ふぇありーヤ〇ザ!   作:矢留

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 矢留です。

 今日も投稿できてうれしい。

 勉強は進まないけど。





第十三話 シンカ先

 初夏のホウエンに降り注ぐ陽光が、鋼鉄のからだに反射している。

 

 フェアリータイプでありながらはがねタイプを併せ持つクレッフィは、多くのタイプに対して耐性をもつ優秀なポケモンだ。

 地面タイプとほのおタイプの技でなければ、突破することは難しい。

 

 それに加えて、このポケモンはある必殺技を持っている。

 

 

「クレッフィ!ひかりのかべ!」

「きゅるる!」

 

 

 いたずらっぽくからだを揺らしながら、クレッフィは目の前に輝く壁を作り出す。

 

 『特性・いたずらごころによる、先制壁貼り』。

 

 これこそが、マツリカさんのクレッフィの真骨頂。

 クレッフィは一瞬で鋼鉄の守りを手にする。

 

 

 

 何度となく、僕はこの戦法に苦汁をなめさせられてきた。

 

 だけど。

 そんなのは過去の話だ。

 

 

「アブリボンちゃん、ちょうのまいだ!!限界まで舞うぞ!!」

「ぴゅい!!」

 

 いったい何度マツリカさんとバトルをしたと思ってるんだ。

 あなたの作戦はお見通しです!!

 

「やるね!さすがヒイラギくん。やっぱり読んできた。今までの君ならそのまま攻撃してきたけど…。成長したのは本当みたいだね。」

「そりゃそうですよ。あなたの戦い方は僕が一番知ってる。対策しないわけがないでしょう。」

 

 

 

 マツリカさんは、ほんとうにうれしそうに笑った。

 

 真剣勝負の最中であっても、その笑顔の輝き方は変わっていない。

 

 

 

「ふふっ…。うれしい限りだね。でもね、成長したのは君だけじゃない。私だって島キャプテンになってから修業したんだからね!クレッフィ、でんじは!」

「まずい!」

 

 

 クレッフィのからだからぱちぱちという音が発せられたと思うと、次の瞬間にはアブリボンの動きが鈍りだす。

 

 やられた。

 アブリボンは麻痺してしまったようだ。

 

「でんじは…。今まで覚えさせていなかった技ですね。」

「そう。クレッフィの個性を十分に活かす最高の技だよ!そのままラスターカノン!」

「くっ…!耐えてムーンフォースだ!!」

 

 

 アブリボンちゃんはラスターカノンを受け止めると、そのお返しと言わんばかりにちょうのまいで増幅された巨大なムーンフォースをクレッフィにぶつける。

 

 だが、ひかりのかべでダメージを半減されているうえに、フェアリータイプの技であるムーンフォースははがねタイプに対する相性でさらに半減されてしまう。

 クレッフィには大したダメージを与えられなかったようだ。

 

 逆にこちらは効果バツグンのはがね技を受け、ちょうのまいで特殊耐久が上昇しているとはいえ少なくないダメージをもらってしまう。

 

 

 

 あと一回耐えられるかどうか。

 押されているのは間違いなく僕の方だ。

 

 

「やっぱり…マツリカさんは強い!」

「当たり前だよ。私は君よりすこしだけお姉さんだからね!クレッフィ!続けてラスターカノン!」

「ちょうのまいで耐えるんだ!」

 

 

 さらに特殊耐久を上げることで、もう一度ラスターカノンを耐える可能性に賭けた。

 しかし、アブリボンはその銀に輝く光線に貫かれてしまう。

 

 

 急所(クリティカルヒット)だった。

 

 

 

「ごめん、アブリボンちゃん…。でもまだまだ!ミミッキュ!行っておいで!」

「キュキュ!」

 

 

 勝負はこれからだ。

 まだまだ僕の仁義は消えちゃいない。

 

 必ず、マツリカさんを守ってみせる。

 

 

 

 

