ふぇありーヤ〇ザ!   作:矢留

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 矢留です。

 久々にお酒飲んで気持ちよくなってます。


第十話 それってあなたの感想ですよね

「なんだこれ…」

 

 博物館の中は異様な雰囲気に包まれていた。

 

 だいたいにおいて、博物館や水族館、美術館といった展示施設は落ち着いた空間を提供し、騒がしい日常から切り離された特別な時間を過ごしてもらえるような工夫をしているものだ。

 

 だが、今日に限っては、そんな平和的空間は道端の雑草のように踏みつぶされ、荒廃した悪の色に塗りつぶされていた。

 

 

 マグマ団が、博物館を占拠しているのだ。

 

 

 壮健な船の模型は破壊され、玲瓏(れいろう)たる大洋を描いた絵画はペンキで塗りつぶされている。

 

 この惨状が目の前にいるマグマ団らによってもたらされたことは、火を見るよりも明らかだった。

 

 

 

 

「おい。誰に許可得て入ってきやがった。お前。」

 

 下っ端団員が詰め寄ってくる。

 

 群れているからだろうか。いつもよりも出方が強気だ。

 

 

「いやいや、許可とかないでしょ。まずここ公共施設だからね?それをこんなにめちゃめちゃにしてさあ。何やってんの?」

「お前に応えてやる義務などないわ!さっさと帰れ帰れ!」

「いや帰らないよ。シマをこんなに荒らされておとなしく帰るほどやさしさにあふれてないからね?うちの組。」

 

 そうだよ。いいかげん学習しようよ。

 

「シマ…?何言ってんだお前。帰らないならボコボコにして追い出してやる!来い!ドンメル!」

「ンボー!」

 

 

 マグマ団はそう言うと、変なポーズを取りながらモンスターボールを投げた。

 

 

 おや、この下っ端くん、うちの組をご存じでない?

 

 確かに今まで何人もマグマ団と戦ってきたけど、僕の存在が、というかぽかぽかフレンドクラブの存在自体が広まっているような空気は感じられなかった。

 

 団員の間で『こいつらには警戒しろ』みたいな情報が回っていないんだろうか。

 

 

「まあいいや。なに企んでるかは知らないけど、しばかせてもらうよ!アシレーヌ!アクアジェットだ!」

「ひゅおう!」

 

 ダイブボールから飛び出したアシレーヌの突撃一閃。

 水泡の弾ける一間のうちにドンメルは目を回して吹き飛んだ。

 

 

 さあ、早く次のポケモン(エサ)を出せよ。

 

 うちのアシレーヌちゃんはお腹が減ってるんだ。

 アシカの食事量って半端ないんだぜ。

 

 

 

 

 

「くそ…やられたぜ…ホラ賞金だ。」

 

 

 え?終わり?

 あんなにイキってたのに低レベルのドンメル一体ですか…?

 

 

 

 その後も喧嘩を売ってきた団員とバトルをしたが、そのうちのほとんどが未進化・低レベル・未育成の状態だった。

 

 中にはトウカの森で出会った団員レベルのトレーナーもいたけれど、それにしたってバトルのレベルが低すぎる。

 おそらく、ポケモンを手にして日が浅い者が下っ端団員として活動しているのだろう。

 

 

 

 ということはやはり…

 

 戦闘員としての戦力はケツ持ちのヤ〇ザに依存してるってことか。

 

 

 だとすれば、これから戦うことになるであろう相手は、さっきのカブトレベルかそれ以上ということになる。

 

 

 

 

「んで、君ら何しにここに来たの。ガチのヤ〇ザをわざわざ連れてきてまで、こんなイタズラしに来たってわけじゃないんでしょ?」

「誰がしゃべるかバーカ!!」

 

 さっきから倒した団員と『なかよくおしゃべり』しようとしているのだが、どうも『なかよく』なれない。

 

 

「ふーん。じゃ、君ケツ出して?よっぽどアシレーヌちゃんのムーンフォースが欲しいみたいだね。」

「ヒッ…言います言います!クスノキ船長が持ってるパーツ奪いに来たこと全部言いますから!!」

「ありがと。やっと『なかよく』なれたね。」

 

 

 アシレーヌちゃんのムーンフォースの溜めを見せたら案外簡単におしゃべりしてくれた。

 

 なんだ。もっと早くやればよかった。

 

 

 

 

 

 さて、クスノキ船長を探さないとな…

 そう思って二階に上がろうとした時だった。

 

 

 

「おやおや、パーツを奪うだけの簡単な作業にどれだけ時間がかかっているのかと思えば…」

 

「…誰ですか?あなた。」

 

 

 

 奥の広間から眼鏡にオールバックのマグマ団が現れた。

 そのオーラ。ヤ〇ザほどではないが特別な何かを感じる。

 

