実はルイーダの過去を探る冒険は徹夜で行っていたため、4人は宿屋で昼まで熟睡していた。 翌日目を覚ました一同は、ことの顛末を依頼人であるリッカに話した。
「そんなことがあったんだね」
「ああ」
「ルイーダさんの話をきいて、悩みが解決してよかった! フィリスたちも、ルイーダさんの話を聞いてくれて…ありがとう!」
そういってリッカはフィリス達に、今回の依頼を達成したお礼と褒美を兼ねた特別なデザートをもらった。 それはリッカお手製フルーツタルトであり、4人はそれをわけあって食べていた。
「うぅーん! 甘くておいしいー!」
「ああ! これなら旅の疲れが一気に吹っ飛ぶぜ!」
わいわいとフルーツタルトを食べる4人、その傍らでリッカとルイーダは話をする。
「わたしも、いつかルイーダさんが安心して冒険に出かけられるように、この宿屋をもっと立派にして……守れるようにならなきゃ……!」
「そう言ってくれるのね……うれしいわリッカ。 ありがとう」
思えば自分の悩みが解消され、再び冒険への思いを抱くことができたのは、自分の異変に気づいたリッカがフィリス達にそのことを相談したからだ。 ルイーダは自分の周りにこんなに味方がいたことを思い出しながら、フィリス達に近付く。
「そうだわ、今回の件のお礼に…あなた達にこれをあげるわね」
「え?」
そう言ってルイーダがお礼として差し出したのは、赤い宝石のようなものだった。
「キレイ……でも、これはなに?」
「宝石のカケラ、だと思うわ」
「宝石のカケラ?」
宝石であることはともかく、そのカケラとはなんなのだろうか。 疑問符を浮かべるフィリス達に、ルイーダは話を続ける。
「昔、ミロと一緒に旅をしていたときに見つけたものなんだけど……途中で鑑定をしてもらったところ、宝石のカケラだということが判明してね。
ずーっと忘れていたのだけど……あなた達のおかげで思い出したから……これを、お礼にあげようと思ったの……」
「そっか、さんきゅーなルイーダさん」
とりあえず報酬ということで、彼らはその宝石のカケラを受け取る。 すると、そのカケラを凝視をしていたリッカが、口を開いた。
「そうだ、そのカケラ」
「なに?」
「似たようなものを、ウォルロ村で見たことがある気がする」
「まじか!」
驚くフィリスにたいしリッカはうなずくと、どこでみかけたのかを教える。
「たぶん、今もあの宿屋にあるかもしれない。
気になるなら、いってみたらどうかな?」
「ああ、じゃあ行ってみるよ!」
そう言って4人は、自分達が食べたものをきっちりと片づけた後で、セントシュタインの宿屋を飛び出しウォルロ村に向かったのであった。
「いつもいつも、あわただしいわね」
「そうですね……でも、あの方がフィリス達らしいなぁ……」
「なっつかしーな、ウォルロ村」
リッカの話を聞いたフィリス達は無事にウォルロ村に着いた。 その村の中でフィリスは懐かしげに目を細めて、そうつぶやいた。
「そういえば……フィリスってこの村の守護天使だったのよね」
「ああ……師匠と一緒に守ってたんだ。 あの事件が発生したのは、あたしが彼からその地位を受け継いだ……直後のことだったんだ」
フィリスは天使時代のことを思い出しつつ、自分が墜落した後のウォルロ村の様子と今のウォルロ村の様子を見比べる。
「流石にあれから、かなりの時間が経ってるから………村の中はきれいになってるな!」
「……確かに、あのときはあの大地震の影響でボロボロだったからな……。 あのあとで、村の人達ががんばって立て直したんだろう」
ボロボロの状態だったウォルロ村を見たことがあるイアンも、そうつぶやいた。 そして、本来この村にきた目的を果たすために、彼らは宿屋を探していた。
「あれは…」
そんなときフィリスは、見覚えのある老人と金髪の少年をみつけ、声をかける。
「ニード! それにリッカのおじいちゃんじゃん!」
「んぁ? 誰だ……このニード様の名前を呼ぶのは………」
名前を呼ばれたニードはそう言って振り返り、そしてフィリスの顔を見て驚く。
「って、フィリス! フィリスじゃねーか!」
「久しぶりだな!」
「ああ!」
そう再会を楽しむフィリスとニードの間に割り込むようにして、リッカの祖父も懐かしげに目を細めて挨拶をしてきた。
「ほう、久しぶりじゃのう……フィリス! リッカの旅立ちを見送って以来だが………元気そうでなによりじゃ……」
「リッカのおじいさんも、元気そうでよかったです」
「そしてそちらは……」
リッカの祖父はフィリスと一緒にいるイアン達に目を向けた。 それでフィリスは、あのあと自分に仲間が出来たことを2人が知らなかったことを思いだし、紹介をしようとする。
