THE IDOLM@STER The Story of Admiral Lescher   作:アレクサンデル・G・ゴリアス上級大将

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本作の主人公のテーマ曲は澤野弘之氏の「銀河英雄伝説 Die Neue These」の「Tranquility」です。本気で歌う主人公の声はシンガーソングライター Anlyさんに近い声になります。




解説

Navy SEALs(ネイビーシールズ,英語: United States Navy SEALs)
アメリカ海軍の特殊部隊。統合軍の一つ、特殊作戦軍の管轄部隊であり2つの特殊戦グループ、8つのチームに分かれて編成されている。所属隊員又は所属ライセンスの持ち主は鷲が三又鉾を持ったバッジである海軍特殊戦章〈トライデント〉を左胸に付けている。世界最高峰の実力を持つ特殊部隊として有名。レッシャー大将もかつて所属していた。



ストーナー63
いわゆるシステム・ウェポンと呼ばれる銃で、機関部を中心に重銃身と三脚を付けて重機関銃、他に部品交換で車載機銃や分隊支援火器、アサルトライフル、カービンにもなる。機関銃の給弾方法も弾倉とベルト式が選択出来、給弾方向も自由であった。レッシャー大将はSEALsにいた頃(少佐時代)これの改良モデルのベルト式機関銃を装備、指揮官 兼 機関銃手をやっていた。






如月千早のヒミツ①
幼い頃からのアメリカ軍人の親友"ウィル"がいるらしい。


レッシャー大将のウワサ⑧
『おっさん』呼ばわりされるとキレるらしい。


海軍大将、親友と再会する

765プロダクション 本社前

 

チハヤとユウはこんな小さな会社で働いているのか。躍進している会社だと聞いていたがこれでは零細企業のオフィスではないか。まあそんなこと言っても始まらない。とりあえずチハヤに会わねばな。

 

 

プルプルプル プルプルプル ガチャ

 

「Good morning my friend. It's me. I'm under the 765 production, so come pick me up.」ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル!」抱き着く

 

「チハヤ。」抱き締める

 

「お久しぶりです。10年ぶりですが変わりませんね。」

 

「お前は本当に大きくなった。私は衰える一方だ。もし何かあったらチハヤに介護してもらわないといけないかもしれんな。」

 

「勿論です。ウィルのことは優と一緒に支えますから!」

 

「ありがとう友よ。早速だがレッスンを見て貰えるかな?」

 

「はい。ウィルを1ヶ月で一流に育てるプランを優や皆で立てました。」

 

「ありがとう。」

 

「まずはウィルの今の実力を見ます。劇場〈シアター〉に行きましょう。優が待っています。」

 

「よし。車に乗れ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいみんなー!千早が彼氏連れてきたぞー!」

 

「「「!!」」」

 

「765プロダクションでは私はチハヤの彼氏扱いなのか、ユウ?」手を出す

 

「お久しぶりです、ウィル。響さんが煽っただけですからお気になさらず。」握手

 

「チハヤが望むなら私はそれでも良いが···。」小声

 

「それ言っちゃったら姉ちゃん発情しちゃいますから自重して下さい」小声で注意

 

「あ あぁわかった···はじめまして765プロのアイドルの皆さん。私はウィリアム·レッシャー·イチノセ ジュニアだ。いつもチハヤとユウが世話になっている。これは差し入れだ。」ウイスキーと白ワインとシチリア産オレンジジュース3本ずつと生ハム丸々2本

 

「こんなにたくさん···ありがとうございますウィル。」

 

「いや、そもそも私とチハヤはこれから商売上の敵同士となるのだ。であるにも関わらず私を快く受け入れてくれたチハヤと765プロダクションの各位には感謝せねばなるまい。この程度の差し入れではむしろ不足だろう。」

 

「僕達はウィルが765プロに新しい刺激を与えてくれると思ったからレッスンの申し出を快諾したんです。765プロとウィルの利害は一致しているんですから気にしないで下さい。」

 

