初期のギャグ要素は一体どこへ…。
難産だったけど今日も投稿できてえらい。
クノエシティはフェアリータイプの聖地である。
カロス地方中部に位置するその小さな町は、幻想的な落葉樹の並木とアンティークな街づくりで知られ、カロス地方内のみならず全国各地から観光客が訪れる自然遺産都市に分類されている。
紅葉が見ごろを迎える秋の終わりにかけては、カロス地方の首都ミアレシティからの交通アクセスが良好であることも相まって、一日に数百人を超える旅行者が来訪するのだという。その観光収入が街の経済を支えているのだ。
この町がフェアリータイプの聖地たる所以は、町の中央に位置する時計台、兼ポケモンジムにある。
ジムリーダーであるマーシュを含めすべてのジムトレーナーがフェアリータイプを使用する『フェアリー専門ジム』は非常に珍しく、ガラル地方のアラベスクタウンと本ジム以外には存在しない。
特に本時計台の歴史はアラベスクタウン創立よりはるかに古く、この時計台を構成している大木自体がフェアリータイプの起源に関係しているのではないかという見解を示す専門家も多い。
この時計台が放つ古風かつ神秘的な存在感を前に、新たにフェアリータイプを育てる決意をした観光客も少なくない。
なるほど。フェアリータイプの聖地ねえ。
カロス地方の玄関口、ミアレシティ国際空港に到着した僕は、これから訪れることになっている町、クノエシティのパンフレットを片手にスーツケースの受け取りを待っていた。
あの日。
ブスジマ組幹部のシクラメンと会敵し、流星の滝にてマツリカさんを巡る攻防が繰り広げられた日のこと。
僕の過去の記憶と夢の中を通って現れたカプ・テテフは、シクラメンの手持ちだった色違いロズレイドを撃破した後、かがやく鱗粉を振りまいてマツリカさんを解毒してくれた。
ピンク色の石は、カプ・テテフの依り代としてその神体を顕現させ、守り神として僕とマツリカさんを守護するために存在したものだったのだろう。役割を終えたその依り代はボロボロに崩れ落ち、カプ・テテフも吸い込まれるようにどこかに消えてしまった。
僕はマツリカさんの無事を確認すると、ソライシ博士に託してその場を後にした。
そして、もう彼女とは会わないことを決意した。
マツリカさんをこっち側に巻き込んで深く傷つけてしまったことに対する、僕なりのケジメだった。
クノエシティに行くことを勧めてくれたのは組長だった。
ヤ〇ザの世界では、抗争において敵側の組員を倒した者には十分な報酬と国外への旅行休暇が与えられるのが常識となっている。
敵の報復を避けるためだ。
そして僕は、『ブスジマ組幹部のタマを取った功労者』として国外旅行を命じられたわけ。
俗にいう、『高飛び』というやつだ。
「それにしても、カロスに来るのなんか初めてだなあ。組長は『絶対に行ったことのない縁もゆかりもない場所に行け』って言ってたけど、勧めた先がフェアリーの聖地って…。縁もゆかりもなくはないよねえ。」
「ひゅおう~。」
絶対お土産狙ってるだけだよね…と、久しぶりにダイブボールから出したアシレーヌに話しかける。
一人旅だし、こうしてポケモンたちと並んで歩くのも悪くない。
久々に血なまぐさいシノギの世界なんか忘れて、ポケモントレーナーとして太陽の下を歩こう。
そう心に決めて、空港の自動ドアをくぐった。
クノエシティはパンフレットで見たより何倍も美しい町だった。
澄んだ小川が流れ、家々は絵本に出てくる架空の建物のように現実離れしたデザインをしている。
人々は活気にあふれ、井戸端で会話にいそしむ婦人の一人一人までもが、輝かしい物語の一場面を描き続けているように生命を回転させていた。
そして何よりも、町の中央にそびえたつ大木と、それを利用して作られた時計台が目を引いた。
町のアンティークな雰囲気はすべてこの時計台から湧き上がってきているのではないかと錯覚するほどの存在感。
それでいて、大木がただ時間に寄生されただけだと感じてしまうほどの自然さ。
吸い込まれるように時計台に近づいてみると、霧深い森の奥をさまよっているような不思議な安心感が身体に流れ込んできた。
それは僕のポケモンたちも同じだったようで、アシレーヌもかつてないほど落ち着いた様子を見せている。
不思議な町だ、と思った。
それからの数日間は、滞在しているホテルを拠点にぶらぶらと散歩する日々を過ごした。
