短歌を作ってみました。
『いま通り過ぎる小さなアフリカ
いつか見たディスカバリーチャンネル』
短歌好きな方いたら感想欄で書評ください。
お待ちしております。
夢を見ていた。
僕はまだ幼い少年で、真夜中の海を眺めている。
辺りは全ての音が砂に吸収されたように静かで、波の音すら耳に届くことはない。
ヨワシが無音の世界で跳ねる。
波紋が水面を伝染してゆく。
海の向こう側には白い月が不吉な巨石のように浮遊していて、まるで別の惑星から眺めているかのような奇妙さを景色の中に描きこんでいた。
ヤシの葉が揺れる。
風のない、午前一時。
誰かが涙を流していた。
誰かが笑っていた。
周りには誰もいるはずはないのに、音が存在しない世界のはずなのに、なぜかわかった。
誰かが、どこかから僕を見ている。
空から?
海の向こうから?
砂の中から?
…わからない。
砂の城が崩れる。
夏の夜。
やがて僕は、白すぎる月面を横切ってゆく影を目にする。
金色の光が、まるで鱗粉のように地上へ降り注いだ。
この景色を僕はどこかで…?
ダメだ。思い出せない。
掴めそうだった記憶の切れ端は、透明になって頭の片隅に溶解してゆく。
あの姿を、確かに覚えていたはずなのに…。
「オイ、ヒイラギ!ヒイラギ!」
「はっ!!」
激しい振動刺激で開眼した。
目の前には、見慣れた事務所の天井と見慣れた社長の姿があった。
エプロン姿に泡だて器を持って、僕をのぞき込んでいる。
…どういう状況?
「お前、大丈夫?なんかずいぶんうなされてたぞ。ちゃんと寝てんの?最近。」
「えっと…寝てはいます。けっこうしっかり。というか僕寝ちゃってたんですね。」
「ああ。三時間くらいな。」
「そんなに…」
社長は僕が無事なことを確認すると、キッチンに戻って作業を再開する。
そうか。今日は恒例行事の社長特製スイーツの試食会だったんだっけ。
僕はソファーから起き上がって伸びをひとつすると、後からやってくるであろう組長とゴンドーさん、ホンジョ―さんのために皿を準備することにした。
それにしても、不思議な夢だったな。
そう思って何気なくポケットをさわった時だった。
ん?
なんか入ってる?
ポケットの中に、入れたはずのない何かが入っている。
取り出してみるとそれは、直径五センチほどのピンク色の石だった。
「社長。ポケットになんか入れました?」
「あ?よく聞こえねえ。」
カシャカシャとタマゴをかき混ぜていた社長は手を止めて聞き直した。
「僕のズボンのポケットに何か石みたいなの入れました?入れたはずないのに入ってたんですけど…」
「なんだこれ?知らねえけど…自分で入れたの忘れたんじゃねえの?」
「いや、そんなはずはないんですけど…。僕の思い違いなんですかね?実はここに来るまでに拾ってたとか。」
「ま、そういうこともあるんじゃねーの。」
「そうですかね…。」
よくあること。そう思えばそんな気がしないでもなかった。
冬用のコートの中からいつから入っているのかわからないカイロが出てきたり、旅行鞄の中から探してた薬ケースが出てくるみたいに、僕らは自然と小さな行為を忘れながら生きている。
そうすることで脳のメモリーを確保しているんだろう。
だから僕が石をポケットに入れたまま寝ていたことももちろんあり得るわけで。
「ていうかヒイラギ、バニラビーンズ買ってきてくんね?カスタードクリーム作りてえんだけど。」
「バニラビーンズですか。カイナの市場でいいですか?あそこ一番安いですよね。」