「ユウがそう言うならそう考えておく···それより会社の幹部達に挨拶したい。会わせてくれるか?」

 

「社長は先程『築地で面白いものを見つけたから買い物してくる』とお出かけになり僕以外のプロデューサーの方々も挨拶回りで夜まで帰ってきません。事務の方々も諸事情により席を外しています。事務方を兼任するアイドルの方々も撮影に出かけました。とりあえず姉ちゃん達にレッスンを見てもらってはいかがでしょう?」

 

「···わかった。そうさせて貰おう。チハヤ、頼めるか?」

 

「はい。」

 

「ユウ、このCDを頼む。イマニシの部下が私の為に作ってくれた曲の音源だ。当然まだ私はレコーディングしていないし発売もしていない。お前達姉弟とここにいる者だけが初めての聴き手だ。頼むぞ。」

 

「ありがとうございますウィル。耳かっぽじってちゃんと聴きますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

It only takes one lone soul

It only takes one in a thousand

The absence of fear in your eyes

No, that's not bravery

As children we learn it's wrong

to put out the light of another

Our innocence lost over time

Means to an end

It's hard to hold your head up high

But we must try

 

ひとつの孤独な魂だけが選ばれた

幾千の魂の中から

お前の眼に恐怖はない

だがそれは勇気ではない

学校で私達は学んだ

他の人の命の光を消すことは間違いだと

時の中で失われた僕らの潔白は

ひとつの結末に導かれた

うつむかずにいるのは難しい

でも努力しなければならない

 

 

Sway together in the dark

It's supposed to be

'Cos I want to know the end

and you never ever need to fight

But you're fighting everyday

And I don't know when your light will go out

Innocent crying child

The heart of your enemy

 

闇の中をともに戦おう

私達が予期していたように

私は結末を知りたい

お前がもう戦わなくてもいいように

でもお前は来る日も戦い続け

私は君の命がいつ尽きるかも知ることができない

泣き続ける無垢な子供が

お前の敵の心にもあるというのに

 

My heart to heart with the light

and we always get along

Counting the stars in the sky

thinking why they have to die

Just face to face we can hear

a voice telling us it's wrong

Counting the stars in the sky

It was like a lullaby

 

私の心と光を持つお前の心

それはいつも一緒にいた

空の星を数えながら

お前がなぜ死なねばならなかったのかと考えながら

面と向かってでなければ

それが間違いだと告げる声は聞こえない

その声は空の星を数え続ける

まるで子守歌のように

 

 

For sunsets I'll break the rules

We learnt playing down in the heather

The secrets behind all the veils

We just use other words

For freedom we make our charge

For friendship we bare down on others

Can't one of you just calculate

Tranquility?

 

夕日に向かって私達は掟を破った

私達はかつて草むらの中で遊びながら知った

全てのベールの向こうの秘密を

私達はもう嘗てのように話すこともできない

私達が自由の対価を支払うために

友情と祖国の為に敵を殺す

だれか教えてくれ

友の死を対価に祖国に平和は訪れたか?

 

 

 

It's hard to hold your head up high

But we must try

 

Sway together in the dark

It's supposed to be

'Cos I want to know the end

and you never ever need to fight

But you're fighting everyday

And I don't know when your light will go out

Innocent crying child

The heart of your enemy

 

Sway together in the dark

It's supposed to be

'Cos I want to know the end

and you never ever need to fight

But you're fighting everyday

And I don't know when your light will go out

Innocent crying child

The heart of your enemy

 

My heart to heart with the light

and we always get along

Counting the stars in the sky

thinking why they have to die

Just face to face we can hear

a voice telling us it's wrong

Counting the stars in the sky

It was like a lullaby

 

 

「凄い···本当に素人なのこの人?」

 

「美希さん、ウィルはカラオケは好きでしたが最近までアメリカ海軍大将でした。練習する時間なんて現役時代そんなにあったはずがありません。そんな中でこの声量です。やっぱり美希さんのような天才肌なタイプなんだと思います。」

 

 

 

