だいすきなフェアリータイプが大暴れする展開が欲しかったのさ。
駄文ですが読んでいただけると幸いです。
追記:読みやすく段落構成などを修正しました。(2021/3/13)
小さいころからフェアリータイプが好きだった。
かわいさ、妖艶さ、美しさ、愛おしさ…フェアリータイプにはそうした、人間の本能的な庇護欲をかきたてるような要素が詰まっている。ときにあざとく、ときに優雅に、ときにドラマチックに相手のポケモンをダウンさせる…そんなフェアリータイプの戦い方が僕は大好きだった。
初めて出会ったポケモンはアブリーだった。ある晴れた日曜日に、僕の部屋の窓から遊びに来てくれた子だ。まだ人間とポケモンの違いすらわからないほど幼かった僕は、まるで兄弟ができたかのようにアブリーをかわいがった。アブリーは僕のために毎日花粉団子を作ってくれた。他のお菓子なんていらなかった。
そしてポケモンスクールを卒業しようとする頃、ある人物との出会いによって僕はフェアリータイプに心酔するようになる。
島めぐりの試練は全てフェアリータイプのポケモンで突破した。アローラ以外の地方のジムもいくつかクリアした。ポケモンリーグには…あまり興味が沸かず挑戦したことはないけれど。
僕は10歳になってからの8年間、フェアリータイプのポケモンたちと腕を磨き、全国を旅してきたのだ。将来はフェアリータイプの良さをみんなに知ってもらうような仕事に就きたいなあ、なんて考えていた。
そして僕は18歳になり、就職の年を迎えた。
のだけれど…
「おいゴラァ!!ガキんちょから盗んだポケモンちゃん返せや!!」
「ひい!ごめんなさいごめんなさい!!!」
「ワシのマリルリたんに八つ裂きにされてェか!?おおん!?」
「ちょ、ちょっとゴンドーさん、やりすぎですって…」
「あん?お前もアブリボンちゃんと逃げたやつ追っかけろよ、ヒイラギ。」
あれえ?おかしいなあ。なんで僕、カチコミに来てるのかなあ?
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さかのぼること1週間。
僕、ヒイラギは縁もはるばるホウエン地方まで就活に来ていた。
フェアリータイプの良さを知ってもらえるような仕事がしたいと意気込んで生まれ故郷であるアローラ地方を飛び出してきたわけだが、どうにもうまくいっていない。面接は今のところ全落ちである。広告代理店や出版社などにもアタックをかけてみたけれど、「それうちの会社じゃなくても良くない?」というキラーフレーズを持ち出されて試合終了。お祈りメールはヒイラギのメンタルの効果バツグン。
ホントはジムリーダーになるのが手っ取り早いんだけどね…ポケモンジムはあいにく空きがない状態だ。新たにフェアリージムを作ってくれそうな場所も人もいないのが現状。アローラの島キャプテンもしばらく交代はなさそうだし…
あー、どうすればいいんだろ。
ため息がこぼれる。
眠らない街と呼ばれているキンセツシティも、僕が腰かけているベンチの周りだけはうらぶれてくすんで見えた。
「どうした、アブリボン。」
「ぴゅい~…」
親友であるアブリボンが心配そうに飛び回る。いつもは周囲の空気さえ桃色に染め上げてしまうほど可憐な羽ばたきも、今夜は僕の心中を投影したかのように危なげだった。
「心配かけちゃったみたいだね。ごめんね…」
「ぴゅい」
いつまでもここで座っているわけにもいかない。そう思って立ち上がったときだった。
「ん?あれって…」
向こうの壁に貼られたポスターに目が吸い込まれる。ピンク色の背景に、見慣れたポケモンたちの姿が描かれていた。ヒイラギは目を輝かせてポスターに駆け寄る。
「クチート!それにマリルリ!サーナイトまで!!さすがホウエン地方のフェアリータイプ…精鋭がそろってるなあ。しかもサーナイトはメガシンカ後ときたもんだ。センスある。しかし一体どこの団体がこんな僕得のポスターを…?」
ヒイラギは改めてポスターを眺め、そこに書いてある文章をくまなく読む。丸みを帯びたフォントが目に優しい。
「どれどれ…私たちぽかぽかフレンドクラブは共に働く仲間を募集しています。フェアリータイプを愛してやまない諸君、ぜひ事務所に連絡ください…って、これだよ!これこれ!完全に僕得の求人じゃないか!」
なんて幸運。僕はようやく僕らしく働ける場所を見つけたんだ!やった!
