ふぇありーヤ〇ザ!   作:矢留

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 矢留です。

 朝から夕方まで麻雀してたら、夜疲れて書けませんでした。
 でも楽しかったのでOKです。

 



第十八話 言い訳スコール

「まったく…なんのためにあなたたちブスジマ組を雇ったと思っているのですか…。」

 

 えんとつ山頂上。

 社長とスズランのバトルを傍観していたマツブサは、あきれたように首を振った。  

 その顔にはいらだちの模様が刻まれ、不快そうな瞳が強い日差し反射して鈍く光っている。

 

 

「頼りになるやつらだ、と他でもないブスジマが言うのだから用心棒として連れて来てみれば…。あのシクラメンといいあなたといい、まったく役に立たないではないか。」

 

 

 ブスジマ。

 暴力団名のブスジマ組としてではなく、個人名としてその名を聞くのは初めてだった気がした。おそらくそのブスジマという男は、ブスジマ組の組長にあたる人物なのだろう。

 

 冷酷にして残忍な悪事に手を染めるブスジマ組。そのトップの座に君臨する男とは、一体どれほど狂気に満ちた人物なのだろう。

 そして、そんな人物を『ブスジマ』と呼び捨てにするマツブサとは、一体どんな関係にあたるのだろうか…?

 

 

「そんなこと言うなら、あんたが直接働けばいいじゃないですか。他人に自分を守らせておいてそんな言い方はないんじゃないですか?」

 

 

 僕はそう言いながら、火口の近くでいんせきを手に地団太を踏んでいるマツブサへ近づいていく。

 

 ほんとうにダサい男だと思った。

 他人の影という安全なところからものを言い、他人が失敗すれば文句を言う。

 

 仁義のかけらもないヤツ。

 虫唾が走った。

 

 

「あんただって、自分の理想があって、通したいスジがあるんでしょ?いくらお粗末なものとはいえ。」

「フン。キサマにそんなことを言われる筋合いはないな。前にも私には崇高な理想があるといっただろう。」

 

 

 崇高な理想。

 博物館で僕に語ったアレのことを言っているのだろう。

 

 ただの感想。ただの主観。ただの妄想。

 反吐が出る。

 

 

「だが、今日ばかりは私が直々にキサマに手を下してやろう。いつまでも他人の影に隠れているなどと聞き捨てならないことを言われたものでな。」

 

 そう言うとマツブサは自らのボールを取り出し、深紅に塗られたモンスターボールの上方を照りつける日差しに反射させてみせた。

 

 初めてマツブサが戦闘の意欲を見せた瞬間だった。それを見て僕も腰のベルトに手を伸ばす。

 

 どれほどの実力なのだろう。

 どんなポケモンを使うのだろう。

 

 フェアリーヤ〇ザとしてではなく、トレーナーとしてのヒイラギが少しだけ顔をのぞかせた。

 

 

 

 だが、二人の初対戦は実現することはなかった。

 

 にらみ合う僕とマツブサの間に、いつの間にか謎の生物が立っていたからだ。

 

 

 

「なんだコイツ!?いつの間に!」

 

 

 突如として現れた『ソイツ』はゆっくりとした動きでこちらを振り向き、不気味に笑ってみせた。

 

 毒々しい体色。

 片手を覆う巻貝。

 どこかで見たことがあるようなぼけっとした顔。

 

 

 

「こいつ…なんかヤドランに似てる…?」

 

 けれど、僕の知っているヤドランはこんな不気味な色をしていないし、巻貝もそんなところから生えていなかった気がする。

 

 もしかして…

 

「リージョンフォルム…?」

「その通りだ。」

 

 

 マツブサの方を見た。

 一体どんな環境で育てばこんな毒々しいヤドランが育つというんですか?

