皆さんはお酒で失敗したこと、ありますか。
ちなみに私はあります。
黒歴史です。
「それでは、ヒイラギのブスジマ組幹部討伐を記念しまして、飲み会を開催したいと思います!!」
「いよっ!!」
組長の音頭が居酒屋の個室に響く。
それに合わせて社長、ゴンドーさん、ホンジョ―さんの三人もジョッキを手に取り、中空に掲げてその時を待った。
カナズミシティの一角にある居酒屋『フレフ庵』は、うちの組がケツ持ちを務める個人経営点だ。以前僕が取り立てに行ったことがあるあの居酒屋だと言えば伝わるだろうか。
金曜日の夕方というゴールデンタイムであるにもかかわらず、僕らは予約もなしに席をとることができた。
株主優待だ。
「では、ヒイラギの功労をたたえて…乾杯!!」
「乾杯!」
「…乾杯。」
各々がジョッキを触れ合わせ、第一杯目のビールがガラスの中でかすかに揺れた。
涼やかなガラスの音が、熱気に包まれた個室に心地よく響く。
今日はぽかぽかフレンドクラブの飲み会だ。
カロスから帰ってきた僕に対して、組長を含めぽかぽかフレンドクラブの組員は何も言うことはなかった。
ここでやめてもいいんだぞ、と。
彼らは、僕にこれ以上傷つかせないように、マーシュさんを通して逃げ道を与えてくれていた。そのメッセージに気付きながらも、僕はぽかぽかフレンドクラブの一員としてブスジマ組と向き合うことを決めたのだ。
みんな、そんな僕の覚悟を尊重してくれたのだろう。
今まで通り組員として僕を迎え入れてくれている。
「マスター!注文良い?」
「……ハイ。」
組長がすでにテンション高めにマスターを呼ぶと、以前僕に反旗を翻してきたあの主人が奥から顔を見せた。
うわあ。
目が死んでるよ…。
そりゃそうだよね。
普通に考えてケツ持ちヤ〇ザご来店とかいう絶望イベント、接客したくないよねえ…。
「ぼんじり、ハツ、砂肝を塩で10本ずつ。あとモツ煮込みとたこわさと梅水晶ね。」
「ハイ…。わかりました。お飲み物はいかがいたしましょう?」
「芋ロックで。」
く、組長!?
組長一体何歳なんですか?
注文渋すぎませんかね!?
「あ、それじゃあ僕もいいですか。フライドポテトとコークハイで…」
18歳で飲酒すな、って?
10歳で一人旅に出す世界に20歳成人の概念があるとでも?
だが、僕が注文し終えると外野からヤジがあがる。
「うわセンスないわ」
「ハッピーセットじゃねンだぞオメエ」
「大学生の新歓レベルですね」
「飲み会でポテトはさすがにガ〇ジだろ」
そんなに言わなくてもいいじゃないですか!!
これ僕のお祝い会なんですよね!?
「いいじゃないですか!ポテト一人で食べちゃいますからね、そんなこと言ったら。」
「いや私の芋ロックに芋は合わないでしょ。一人で食べな。」
「そうでしたね…。」
組長はそう言うと、お通しのギンナンを慣れた手つきで剥き、口に放り込んだ。
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お酒は、その人の深層心理を映し出す真実の鏡である。
アルコールによって、『自我』に対し抑制的な役割を果たす『超自我』を司る大脳新皮質が麻痺すると、抑圧されていた『自我』が目を覚まし、本能的情動が動き出すからだ。
つまり、リミッターが外れるのである。
お酒が人をダメにするのではなく、ダメな人であることをお酒が証明するのだ、とはよく言ったものだ。
そしてもちろん、この人たちにもその医学的事実は適応されるわけで…。
そこは、超自我の抑圧から解放された自我によってカオスと化していた…!
「ふええええん…ママァ!抱っこしてよお!だっこ!!」
「クミチョー!僕はママじゃないですって、ちょっと離れてください!熱いですって!」
「マッマ…」
酔い方あるあるその壱。
幼児退行ネキ。
普段かまってほしいが恥ずかしくて人にかまえず、寂しがりな一面を隠しながら生活している人に多く見られる傾向。
組長みたいなかわいい女性に絡まれればまだ許せるが…。
いい年した野郎がこんな絡み方をしてきたら仁義パンチものである。
「あひゃひゃひゃひゃ!たのしい!たのしいですねえ!(自主規制)!(自主規制)!くぁWせDRFTGYふじこLP!!!!」
「ホンジョ―さん!!発狂したラスボスみたいなこと言わないで!!」
酔い方あるあるその弐。
倫理観粉砕ニキ。
クールで品行方正な人に多く見られる傾向。
普段完璧に仕事をこなしているように見える人ほど、実は自我を押し殺し、抑圧的に生きていたりするものだ。
ゆえに、その抑圧の反動は大きく、たがが外れると手が付けられなくなるケースも少なくはない。
そして…普段とのギャップがある分、こういう酔い方が対外的に一番ヤバイ…!!
