ふぇありーヤ〇ザ!   作:矢留

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 矢留です。

 昨日、何気なくランキングを見たら日間ルーキーランキングにランクインしてました。びっくりです。
 ご愛読いただきありがとうございます…。

 あと、二日酔いです。

 


第十一話 時には昔話を

 

 

 

 

 雨の日は、過去のすべての雨の日と連続している気がする。

 

 普段僕たちが忘れてしまったと思っていることが、記憶の中の雨と結びついて蘇るからだ。

 

 

 こうして窓際に立ち、水煙に霞む街並みに目を凝らせば、遠い過去に起こった出来事が幻のように浮かんでは消えてゆく。

 

 悔しかったこと。

 うれしかったこと。

 許せなかったこと。

 心がときめいたこと。

 

 

 それらは互いに関連性のない記憶でありながら、まるで窓の水滴が一つに合わさって落ちてゆくように、心のどこかで確かなつながりを持ちながら存在しているのだと気づく。

 

 

 そう。雨の日には、不思議な引力がはたらいている。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。マグマ団はブスジマ組をケツ持ちとして雇いながら、大地を広げるためにグラードンを狙っている。そう言っていたのね?ヒイラギ。」

「はい。リーダーのマツブサという男から聞きました。大地を広げることができれば、人類は発展し幸福な世界が訪れると。」

 

 

 組長は神妙な面持ちで僕の目をのぞき込んでいた。

 僕の証言から、脳内で昨日の出来事を再現しているようにも見える。

 

 

「まったく身勝手な動機ですね。論理も破綻している。主観でしか語っていない。」

「その通りです。彼は自分の主張に絶対的な正当性があると信じ込んでいるようでした。あれはもう、異常者の域です。」

「ふーん。聞いてたよりやべーやつだな。そいつ。」

 

 ニンフィアちゃんをブラッシングしながらも、社長の声は張りつめていた。

 

 

 僕はあの目を忘れることはできない。

 マツブサが理想を語るその目を。

 

 

 ここではないどこかに酔心し、燦たる理想に身を焦がす夢想者(デイ・ドリーマー)

 マツブサにはその表現が最もふさわしい。

 

 ホンジョ―さんはため息を漏らすと、寸分も緩んでははいないネクタイを締めなおした。

 

 

「いったいなぜそのような幼稚な団体に、ブスジマ組がかかわっているんでしょう。金だけが理由だとは思えないのですが。」

「そこまではわかりません。僕はカブトというブスジマ組の組員とはそんなに話してませんから。ゴンドーさんは何か聞きました?」

「いや、何も聞いてねえ。が、ブスジマ組はブスジマ組で何かしらの思惑があるんだろうな。じゃねえとあんな小物みてえな男の下に付くなんてありえねえだろ。」

「まあね。あのブスジマ組が小悪党のケツ持ちでバイト代稼ぎなんかしないよね…。」

 

 

 組長はそう言うと、デスクに突っ伏してうめき声を上げた。

 金色のサイドテールがはらりとデスクを撫でる。

 

「もう~!なんでブスジマなんかが出てくるのよ!最悪なんだけどホント…。」

 

 

 

 『あの』ブスジマ組。

 今日の緊急会議が始まった時点から何度も発せられた言葉だ。

 

 昨日、ゴンドーさんは言っていた。ブスジマ組は卑劣かつ残忍なやり口で8つの暴力団を単独で壊滅に追い込んだと。

 ここにいる全員が『あの』という言葉をあたまに付けて呼ぶくらいだから、その手口は実際、相当なものだったのだろう。

 僕がその当時その場にいなかったことに安堵を覚える。

 

 

 僕には気になっていることがあった。

 昨日、カブトが去り際に言い放ったあの一言についてだ。

 

『オメエのポケモン見てると、15年前のあの事件を思い出すなあ…。』

 

 15年前のあの事件。

 それが何を指しているのか、僕はわからなかった。

 

 ブスジマ組がうちの組を除いたすべての暴力団を壊滅に追い込んだのは数年前のことだと言っていた。

 だから大抗争とその事件とは別件だ。

 

 

 けれど、その事件というのがブスジマ組とうちの組の過去に何らかの形でかかわっていることは、なんとなくわかった。

 

 でなければ、カブトがあのタイミングで言い放ったりしない。

 

 

 

 

 

「組長、昨日カブトが去り際に言い残したことがあるんですけど。」

「ん、何?」

 

 

 組長は顔を突っ伏したまま言う。

 だが、僕が次の言葉を発すると、すぐに顔を上げ、僕の顔をまじまじと見た。

 

 