 

「ああ、君とは初めましてだね。」

 

 

 その男は眼鏡を外し、クロスで丁寧に拭きながら言った。

 

 

「私はマグマ団がリーダー、マツブサだ。」

 

 

 

 

 

「へえ。あんたがマグマ団のリーダーなんだ。どうりでその辺のやつらとは違うオーラだと思ったよ。…まあホンモノのワルじゃなさそうだけど。」

「フン…ガキのくせに生意気な口を利く。それよりも、うちの団員たちをかわいがってくれたみたいだな?」

「いやかわいがってないですね。こいつらかわいくないし。かわいいという言葉をそう簡単に使わないでもらえます?」

 

 

 かわいいは仁義なんじゃ。

 お前みたいな中途半端なおっさんが使っていい言葉ちゃうぞ。

 

 

「フン。本当によく吠えるガキだ。まあいい。良い機会だから貴様に教えてやろう。我がマグマ団の理想をな…。」

「すぐ終わります?それ。アイス売り切れちゃうんですけど…」

 

 しかし、そんな僕の言葉など聞こえないかのようにマツブサは語り始めた。

 

 

 こいつ…頼んでもいないのに自分語りしてきやがって…

 

 自己顕示欲が高すぎる!

 

 

 

 

 話を要約するとこうだった。

 マツブサくんは、人類が進化・発展し続けることで世界が幸せになると考えています。

 人類とポケモンが共存している現在の状態は、人類の発展を遅延させる原因となるため、好ましくないのだそうです。

 

 そのため、むりやり大地を広げて人間の活動範囲を増加させ、人類の発展を促進させようと考えたのでした。

 

 

 

「どうだね、これが我々マグマ団の理想だよ。…フフフ。」

「…あの、なんだろう。ひとついいですか?」

「なんだね。」

 

 

「人類とポケモンが共存している状態が好ましくないって、それ明らかにあなたの感想ですよね?」

 

 

「…なに?」

「現在の人ポケ共存状態が人類の発展の妨げとなっているって、なんかそういうデータあるんすか?」

「…キサマ…。」

「あと、陸地面積が広がれば人類の発展が促されるのであれば、国土が大きい地方ほど人口が多くて発展してるはずじゃないですか。でも実際はそうなってないですよね?なんで嘘ついたんすか?」

「…フン。どうせ貴様のようなガキにはわからんだろうな。我々の崇高な理想など…」

「いやそれわかるとかわからないとか以前に、あなたが説明してないだけですよね?」

 

 

 ここまで言ってやると、マツブサは顔を真っ赤にしてこちらをにらみつけて来た。

 ルリリのしっぽみたいにプルプルしている。

 

 

 ごめんなさい、言いすぎました。

 

 けどね、僕はこのおっさんみたいな、『自分の考えが世界一正しくて、世の中の全員が自分の考えに賛同してくれると信じ込んでいる人』が大っ嫌いなんですよ。

 

 深く考えているようで、なにも想像しない。理解しない。許容しない。

 そういうやつらに僕はいつも虐げられてきた。

 

 スクールのときに僕をいじめていたやつら。

 このおっさんは、そいつらと同じ類の人間だ。

 

 

 そしてこいつは今、自分の固定観念と主観によって世界を捻じ曲げようとしている。

 

 

 

「キサマ…キサマの顔は覚えたからな。ああ。ここまでコケにされたのは初めてだ。今ひねりつぶしてやってもいいのだがな…キサマには後でじっくりと苦しみを与えてやる。」

 

「パーツ奪えなくて逆ギレして逃げるんすか?」

「フン。今はそうして勝った気になっていればいい。パーツなど、どうということはない。完成した潜水艇をそのまま奪えばいいのだからな。」

 

 

 そう言うと、マツブサは身を翻して博物館を去っていった。

 

 

 ヒイラギはその背中が見えなくなるまで、決して目を離さなかった。

 

 その背中を決して忘れないように。

 どこで見かけても決して見逃さないように。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「もどれ、グレッグル。」

 

 カブトはグレッグルをモンスターボールに戻すと、サングラスを外して胸ポケットにしまった。

 代わりに出てくるのは、シャドーポケモン。ゲンガーだ。

 

 

「グレッグルは戦闘では使わねえ。まだ育成の途中なもんでな。」

「育成してねえのに喧嘩売ってくるとは、なめた真似してくれるじゃねえか。」

「安心してくれや。今度のゲンガーはうちの選抜隊だぜ。出し損じゃねえことを祈るばかりだ。」

 

 

 この男。自分との戦いを経験値稼ぎだと思ってやがる。

 

