「―――!? 何、ここ……!?」
それが、目を醒ました少女の第一声だった。
少女が気付いたとき、そこは、白く広大な人類の未来を語る資料館でも、自らの故郷でもなく、燃え盛る荒廃した都市であった。見渡しても、少女の周囲に生有る者の姿は見受けられない。
どこをどう見ても、廃屋や廃ビル以外で目に入るものは、炎、焔、焱ばかり。
「何があったんだろう……。人もいないし、声も聞こえない……」
見回していてもしょうがない、と少女は歩きだす。もしかしたら、声が上げられないだけで生存者がいるかもしれない。
「だ、誰かいませんか〜? 生きてたら返事をしてくださ〜い……。……!」
「あ! 今行きます! 大丈夫です、か……?」
――しかして、それは生存者ではなかった。その体には、最早肉など何処にもついておらず、その眼窩には、虚ろな空洞だけが
……即ち。
「……が、がガっガががッ、骸骨ぅぅぅうゥゥぅぅ!!?!???!!」
「gGi、巍ギガがGAgAAあァァaaA亜阿ぁ悪亞……!!!」
みぎゃぁあぁあああーーーー!!!!と叫んで駆け出す少女。錆び朽ちた剣を振り回しながら追う骸骨。少女の声に誘われたのか、追う骸骨の数は増える一方。
「はぁっ、はぁ、はっァ、はぁっ、はぁっ……はっう!! いたた……あぅっ、ぅわあぁぁぁぁ!!!」
走って、走って、走って……瓦礫に躓き、転倒してしまう少女。
あァ、駄目―――避け――無理――受け止―否。
――死
もう、駄目か――? 少女が諦めかけた、瞬間。
「先輩!! ご無事ですか!?」
「!? マ、マシュ!?」
紫紺の清流が、少女の敵を蹂躙した。
――――――――――――――――――――――――――
骸骨を粉砕した後、紫紺の少女――マシュ・キリエライトが、赤銅髪の少女と共に炎上する都市の中を進む。
「先輩。あと少しでドクターに指定されたポイントに到着します。
しかし……見渡す限りの炎ですね。資料にあるフユキとは全く違います。
資料では平均的な地方都市であり、2004年にこのような災害が起きた事は無い筈ですが……」
この世界は、
「大気中の
そう。なによりも、現代、それもあと約30年程度で大気中の魔力が枯渇し、
「キャアーーーー!!」
しかし、マシュが言葉を言い切る寸前、二人の元に悲鳴が響き渡った。
「えっ!?今の悲鳴は……!?」
「どう聞いても女性の悲鳴です。急ぎましょう、先輩!」
――――――――――――――――――――――――――
襲われていたのは、カルデアの所長たるオルガマリー・アニムスフィアであった。
彼女を怪物と化した骸の襲撃から救い出した後、マシュと少女は彼女の若干の誤解を解き、現在に至るまでの経緯を説明したのだった。
「――以上です。私達はレイシフトに巻き込まれ、ここ冬木に転移してしまいました。
他に転移したマスター適性者はいません。所長がこちらで合流できた唯一の人間です」
今の今まで、マシュも少女も他の意思疎通のできる人間には一人も会っていない。彼女達がこの都市で見たものは蠢く焱と骸骨ばかり。
「でも、希望が持てました。所長がいらっしゃるのなら、他に転移が成功している適性者も……」
「いないわよ。それはここまでで確認しているわ。
……認めたくないけど、どうしてわたしとそいつが冬木にシフトしたのかわかったわ」
オルガマリーが自らの気づきについて口にする。
「生き残った理由に説明がつくのですか?」
「消去法……いえ、共通項ね。わたしも貴方もそいつも、
つまり、管制室に存在し、且つコフィンに入っていなかった者達だけ――奇跡的にもその全員――がレイシフトに成功した。
「だから彼らはレイシフトそのものを行っていない。ここにいるのはわたし達だけよ」
「なるほど……さすがです、所長」
「すごい! 落ち着けば頼りになる人なんですね!」
「それどういう意味!? 普段は落ち着いてないって言いたいワケ!?