「ああ………そういえば、みんなには話してなかったですよね……彼らは」
「フィリスの仲間…っすよ」
「右に同じくです」
「わたしもですよ!」
そうイアン、セルフィス、クルーヤは簡単に自分達の説明をした。 それ以上の言葉は不要だといっているかのようだった。
「あんたらさぁ……」
「ほっほっほ……フィリスにこのように素晴らしい仲間ができておったんじゃなぁ……けっこうけっこう」
リッカの祖父は彼らの反応で納得をしたらしい、そこでフィリス達からリッカの近状や旅の話を聞きたいということで、家に4人を招き入れることにした。 それにニードも、便乗をする。
「なぁ、オレもお前等の話を……」
「………ウォッホン! ニード…お前は宿屋の仕事がまだあるはずじゃろう?」
「うぐ……そ、そうだけど……」
「わかってるなら宿屋に戻らんかぁ!! 少しでも手を抜いたらまた3日間、鬼の特訓じゃぞぉぉぉ!!」
「は、はいぃぃ!!」
リッカの祖父はニードにたいしそう怒鳴ると、ニードは焦って宿屋に帰っていった。 そんなリッカの祖父の怒号の声を聞いた4人は、驚きすくみ上がっていた。
「こ、こえぇ……」
「ひぇぇ………あんな気迫を出せるおじいちゃんだったの……あの人………」
「ああ、あたしもビックリしてる……」
「亀の甲より年の功……ということなのでしょうか……」
穏やかで孫思いの老人、という印象しか抱いていなかった一同は、さきほどみたスパルタンな一面に対し驚愕しているようだ。
「……まぁでも、今晩はここの宿屋にいけばいいだけだし……そのときに話し相手になってやろうよ」
「ああ」
「ええ」
「はい」
今晩はニードの宿屋に向かい、そこでニードと話をしてあげようと言うことでまとまり、一同はリッカの実家へ向かい、彼女の祖父に孫の様子を伝えた。
「そうかそうか、リッカはセントシュタインの宿で……そんなにがんばっているのかぁ……」
「最近も、少し息詰まっていたようだったけど……母の言葉で立ち直ったようです。 あの子は、強い子ですよ」
最近リッカがスランプ気味になりそれを乗り越えたことを、フィリスは彼に報告した。 話を聞いた祖父はそうかと、孫の成長を喜び笑ってうなずいた。 そこでクルーヤは、先ほどのニードに対する彼の対応にたいし、思うことがあったのでそのまま問いかける。
「もしかして、リッカちゃんの宿があんなに繁盛してて……それに納得するほどの完璧なおもてなしができるのって………あなたの指導のおかげなんでしょうか?」
「むぅ……わしもそうしようと思っておったのだが……わしがそうするまでもなく、自分の力でやっていったのじゃ。 リッカに宿屋の基礎を教えたのは、リベルトだったこともあるしなぁ」
リッカは元々、宿屋を経営する素質にめぐまれていたのだろう。 そして、父が亡くなる時までそばで手伝いながらもその姿をずっと見ていた。 だから、リッカはあの大きな宿屋の経営をまかせられたし、結果として宿屋を繁盛させることができている。 もはや、そんな彼女の実力を疑うものなどいないだろう。
「じゃが……ここからが大変じゃろうな……」
「………と、いうと?」
「じきに宿王グランプリの時期が訪れる……それで優勝しなければ、リッカがいかに宿屋の主人として優れているかが証明されない。 誠の功績をおさめなければ、誰かに認められることはないじゃろう」
「……誠の功績……」
いくら優れた力を持っていようとも、それを評価する人間がいたとしても……それを勲章として形にしなければ、その実績を認められないだろう。 その厳しい世界のことを、リッカの祖父は言っている。
「リッカはまだ年の若い娘……。 だから、多くのものが彼女の手腕を意地でも認めることはしないだろう……たとえ、自分がその能力に劣っていたとしてもな………」
「そんなの、ただの負け犬の遠吠えじゃないですか」
「うむ……だが、それしかできぬものが大半じゃ……他人の功績を認めれば、自分が陰になってしまう……無意識にそう思ってしまう弱いものが……多くいる」
「…………」
「だが、それでも頂点はとらねばならない……真に素質があるものに……輝きを持つものにこそ、そこにたつべきじゃろう」
そう語った後、リッカの祖父はフィリスに語る。
「それを証明するのは、リッカの友であるおぬしの役目じゃよ……フィリス」
「あ、あたしが……?」
「そうじゃ……思えば、おぬしがリッカに出会ったあの瞬間……。 あれこそが、リッカの運命の転機だったのかもしれん」
「………」
「じゃから、リッカにとって宿王になれるかどうか……その重要人物がおぬしだと思うのじゃ。 どんなことがあっても、友として力になってやってくれ」
「………はい!」
