―――――…………こんばんは。はい、みんな大好き沖田さんですよー。
え? 『ここはどこ?』ですか? ここは私の夢の世界。
まあ細かい説明なんてされても、何がなんやらさっぱりでしょう。ですから、私達の記憶を追体験するための扉だとでも思っておいてください。よろしいですか?
はい。では扉を選んでください。我々のツギハギの人生を、どうぞ御照覧あれ…………。
こんばんはマスターさん! いやー、お噂はかねがね……え? 『沖田さんの中から一緒に見てたんじゃないの?』って? ウェヒヒ、おっしゃる通りでございます……。
まあそんな事はその辺に置いといて、今回は私の世界の話なんですよね。まあまあ、観てもそんなに楽しいもんじゃあありませんけど……というかむしろ胸糞悪くなるような話かもしれませんよ? それでもいいよっていうなら、いくらでもご覧になってってくださいね―――――。
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始まりは、行き場のない赫怒と憎悪だった。
「なんであの人が死んで、アンタが生きてるのよ! なんでアンタがあの人の代わりに死ななかったのよ! 死ね! 死ね、クソッタレ! この人殺し!!」
自分へと向けられる半ば泣き声のような怨嗟。それを引き金に、周囲の者達も同調し、そうだそうだと
「テメェみてーな人殺しは俺が成敗してやらぁ!!」
「やっ、やめてよ! 殺してなんかない! 私は殺してない!」
「うるさい! 知ってんだよ、あのライブの死者の3分の2は逃げようとした人間に殺されてんだってな!」
約2年前。 ツヴァイウィングの公演中に認定特異災害ノイズが大量発生した『双翼の惨劇*1』。
その場には、観客、関係者あわせて10万を超える人間が居合わせており、死者、行方不明者の総数が、12874人にのぼる大惨事であった。
これだけでも他に例を見ない規模の事故であったが、悲劇はここで終わらず、さらに連鎖していく。
被害者の総数12874人のうち、ノイズによる被災で亡くなったのは、
「俺は詳しいからな、知ってんだよ。そういうのって『緊急避難*2』って言って法じゃあ裁けねーんだろ?
だから、被害者、遺族の! 気持ちを! 代弁して! 俺が! そういう、人殺しに! 制裁を! 加えてやってんだよ!!!」
「ガっ! ッぁ! ………ッが!が…ゔァぁ………っは! あ゙ッ! ゔは…ぁ! っ…あぁ…っ……!」
死者の大半が人の手によるものであることから、生存者に向けられた心無い悪辣なバッシングが展開された。
更に、被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、苛烈な自己責任論が展開されていく。
【仕方なかったのか? 『双翼の惨劇』の事実に迫る!】
週刊誌の記事内容は取材に基づいた正確なものではあったが、人々は感情を煽る華美な修飾、悪意的な表現に踊らされた。そういう人間は正しさを振りかざし、主にインターネット上に持論――大抵の場合は暴論――を繰り広げる。
それはやがて、この事件に関係もなければ興味もない人間までも巻き込み、ある種の憂さ晴らしとして狂熱的に扱われることとなる。
「だ、大丈夫……!?」
「近づかないでよ! あんたと関わってたらあたしまで標的にされるじゃない!!」
「ッ…………!!」
心ない中傷も、非道な暴力も、
『クズ』『死ね』『人間の屑』『ゴミ女』『お前だけ生き残った』『人殺し』
「お父さん……大丈夫?」
「……っ! あぁ。ちゃんと帰ってくるよ。平気、へっちゃらだ……」
自分の意見でなく、「他のみんなも言ってるから」という正体を失った主張がまかり通ると、それはもはや中世の魔女狩りやナチスの蛮行にも等しい、『正義を名乗る暴力』として吹き荒れるのであった。正当性など何処にも無い。たった一つの怨恨を起点に、ただ、連鎖的に関係の無い鬱憤までも爆発させ続ける。
「平気、へっちゃら……平気、へっちゃら……」
446:名無しの未転生者
……ちゃんと相談しなさいよ?
味方も被害者もあんただけってワケじゃないんだから
447:名無しの未転生者
私達で力になれることがあればなんでもするわ
448:H・tachibana
………………うん
だが、
「やめて、やめてよ……!!
「黙れクズ! 人殺しに発言権なんかあると思ってんのか!?」
善良な民衆が
もちろん、一連のムーブメントに対する反対派も存在していた。しかし、付和雷同という大多数の民衆が持つ本質によって封殺され、しばらくは大きなうねりの中に埋没することを余儀なくされていた。
そうして、嬲られ、
「……逃げよう。ここにいたらいずれ殺される。」
――――切れた。
そうして、彼女は日本国から抜け出した。誰にも告げず、【立花響】などという人物は初めから存在しなかったかのように、全ての痕跡を消し去って。
その後、彼女は様々な国を巡った。ヨーロッパからアフリカ、南北アメリカや南極大陸、果ては北極海まで。
「次はどこへ行くの? 響」
…………
「……帰ろう。日本へ」
日本にいるよりは若干マシな生活だった。
「え?」
幾つもの苦難はあれど、充実していた。
「未来を返さなきゃ。お母さん達も心配してるはずだよ。それに――」
しかし、
「それに?」
それでも、
「どれほど汚れていようと、
それが響の決断だった。
―――――おや? まだ時間がありそうですし、このまま先に進めちゃいましょうか。
あれま、『あんな迫害を受けて、よく日本に戻る気になったね』、ですか? …………そうですね。普通は戻ろうとは思わないですよね。
でも、あの「世界」には、辛いことばかりじゃなかった。楽しい思い出も、いっぱいあった。やっぱり、長いこと旅をしてると、辛い思い出よりも楽しい思い出の方が鮮明になってくるもんなんですよ。
まぁ、そんなことは置いといて、
「……ほらよ、日本だ。もう密航はごめんだぞ。さっさと出てけ」
「「ありがとうございました!!」」
「貰っても嬉しくねー感謝だぜ。ほら、とっとと消えた消えた!」
それから少しして。響と未来は、裏稼業の船舶に乗って日本へ密航していた。
「気のいい人だよね。無愛想だけど」
「そうだね響。ヤクザ屋さんだし無愛想だけど」
「テメェらしっかり全部聴こえてっからな!!?」
2人はその凄まじい剣幕から逃げるように下船し、夜の港に降り立った。
「テメェらの顔なんざ二度と見たくねぇ! さっさと帰るべき所へ帰れ!!」
「照れ隠しだね」
「そうだろうね」
「ぶっ殺すぞ!」
「ごめんなさ〜い!」
「ごめんで済んだらチャカは要らねんだよォ!!」
二人で裏側の男を煽り散らして笑う。長い逃避旅行は、二人を十分に
「あ゙ー腹立つ!! 長居したら見つかっから、オレはもう行くぞ! 二度とその
「さようならー!」
「本当にありがとうございました!」
「おう!! 次がねーことを祈ってるぜ!」
身軽な小型船が夜闇に溶けて見えなくなるまで、二人は手を振り続けた。あの船を、旅との別れに重ねて。
――――そして。
2042年、春。