 そこからは、一進一退の接戦だった。

 

 

 

 

 ミミッキュがラスターカノンを『ばけのかわ』でいなすと、つるぎのまいで自らを鼓舞してクレッフィを突破。

 だがマツリカさんはノーマルタイプを併せ持つプクリンを繰り出してミミッキュのゴースト技を封じ、ププリンの歌で眠らせると、晴れた空の下で繰り出される強力なかえんほうしゃで夢見るミミッキュを強引に突破しようとする。

 

 それをわかっていたかのように、ヒイラギはアシレーヌに交代してみせた。

 

 

 

 

 お互いの選出や技を高度に読み合いながら相棒のポケモンに指示を出し、的確に技を当てる。

 これがどれほど集中力を要し、どれほど緊張感を要するものなのか、僕は今日になって初めて実感した。

 

 

 今まで僕は、フェアリータイプのポケモンたちと全国を旅してきた。

 けれど、道中で挑まれたバトルも、興味本位で挑戦したジム戦も、マグマ団とのバトルも、こんなに集中したことはない。

 

 こんなに思考が鮮やかに冴えわたったことはない。

 

 

 

 

 僕は、自分の意識が上空へと昇華し、バトルを俯瞰しているような感覚を感じ始めていた。

 

 身体を動かしてポケモンに指示を与え、相手の一手先を考えているのは間違いなく僕の脳で、僕の意識だ。

 だが、それとは別の、僕を僕たらしめている意識の核みたいなものが分離していく。

 

 

 この感覚は一体、どこからやってくるものなのだろう。

 マツリカさんを思う一心からか。

 自分の強さを見せつけたい本能からか。

 

 

 それとも。

 

 

 僕は、まだあの夢の続きの中にいるんだろうか?

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 マツリカはかつてないほどの緊張感を感じていた。

 

 この勝負、緊張の綻びを見せた方が負ける。

 相手の次の一手を考えて最適な手を打ち続けなければ、戦況の天秤は瞬時に相手側に傾き、次の瞬間には勝敗が決する。

 

 

 手には汗が滲み、指示を与える声一つに力がこもった。

 

 やっぱりヒイラギくん、比べ物にならないくらい強くなってる。

 

 

 

 バトルの前は立場上、ヒイラギの前で闘争心をあおるような言葉を放ったが、実際は自分に勝てる保証がないことなどわかりきっていた。

 

 そう。マリエ庭園で彼と再会した時から。

 

 

 

 三年と五か月ぶりに会った彼は、背が伸びていた。

 身体もたくましくなって、顔立ちも大人びていた。

 

 スカル団に絡まれたときも、すぐに私の前に立って守ってくれた。

 背中が、すごく大きく見えた。

 

 ああ、大人の男の人だ、って。そう思った。

 

 

 苦手なタイプもなんなく倒せちゃうくらい強くなってた。

 相手に一度だって攻撃させる間もなく、圧勝した。

 

 

 

 でも、大好きなフェアリータイプを使ってるのは昔と何にも変わってなくて。

 私をおねえさん扱いしてさん付けで呼んでくれるかわいいところも、なにも。

 

 

 

 ねえ、ヒイラギくん。

 私、気付いてたよ。

 

 

 私が仕事の話をすると、すぐに話を逸らすこと。

 絶対に会社の名前を言わないこと。

 

 

 アブナイ仕事をしてるんだなって、私が気付かないと思った?

 小さいころからずっと君を見ていた私がさ。

 

 

 それでもさ、君が君らしくいてくれればそれでいいやって、そう思ってた。

 

 

 

 でもね、君は今、私を守るために自分を危険にさらそうとしている。

 自分を犠牲にして、アブナイ仕事に行こうとしているんだよね?

 

 

 私ね、そんなの嫌なんだよ。

 

 君が私のために傷つくなんて、そんなの間違ってる。

 だから私は、君を止めなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 ねえ、ヒイラギくん。

 気付いてる?