「ビえええええん!!マリルリたん!!!カブトに負けちゃったよお!!ヴあ~~~~~!!!!」
「ゴンドーさん、大丈夫ですって。次会ったらボコボコにすればいいじゃないですか!」
「ヒイラギィ~~~!!ヴぁあああああああ~~~!!!!」
酔い方あるあるその参。
号泣ニキ。
何か悲しい体験や悔しい体験をした後、平静を装っているやつには要注意。自分の中ではその体験を全然消化しきれていないために、酒が入ったことによって感情がバクハツすることが多い。
こういうやつは飲み会で泣いたことを後から結構恥ずかしく思っていたりするので、変にフォローを入れるよりはそっとしておいてあげようね。
「………」
「社長?大丈夫ですか社長!?生きてますか?」
「………」
酔い方あるあるその肆。
沈黙シャットダウンニキ。
別に具合が悪いわけではないのだが、呼びかけに対し応答しなくなるヤツ。よく生死確認される。だからといって放置していると、突然覚醒し、ペリッパーがごとく個室のすみに『はきだす』を放っているので注意しよう。
そして、最後の酔い方あるあるこそ…。
そう。ヒイラギ本人。
無自覚酒豪ニキだ。
しっかりみんなと同じ量の酒を飲んでいるはずなのに、全くと言っていいほど普段と変わらない。ついたあだ名は『ざる』。
こうしてみんなの世話をしながらヤバイ奴がいたら介抱してくれる、頼りになるやつだ。だが、こういうやつはちゃっかり他の人の恥ずかしい動画や写真をいつの間にか撮っていて翌日に見せてイジってきたりするため、怪しい挙動を見せたらすぐに『おい消せ!!』と叫ぼう。
酒飲みの場であっても尊厳は守らなくてはならない。
「マッマ!マッマ!!!!」
「あひゃひゃひゃ!クチートたんにふいうちされてどんな気持ち!?ねえどんな気持ち!?」
「ビエー!!!」
「…………トイレ、ドコ」
「もう!クミチョーは離れて!ホンジョ―さんは座る!ゴンドーさんはティッシュ使って!ああ社長トイレは廊下右に曲がってすぐ!」
飲み会の夜は、長い。
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「もう。結局クミチョーおんぶすることになったじゃないですか…一人で歩いてくださいよ。」
「マッマ…」
カオスと化した飲み会は幕を閉じ、僕らは事務所に戻ろうとしていた。
組長以外の三人はもう酔いも醒めてきたようで一人で歩けているが、組長はネッコアラよろしく僕にしがみついたまま離れてくれなかったため、こうしておんぶしながら帰路についているというわけだ。
徐々に夜の肌寒さも消えてきたこの季節に、人一人分の体温は暑すぎる。
背中に汗をかいているのがわかった。
「でも…。クミチョー、マツリカさんとの件で僕を心配してくれてたんですね。マーシュさんにもクミチョーにも申し訳ないことしちゃったかなあ。」
背中にかかる重力はとても軽い。
ちゃんとご飯食べてるんですか?と聞きたくなるような華奢な体だった。
その体が僕の背中の後ろにあることが少し誇らしくて、僕は夜空に笑いかけて見せる。
やれやれ、これじゃあ本当に僕がお母さんみたいになってるじゃないですか。
まだまだ組長を守れるほど強くなってなんかいないのに。
だが、事務所の前にたどり着いた時、僕たちの足は一斉に止まった。
赤い戦闘服の少女が、今まさに事務所に忍び込もうとしていたからだ。
「お前、何してんの?」
「…アハ!」
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「んで、オメエ何しに来たわけ。」
ゴンドーさんが詰め寄る。
少女は事務所の中に引きずり込まれ、逃げないように僕らに囲まれていた。
少女はあの後バクーダを繰り出して僕らに襲い掛かってきたのだが、ゴンドーさんのマリルリたんに瞬殺された。
狂ったサイコ強キャラ感を出して襲い掛かってきたわりには、正直雑魚すぎた。
なんなんだコイツ…。
「…アハ!教えてあげナイ!」
「あ?オメエそんなこと言える立場なんか?おお?」
ゴンドーさんを前にしても、この少女は自分のキャラを貫こうとしていた。
…そのキャラ、かっこいいと思ってやってる?
黒歴史確定だぜ?