僕はアブリボンとハイタッチして喜びを分かち合い、興奮も冷めやらぬままにポスターに書かれていた番号に電話をかけたのだった。
思えばこれは、神様が巧妙に仕掛けた罠だったのかもしれない。
「ハイ。こちらぽかぽかフレンドクラブ。何か用?」
電話に出たのはぶっきらぼうな話し方をする男の人だった。
あれ?なんか印象がポスターと少し違うような…
「こんばんは。僕はアローラ地方から来ました、ヒイラギという者です。御社のポスターを拝見致しまして、就職希望ということで連絡させていただいたのですが…」
「ああそう。じゃあ君内定ね。明日の朝9時にカイナシティポケセンに来て。そんじゃ。」
「えっちょっと待っ」
電話は唐突に切れた。即内定!?面接はおろかエントリーシートすら提出してないのに?あのぶっきらぼうな電話の対応からしても、なんだかヤバイ企業のにおいがする…
「ねえアブリボン、もしかしてまずいことになった?」
「ぴゅい?」
どうやら僕の就活は、平穏には終わらないらしい。
翌日。カイナシティのポケモンセンター前で電話の主を待っていた僕は、怖いお兄さんたちに囲まれていた。
「昨日うちの事務所に電話かけてきたヒイラギってオメエか?」
「ひゃっ…ひゃい…」
腕に入れ墨をしたガタイの良いお兄さんが話しかけてくる。
その凄み、威圧感ですぐにわかった。この人は、表の社会でお日様の下を歩いているような人間じゃない。裏社会で、人の欲望や恐怖をすすりながら生きる暴力的な連中だ。
このお兄さんだけじゃない。横にいる眼鏡をかけたスーツのお兄さんも、無口だがその少し奥でひときわ大きな存在感を放つ小柄なお兄さんも、ここにいる3人全員が、冷酷非道な負のエネルギーを瞳に宿している。
間違いない。本物の極道だ。フェアリータイプ好きの少年少女をたぶらかし、犯罪に利用しようとしているのだ。
僕はあのポスターにまんまと騙されたのだ。
「おい、時間だ。行くぞ。」
「うっす。」
「了解。」
「ちょ、放してください!」
奥にいた小柄なお兄さんが合図をすると、入れ墨のお兄さんは僕を抱え上げ、眼鏡のお兄さんとともに街を出た。
最悪だ。このまま僕はヤ〇ザの鉄砲玉として使い捨てられるんだ。ハートのウロコをはがされたラブカスみたいに。
悲報
僕氏、怖いお兄さんたちに拉致られる。
「ここは…どこですか?」
「お客様の家だ。お客様。」
明らかに何かの隠語であろう言葉で目の前の建物を指す入れ墨お兄さん。
ちなみにここに来るまでに知ったのだが、この入れ墨をしているお兄さんはゴンドーさんというらしい。 眼鏡のお兄さんはホンジョ―さん。そして一番威圧感のある小柄なお兄さんが社長だそうだ。
「すみませんねえ!開けてもらえる!?」
ゴンドーさんは玄関のドアを激しくノックする。
いや、これはノックなのか?