 

 

 私ね…

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「お互い最後のポケモンですね。」

「うん。君にここまで押されるとは思わなかったよ。」

 

 

 白熱を極めたバトルも、終わりに近づいていた。

 あと一体。

 

 ここで勝敗が決まる。

 

 

 マツリカさんも僕も、ここまで全力中の全力で戦っていた。

 残り一体同士の戦い。

 

 悔いのないように、限界まで全力で戦うしかない。

 

 

 

 

 

 先に動いたのはマツリカさんだった。

 

「グランブル!お願い!」

「ガオ!」

 

 番犬のように勇ましい牙。

 鋭い目つき。

 

 進化前のブルーの時から知っているポケモンだった。

 マツリカさんの親友だ。

 

「久しぶりですね。グランブルちゃんとは。」

「そうだね。三年ぶり、だよね。君とこの子は。」

 

 

 

 グランブルは僕の顔を見て少し驚いたようだった。

 彼と僕もまた旧友なのだ。

 

 何度噛まれたっけ。

 何度顔をなめられたっけ。

 

 何度、マツリカさんと一緒に散歩に行ったっけ。

 

 

 だけど、ご主人(マツリカさん)の顔を見て、何かを悟ったようだった。

 すぐにキリリとこちらを見据える。

 

 

 

 

「なるほど。お前も本気ってわけだな!ではこちらも行きます!おいで!サーナイト!!」

 

 

 月光の下の淑女のようにたおやかに、夢を見る少女のようにはかなげに、そのポケモンは現れる。

 

 ほうようポケモン、サーナイト。

 僕がこの地にやってきて出会い、ともに成長した新たな相棒だ。

 

 

 

「サーナイト!!ホウエンのおとぎ話にも語られるその美しさ…。君はやっぱり、フェアリーが大好きなんだね。ヒイラギくん。」

「ええ。お互いに、ね。」

 

 マツリカさんは改めて、きらやかに笑った。

 迷いのない、まっすぐな笑い方だった。

 

 

 

「でもね、マツリカさん。僕と一緒に戦うのはサーナイトじゃない。」

「…どういうこと?」

 

 

 

 首から下げていたペンダントを襟の外に出す。

 

 

 やっと手に入れたんだ。この力を。

 

 僕はここ(ホウエン)に来て、フェアリーちゃんたちと共に進化(シンカ)したんだ。

 

 

 ここで見せなくて、いつ見せるっていうんだ。

 

 

 

 

 

 

「まさか…!」

「サーナイト!!メガシンカだ!!」

 

 

 僕が抱えてきたすべての強い想いがサーナイトに届く。

 光の繭が、僕を導くように揺れて弾けた。

 

 

「行こう。メガサーナイト。」

「ふう!」

 

 

 

 

 午後の日差しが傾き始めた。

 

 

 

 

 

「サーナイト、めいそう!」

「グランブル!かみくだく!」

 

 

 二匹は同時に動いた。

 二つの影が重なってもつれあう。

 

 

 グランブルの牙はサーナイトをかすりはしたものの、有効なダメージを与えることはできなかった。サーナイトが寸前でよけたからだ。

 

 

 一度こちらの防御を下げてから本格的に倒しに行く戦法なのだろう。

 

 だが当たらなければどうということはない。

 その隙に瞑想を積んだサーナイトの精神は、もう澄みきっている。

 

 

 

 

「さすがメガサーナイト。一筋縄じゃいかないみたいだね。」

「そっちこそ。相変わらずいい動きですね、グランブル。」

 

 

 

 二人の顔が斜陽に映えた。

 

 次で、すべてが終わる。

 

 

 

 

「君は強かった。もう昔の君じゃないんだね。でも、最後に勝つのは私だよ。ヒイラギくん。」

「いいえ、勝つのは僕です。マツリカさん。あなたをここで倒して、僕は行かなきゃならない。」

 

 

 

 さあ。

 超えていこう。

 

 あなたという壁を。

 僕という壁を。

 

 

 

 

「サーナイト!これで決める!はかいこうせんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 マツリカは一瞬、ヒイラギの選択を不思議に思った。

 

 はかいこうせん?