「あ?ダメに決まってんだろ。カイナの市場は輸入もんしか扱ってねえ。ハジツゲ行く途中にオーガニックスパイスの専門店あったろ。あそこでホウエン産のヤツ買ってこい。」
「え…あっちまで行くんですか…」
そう言いながらしぶしぶお金を受け取る。
社長、食材のこだわり半端ないんだよなあ…。
まあそのこだわりによって僕らはおいしいスイーツを食べられるのだから、文句は言えないけどね。
薄手のジャケットを羽織って外に出る。
日差しがまぶしい一日だった。
オーガニックスパイスの専門店がある113番道路に出るには、二種類のルートがある。
一つは砂漠を抜けるルート。
だが、終始砂嵐が舞い残忍なポケモンたちが闊歩するあそこを通るには、相応の装備と覚悟がいる。
もしもジャケットにスニーカーなどという軽装であの地を踏めば、蟻地獄に引きずり込まれてナックラーの餌食になったり、サボネアの栄養ドリンクにされたり、あるいはサンドのサンドバックにされてしまったりするだろう。バニラビーンズ一つのために西遊記よろしく愉快な冒険をするつもりはない。
だから今日は、ほのおの抜け道を通るルートを選択した。
あそこもあそこで中が超アツいからあんまり通りたくないんだけどさ…。
経由するキンセツシティで休憩をしているときのことだった。
僕は週末でにぎわうキンセツの人波の中に、あの人の後姿を見つけることとなった。
あのゴールドの髪。間違いない。
「おーい!!マツリカさん!!」
「お、ヒイラギくん!偶然!」
マツリカさんは後ろから呼び止めた僕に気付くと、すぐに手を振り返して合図をしてくれた。
僕は人混みをかき分けて彼女のもとに急ぐ。
「マツリカさん!どうしたんですか!?ホウエンに来てるなんて!」
「んー、休暇を取ってさ、絵を描きに来たの。ほら、ホウエンってすごく自然が豊かじゃない?だからいい絵が描けそうだなって。」
「そうだったんですね…。いやあ、それにしてもホウエンでマツリカさんに会えるなんてなあ。」
僕がしみじみと再会の喜びを味わっていると、マツリカさんは笑って言った。
「ま、絵を描きに来たのは半分おまけみたいなもんだけどね。もう半分は…ヒイラギくんに会いに来た。そんなところかな。」
さらりとそんなことが言えてしまうから、この人はずるい。
顔が赤くなっていったのは、日差しが熱いからなんかじゃなかった。
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「それで、島キャプテンの仕事はどうですか?ポニ島で試練の担当してるんですよね?」
「うん。そうなんだけどさ、なかなか試練の内容が決まらなくてね…。」
マツリカさんと僕はほのおの抜け道を抜け、一緒に113番道路のスパイス専門店を目指していた。特に行くところもないからと付き添ってくれることになったのだ。
こうしてアローラから遠く離れたホウエンの地で二人並んで歩くと、なんだか新鮮な経験をしているように思えた。
アローラでは何度もマツリカさんの隣を歩いたことがあるのに、いつもと歩いている場所が違うだけで全く違う心持ちになるのがなんだか不思議に思える。
「そうだ、ヒイラギくん。なんかいいアイディアない?フェアリータイプにふさわしい試練の内容!!」
「うーん、バトル以外で、ですよね?」
「そう。バトル以外で。」
なんだろう…。
これはとても難しい質問だぞ。
バトル以外に、フェアリータイプの何たるかを島巡りの子供たちに教える方法。
それはつまり『そもそもフェアリーとはなんぞや』という哲学的な問いにまでさかのぼる必要があって…。
わからん!考えれば考えるほどわからん!