「15年前、うちとブスジマ組の間に何かあったんですか?『あの事件を思い出す。』カブトはそう言っていたんですけれど…。」

「ヒイラギ、あんたそれ…。」

「…オメエ、聞いてたのか。」

「はい。ゴンドーさんあれから静かになっちゃって、聞きづらくて…。」

 

 

 

 組長は背もたれに寄りかかって、天井を眺める。

 

 やはりあの事件は、うちの組の核心に迫る問題だった。

 そう確信した。

 

 

 

 

「いいわ。説明してあげる。うちの組のハジマリと、ブスジマ組の正体について。」

 

 

 雨足は次第に強まっているようだ。

 

 遠くで雷が落ちた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 15年前。

 とある地方に、めずらしいタイプのポケモンを使うトレーナーがいた。

 

 そのタイプは、その年久々に発見された全くの新しいタイプであり、のちにフェアリータイプと名付けられることとなる。

 

 

 そのトレーナー、アオイは新タイプに魅了された一人だった。今までになかった愛らしい見た目に、可憐な技。思わず一緒に口ずさみたくなる特徴的な鳴き声。そのすべてが彼女の心を射抜き、彼女はこのタイプのポケモンと共に歩むことを決めた。

 

 アオイは才能にあふれたトレーナーだった。当時誰も使い勝手がわからずトレーナー泣かせと言われた新タイプのポケモンを見事に使いこなし、完璧な立ち回りをすることができた。ポケモンたちともすぐに打ち解け、抜群のコンビネーションを見せた。

 

 

 彼女は新タイプのポケモンと共に次々にジムリーダーを撃破し、公式戦で負けることはなかった。

その地方のトレーナーは、彼女を『妖精に愛された少女』と呼んだ。

そして事実として彼女は新タイプのポケモンに愛され、彼女自身もポケモンを深く愛した。

 

 

 彼女は新タイプを使い始めて数か月で、ポケモンリーグに挑んだ。

 当時はタイプの弱点や得意とする相手、技構成、特性など、タイプとしての特徴が広く知られているわけではなく、ゆえに作戦を読まれることもなかった。

 そして四天王をかなりの余裕を残して下し、チャンピオンに挑んだ。

 

 

 

 頂上決戦はかなりの激闘だった。チャンピオンとして君臨しつづけたプライドと、自分の愛するポケモンたちと旅をし苦難を乗り越えたプライドが激しく衝突する。

大地が裂け、空が震えるほどの白熱。一世一代の大舞台にトレーナーとしての血が沸騰し、自らのバトルがこの地方の熱源となっていると錯覚するほどだった。

 

 

 そして彼女は激戦を制し、この地方の新チャンピオンとなった。

 

 新タイプ使いのアオイ。

 その名を聞かぬ日はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女がチャンピオンになってから数か月がたったころ、事件は起きた。

 

 遠い地、ホウエン地方にて新タイプ狩りが行われたのだ。

 

 

 そのころから徐々に新タイプの研究が軌道に乗り始め、統計的に毒タイプとはがねタイプに弱いことが明らかになった。

 

 そこに目を付けたのは、毒タイプ使いだった。

 

 毒タイプの技は今まで、草タイプにしか弱点を突くことができなかった。そのために使い勝手が悪いとみなされ、苦しい立場をとらされることが多かった。

 そこに入ってきた、新タイプの情報。

 毒タイプの技は、新タイプに効果バツグン。

 

 

 

 それから、毒タイプのポケモンで新タイプのポケモンを乱伐する集団が現れた。

 彼らはブスジマ組と名乗り、ホウエン地方を拠点として新タイプのポケモンを狩りつくして行った。

 今までの憂さ晴らしをするかのように、徹底的に。

 

 ブスジマ組は毒タイプ使いを仲間に引き入れ、勢力を拡大していった。

 

 

 

 

 アオイはその事件を耳にしたとき、暗澹(あんたん)たる思いで涙を流した。

 野生で平和に暮らしていた何の罪もないポケモンたちが、ある日突然毒沼に深く沈められる。その光景を思い浮かべるだけで心が引き裂かれそうだった。

 

 そして同時に、深い憤りを覚えた。

 この事件は、新タイプ使いのチャンピオンとして見過ごすわけにはいかない。

 

 

 

 アオイは四天王を含めポケモンリーグの関係者各位と警察に、新タイプ狩りを摘発する手助けを要望した。

 

 だが、手を差し伸べる者はいなかった。

 警察すら曖昧な答弁を繰り返し、味方になってはくれなかった。

 

 当時は新タイプなど特定のタイプをターゲットにした『スナイプ行為』を規制する法律は無く、明らかに意図してタイプ狩りをしていても『トレーナー活動の一環』とみなされ、罪に問われることはなかったのだ。