……フン、まあいいでしょう。状況は理解しました。貴方……そういえば名前を聞いていなかったわ。名前を聞かせてもらえるかしら」
オルガマリーが少女に名を訊ねる。数合わせの一般枠は重要性が低いと思っていたのか、名前の確認がおざなりだったようだ。
「えっと……私は、藤丸……藤丸六華です。所長さん。よ、よろしくお願いします。六華には『六波羅蜜と六神通の会得』を願う意味が……」
少女――藤丸六華は改めて自らの名を明かす。彼女と、心を
「そう。藤丸六華ね。随分御大層な意味が込められているようだけど、貴方の名前の由来なんて別にわたしは興味無いわ」
……バッサリ切って捨てられたが。
「とにかく、藤丸。緊急事態という事で、あなたとキリエライトの契約を認めます。ここからは、わたしの指示に従ってもらいます。……まずはベースキャンプの作成ね。いい? こういう時は霊脈のターミナル、魔力が収束する場所を探すのよ」
「ははは、バッサリだ……。名前負けしてるのは否定しようが無いけど……」
ショックを受ける藤丸、指揮をとるオルガマリー。
「ちゃんと聞いてくれないかしら? ……その場所なら、カルデアと連絡が取れるわ。この街の場合は……」
藤丸に説明を聞かせようとするオルガマリー。……だが。
「このポイントです、所長。レイポイントは所長の足下だと報告します。」
二人はポイントを既にドクターから教えられているし、既にポイントにもいる。
「うぇ!? あ……そ、そうね、そうみたい。わかってる、わかってたわよ、そんな事は!」
かわいい(迫真)*1
「マシュ。貴方の盾を地面に置きなさい。宝具を触媒に召喚サークルを設置するから」
気を取り直し、指示を再開するオルガマリー。
―――若干ポンコツかも知れない。
……などと藤丸は関係ないことを考えていた。
「……だ、そうです。構いませんか? 先輩」
マシュに問われ、意識を戻す藤丸。ここで変なことを考えていたと思われたら、また所長に怒られてしまう。
「いいよ。武器を離すのは怖いけど。やっちゃって。」
「……了解しました。それでは始めます」
――――――――――――――――――――――――――
ベースキャンプが設置され、カルデアとの通信は戻ったが、ロマニが通信を仕切っていることに納得がいかない所長。だが、ロマニが通達したカルデアの残酷な現状は、所長に多大なダメージを与えるのに十分なものだった。
『―――現在、生き残ったカルデアの正規スタッフは僕を含めて20人に満たない。僕が作戦指揮を任されているのは、僕より上の階級の生存者がいないためです』
今のカルデアに、Dr.ロマン――ロマニ・アーキマン――以上の階級の人間がいない。更には、スタッフそのものの数が20人に満たない。はっきり言って――否、言葉にするまでもなく――、非常に厳しい状況である。
『レフ教授は管制室でレイシフトの指揮をとっていた。
……それは依存レベルで頼りにしていた人間への死刑宣告。所長にしてみれば、足元が崩れてゆくような感覚だろう。
「そんな―――レフ、が……? いえ。そんな事より、待って、待ちなさいよ、生き残ったのが20人に満たない? じゃあマスター適性者は? コフィンはどうなったの!?」
『――47人、全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助けられても、全員は……』
「ふざけないで! 今すぐ冷凍保存に移行なさい! 蘇生方法なんて後回し、死なせないのが最優先よ!」
「ああ、コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!」
すぐに
「馬鹿言わないで! 死んでなければあとでいくらでも弁明できるからに決まってるでしょう!? だいたい47人分の命なんてわたしに背負えるワケないじゃないの……! 死なないでよ、頼むから……! ああ、こんな時レフがいてくれたら……!」
そう、所長はそんな高尚な思考から冷凍保存に踏み切ったわけではなかった。ただ、自らの身を守るのに最も有効で、最も苦しまずに済む手をとったまでの事だった。
……それでも。真っ先に人命を優先した事には変わりなく。
「所長さん! すごいですよ、どんな理由でも、人の命を全てをおいて優先したんですから!」
「……へっ!? そ、そう。貴方に褒められても違和感しか感じないのだけど……。……ありがとう」
「えぇー!? そんなー!」
藤丸には、そんな所長が、なんだかとてもすごい人に見えていた。
――――――――――――――――――――――――――
『報告は以上です。現在、カルデアはその機能の八割を失っています。残されたスタッフでは出来る事に限りがあります。
