は、ラボルチュに礼を言い、フィリスはナムジンに、あることを問いかける。
「なぁ、あなたは知らないか? ルイーダさんがミロさんを葬った場所の………ヒントとか………」
「いや、わからない。 そもそも、そのときは私もまだ幼く…力がなかったから……話でしか知らなかったからな………」
「………そうか………」
誰にも、ルイーダがミロをどこに埋葬したのかがわからないらしい。 フィリスは頭を抱えた。 そんなフィリスに、サンディは問いかける。
「なに考えてたワケ?」
「いや、そのミロさんが埋葬された場所に行けば、幽霊に会って話をすることが、ワンチャンでできたんじゃねーか……と思っただけだ」
「なるほど、その手があったか」
「どうかしたのか?」
「なんでもないっす」
サンディがほかに見えないのでそうはぐらかす横で、イアンが考え込んでいた。
「ルイーダさんに……そんなことがあったなんてな………」
「なんだかんだでイアン、ルイーダさんを気にしているのね」
「………別に、そんなんじゃねーよ」
そうはなしている間に、日が暮れていたらしい。 ナムジンはこの集落で休むことをすすめてきた。
「もう日が暮れている。 この集落に用意されている宿屋で休むといい」
「そうしたほうがよさそうですね、手がかりはまた明日…探すことにしましょう」
「ああ」
そう会話をし、4人は宿屋に向かうべくパオを出て行った。
「って……待って……」
「どうしたんですか?」
「あそこ!」
そんなとき、フィリスは遠目に女戦士を発見した。 雰囲気からして、周囲の遊牧民とは明らかに違う。
「………誰かいるけど、他の人と違うな………」
「行ってみましょう!」
「はい!」
その女戦士が何者なのか、一瞬の間でだいたいの憶測がついた4人は走り出した。
「あの!」
「えっ?」
その女戦士に声をかけようとしたら、逆に声をかけられた。 4人の反応から、自分の正体を知っているのだと気づき、女戦士は話しかけ続ける。
「声が聞こえるということは、私の姿が見えるのですね?」
「うん、見えてます」
「貴女達のお話は聞いていました………私がルイーダの友人である、ミロです!」
どうやらこの女戦士の幽霊こそが、ルイーダの亡き旧友・ミロのようだ。 ミロは、彼らがルイーダの知り合いであることを問う。
「貴女達は………どうやらルイーダを知っているご様子…………」
「ああ、知ってるぜ。 オレ達のパーティーをくませてくれたキッカケの人なんだしな」
「…………………」
この4人に一緒にいくように勧めたのがルイーダである。 その情報を知ったミロは表情を曇らせた。 そんなミロに、フィリスは問いかける。
「それで、ミロさんは……あたし達にはあんたの姿が見えることを知って……どうしたいんだ?」
そのフィリスの問いかけがキッカケとなり、ミロは顔を上げ意を決し、彼女に頼みたいことを告げる。 それは、自分をこの世に縛り付けている未練の話。
「………実は私、彼女に謝りたいことがあるのです!」
「謝る? それって………ルイーダさんを残して先に逝ってしまったこと………ですか?」
「それもありますが………私は命を落とす直前、彼女にこう言いました。
悲しまないで。 それよりも冒険の素晴らしさを……たくさんの人に知ってもらって…………と。
ルイーダはその言葉を受け止め、多くの旅人達が集まる……あの酒場をはじめました」
「そうか、それであの人は…………」
だから冒険者の集まる酒場を切り盛りし、パーティーをくませて冒険に繰り出したりアドバイスを送ったりしていたのだ。 彼女の経験がそれを実現させている。
「たくさんの人に……冒険の素晴らしさを知ってほしいというのは本当です…………しかし! 彼女自身がそれを忘れてしまっては、意味がありません!」
「ミロさん…………」
「お願いです、旅のお方……。 彼女にもう一度、旅の素晴らしさを思い出させてはもらえませんか?」
ミロの願いを聞いた一同。 特にイアンが、反応を見せる。
「それがルイーダさんの悩みを解決させる方法、なのかもしれねぇな……」
「イアン……そうだな。 ミロさん、あんたの願いを引き受けるよ! だから、あんたがどこで眠ってるのか教えてくれ!」
イアンとフィリスの言葉を聞いたミロは、礼をいい自分の埋葬された墓地の場所を教える。
「ありがとうございます! …………彼女が私を埋葬し……墓を建てたのは、ジャーホジ地方の陸地なんです」
「ジャーホジ地方!?」
「なんて……場所に………」
「そこまで一緒にきてください。 ほかの方法では見失いますから、船を使って………」
「あ、ああ……わかった!」
ジャーホジ地方はここから北方にある、あれた地だ。 そんなところまで行ったのかと色々言いたいことはあるのだが、そこを目指すしかないのであればいくしかない。
「が、がんばるぞ!」
「ああ!」
そう決めた4人は、船のとめてあるポイントに向かうことにする。
「フィリス?」
「あ、ゴメン! 急用できたからあたしらこのまま集落をでてくね! また近くにきたら遊びに来るからっ!!」
「え」
その途中でナムジンに遭遇したが、手早くそう説明をするとそのまま走り去っていった。
「…今度ワビの品でも持って行ってあげましょ」
「う、うん」
申し訳なさそうな顔をしているフィリスに、クルーヤはそうアドバイスを送る。
「………思ったより普通にたどり着けたわね………」
「ちと長かったけどな。 んで………」