リッカの祖父の話に対し、フィリスはそう力強くうなずく。
「さて、長話をしてしまったのう……疲れておらんか?」
「いいえ、大事なお話が聞けたので苦ではありませんよ。 ではあたし達は、宿の方にいきたいとおもいます」
「そうじゃな……ニードの宿屋、是非その目に焼き付けてくれ」
そうしてリッカの実家を後にしたフィリス達は、この村にきた本来の目的を果たすために、ニードが経営する宿屋に向かった。
「……いらっしゃいませ」
「よっ!」
「……って、フィリス!?」
ニードはふつうに挨拶をしていたが、宿に入ってきたのがフィリス達だと気づき驚く。 すぐにフィリスから話を聞きたくて仕方ないという様子のニードに気付いたフィリスは、笑いをこらえつつ話してやるよと言った。
「そうそう、リッカのじーちゃんや村のみんなから聞いちゃったよ。 あんた、あの宿屋ついだ後結局三日坊主でさぼったんだって?」
「なっ……! あいつら、おしゃべりがすぎるぞ……!」
「……んで、そのあとでじーさんにシゴかれて、体制を立て直したともな」
フィリスとイアンの言葉を聞いたニードは、必死にフィリス達に頼む。
「だ、だろ? だからその……オレがさぼって一度宿屋をダメにしかけたこと……リッカには黙っててくれよ。 ここは、オレがあいつから堂々と引き継いじまったんだから………もし、さぼっちまったことがバレたら………」
「リッカちゃんにキラわれるかもしれないわね」
あまりにも率直すぎるクルーヤの言葉に、ニードはショックを受けてうなだれる。 もしかしたら、そうなる可能性があったことも否定できないからだ。 そんなニードの反応をみて、セルフィスは彼の心情を察したらしく苦笑し、イアンはあきれ、クルーヤはくすくすと笑う。
「まぁ立て直したんだし、リッカには内緒にして……あんたが頑張っているんだってことを伝えてやるよ」
「ほ、ホントか!?」
「ああ……ま、タダというわけにはいかないけどな。 あたしらの話、聞いてもらうよ」
そう言ってフィリスは、自分達がウォルロ村に戻ってきた理由について話をする。
「宝石のカケラぁ?」
「ああ、実はあたし達はリッカにその情報を聞いて……探しにきたんだ」
「何かご存じありませんか?」
フィリスの話を聞いたニードは頭をかきながら、フィリス達が求める宝石のことを思い出そうとしていた。 すると、その宝石のことを思い出したらしい、ポンと手をたたいて顔を上げた。
「そうだ、思い出した!」
「え、なになに?」
「あの滝のそばにある、翼の生えている謎の像! あそこにこっそり隠したんだよ! いざとなればあの宝石を売って宿屋をゴージャスにするための……へそくりとして!」
それをきいた4人は盛大にずっこけ、そして顔を上げると全員で白い目をして、ニードをにらみつける。
「「「「…………」」」」
「そ、そんな目でみるなよ! ホントはへそくりにしようと思っていたんだけど……リッカの許可もあって、お前達がそれほしがってるってんなら、譲るからさ!」
そうニードが言うと、彼らは天使像に向かう。 ニードが言うには、その像の足下に当たる部分に、布にくるんだ状態で埋めておいたそうだ。
「………あ………」
「どうした?」
そのときフィリスは、像の足下にあるプレートに目を向ける。 しかし、そこにはなにも刻まれていなかった。
「………やっぱ、あたしの名前がないや………」
「………フィリスさん………」
「………ほかの像と、同じね………」
「………」
これも、あの戦いが終わった後の世界に生じた異変の一つである。 各地にある天使の像にはかつて、守護天使の名前が刻まれていたのだが、今はその像のみが残され天使の名前は消えてしまったのである。 それは、このウォルロ村の守護天使であるフィリスも、例外ではないようだ。
「……ま、あたしだけ特別に~……ってわけにもいかないしな。 もしこれであたしだけ名前が残っていたんなら……それは不公平だ」
「……そっか。 お前がそういうんなら、オレ達もとやかくはいわねぇぜ」
「……そうね、はやいところ宝石を掘り出しましょう」
「はい…」
そう言葉を交わし、4人は天使像の足下を掘ってみた。 すると、そこには白い布にくるまれた何かが埋められており、フィリスはそれを取り出して布を開く。
「……これは……!」
「間違いない、ルイーダさんからもらった宝石のかけらと同じだ……!」
「じゃ、これで2個目……ってことね!」
そうして2個目の宝石を見つけた一同が喜んでいると、そこに村の教会に仕えているシスターが話しかけてきた。
「フィリスさん……その不思議な像が気になるんですか?」
「え?」