どちらかと言えばドアを「殴りつけている」に近いような気が…。
「ちょっと、ゴンドーさん壊れちゃいますって…」
だが、そんな僕の制止など聞こえないかのようにドアを叩く力は強められてゆく。
「開けろつってんだろがあ!!!」
「ええ!?」
バキっという轟音とともに、とうとうゴンドーさんはドアを蹴破った。
ホンジョ―さんと社長は何事もなかったかのように建物の中に入ってゆく。
こういうことに慣れているのだろう。
ドアを蹴破るという行為は、彼らにとってはちょっと門を押し開けてくぐる程度の感覚なのだ。
中には黒い服に身を包んだ青年がたむろしていたが、玄関のドアが蹴破られた音に気付いて全員がこちらを向く。
「な…なんなんだお前ら…」
「オメエらよお、この前ガキんちょのポケモン盗んだろ?ああ?」
「し、知らねえよ!」
ポケモン泥棒?
そういえば最近ホウエン地方で手持ちのポケモンを盗まれる事件が起こっているって聞いたような…
「それはおかしいですねえ」
ホンジョ―さんがパソコンの画面を開いて見せる。
「それならここに映っている黒服は一体誰ですかねえ」
監視カメラの映像だろうか。画面には、三人の青年たちが幼い少年少女を脅してモンスターボールを奪う様子が映しだされている。ここにいる三人と同一人物だ。
こいつらがポケモン泥棒の犯人!?
ということはこのお兄さんたちは…
子どもたちのためにポケモンを取り返しに来たってこと?
もしかして結構いい人なのでは…
「くそっ…こうなったら…出てこい!グラエナ!」
「バウ!」
青年たちは犯行を看破され、引っ込みがつかなくなったのだろう。
それぞれがボールを投げ、グラエナを繰り出す。
ポケモンバトルだ。
「ポケモンバトルか。いい度胸だな。ゴンドー。相手してやれ。もちろん手加減ありでな。」
「うっす。社長。」
ゴンドーさんも青年たちに対抗するべく、ヒールボールを取り出した。
え?
ヒールボール!?
入れ墨だらけの腕でピンク色のボールを繰り出すゴンドーさんの姿がミスマッチで、青年たちはあっけにとられたようだ。
いや、ヒールボールかわいくない?
僕は好きですよ。いいと思います。
しかもその中から飛び出したのは…
「きゅぴん!」
「あっ!マリルリ!」
みずウサギポケモン、マリルリが愛嬌たっぷりに姿を見せた。まさにアイドルだ。
っていうか…
ゴンドーさんマリルリ使うの!?意外すぎるというかなんというか…
しかしもっと意外だったのは、ゴンドーさんのマリルリに対する態度だった。
「マリルリたん!ごめんね?おねむだったよね?すぐ終わるからね?ね?」
ええ…誰ですかあなた…
さっきキレてドア蹴破った人と同一人物だとは思えないんですけど…
「なんだよ…マリルリかよ…」
「いかつい見た目にビビッて損したぜ」
「つかおっさん、ポケモンにたん付けって…キモくね?」
ハハッと笑いが起こる。
青年たちはマリルリをなめていた。
かわいい見た目に、アイドル枠の見せポケだと勘違いしたのだろう。
だがそれは大きな間違いだ。
「マリルリたん、じゃれつく。」
マリルリは音を置き去りにした。
不可視の乱打がグラエナを襲う。
次の瞬間には、グラエナはもう壁にめり込んでいた。
「なっ…そんな…」
マリルリの特性は「ちからもち」だ。二倍になった攻撃力から繰り出されるタイプ一致の物理フェアリー技。悪タイプであるグラエナが受けきれるわけがない。
かわいいポケモンだからといってなめてかかるとボコボコにされる。それがマリルリというポケモンだ。
「オメエさっきマリルリたんのことバカにしたよなあ?おおん!?かわいいは仁義、フェアリーは任侠じゃボケェ!!」
この人たち、間違いなくヤ〇ザだと思っていたけれど…
これでわかった。
この人たちは、フェアリーだいすきフェアリーヤ〇ザだ!!
ゴンドーさんのマリルリ
Lv:70
特性:ちからもち
もちもの:オボンの実
技:はらだいこ
じゃれつく
アクアジェット
アクアブレイク
ゴンドーさんは社長に「手加減しろ」って言われたから、ちゃんとはらだいこを積まないであげたんだよ。やさしいね。