「大切な人を亡くした者、そして私の今まで死んでいった戦友達のために歌う鎮魂歌〈レクイエム〉だ。私が作った歌詞に346の作曲者が曲調を付けてくれた。練習など一切していない状態の微妙なものだったが聞いてくれて感謝する。」ヘッドホンを外す

 

「ウィル、本当に練習していないのですか?」

 

「中東にいた頃声真似の練習をしたのもあって喉には自信がある。例えば菊地さんの声なら···。」喉仏を押し戻す

 

「···『菊地真、18歳。趣味はスポーツ全般です。よろしくお願いします!』···といった感じにな。どうかな、似てただろう?」

 

「「「!?」」」

 

「···真そっくりでしたね。流石ですウィル。それはSEALs時代に得た技術なんですか?」

 

「そうだ。軍機につきこれ以上は聞くな。」

 

「わかりました。歌唱力は問題無いと思います。でしょ姉ちゃん?」

 

「問題無いと思うわ。問題は踊れるかどうかね···。」

 

「一度手本を見せてくれ。まずはそれを覚えて真似する。では動きやすい服に着替えるか。」ネクタイを取る

 

「ウィル?!」

 

「どうしたチハヤ?」

 

「私達がいるのに着替えちゃうんですか?!」

 

「私はパイロットであったしSEALsの一員だった。女性の上官同僚部下と寝食も風呂も戦闘も共にしていたんだ。全ては今更だ。見られて困ることなど無い。」スーツを脱ぎ始める

 

 

 

 

 

 

 

如月千早side

はぁ······この人は史上初めて日系で且つ男性でアメリカ海軍大将にまで昇り詰めた天才···天才だからこそ普通の男性とは違う価値観で動いている···ご両親から情操教育を受けずにきたのもあって昔からガードが甘いところがあった。ほら、案の定皆が獲物を見る目でウィルに狙いを定めてる。

 

「皆、見るのは百歩譲って良いにしてもウィルを襲ったりしないで!それをやった途端346プロとアメリカ大統領を同時に敵にまわすことになるから!」

 

「346はわかるけどなんでアメリカ大統領まで敵にまわるんだ千早?」

 

「ローレン大統領とウィルは学校の同期で親友。今も緊密に連絡を取り合う仲なの。そのウィルが765プロのアイドルにレイプされたなんて聞いたら···。」

 

「まあそうなる前に問答無用でぶちのめすがな。ユウ、説明してやれ。」

 

「皆さん、ウィルは23年前アメリカ海軍特殊部隊Navy SEALsに所属していました。先月イスラム系テロリストの指導者がアメリカ海軍特殊部隊に殺害されたことがニュースになったのは覚えてますか?」

 

「言われてみればそんなことがあったようななかったような···。」

 

「その作戦を主導したアメリカ海軍特殊部隊というのがNavy SEALsなんです。陸海空どこででも戦えるエリート部隊です。志願して訓練所に入ったとしても合格率はたったの約20%。2年半の地獄の訓練を潜り抜けた者だけが入れるんです。ウィルは世界初の男性戦闘機パイロットとしての面ばかりメディアに注目されがちですが、世界初の男性特殊部隊員でもあるのです。」

 

「故に、そこらの痴女など即座に返り討ちにできる。中佐の頃30人近い半グレ集団にレイプされそうになったが、漏れ無く素手だけで全員半殺しにしてやった。私の後ろに立たないことを勧める。生命の安全は保証しない。」着替えた

 

「まあ誘うようなアクションをするウィルにも問題がありますよ···。」

 

「わかっているともチハヤ。だが30年ずっとこんな感じでやってきたのだ。今更変えられん。」

 

「よくそれで現役時代襲われずに済みましたね。」

 