 そう質問したかったのだ。

 

 

 だがマツブサの顔を見て、その言葉が彼自身から発せられたものでないことに気付いた。

 彼もまた、その発言に驚いていたからだ。

 

 

 そう。

 

 言葉を発していたのは、目の前に立ちすくむヤドラン自身だった。

 

 

「初めましてヒイラギくん。そしてお疲れ様、マツブサ。」

 

 

 間違いなく、その言葉はヤドランから発せられていた。

 だがその口はぼけっと開かれたまま全く動いていない。

 

 

「おや、驚いているようだね。まさか君、このガラルヤドランが直接人間の言葉を話していると思っているわけではないだろうね?」

 

「お前…一体何者だ。」

 

「ああすまない。自己紹介が遅れたね。私はブスジマ。指定暴力団ブスジマ組を取り仕切る組長だよ。以後よろしく。」

 

 

 

 暗雲が、白日を握りつぶすように覆い隠した。

 

 湿った埃のようなにおい。

 まもなく、夕立がやってくる。

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------

 

 

 ブスジマは、このヤドランのサイコパワーを介して自分の意思を体現させていると言った。これは音声を持つテレパシーのようなものなのだと。

 そんなことが可能であることなど、僕は今まで知らなかった。もしかしたらこれはブスジマにしかできない芸当なのかもしれない。あるいは、ガラルヤドランにしかできないことなのか。あるいは、その両方。

 

 

 

「ブスジマァ…。お前相変わらず気色わりィことばっかやってんな。いっ〇く堂もびっくりだぜオイ。」

「おや、君はいつぞやの名無しくんだね。ああすまない。今は『社長』だったかな。」

 

 社長はスズランのもとを離れ、僕らのいる火口近くにやって来ていた。

 その拳は固く握られている。

 

 

 遠くに雷が落ちた。

 

 

 

「ああそうだ、用件を思い出したよ。マツブサ、そのいんせきだけどね、グラードン復活のためにはそのいんせきとえんとつ山のエネルギーでは成就しないことが分かったんだ。だからここに残っている必要はない。もうアジトに戻っていいよ。」

「フン。無駄足だったというわけか…。」

 

 いんせき。えんとつ山。グラードンの復活。

 これらの単語が頭の中でつながりを持ち始める。

 

 マグマ団がいんせきを狙っていたのは、火山のエネルギーといんせきのエネルギーを合成してグラードンの眠りを覚ます莫大なエネルギーを生み出そうとするためだったというわけだ。

 

 なんという危険なことをしようとしていたのだろう。

 何かの手違いでそんなことが実現していたらと考えると、冷や汗が出た。

 

 

 

 マツブサはモンスターボールを仕舞うと、手にしたいんせきを地面に捨て、踵を返して去ろうとする。

 

 だが、僕と社長がその行く手をふさいだ。

 

 

 

「待ってくださいよ。僕とのバトル、放棄して逃げるんすか?」

「勘違いするな。先ほどは私以外に戦える者がいなかったために仕方なく戦おうとしたまでだ。戦力があるのならば使う。戦術としてはスジが通っているだろう?」

 

 

 コイツ…!

 やっぱり自分では戦いたくないだけじゃん!!

 

 なんかかっこつけて本気出してない強キャラ感出してるけど!

 

 

 

「でも、戦える者って…?」

「おやおや、私を無視してもらっては困るね。」

 

 

 ヤドランが動く。

 その体躯からは想像できないほど素早い動きだった。

 

 文字通り『いつの間にか』僕らの手前に迫っている。

 

 

 おいおい待てよ!

 そんなのアリかよ!

 

 遠隔操作バトルなんて!!

 

 

「間に合え…!アブリボンちゃん!むしのさざめき!」

「シェルアームズ」

 

 

 岩をも砕く重い重い一撃が、アブリボンを直撃する。

 

 本来は相手より何倍も素早く動けるはずなのに、先手を取られてしまった。

 バツグンの弱点を突かれてしまったアブリボンちゃんは一撃で倒れてしまい、得体のしれない違和感が残される。

 

 

 なんだこのヤドラン…!

 戦術が読めない!!

 

 そして最悪なことに、先ほどの隙を見てマツブサは姿を消していた。

 

 やられた…!