 ゴンドーは相手が自分に勝つ前提であることを感じ取り、一層気を引き締めた。

 こいつはブスジマ組の中でも上位の実力。

 少しのミス、気のゆるみが敗北をもたらすだろう。

 

 

 

 けどな。

 アタマを使ったバトルは苦手なんだわ。

 

 

「マリルリたん!はらだいこだ!」

「きゅぴん!」

 

 まるまるとしたマリルリの腹がリズムよく叩かれる。

 その命の鼓動が高々と響き渡ると、マリルリの肉体は急激に活性化され、パワーが限界まで押し上げられた。

 

 体力を削ってパワー全開。

 ゴンドーの得意とする戦術だった。

 

 

「テメエは絶対潰す。俺のマリルリたんがテメエのクセえポケモンどもをミンチにする。向こう一年はハンバーグ食えなくなることを覚悟しとけ。」

「脳筋野郎が…。オメエもオメエのポケモンも知性がねえな!ゲンガー、さいみんじゅつ!」

「マリルリたん!アクアジェット!」

 

 

 ゲンガーは怪しげな声を響かせながらこちらを眠らせようとしてくるが、暴兎のごとく疾走するマリルリの姿は捉えられず、逆に痛烈な一打を浴びることとなった。

 

 パワー全開のマリルリから繰り出される一撃は、たとえ威力の低い先制技であっても致命傷となる。

 

 

 

「ミンチまであとちょっとだなオイ。今晩のメインディッシュはハンバーグだってメニューに書いておくわ。」

 

 

 ゲンガーは深手を負ったようだった。

 肩で浅く呼吸をしながらカブトの指示を待っている。

 

 だが、カブトは全く動じてはいなかった。

 むしろ、この展開を望んでいたかのように口もとが笑っている。

 

 

「まったく、パワーだけでゴリ押ししてきやがって…。けどよオ。オメエ知ってるか?重くて力のあるポケモンほど、コケた時に痛がるってな。」

 

 

 

 カブトがそう言って腕のリングに触れた瞬間。

 光の繭がゲンガーを包み込む。

 

 

 オイオイ。まじかよ…

 テメエもその択をもってやがったか…!

 

 

「メガシンカ…!」

「脳みそまで筋肉のオメエでも知ってたか。そうさ。こいつはメガゲンガー。オメエのポケモンを刈り取る幻影だぜ。ゲンガー!かなしばり!!」

「しまった…!」

 

 

 メガゲンガーの瞳が怪しく光ると、マリルリは姿なき亡霊を恐れるかのように身震いした。

 

 もうアクアジェットは使えない。

 そうなると、マリルリがメガゲンガーよりも速く動ける技はもう存在しないことになる。

 

 

 王手(詰み)だった。

 

 

 メガゲンガーの身体から臭気があふれ出す。

 あれに触れたらマリルリはひとたまりもないだろう。

 

 

「そんじゃ、消えてくれや。」

 

 

 これまでか。

 ゴンドーは敗北を覚悟した。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

「ストップだ。帰還するぞ、カブト。」

「あ?マツブサさんよオ。これから楽しいところだろうが。もうそっちの目的は達成できたから俺は用済みってか?」

 

 

 突如、博物館の中から出てきた男によってバトルが中断された。

 

 

 このマツブサとかいう男…。

 

 今まで見てきたマグマ団員とは明らかに違う雰囲気だな。

 幹部か何かか…?

 

 

 

「『当初の目的』は未達成だ。だが非常に興味深い別のルートを見つけた。いずれにせよここに用はない。」

「ほう?今のバトルより面白いもんなんだろうな?そのルートとやらは。」

 

 マツブサは何も言わず、口の端だけで笑って見せた。

 それに納得したように、カブトはメガゲンガーをボールに戻す。

 

 

 命拾いをした。

 普通なら負けていた試合なのに、結果的に勝負は流れ、負けたことにはならなかった。

 

 

 その事実がゴンドーを一層不快にさせる。

 

 

「ヘッ、命拾いしたな。本当なら今頃オメエのポケモン、ベトベトンみてえに腐り散らかして三角コーナー行きだったぜ。」

「あ?わざわざ言うんじゃねえよ根性腐ってんなテメエ。クセえのは口臭だけにしとけや。」

 

 

 カブトはそんな口論にも興味がなくなったようだった。

 もうゴンドーのそばを通り過ぎて、彼に背を向けている。

 

 

 

 そして、通り過ぎる瞬間に、カブトは思い出したくもない一言を残していった。

 

 

『オメエのポケモン見てると、15年前のあの事件を思い出すなあ…。へへ…。まさかオメエ、あんな事件を忘れたわけじゃねえよな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒイラギはその一言を、博物館の玄関に立ち尽くしながら、はっきりと聞いていた。

 

 




 悪の組織のガバガバ理論を論破してみたかった。
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