「あいつらは私を引き取るとどうなるかよくわかっていた。『何事にも報いを』をモットーとする合衆国屈指の敏腕政治家···今の大統領である我が友エリザベス·ローレンを敵に回す上、放射能まみれで老い先短い私を引き取ったら100%未亡人になるのが目に見えている。ならば他をあたろう···となる訳だ。合衆国軍人はエリートだ。夫を迎えることは決して難しくない。わざわざリスキーな私を引き取ったりはせんよ。いわば鑑賞用の薔薇だったのだ···私の話はどうでも良い。ダンスのレッスンをして貰いたいのだが···?」

 

「姉ちゃん、誰が教えるの?」

 

「まずは私が教える。で問題なかったら美希にやって貰う。」

 

「···だそうですから美希さんお願いします。」

 

「わかったの!」

 

冷や冷やするから扇情的な格好はやめて欲しいのだけれど···

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海軍大将をナメて貰っては困る。一回見ればコピーは容易だからな。チハヤのダンスも次の星井さんのダンスも難なくやって見せた。

 

 

「凄い···おっさんミキミキのダンスも完全にコピーしてますな。それにしても滴る汗がえっちぃですな。」

 

「ですな。」

 

···双海姉妹よ。老人の汗なんぞに欲情しないで貰いたい···オイ、今私を『おっさん』トヨンダナ···ブチノメスカ···

 

「···」バキバキバキ 首と指を鳴らす

 

「ん?あ しまった!ウィル!」レッシャーを後ろから拘束する

 

「ユウ、止めるな。コイツラワタシヲ『おっさん』トヨンダ···」ブチ切れ

 

「真美さん亜美さん逃げて下さい!」

 

「え?え?どうしたのおっさん?」

 

「コロス···。」アーミーナイフを取り出す

 

「うわぁー火に油を注がないで下さい真美さん亜美さん!!」

 

「え?まさかそんなにおっさん呼ばわりが嫌だったの?」

 

「You'll be executed for insulting a superior officer, you goddamn kids!! Are you ready for this?」

 

「ヤバいヤバいヤバい!ウィルが本気で怒ってる!姉ちゃん助けて!」

 

「もう!ウィル!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「···すまなかった。」正座

 

「いや、ウィルの発作を忘れてた僕の責任もあります。真美さん亜美さん、次からはさっきの呼び方以外でお願いします。ウィルはさっきのように呼ばれるのが何より大嫌いなんです。ですがいきなりアーミーナイフを出してくるとは思いませんでしたよウィル。」

 

「自衛用に常に携帯している。無論日本の公安委員会から許可を得てな。私は多くの情報を握っている。他国の工作員にちょっかいをかけられても大丈夫なようにな。最初護衛が付けられそうになったが断った。自由にやる為にな···それより私のダンスだがどうだった、チハヤ?」

 

「完全に私とミキのコピーでしたから単純に腕前は問題ないと思います。ですけど···。」美希を見る

 

「大将のダンスは中身がないとミキは思うの。それじゃファンは集まらないの!」

 

「···一つ課題が見つかったな。ここにいる諸君はチハヤ同様強い信念があってアイドルをやっている。だが私は違う。旧き友の手伝いの為に何気なくアイドルを始めただけだ。それでは駄目なのだな。"中身"が無いとな。二人ともありがとう。重要なことに気付くことができた。」

 

軍人が信念を持つことは許されない。何故なら戦争は信念が一つの原因になることがあるからだ。その点私にはプロフェッショナルとしての信念はあっても合衆国軍人としての、アメリカ人としての信念など皆無であった。だからこそ冷静さを買われて海軍大将にまで昇ることができた。が、ここは信念が重要な要素を占めるアイドルの世界。何故アイドルをやっているのか···信念を持たねばやっていけないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1600

 

「行くぞチハヤ、ユウ。」車のエンジンをかける

 

「「はい!」」乗り込む

 

「今日はありがとう765プロダクションの諸君。これからも世話になるかもしれないが、その際は宜しくお願いする。それと社長達に宜しく言っておいて貰いたい。」

 

「わかったの。大将も頑張ってね。ミキ達は応援してるの!」

 

「ありがとう。私も君達から教えて貰ったこと、無駄にはせん。では、また会おう。」車を出す

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル、この車マニュアル車なんですね。」

 