 

 誰も味方になってはくれない。新タイプは私の手で守るしかない。

そう決意したアオイは、単身、ホウエンに乗り込むことになった。

 

 

 

 

 ブスジマ組のアジトを見つけるのに、そう時間はかからなかった。

 

 毒タイプのポケモンは、臭いが特徴的。

 ポケモンの鼻を頼りにすれば、毒ポケモンの臭いを嗅がせて、その臭いが集まっている建物を特定することなど容易だった。

 

 

 

 アオイは意を決してアジトに乗り込む。

 

 この血塗られた乱伐を、自分の手で終わらせる。

 そう固く心に誓っていた。

 

 

 

 だが。

 相手が一枚上手だった。

 

 

 新タイプ狩りをしていた証拠は全て隠され、ブスジマ組は表向きは善良な毒タイプ愛好会を装っていた。

 乱伐について聞き詰めても、しらばっくれるばかり。

 

 だがアオイが気付かないわけはなかった。

 その部屋が、自分の愛するポケモンたちの血の匂いで充満していることに。

 

 ポケモンバトルになっても相手は決して攻撃せず、アオイのポケモンの攻撃を受け流すばかりだった。

 

 

 それどころか彼らは警察を呼び、自分たちが『襲撃を受け、バトルを強制された。』と証言し、被害者であるという立場を貫いた。

 

 そして悲しいことに、この場においては、それは真実だった。

 アオイは他人の住居に不当に侵入し、バトルを強要した犯罪者だった。

 

 

 彼らがどのような悪事を働いていようと、それが白日の下にさらされ、法を以て咎められなければ、裁かれない。

 逆にアオイは、住居侵入と強盗傷害という誰から見ても明らかな罪で逮捕され、現存する法の下に裁かれることとなった。

 

 

 皮肉なものだった。

 ポケモンを守りたいのに、社会が邪魔をする。法が邪魔をする。

 

 アオイはチャンピオンを解雇され、ポケモンリーグから永久に追放された。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「これが15年前の、フェアリーチャンピオン追放事件の真相。当時結構話題になったのよ?マスコミにも相当叩かれてさ。今じゃうちの組員とブスジマ組しか覚えてないけどね。」

 

 

 組長は懐かしいと言わんばかりに平静を装っているが、声が震えていた。

 陽光の届かない薄暗い部屋と相まって、それが余計に痛々しかった。

 

 

「それで、刑期を満了してからうちの組を作った、ってことですか…。」

「そう。あの辛気臭いブタ箱を出てから、同じくブスジマ組を追ってた社長とゴンドー、ホンジョ―を誘ってヤ〇ザ始めたの。フェアリーちゃんの地位と尊厳を守るためには、私は社会を裏切ることになったっていい。自分の仁義を守るためには、自分の力で戦わないと。誰でもいつでも助けてくれるわけじゃないって思ったのよね。」

 

 

 この人は、そんな過去を背負って闘ってたのか。

 こんなに小さな背中で、自分の仁義を背負って。

 

 

「だからね、ブスジマがかかわってる以上、うちとしては見過ごせないってこと。たとえ嫌な相手だとしてもね…ハア。」

 

 

 組長は大きなため息をついて、再び机に突っ伏した。

 

 

「なんか…組長らしくないですね。」

「え?」

 

 

 僕が言っていいことなのかはわからない。

 それでも。言いたいことがあった。

 

 

「組長なら、『やっとブスジマをヤれる!』って意気込むのかと思ってました。」

「あんたねえ…そんな簡単に…」

「簡単ですよ。」

 

 

 雨が、上がった。

 

 

「僕ら家族じゃないですか。そのブスジマをしばくために、ヤ〇ザ始めて、家族増やしたんでしょ?だったら頼ってくださいよ。社長、ゴンドーさん、ホンジョ―さん、そして僕を。」

 

 

 窓から光が差す。

 雲間から太陽が覗いたようだった。

 

 組長の顔が照らされてゆく。

 

 

 

「プッ…!あんた、クソ弱いくせに言うわね。」

「いや、これから強くなるんですよ!今そういう空気じゃないじゃないですか!」

 

 

 だが、そこにいた全員が、これからの目標を言葉もなく共有していた。

 

 ブスジマをヤる。

 マグマ団をしばき、ブスジマ組の尻尾をつかむ。

 

 

 

 

 組長の過去を共有したことによって、僕たちはまたひとつ家族としての絆を深められた気がした。

 

 

 

 雨の日には、不思議な引力がはたらくのだ。

 





 クミチョーの過去が明かされましたね。
 そんなクミチョーも好きです。

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