「その翼が生えた人のような形をした像は……いつから、この村にあるのかが誰にもわからないのです。 なぜここにあるのかも、なんのためにつくられたのかも………」
「………」
シスターの話を聞いたフィリスは、おもむろに口を開いた。
「…………この翼の像………あたしからお願いがあるんです。 このまま、ここに……置いておいてもらえませんか……?」
「えっ?」
「理由はいえませんが、あたしにとっても……みんなにとっても………この像は大事なもの、なんです。 だから……」
「………わかりました、よろしいでしょう」
「……え………?」
フィリスの唐突すぎるお願いに対し、シスターは頷く。 あまりにもあっさりと受け入れられたため、フィリスはキョトンとした顔になってしまう。
「……この像からは、悪意は感じられません。 むしろ、どこか神秘的で……神聖さににたものを感じます。 きっと、いつの時代だったか……神がこの世につかわした、人々を守るための祈りの象徴……のようなものなのでしょう。 わたし達は、この像も村の一部として、受け入れますわ」
「………ありがとうございます……」
シスターの言葉に対し、フィリスはそう答えたのであった。
そうして目的の宝石を見つけだした4人は、ニード達に挨拶をした後、再びウォルロ村を旅立っていった。 また近いうちに立ち寄ることを約束して。
「ニードの宿屋、一回泊まってみたらよかったかなぁ?」
「まぁまた、次に立ち寄った時でいいんじゃねぇか?」
今彼等がいるのは、峠の道。 そこでフィリス達はペットとはぐれた家族に協力して、ペットを探しだし、家族と再会させたのだ。 まぁまさか、そのペットの正体が善良な心を持つスライムというのは、想像していなかったことではあったのだが。
「……ねぇ、ルイーダさんにもらった宝石と、あの村にあった宝石。 いまいちど、見比べてみない?」
「そうだな」
その一家とスライムを見送った後、クルーヤの案に同意したフィリスは、ふたつの宝石を取り出した。
「こうしてみると、この二つの宝石……どっちも色が同じだ………」
「そっくりというか、同じものでしょうか……!?」
見比べてみた、次の瞬間。 突然として二つの宝石は淡い光を放ち、フィリスの手の中でその光を強くした。 わ、と一同が声を上げた次の瞬間、その光は二つの宝石を飲み込んだ。
「な、なにが………!?」
光がやんだとき、二つの宝石はなくなり一つの宝石がフィリスの手の中にあった。 その宝石の大きさは、自分達が持っていた二つの宝石とほぼ同じことから、彼らの中にある説が浮かび上がった。
「くっついて……ひとつになった、ということか!」
「うっそ、マジ!?」
まさかこんなことが起こるとは。 そう思ったクルーヤは宝石に手をかざし、宝石に秘められた魔力を探る。
「わずかに魔力が感じられるわね……どんなものかまでは、わからないけど………悪い力は感じられない、ちょっと不思議な魔力………ね……」
「………もしかしたら、これと同じ宝石が、各地にあるのかもしれませんね」
それぞれで、宝石に対する疑問を浮かべていく。
「ということは、また新しい宝石が見つかったら、くっついてまたひとつの宝石になっていくのか?」
「もし、そうなら……この宝石が集まったら、どうなっちゃうのかしら……。 完成したら、どうなるの?」
「わかんねぇ……でも、いろんな人がこれを持っていることといい…二つそろったとたんに合体したことといい………ただの宝石じゃないことは確かだぜ。 それに………」
「それに?」
フィリスは、その宝石を見つめ、ぽつりとつぶやいた。
「なんだか、懐かしいものを感じるなぁ……とも思うし」
「………そう言われたら、気になってくるじゃないの。 この宝石のこと」
「ああ……だからあたしは、守り人の使命を忘れるつもりはないけど……この宝石の秘密を明らかにしたい……」
そう自分の感情や願望を吐露すると、仲間はそれにたいする意見を口にする。
「宝の地図で、世界を密かにねらう奴を討っとくついでに……その宝石の謎も解明する……か………。 おもしろそうじゃねーか。 また退屈しなさそうだぜ」
「そうですね……まだやることがあると知って、ここまで胸が躍ること滅多にない機会です」
「わたしも、なんだか宝石の完成が楽しみになってきちゃった!」
「………決まり、かな」
そういってフィリスは、仲間達に告げる。
「よし、じゃあ宝石探しも積極的にやっていこうぜ! そんで、この宝石の秘密を明かしていこう!」
「「「おーっ!!」」」
その宝石をみて、サンディがなにかを考え込んでいる様子だったのに、フィリス達は誰も気づいていなかった。
あの宝石の真相は、全部更新したら明らかになるのでおまちくださいませ。
それまでは、いろんなお話を楽しみください。