14番道路で昼寝をすることもあれば、15番道路でポケモンと競争をすることもあった。
町のカフェに入り浸って読書をすることもあれば、町の北側にあるボール工場のラインを眺め、物思いに浸ることもあった。
ふと、マツリカさんを思い出すこともあった。
住民が連れているクレッフィを見た時。
大木の根元に生えているマシェードそっくりのキノコを見つけた時。
夕方にグランブルの遠吠えを聞いた時…。
彼女は今どうしているんだろうと思った。
僕が何も言わずに去ったことを怒っているだろうか。
だけど、彼女が僕のしたことについてどう思おうと、もはやどうすることもできなかった。
僕がマツリカさんを傷つけてしまったことは事実で、僕はヤ〇ザというケジメを取るべき立場になってしまっていたからだ。
クノエシティに来てから一週間がたったある日。
ホテルの受付をしているお姉さんが、僕に『クノエジム主催・チキチキ!フェアリーポケモンクイズ選手権!~ゼルネアスの遣いやあらへんで~』というクイズ大会に参加しないか、と声をかけてきた。
「なんですか?その独特なタイトルは…。そもそもチキチキって何のことなんですかね?」
「さあね…。マーシュさんの考えることってよくわからないから。」
そのマーシュさんとやら、センスが残念過ぎませんかね?
「でもさ、君いつもフェアリータイプのポケモン連れてるじゃない?出てみたらいいんじゃないかしら。」
「うーん、出たいところは山々ですけど…。僕なんかが出るより子供たちに出てもらった方が盛り上がるんじゃないですか?」
「優勝賞品はキョダイニンフィア抱き枕よ。」
「出ます」
おいおい待ってくれよブラザー。
キョダイニンフィア抱き枕って…。
ネットで全然手に入らないと話題の数量限定品ですよね!?
受付のお姉さんは見事な手のひらクルーを見せつけた僕に若干引き気味であったが、関係ない。
この勝負。
仁義をかけて無双してやる…!!
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「それでは、今年も盛り上がっていきましょう!チキチキ!フェアリーポケモンクイズ選手権!~ゼルネアスの遣いやあらへんで~の開催です!ゼルネアスは一体誰に微笑むのか!?まずは予選Aブロックの選手紹介と行きましょう!」
盛大なファンファーレと共に選手たちがステージに入場すると、会場は堰を切ったようにどよめきだした。
闘志十分。自信は過剰。
我フェアリーを知れりと自負する猛者たちが、カロス
「エントリーナンバー1、メルヘン少女のマリヤ!カロス地方はレンリタウンからの参戦だ!」
ロリータファッションに身を包んだ少女が、自信たっぷりにお辞儀をして見せる。
ごめんなさい。ニンフィアちゃんを頂くのは私よ?
せめていい勝負ができればいいわね。
プレッシャーを与える意味も込めて、少女は横に並ぶ他の参加者を見回した。
だが、その中で圧倒的に場違いな威圧感を放つ一人の男に、彼女は畏怖を抱かぬわけにはいかなかった。
そう。
仁義の波動に目覚めたヒイラギその人に…!
なんなの、あの人!!
少女は鳥肌を立てながらも、その焦りを顔に出すこともなく席についてみせた。
「では、最後の挑戦者に参りましょう。エントリーナンバー8!大陸の向こう、海を渡ってはるばるやってきたのはこの男!ぽかぽかフレンドクラブ、ヒイラギだあ!!」
ヒイラギは立ち上がって礼をする。
その顔はもう勝ちを確信していた。
フェアリーポケモンのクイズ?
そんなの余裕に決まってるよねえ。
僕を誰だと思ってるんですか?
こちとらフェアリーヤ〇ザじゃ!!!!!
「それでは行きましょう。第一問。」
デデン!
戦いのゴングが鳴り響く。
「マタドガスの特性はふゆうですが…ガラル…」
瞬時。
問題文の読み上げを遮って、電子音が鳴り響く。
電光石火の左手が、空を切ってボタンを弾いたのだ。
回答権は…ヒイラギのものだ。
「おーっとボタンはヒイラギさんについている!!ではヒイラギさん、お答えください!!」
「かがくへんかガス」
しばしの無音の後に、けたたましくベルの音が鳴り響いた。
正解だ。
「素晴らしい!問題文の途中で回答し、見事に正解して見せました!ヒイラギ選手10点獲得!!」
挑戦者は一斉にヒイラギを見て、その異常なる執念に気付いた。
この男…!