そう話をしながら船にたどり着き、イアンが船を操縦して船を北へと進めた結果、彼らはジャーホジ地方の荒れ地に到着することができた。 そこで4人は、ミロの名前が刻まれた墓石を発見する。
「これがきっと、ミロ様のお墓なのでしょう」
「そう、私のお墓です」
セルフィスの言葉を肯定するかのように、ミロが姿を現した。
「ミロさん」
「旅の方、そのお墓をよく調べてみてください」
そういわれたので、フィリスは墓をじっくりと見つめてみた。 すると、墓のそばの土が少し盛り上がっているのが見えたので、そこを掘り返してみると、布にくるまれたペンダントが出てきた。
「………ペンダント………?」
「そのペンダントこそ、私とルイーダの友情のあかし………私達はお揃いのペンダントをつけ、いろんな町や人を見てみたいって………冒険に胸を躍らせていました」
「いろんな町や人を見てみたい………冒険………」
その言葉を聞いて、フィリスはかつての自分の姿を思い出した。 自分もまた、その好奇心や言葉に胸を躍らせていた時期があったから。
「しかし、私が命を落としたとき、私から………そして悲しい旅から決別するために…………ルイーダは自分のペンダントを、ここに置いていったのです」
「……………」
「……旅の方、お願いです。 そのペンダントをルイーダの手に返してあげてください」
「ミロさん」
「そして、旅はすばらしい。 そう友が言っていたと……お伝えください…………」
「…………必ず、伝えるよ」
ミロの願いを聞いたフィリスはそのペンダントを握りしめ、これを必ずルイーダに渡さなければならない、と気を引き締めた。
「にしてもこの世界って………大事なペンダントを石碑や墓に隠す習慣でもあるんだろうか…………」
「え?」
「いや、こっちの話」
ミロの願いを聞き、ペンダントを手にした4人は、セントシュタイン城に帰ってきた。 宿屋に入った一同はすぐに、早起きをして酒場の営業準備に入っていた、ルイーダに声をかける。
「ルイーダさん」
「あら、フィリスにイアン………突然出て行ったからどこにいってたのかと思ったわ。 それで………どうしたの?」
「実は、あんたに渡したいものがあってね………これだよ」
「え……なに……!?」
フィリスが例のペンダントを見せると、ルイーダは驚く。 なにしろそれは自分のかつての所有物であり、フィリスたちがそれを知っているはずがないのだから。
「ど、どうしてそのペンダントを………!? ミロのお墓のことは、誰も言ってなかったのに!」
「信じられないかもしれやせんが、オレ達にはわかるんスよ………亡くなった人の心が。 …………それを通して………」
「まさか、ミロが!? そんな、ありえないわよ」
「まぁ、そう思うのが普通ッスよね。 でも、事実ですよ………彼女が貴女に、伝えたい言葉があることも……」
イアンが中心となり、ミロの遺言を代弁する。 旅はすばらしいもの…という言葉をきいたルイーダは目を細める。
「…………旅はすばらしい、か。 なつかしい………あの子がいつも私に言っていた言葉………。 夢を見ているような話だけど、本当のことみたいね………」
「あのさ、ルイーダさん」
そこでフィリスは、自分が腰に装備している剣をルイーダに少し見せる。
「あたしも、大事な人……師匠を目の前で失いました。 今あたしが持ってるこの特別な剣は、彼の形見です………」
「………」
「あたしの話なんかが………参考になるかはわからないけど………。 もしあたしがこの剣を手放したり……志半ばで旅をやめて、強くなる理由を見失ったら……失った悲しみで思い出をかき消そうとしたら……それでこそ師匠を本当の意味で……失うことになると思うんです。 だから、あたしは今も旅を続けて、教わったことを胸に進んで……そして、強くなりたいっておもっているんです」
「……フィリス…………」
フィリスの話を聞いたルイーダは、自分の胸に手を当て、ペンダントを握りしめて淡々と語る。
「私、悲しい思い出から………逃げていたのかもしれないわね。 旅はすてきなものだったのに………その悲しみで、今まで楽しかった、すばらしかった思い出を……塗りつぶしてしまった。 よかったことを……なかったことにしてしまっていた…………」
フィリスの話に自分のことをあてはめながらも、ルイーダは自分が長年なにを思っていたのか、なにを抱えていたのかを徐々に受け止めていき、やがて顔を上げた。
「私、そのうちまた旅にでもでてみようかしら。 今平和だから、そのうち………実践してみたいわ」
「いいじゃねぇですか。 そんときゃ、オレ達が同行しやすぜ」
イアンがそういうと、ルイーダはお願いねと言ってクスリと笑った。
「ありがとう。 私の大切な宝物、持ってきてくれて……」
「へへ、どういたしまして」
そう話をしながら窓を開けると、そこに風がはいってきた。
「んっ」
少し強いが、あたたかくて気持ちのいい風。 その風は姿形はないものの、なんの風なのか…フィリスたちにはわかった。
「きっと、ミロさんかもしれないわね」
「ああ、あたしもそうだと思ってるよ………」
きっと立ち直り、過去から克服できたルイーダをみて、ミロは昇天したのだろう。 もし生まれ変わったらそのときはまた、ルイーダとミロが友として同じ道を歩めればいい。
「近いうち、ミロさんのお墓に皆で……お花を手向けましょう」
「………ああ………」
途中でなんか寂しさを覚えて、ちょっと違う展開を入れちゃいました。
それはともかくとして、次回はこの長編でのオリジナル展開を入れようと思います。