 サーナイトがどうして…?

 

 

 だがすぐに思い当たる。

 サーナイトの特性が変わっていることに。

 

 

 

 

「そうか!フェアリースキン!」

 

 

 

 メガサーナイトの特性、『フェアリースキン』はノーマルタイプの技をフェアリータイプに変えてしまう。

 

 

 それはノーマルタイプ最強の技、はかいこうせんとて例外ではない…!

 

 

 

 

 

「グランブル!お願い!じしんで少しでも軌道を逸らして!!」

「ガオ!」

 

 グランブルは地面を踏みつけ、激しい揺れを起こそうとする。

 

 だが、遅かった。

 薄桃色の衝撃波はもう、すぐそこに到達していたのだ。

 

 

 瞬間。大気まで激しく揺れるほどの圧倒的なエネルギーはグランブルを弾き飛ばし、ハジツゲの地面を大きくえぐる。

 

 フェアリータイプ一致技。

 特性による補正。

 瞑想による特殊攻撃力の上昇。

 

 

 グランブルを一撃で撃破するには十分だった。

 

 

 

 

 フェアリータイプ最高峰の火力。

 後には散りゆく初夏の花びらが鱗のように舞っているだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、負けちゃったかあ。」

 

 

 

 残された沈黙を惜しみながらも、マツリカさんは口を開く。

 だが、その目は何かに納得したように穏やかだった。

 

 

「そっか。」

 

 

 影が、アスファルトにこびりついている。

 静寂が僕らの動きを止めるのは、はかいこうせんの反動か否か。

 

 

「君はもう、私の力なんかなくても…」

「なくても…なんですか?」

「ううん。いいの。なんでもない。」

 

 

 何かを言いかけて、マツリカさんは言葉を飲み込んだ。

 教えてくださいよ。そう聞くのは無粋な気がした。

 

 

「約束だもんね。私はポケモンセンターに寄ってからホテルに戻るよ。でもヒイラギくん、気を付けてよ。私に勝ったとはいえ、全然ギリギリだったんだから。」

「本当ですよね。マツリカさん強すぎですよ…。僕も一度ポケモンセンターに寄ってから流星の滝を目指します。途中まで一緒に行きましょう。」

「うん…。」

 

 

 

 そう言って、マツリカさんの手を取ったときだった。

 

 

 

 

 

 

「ウフフ…。楽しい勝負だったわね。あなたたち。」

 

「ソライシ夫人…?」

 

 

 

 さっきまでソライシ研究所で休んでいたはずのソライシ夫人が、拍手をしながらこちらを見ていた。

 

 

 おかしい。

 ソライシ夫人の雰囲気が…違う。

 

 

 

「誰だ。あんた。」

 

 

 

 ソライシ夫人は首元に手をかける。

 

 

 まるで脱皮するハブネークのように顔が剥けた。

 

 その下からは、長い髪で顔の半分を隠した怪しげな女が現れる。

 

 

 

 

「いやね、最近の若い子って。年上の女性に対する礼儀がなってないんじゃない?」

 

 

 

 この圧力。不快感。空気のねじれ。話し方。

 

 間違いない。

 

 

 『ヤツら』だ。

 

 

 

「初めまして。ヒイラギくん。私はブスジマ組幹部の一人。シクラメンよ。シクラお姉様と、そう呼んでくれるかしら?」

 

 

 日が沈んだ。

 夜の風が冷たく肌を撫でてゆく。

 

 

 この時間の風は、からだに()()だ。

 

 

 

 

 

 

 




 アツいバトルだったね。

 外の気温はマイナスだけど。
 今三月じゃないっけ?

 バグか?

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