こちらをヤる気で来ていやがる…!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「予選ブロック終了!それでは予選の結果を発表しましょう!本選参加を獲得したのは…エントリーナンバー8!ヒイラギ選手です!」
万雷の拍手が浴びせられ、僕は立ち上がってガッツポーズをしてみせる。
会場の盛り上がりは、他の追随を許さぬ圧倒的な強さで予選を勝ち抜いた強者をたたえ、まるで新しい王を迎え入れる民衆のような騒ぎだった。
ええ…。
正直僕はがっかりしていた。
ジム主催というからにはどんな問題なのかと期待していれば、出てきたのは「次の四つポケモンのうちフェアリー技がバツグンにならないのはどのポケモン?」とか、「ミストフィールドは何ターン続く?」とか、「じゃれつくの追加効果は?」とか、そんな程度の問題ばかりだった。
正直レベル低すぎね?
これ一般常識問題だよね。
なーんだ、もう優勝確定じゃん。
抱き枕、もうホウエンに宅配便で送っちゃっていいよ…。
「それでは本選に参りましょう。ヒイラギ選手はこの勝負に勝てば見事、キョダイニンフィア抱き枕を手にすることができます。」
うんうん。わかった。
「皆様、ステージ上をご覧ください!本選の対戦相手、我らがクノエシティのジムリーダー、マーシュ様のご入場です!」
え?
ステージ上?
司会のお姉さんの言う通りにステージ上空を眺めてみると、そこには空を優雅に舞い降りてくる人影があった。
きらびやかな振袖に、瑠璃色の羽。そしてドンカラスの濡れ羽のようにつややかな黒髪。
パンフレットで見たことあるぞ。
この人が…クノエシティのジムリーダー!
「おやおや、ほんに、えらい賢いトレーナーさんが来はったんやねえ。」
マーシュさんはふわりとステージに降り立つと、あくびをしながら早押しボタンの前に座った。
「いつでもええよ。もうはじめましょか。」
「ずいぶん余裕そうですね…。悪いがジムリーダーのホーム戦だからって容赦しませんからね。ニンフィアちゃんをお持ち帰りするのは僕です。」
マーシュさんは、別に僕に興味などないようだった。
ただ早くこの大会を終わらせて、帰って寝たい。
そんな風に見える。
上等だ…。
ヤ〇ザなめんな!
「それでは行きましょう。第一問!」
来いよ。
即答してやる。
「デデンネの種族値をHABCDSの順番にお答えください!おっとマーシュ様早かった!」
「67-58-57-81-67-101やね。」
「ちょっと待て」
え?何今の!?
問題のレベル違い過ぎない?
さっきまでカス問題しか出さなかったくせに…!
「いやー、さすがマーシュ様。ヒイラギ選手も反応すらできませんでしたねえ。」
「ほんに?常識やと思っとったけどねえ。」
絶対嘘だろ…。
まあいい。まだ一問目。
次の問題から勝負だ。
次こそ即答してやる!
「では第二問目。最速ミミッキュと準速アローラキュウコン、同レベルならどちらが速い?おーっとまたもマーシュ様早かった!」
「最速ミミッキュやね。実数値にして1だけ速いんよねえ。」
「いやわかるか!!!」
お客さん置いていかれてるじゃないですか!
一番前の親子なんか「ママ―種族値ってなあに?」「しっ、
…そんなに賞品あげたくないんですか?
お祭りのくじ引きとやってること一緒じゃないですか…。
そんな具合にして、クイズ大会はマーシュ様の圧勝という結果で幕を閉じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なあヒイラギはん。なかなか見どころのある戦いぶりやったねえ。」
ホテルに戻ろうとしていると、マーシュさんが僕を呼びとめた。
何すか?嫌味を言いに来たんですか!?と思わず声に出しそうになったが、ぐっとこらえる。僕だって予選の時に大人げなく無双しちゃったからなあ。本選で同じことをされたと考えると文句も言えない。
「いや、さすがジムリーダー。『知識は』ありましたねえ。」
僕の含みに気付いたのだろう。
マーシュさんは妖しく笑って言う。
「そうねえ。確かに、『知識は』うちが勝った。でも、バトルでは…。どうかわからんねえ。」
「僕がバトルしてるところ、見たことないですよね?どうしてそんなことわかるんですか?」
マーシュさんはベンチに座ると、僕にも隣に座るように促した。
お香のような不思議なにおいが香ってくる。
「知っとるよ。君のことは。」
「僕のことを…?どうしてですか?」
「あの子に、ヒイラギが来たらよろしく。そう言われたからねえ。アオイちゃんから全部聞いとるよ。」
「…え!?知り合いなんですか!?」
アオイちゃん。
我らがぽかぽかフレンドクラブの組長だ。
マーシュさんは組長のこと、どうして…?