 

 

 

「ヒイラギ、今回は俺のニンフィアたんも加勢する。ブスジマとサシでやり合うのは分が悪いぜ。」

「はい。ありがとうございます。それにしてもあのヤドラン、なんだかおかしいですね。動き自体は鈍いのに、なぜか先手を取られていた。」

「おそらく特性ともちものの影響だろう。」

「特性ともちもの…?」

 

 リージョンフォームのポケモンは原種のポケモンとは特性が異なることが多い。僕の手持ちのアローラキュウコンがいい例だ。

 

 それは目の前のヤドランとて例外ではないのだろう。

 原種のヤドランが恋しくて仕方がない。

 

 

「ガラルヤドランの特性はクイックドロウだ。この特性を持つポケモンは、素早さに関係なく一定の確率で先手を取れる。そのポケモンに先制の爪を持たせたらどうなると思う…?」

「…もっと先制しやすくなる…!!」

「正解だ。ホラ来たぞ!!ニンフィアたん!マジカルシャインで目くらましだ!!」

「ふぃあ!!」

 

 ヤドランはまたしても突然目の前に接近していた。再びその拳を振り下ろそうと振りかぶっている。

 

 だが、今回は先制ができず、ニンフィアの方が先に動いた。

 

 はずれだ。

 

 ヤドランはニンフィアが直前に放ったマジカルシャインに目がくらみ、そばにあった巨大な岩を粉々に砕いた。

 

 

「あっぶねえな…。ポケモンバトルはパチンコやガチャじゃねえんだぞ。」

「いいじゃないか。運試し。君もおみくじを引きに来たと思って楽しみなよ。まあここに来た時点で大凶確定だけど。ヤドラン、シェルアームズだ。」

 

 ヤドランは再びその拳を振りかぶる。

 今度はあたりだ。ニンフィアの横腹に不快な毒の一撃が叩き込まれる。

 

 その拳から飛び散ったどろどろとした紫色の毒液が、辺りの空気を穢してゆく。

 

 

 

 その時、僕は見てしまったのだ。

 

 その致死的な毒しぶきが、うずくまっていたスズランを直撃したのを。

 

 

「ちょっと!今あなたの仲間に毒あたりましたよね!?もうちょっと気をつけて戦ったらどうなんですか!?」

 

 

 スズランは身体を毒に侵され、苦しみに悶えていた。

 これがヤ〇ザの戦い方なのか!?

 

 ちーがーうーだーろー!?

 ちがうだろお!!

 

 

 だが、ブスジマかつガラルヤドランは何事もなく言って見せた。

 

 

「スズラン?誰だね?そいつ。」

「なに…言って…?」

 

 

 スズランは言っていた。ブスジマ組の幹部であると。

 目の前のブスジマはそれを否定したのだ。

 

 どういうことだ?

 

 だが、その意図はすぐにわかった。

 

 

 

「ああ、まだ言っていなかったか。スズラン、君はクビだ。」

 

 

 

 スズランの目が見開かれた。

 苦悶の表情がさらに曇る。

 

 

「頭の中までハッピーなフェアリー使いなんぞに負けるようなクズは、うちの組にはいらない。さようなら。」

「そんな…!ブスジマ様!私は…!」

 

 その続きを聞くことはなかった。

 

 ヤドランのテレポートによって、スズランは飛ばされてしまったからだ。

 おそらく、誰も訪れることのない暗いどこかへ。

 

 後には毒の粘液だけが、人間の悪意のように残されている。

 

 

 

「テメエ…それでもヤ〇ザか!組の仲間は家族なんだろ!?一度失敗したからって簡単に捨てるのか?ブスジマ組には仁義はないのか!?」

 

 

 僕は怒りに任せて叫んでいた。

 組長はいつも言っている。我々は家族なのだと。それが仁義なのだと。

 

 ブスジマ組だってヤ〇ザで、仁義のもとに行動しているはずだ。なのにこいつは、たった一度の失敗で家族たる組員を切ったのだ。

 

 ブスジマ組は許せない敵だ。

 スズランは過去に社長を貶めた最低な奴だ。

 どうなったってかまわないし、消えてくれるならむしろありがたいはずだった。

 