しかし、僕がその問いについて答えることはなかった。
遠くで、助けを呼ぶ声が聞こえたからだ。
「マツリカさん!今の!」
「うん。向こうの町から聞こえたみたいだったね。行ってみよう。」
哲学の時間は終わりだ。
僕らは声のする方へ迷わずに走り出す。
この時期に、町で起こったトラブル。
いやな予感がする。
113番道路を抜けた先にあるハジツゲタウンで、その事件は起きていた。
ソライシ研究所の所長であるソライシ博士が、何者かによって流星の滝へと連れ去られたというのだ。
ソライシ博士の奥さんと名乗る女性は、憔悴しきった顔で語った。
「ナントカ団って言う人たちが、主人を連れ去っていったんです!お願いします。主人を連れ戻してください!!」
「奥さん、落ち着いてください。ゆっくり呼吸をして。ゆっくりです。」
マツリカさんが背中をさすって落ち着かせると、ソライシ夫人は冷静さを取り戻したようだった。顔色も悪くない。
ソライシ博士を連れ去ったナントカ団というのは100%マグマ団で間違いない。
そしてマグマ団がいるということは、当然『ヤツら』も動いていることになるわけで。
「マツリカさん。ソライシ博士を連れ去ったのはマグマ団という環境活動団体です。」
「マグマ団…?一体何のために?」
「話すと長くなります。マツリカさんはホテルに戻っていてください。」
「どうして?私も戦うよ!」
マツリカさんは立ち上がって言う。
彼女とて島キャプテンを務める責任ある立場の人間だ。ポケモンを使った犯罪行為など許しておけないのだろう。
だけど。
事態はもうマグマ団だけに収まる話ではないのだ。
彼女をこっち側の抗争に巻き込むわけにはいかない。
何としても、だ。
「マツリカさん。よく聞いてください。マグマ団のバックにはヤバイ奴らが絡んでます。彼らは本当に残忍で狡猾です。あなたを巻き込みたくない。」
「それは私だって同じだよ。ヒイラギくん一人をそんなことに巻き込むわけにはいかない。」
「マツリカさん…。でも、これはマツリカさんがかかわるべきではないんです。本当に。こんな汚い裏の社会にかかわるのは僕だけでいい。あなたを失いたくないんです。」
それから幾度となく僕はマツリカさんを説得しようと試みた。
けれど、彼女は彼女でこう見えて頑固な性分だ。
一度決めたことはやり通す。
今回も例にもれず、彼女はホテルに戻ることを拒否し続けた。
頼むよ。マツリカさん。
わかってくれよ。
僕は自分の置かれている状況を洗いざらい打ち明けたかった。
僕はヤ〇ザで、これからあなたが相手にしようとしている人もヤ〇ザなんです。
奴らは、ブスジマ組は、フェアリータイプを大量に乱伐するような残虐な集団なんです、と。
これはマグマ団のプロジェクトを
けれど、そうやって真実を伝えることでマツリカさんに嫌われる恐怖が、僕を引きとどめた。
『君がどんな仕事をしていようが、そこは間違った場所じゃない。』と彼女は言ってくれた。
だが、本物のヤ〇ザを目にしたときに彼女はどう思うだろう。
もう一度そんな言葉をかけてくれる保証なんて、どこにもない。
だから僕は、願うことしかできなかった。
わかってくれ、と。
「わかった。」
しばしのやり取りの後、マツリカさんは唐突に言った。
両の目はまっすぐに僕を見つめている。
「マツリカさん、わかって…」
「私にバトルで勝ったら、一人で行かせてあげる。」
え…?
「ヒイラギくん、私に勝てたことないでしょ?今、超えて見せてよ。そして、私を守れるほど強くなったのか、証明してみせてよ。」
風が鳴き始めた。
いつもは優しげに細められた目が、凛と引き絞られている。
その奥には決意と覚悟が結晶となって現れ、闘志を反射させていた。
マツリカさんはいつだって優しい。
感情的になることだって、無いに等しいような人だ。
ふわふわとマイペースな心地よさが、昔から僕を癒してくれた。
でも、今のマツリカさんは違う。
真剣に僕を心配し、真剣に一人で行くのを止めようとしている。
こんなマツリカさんを見るのは初めてだった。
「あなたと戦うことでしか、証明できないんですか…?」
「ポケモンで勝負してくるんでしょ?そのナントカ団。じゃあポケモンバトルで私に勝てないと。私を倒せないようなヒイラギくんなら、瞬殺されちゃうんじゃない?」
マツリカさんはもう準備万端と言わんばかりに、ボールを構え始める。
どうやら、このイベントは避けられないみたいだ。
それなら。
僕も僕なりの仁義を通させてもらいます。
「わかりました。受けて立ちましょう。今日、僕はあなたを超える。あなたを守れる男になったと証明して見せます!」
「威勢がいいなあ。さすが男の子。最後までその調子でお願いね!!クレッフィー!」
「おいで!アブリボン!!」
いつかこんな風にマツリカさんと戦ったことがあった。
あれはいつのことだったろう。
だけど、そんなのはどうでもよかった。
過去のマツリカさんとの勝負は、すべてこのバトルに収束しているのだ。
全ては、この瞬間のために存在したのだ。
その瞬間、ポケットに入れたままのピンク色の石が輝きを増したことなど、誰一人として気付くことはなかった。
シリアスな展開になってきましたね。
個人的にはシリアス展開の方が書いてて楽しいです。
感想等お待ちしております。