「マツダ RX-7 FB3S後期型、シルバーモデル。5速MTだ。手に入れるのは容易かったがメンテナンス等に金を取られた。合計1500万円は費やしたな。」

 

「そんなにかけたんですか?でもウィルって他に車ありましたよね?」

 

「アヴェンタドール LP-700-4のことか?あれは2人乗りだ。10年前の時はお前達が小さかったからシートに2人乗れたが、今はそうもいかんだろう。これは3人以上で移動する時用だ。」4速に入れる

 

「それよりも、ウィル、どこで夕食を摂るつもりですか?」

 

「帝国ホテルのレストラン『レ·セゾン』。ドレスコードが必要だ。だからお前達にはスーツで来るようお願いしたのだ。」

 

「帝国ホテルって···そこって高いですよねウィル?」

 

「そうだなユウ。お一人様21000円だ。サービスを更に付けるならもっと高くなる。泊まる以上もっと高くなる。」

 

「いくらなんでも高過ぎませんか?僕達の財布10000円も入ってませんよ?」

 

「いつ私はお前達に払えと言った?私の奢りだよ。チハヤはAランク昇格、ユウは私同様外で働き初めて3周年になるお祝いだ。それに私は10年もの間お前達の成長を直接見守ることができなかった。見ていない間に随分逞しくなった。"第二の親"として、"親友"として祝ってやるのが筋だろう。」

 

「···ありがとうございます。ゴチになりますウィル。」

 

「素直でよろしい···ついでに言えばあのレストランの個室を頼んだ。防音は完璧だ。そこで一つだけお前達に相談がある。ベス、イマニシに続くたった4人の"まだ生きている"私の親友であるお前達にしかできん相談だ。聞いてくれるか?」

 

「勿論聞きますよウィル。最も、僕と姉ちゃん合わせてもウィルの約半分しか生きてませんからお役に立てるかわかりませんが···。」

 

「構わん。元より解決できると思っていない。お前達に聞いて貰うだけでも胸中にただ燻らせるよりは遥かにマシというものだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達も知っての通り私は23年前Navy SEALsで働いていた。その時の直属の部下でありまた私の手足となって動いてくれていた初代"相棒"であるアンゲラ·"ビグルス"·マーフィー大尉という奴がいてな。ちょうどあの日は敵スナイパー排除の為に私も珍しく前線に出ていたのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1992年 12月  イラク ファルージャ

 

「相棒、今回こそ殺るぞ。」

 

「うん。任せてよ。」

 

「奴のブツはドラグノフ狙撃銃。だが君はM40A3だ。狙撃の腕も恐らく君が上。殺ったら下の車でさっさと引き上げる。簡単な仕事だな。」

 

「ねえ相棒。」銃を構える

 

「どうした?」

 

「指輪買ったんだ。私のとあんたの分。帰ったら返事くれる?」

 

「···勿論だ。」

 

「もう従軍牧師さんと皆には話をつけてあるんだ。簡易的だけど式を挙げてくれるって。」

 

「私が見てない間に何してたんだあいつら···。」

 

「あんたが事務仕事してる間にチーム3総出でやったから、あんたに気付かれない内にすぐ出来上がったよ。」スコープを覗く

 

「中佐にどやされないと良いが···。」

 

「中佐はリスが説得したから大丈夫。それにあんたはこの1年男でありながら砂埃舞うこの中東で文句一つ言わず頑張って来たんだから、少し位休みなって。働きすぎだよ。」

 

「···そうかもしれんな。ここ1年本国に帰ってないからな。」

 

「今回の任務が終わったら二人で1年位休暇を取ろう。私の故郷テキサスでのんびり暮らすんだ···相棒。」

 

「なんだ、ビグルス?」

 

「···子供は沢山欲しい。最低でも3人。」

 

「おいおいおい、それこそ事実上の求婚じゃないか···体力が持つ限り協力してやるよ。むしろ君の体力が心配でならないのだが···。」

 