なので、こちらの判断で人材はレイシフトの修理、カルデアス、シバの現状維持に割いています。
外部との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直し……というところですね』
ロマニの報告を聴き、カルデアの状況を改めて確認する所長。下した命令は……。
「結構よ。わたしがそちらにいても同じ方針をとったでしょう。
……はぁ。ロマニ・アーキマン。納得いかないけれど、わたしが戻るまでカルデアを任せます。レイシフトの修理を最優先に行いなさい。わたし達はこのままこの街……特異点Fの調査を続行します。」
『うぇ!? 所長、そんな爆心地みたいな現場怖くないんですか!? チキンのくせに!?』
「ほんっとに一言多いわね貴方は!」
所長の性格を知るロマニは驚愕を露わにするが、それを声に出したが為に所長に怒鳴られてしまう。
「今すぐ戻りたいのは山々だけど、レイシフトの修理が終わるまでは時間があるんでしょ。この街にいるのは低級な怪物だけだと分かったし、デミ・サーヴァント化したマシュがいれば安全よ。
事故というトラブルはどうあれ、与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りです。
これより藤丸六華、マシュ・キリエライト両名を探索員として特異点Fの調査を開始します。……どうしたのかしら、ロマニ。言いたい事があるなら早く言ってちょうだい」
所長はこれからの方針をロマニに伝えるが、当のロマニはモジモジと何かを言いづらそうにしている。所長に促されたロマニは言い渋ったが、おずおずと話し始める。
『あの、キメてる最中に悪いのですが所長……その事に関してですが、マシュと融合しているのは防御特化の英霊です。万が一という事も考えられるので、可能なら前衛を任せられる英霊を召喚した方がよろしいかと……』
「っそ、そうね、その方が良いわよね。分かってたわよ! でも、カルデアの英霊召喚システムじゃあ召喚には聖晶石が必要になるじゃない! そう簡単に入手できるものじゃないし、今ここには私が持ってる一つしか―――」「あ、あのぉ……」
意見を提示したロマニに怒鳴り返す所長。しかしそれを遮って六華が発言する。
「何かしら!? まさか貴方が持ってるとでも――」
「ひぅ! いえ、あの、もしかしてその『聖晶石』っていうのは、これ、でしょうか……」
六華は懐から虹に煌めく八つ角結晶を取り出す。
「……そ」
『…………所長?』
「それを早く言いなさいよぉぉーーーー!!!」
――――――――――――――――――――――――――
「お、落ち着きました? 所長」
「――えぇ、何とかね……」
「『めっちゃくちゃ
所長が絶叫してしばらく、果たして所長を
「あ、えーっと、よろしくお願いします、所長……」
「はあ、分かったわよ、やればいいんでしょ」
「詠唱は憶えたわね? じゃあ召喚するわよ。早く準備なさい」
「うう、所長の当たりが強い……」
「バカな事言ってない! ほら、サークルに聖晶石を投げ入れて詠唱をしなさい。時間がないのよ」
所長に急かされながら召喚の準備を行う六華。勉強中に所長が胸から聖晶石を取り出し若干騒ぎになった一幕もあったが、ここでは割愛することにする。
「分かりましたよぉ……。んん゙っ――――
素に金と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には我が大師アニムスフィア。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国へと至る三叉路を循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
――――
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!*2」
「ちょ、貴方、詠唱が微妙にちが……!!」
『何だこの異常な霊基反応!? 尋常な
果たしてその警告は功を奏した。その眼前の膨大な魔力反応によって、六華は吹き飛ばされそうになっていた。
そして、その魔力の奔流が収斂し、極光の激流が収束する。太陽が如き光が消失した時、そこに立っていたのは――――
「サーヴァント、セイバー。或いは
昨日(2021/3/19)は急いで投稿したのでまるで後書きが書けずじまいでした。書きたいこと色々あったんですけどね。何とか春休みに入ったので若干更新スピードは上がると思います。
とりあえず、今回は毎日投稿している作者様の偉大さを知りました。その上100話以上も書いてる長編作家ともなると…………もはや人外ですね(笑)