「アオイちゃんはねうちと友達なんよ。3年くらい前からかなあ。あの子がここに遊びに来るたびに遊んだりしてるんよ。」
「…フェアリー友達ってことですか?」
「そういうこと。」
そうか。
だから組長は、クノエシティに行くように勧めたのか。
僕をマーシュさんに会わせるために。
でも、そうだとして、僕と彼女が出会うことにどんな意味があるのだろう?
組長はどんな意図をもって僕らを引き合わせたのだろう?
だが、その疑問は次の一言で明らかになった。
「なあ、ヒイラギはん。」
「なんですか?」
月の下に広葉樹が揺れて、いくつもの影を作った。
マーシュさんの黒髪が夢を見る魚のように風に流れてゆく。
「うちのジムで、働かへんか?」
夜が放射状に降ってきた。
悪くない提案だ、と思った。
僕はヤ〇ザをやめて、ジムトレーナーになる。
あんな暴力的で反社会的な世界からは足を洗って、昔から抱いてきた『フェアリータイプの良さをみんなに伝えられるような仕事』という夢に一歩近づくことになるだろう。
そうすれば、もうマツリカさんを、大事な誰かを傷つけることはない。
もう仁義だとかケジメだとか、そんなめんどくさい
あの時はすみませんでした。
でももうヤ〇ザはやめてきました。
カタギになったんです。
だからあなたが危険にさらされるようなことは、もう起こりません。
安心してください。
そう言って、いつかと同じ笑顔で、二人でマリエ庭園でお団子でも食べながら将来の話なんかをして。
今なら、そっち側の未来に行けるんだと思った。
組長は、こういう展開になることを予想して僕をマーシュさんに会わせたのだろう。
だから、ここで僕がジムトレーナーになると決めたことを咎めたりはしないはずだ。
それはもちろん、社長やゴンドーさん、ホンジョ―さんだって同じで。
たった一言。
そうだよ。
たった一言、マーシュさんに『お受けします』と答えるだけで、僕はもうあんな思いをしなくて済むんだ。
「慎んで…」
「うん。」
マーシュさんは続きを待っている。
でも、もう僕の腹は決まっている。
「お断りさせていただきます。」
「…いいの?本当に?」
マーシュさんは不安げに僕を見つめていた。
僕たちがどういうことに手を出しているか、彼女は全部知っているのだろう。
真剣に行く先を案じてくれている。
でもね。マーシュさん。
僕は知ってしまったんです。
マグマ団の野望を。
ブスジマ組の存在を。
聞いてしまったんです。
組長の過去のことを。
僕は、社会の裏でどんな奴らが何をしようとしているのか知ってしまった。
それを見ないフリをしてのうのうと夢を叶えるなんてことは、できないんです。
僕はもう、今更引き返せないほどに長い距離を歩いてきてしまったんです。
「僕には、帰る場所があります。家族になったんですよ。僕らは。」
再び、黒い髪が流れた。
でもそれは風のせいじゃない。
マーシュさんは立ち上がってこちらを向く。
「ほんに、頑固やねえ。君は。誰かさんとそっくりやわ。」
誰かさんが誰なのか、僕にはすぐにわかった。
マーシュさんにとって大事な人。
僕にとっても、もちろん。
「伝えておいてな。誰かさんに。無茶したら『肉眼ゼロ距離マジカルシャイン』やよって。」
「マーシュさん…。ハイ!もちろんです!」
もう帰る頃だ、と思った。
例え何かを失ったとしても、僕は僕のたどるべきだと思う道をたどらなければならない。
それが僕のケジメであり、僕なりの仁義の通し方だ。
僕は戻らなくてはならない。
僕の
ゲーム内のクノエシティで買える服が可愛すぎて主人公ちゃんにずっと着せてました。
そのくらいクノエシティ好きです。
もう一回XYやりたいわね。