 だけどそれ以上に、こんな奴らがヤ〇ザを名乗っているのが許せなかった。

 

 

「家族?仁義?君たちはまだそうやって自分に言い訳をしているのかね。」

 

 

 その声は不気味なほど落ち着いていた。

 底の抜け落ちたような、計り知れない闇を感じる声だ。

 

 

「何だと…!?」

 

「君はマングローブという植物を知っているかね?」

 

 

 ヤドランは生気のこもっていない瞳でこちらを見つめている。

 ぐるぐると現実と夢の間をさまよっているような、どこにも収束しない瞳だ。

 

 

 

 雨が降ってきた。

 

 

 

「マングローブは海の上に葉を茂らせる珍しい植物だ。普通の植物であれば、海水がその身体を蝕んで干からびてしまうからね。そんなマングローブがなぜ例外的に海水を吸いながら生きていられるのだと思う?」

「…何の話だ?」

 

 ヤドランはもう攻撃をやめていた。

 ここではないどこかを眺めているように、虚ろに上方を眺めている。

 

 

 雨はもう、傘を差さなければずぶぬれになってしまうほど強くなっていた。

 だが、影を踏まれたようにその場から動くことができない。

 

 靴の中が侵され始める。

 

 

「それはね、塩分を一枚の葉に凝縮させているからだよ。海水の濃度を薄めるために、一枚の葉には犠牲になってもらうんだ。マングローブのそばに落ちている葉はかじると塩辛い味がするというね。」

「何が言いたいんだ?」

「つまりね。」

 

 

 身震いがした。

 その一言を聞いてはいけないと、頭の中で誰かが叫んだ。

 

 ブスジマの言葉が、毒の粘液のように流れ込んでくる。

 雨に濡れる靴下と一緒に、僕の思考が穢されてゆく。

 

 

「全体としての秩序を維持するためにその一部を切り離すというのは、自然の摂理なんだよ。君だってそうしたのだろう?自分のケジメという秩序のために、マツリカとかいう娘を自分から切り離したのだろう?」

 

 

 一番近くに、雷が落ちた。

 僕の顔とヤドランの顔の半分ずつを、数億ボルトの無慈悲な悲しみが照らす。

 

 

 何も言えなかった。事実だった。

 

 

 僕は自分の仁義とケジメというシステムを守るために、マツリカさんとの関係を切り離した。それとマングローブとの間にどんな違いがあるのだろう。そしてブスジマ組のやり方と、何が違ったのだろうか。

 

 

 …たぶん何も違わない。

 

 

 

 

「ほらね。君たちはいつも仁義だなんだと嬉々として語るが、自分を正当化するための惨めな言い訳じゃないか。ケジメだなんだと言って大事な人を捨てる。結局は君たちだって全体のためにいらないものを捨てて、組織を循環させなければならない。この社会に生きている以上、そういうシステムからは逃れられないんだよ。我々と君たちは何も違わないんだ。」

 

 

 雨が土砂降りになってきた。

 服は水を吸って僕の肩に重くのしかかり、身体に不愉快にまとわりつき始める。

 

 濡れた髪だけが不自然に暖かかった。

 

 

「お前、変な理屈こねんのはその辺にしとけよ。」

 

 

 黙ったままの僕を気遣ってくれたのだろうか。社長が反論してくれた。

 

 だが、その声にもやはり迷いがあった。

 勝ち目なんかなかった。

 

 

「これ以上の議論はオーバーキルのようだね。またいつかお話しよう。君たちが必死に言い訳をしている様子を見るのは楽しいからね。」

 

 

 ヤドランはテレポートを使ってどこかに消えた。

 

 

 はるか彼方に落ちた遠雷の残響と夏の夕方へと還ってゆく真っ白な水煙だけが、破かれた心の外膜をしとどに濡らしているばかりだった。

 

 




 とうとうポケモンにしゃべらせてしもうた。
 もうなんでもありやん。
 
 ちなみにマングローブの話はガチです。大学受験の時に英語の長文で読みました。
  
 植物って最強じゃね。
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