「大丈夫。マーフィー家の人間はベッドの上でも強者だからさ。ふふっ、あんたのその返しも事実上のOKサインじゃん。」

 

「今更気の利いた返事を考える仲でもないだろう私達は。」

 

「そうだね。小さい時からずっと一緒で、ベスと3人で81年に一緒にアナポリスに入って、一緒に飛んで、ベスは水上艦に行っちゃったけど、私達2人はNavy SEALsに入って18年···ずっと一緒だったね。」セーフティを外す

 

「これからも一緒だ。ずっとな。」ストーナー63を下ろす

 

「うん···見つけた。距離1128ヤード(約1.031キロ)。風速は?」

 

「ほぼ無風。」風速計を確認する

 

「殺る。」

 

「一撃で決めろ。音でこの辺をうろうろしてるテロリストが集まってくる。」

 

「···小さな的を狙え······!」ダァン

 

「···仕留めた。」リロード

 

「よし引き上げるぞ!全員撤収!」

 

 

 

 

 

 

 

「少佐、敵が殺ったそばから湧いて来やがる!CAS(近接航空支援)を!」ダダダダダッ

 

「こんな砂嵐の中やれる訳が無い!何とかして逃げるぞ!203(グレネードランチャー)を使え!中佐から失敬したのがある!」グレネード弾を渡す

 

「少佐、グスタフ(無反動砲)も使ってよ!」

 

「待ってろ···全員退避!Fire!」バァン

 

「Go Go Go!!···ヴッ!」被弾

 

「相棒!」駆け寄る

 

「駄目だ!右太股をやられた。私を置いていけ相棒!君まで巻き込めん!」

 

「その程度なら砂刷り込んで水飲めば治るよ!諦めないで!リス!手を貸して!」肩を貸す

 

「わかった!」

 

「大尉後ろ!」

 

「?···ガッ。」首筋に被弾する

 

「大尉?! このクソ野郎!」ダダダダダッ

 

「相棒!ミイラ取りがミイラになってどうする?!」ガーゼをあてる

 

「···脈が切られた···もう駄目···相棒、チームを連れて逃げて···。」

 

「今更そんなことはできん!諦めるな!」止血を試みる

 

「私の部屋···一番上の···引き出しに指輪···が入ってる···相棒、これからは···それを···私だと思って···」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビグルスは死後二階級特進で中佐となり、敵凄腕スナイパーの排除や過去の武勲、私を守った功績により合衆国軍人が受けられる最高の栄誉、名誉勲章を追贈された。その上来年最初に就役する我が海軍の駆逐艦にその名を冠する栄誉も重ね与えられた。

ビグルスは私の初代"相棒"でありまた歴代の相棒の中で最も長い付き合いだった。テキサスで出会い以後18年ずっと一緒だった。

お前達には申し訳ないがベスやイマニシ、他の相棒たち、そしてお前達に比べても正直ぶっちぎりで私はあいつのことを強く愛していた。あいつは確かに強かった。だが、他の者には無い今にも消えてしまいそうな儚い笑顔に私は惹かれたのだ。あの笑顔を見ることはもう叶わない。アイツを失い23年が経った。そして私はここにいる。

イマニシに呼ばれ346プロダクションで働き始め、最初にあてがわれた同僚の一人があろうことかビグルスにそっくりだった。一緒に暮らし始めて一週間も経っていないが、彼女と交流してよくわかった。まさに彼女はビグルスの生き写しだ。姿も声も性格もあの儚い笑顔も全て。意識していないとつい土下座して赦しを乞いそうになる。かつてアイツにしていたように後ろから抱き締めてしまいそうになる。彼女はアイツじゃない。しかしそれでもやはりアイツの面影が脳裏に浮かぶ。だが彼女は今の私の"家族"だ。避けたりなどできん。私は自分が家庭に入る資格が無い人間だと弁えているし、ビグルスへの贖罪の為にも独身を貫いてきた。だが彼女を見てその決意も崩壊寸前だ。決意が揺らぐ私自身への軟弱さにも腹が立つ!だが、今更どうしろと言うのだ···神は何故私にこのような試練を課すのか···。」