「あー、そう。そう言う態度とるんだ。」
組長がしびれを切らしたように言い放った。
さっきまでの幼女退行タイムは終わり、もとの年齢不詳ヤ〇ザ組長に戻っている。
「社長。あれ持ってきて。」
「あれっすか。久々にやるんすね。」
あれ?何のことだろう。
「ゴンドーさん、これから何が始まるんですか?」
「ああ、オメエこれやんの初めてか。これからやるのはな。」
そう聞いた直後、社長が『あれ』を大量に机の上に持ってきた。
そう。
大量のタバスコを。
「かわいいものゲームだ。」
物騒なにおいがぷんぷんしますねえ…。
「かわいいものゲエーーーーーム!!!」
組長の号令と共に、手拍子が打ち鳴らされる。
『かわいいものゲーム』。
ぽかぽかフレンドクラブの恒例行事となっているそのゲームは、リズムに乗って順番にかわいいものを言っていくだけのシンプルなルールでできている。かわいくないものを言ったり、何も言えなかったり、リズムに乗れなかったりした者には、罰ゲームとしてタバスコイッキ飲みが強要される。ごうも…違った。『仲良くおしゃべり』したい相手とコミュニケーションが取れる、最高のゲームなのだそうだ。
初手は組長。
時計回りに順番は進む。
「ブリムオン」
「「「かわいい」」」
「クチート」
「「「かわいい」」」
「マリルリ」
「「「かわいい」」」
「ニンフィア」
「「「かわいい」」」
「え…ミミッキュ!」
「「「かわいい」」」
よかった。
ちょっと遅れたけど許された。
だが、次のマグマ団少女は許されなかった。
回答をスキップしたのだ。
「はーい。罰ゲーム!タバスコイッキ飲み!!」
デデーンという音がどこからか聞こえてくると、床から白い煙が噴き出してきた。
何これ!?
こんなセットあった!?
少女は無理やり口を開けさせられ、タバスコを飲まされる。
しかも一瓶。
たまらず嗚咽し、せき込む少女。
うわあ…
あれは痛いぞお・・
呼吸するたびに地獄だろうなあ…
「んじゃ、第二回戦行きましょう!」
組長はのたうち回る少女を横目に、二週目を始めようとしていた。
この人…鬼畜すぎる!
「オーロンゲ」
「「「かわいい」」」
「メレシー」
「「「かわいい」」」
「メガチルタリス」
「「「かわいい」」」
「エルフーン」
「「「かわいい」」」
「アシレーヌ」
「「「かわいい」」」
「……バクーダ」
少女はカッスカスの声でようやくゲームに参加しだした。
さすがにもうタバスコは飲みたくないのだろう。
だが…
「かわいくない」
「全然かわいくねえな」
「しかもリズム乗れてねえし」
辛辣!!
てかかわいいかどうか主観で決めてますよね!?
そう。このゲーム。
フェアリータイプ以外のポケモンは全てかわいくない判定なのである!
そもそも『なかよくおしゃべり』用に開発されたゲームなのだから、このゲームに参加させられた時点でマグマ団少女に勝ち目があるわけはないのだ。
「はーい、罰ゲーム確定~!二回目以降は二瓶イッキね。」
「マグマ、飲んでなくない?」
「「「うぉううぉう」」」
少女はもう涙目になっていた。
さすがにかわいそうになってくる。
あ、でも一回飲んじゃえば麻痺して二回目以降はそんなに苦しくないのかも?
次の日のケツがオーバーヒートするけどね。
だが、さすがにもう体が持たないと判断した少女は泣きながら情報を吐き始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「んで、あのカガリとかいうガキはリーダーに言われてうちの事務所を荒らしに来たってわけか…。」
カガリと名乗ったマグマ団の少女は特に何かを盗もうとしたわけではなかったようだ。ただマグマ団に対する脅威を与えるために、こうして侵入したというわけらしい。
軽い気持ちでここに来たみたいだけど、こんなことになっちゃってごめんな。
明日、ウォシュレットは使わない方がいいぞ。
必要な情報を全ておしゃべりしてくれたカガリは用済みとなり、『二度と来んな』とつまみ出された。
よかったね。
女の子じゃなかったらシーキンセツに沈められてたかもよ?
「そうね…。今回はちょっかいをかける程度の目的だったけど、そろそろマグマ団が動き始めようとしてるのは確かみたいね。マツブサの手に渡った隕石も気になるし。気を引き締めていきましょう。」
「「「うっす。」」」
マツブサは大陸を増やすことが目的だと言っていた。大陸を増やし、人類を発展させて幸せを手にするのだと。
だがそれはマグマ団というアマチュアチンピラ軍団の夢に過ぎない。
そんな幼稚な理想にわざわざかかわるブスジマ組。
その本当の目的は一体何なのか。
それだけが未だにわからないままだった。
しばらくシリアスが続いたのでほのぼの会でした。
「かわいいものゲーム」は闇金ウシジマくんでやってたやつです。
ちなみに私は酔うと人生語るニキになります。