 

「ウィル···。」

 

「···すまん。酒が入って舌が滑らかになったようだ。誰かにここまでぶちまけたのも実に15年ぶりだ。お前達に聞かせることではなかったな。」

 

「ウィル、マーフィー中佐は別にウィルに贖罪なんて求めてないと思います。ウィルが幸せに生きてくれさえすれば···。」

 

「そうかもしれ···いや、アイツなら間違いなくそう言うだろうなチハヤ。だが私は軍人だ。そしていつも前線で陣頭に立って戦っていた。

太平洋艦隊司令官になるまで現場が仕事先の時は陸〈おか〉にいる時間より艦にいた時間の方にいた時間の方が長かった。戦死する可能性が高い中で家庭になど入れんよ。

迷惑を掛けたくなかったのだ。私の公式Facebo○kには『飛ぶのが楽しすぎて独身のまま大将になった男』と書いてごまかしているが、本当はビグルスへの贖罪、周囲に迷惑をかけることへの恐怖、また親友を失う恐怖に駆られていたからずっと一人で生きてきたのだ。

現にF/A-18が我が海軍に配備されて以降私は単座型にしか乗らなかった。だが···正直ずっと寂しかった。ずっと一人だった。だが、今更どの面下げてベスの奴に甘えられようか。今更チハヤ、ユウ、お前達に甘えるなど論外も甚だしい。そんなことができよう筈がないではないか···。」

 

「ウィル、僕達がそんなに頼りないですか?」

 

「そんなことはない!だが···」

 

「でしたら素直に僕達に頼って下さい。僕達はもう大人です。それに僕達は"家族"であり"親友"です。助け合わないと。ずっと一方的にウィルに助けられるのも嫌ですから。でしょ、姉ちゃん?」

 

「そうね。ウィル、私達を頼って下さい。貴方は一人じゃないんですよ!ローレン大統領も、346の今西部長さんも、私達も、同僚さんもいるんですから!」胸を張る

 

「···10年前はあんなに泣き虫で小さかったお前達がたった10年でここまで大きくなって私に説教するのか···私も年をとった···ありがとう友よ。これからはもっと素直に生きることにする···それで良いよな···ビグルス···。」指輪をさする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル、飲み過ぎです···。」レッシャーを支える

 

「すまん。調子に乗ってワイルドターキーなどに手を出したのが愚かだった···う~気持ち悪い···だがこんなに楽しい酒は実に24年ぶりだった。反省はするが後悔はない···というか早速お前達に頼ってしまっているな。」

 

「そうですね。これからも頼って下さいよ、ウィル。」

 

「ああ···この部屋だ。」鍵を開ける

 

「すまんが先に寝る。もう限界だ···。」Zzzz···

 

「ウィル?もう寝ちゃった。早すぎるって。」呆れ

 

「優、私達もシャワーを浴びたら寝ましょ。明日もお仕事だから。」

 

「うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンデレラプロジェクトの組織もだいぶ様になってきた。彼女達もどんどん進歩しているし私も今回のチハヤ達につけて貰ったレッスンで重要なことに気付くことができた。だが纏め役がいない。

 他ならぬ私がシンデレラプロジェクトの纏め役だが、私が不在あるいは身体に何かあった際に代わりに指揮を執れる副司令官が欲しい。新田さんにしようか迷ったがやめざるを得ない。彼女はしっかり者だがまだ未成年の大学生だ。成人している者で適当な人材を寄越して貰えないかイマニシに聞いてみよう。




レッシャー大将のウワサ⑨
並外れた記憶力と人外の反射神経と動体視力の持ち主であり、湾岸戦争ではイラク軍が自機に発射したミサイルを機関砲で撃破して防御したらしい。



川島瑞樹のウワサ①
アナウンサー時代当時まだアメリカ太平洋艦隊副司令官(少将)だったレッシャー大将にインタビューしたことがあるらしい。

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