ぽかぽかフレンドクラブについてわかったことがいくつかある。
まず、この会社はぽかぽかフレンドクラブなんて名前がついているが、れっきとした暴力団だということだ。
カジノや飲食店などの施設に用心棒として力を貸す代わりに、いわゆるみかじめ料として報酬を受け取る。有事の際にはフェアリータイプのポケモンをもって武力鎮圧をする。企業に対して(具体的な企業名をうっかり聞いてしまったが口が裂けても言えない)資金を貸し付け、高利で返済させる。ヤバイ物の取引をする…などなど。子供たちのために奪われたポケモンを取り返しに行くほどだから、言うほど悪い人たちでもないのかなあとか思ってたけど、全然そんなことなかった。あれはただ、取り仕切っているシマの治安維持という名目が付いたれっきとした「抗争」だったわけだ。
しっかりヤバイことをしてるヤバイ人たちでした。
また、会社の名前の通り、構成員全員がフェアリータイプフリークだということもわかった。
初めて事務所に入ったときは驚いた。壁一面にフェアリーポケモンの写真が貼られ、部屋中はファンシーな置物で埋め尽くされている。女子の自室だと言われても疑わないほどだ。
そしてもちろん、ゴンドーさんだけではなくホンジョ―さんと社長もフェアリータイプのポケモンしか使わない。ホンジョ―さんは事務所ではいつもクチートをだっこしているし、社長はニンフィアとエルフーンにポケフーズを与えている。
…全員、フェアリーポケモンを愛でるときでさえ目がキマッちまってるのが少し怖い。
そうそう、それから…
あの一件の後、さすがにこの職場は無理だと悟った僕は「やっぱり内定取り消してもらえないですかね…」と社長に頼み込んでみたのだけれど。
「無理。お前もううちの社員で確定だから。履歴書とかハンコとか本人確認書類とか裏ルートでゲット済みだから。」
とか言われてしまった。
ヤ〇ザから逃れようと思った僕がバカでした…
ある日のことだった。
事務所のデスクでアブリボンちゃんと一緒に花粉団子を食べていると、社長が僕に出かける準備をしろ、と言った。
「ヒイラギ、お前これから俺とシマの見回りな」
「え、僕がですか…?ゴンドーさんとホンジョ―さんは?」
「あいつらは今取り立てに行ってる。だから今日はお前と二人な。」
普段、僕がシマの巡回に行くことはない。シマ荒らしの抑止力となるような威圧感が僕には無いからだ。だからいつもは違法な値段で取引されているニンフィアの毛玉とか、ペロリームのにおいがするルームフレグランスとかを包装する作業をしているのだけれど…
今日は厄日だ。
絶対に何かの事件に巻き込まれる…
そう確信した。
そしてその予感はやはり的中することとなった。
「待てゴラァ!!」
「待ってください~」
僕らはキンセツシティの中を逃げ惑うポケモン強盗二人組を追いかけていた。
自転車屋の前を歩いていたアロマが香るお姉さんが、モンスターボールをひったくられたのだ。ちょうどその瞬間を見ていた僕と社長がすぐに追跡を開始したのだけれど…
向こうも向こうで逃げるのに必死なのか、追いつくことができない。犯人は人の群れを突き飛ばしながらシダケタウン方面へ走ってゆく。
「社長!追いつけないです!!」
「あ?お前本気出したらいけんだろ。本気で走れ本気で。」
「社長だって追いつけてないじゃないですか!本気で走ってくださいよ!」
「俺は社長だから良いんだよ。組長ポストだぞ組長。俺のためにお前が走れよ」
「もうヤダ任侠!」
そんなやり取りをしているうちに、僕らの距離はみるみる離されていった。このままでは逃げ切られてしまうかもしれない。
「お前さ、うちの会社辞めたいんだろ。」
「まあそうですけど今言います?それ!」
「お前がヤ〇ザらしくない方法であいつらからポケモンを奪い返せたら、辞めさせてやるよ。」
「何それ詳しく!」
要するに、僕がヤ〇ザにふさわしくないことを証明すれば、用無しということで退社を認めてくれるということらしい。
何それおいしい展開!
僕は何としても円満退社をするべく、思い切った行動に出た。
「おいでアシレーヌ!僕を乗せてアクアジェット!」
「ひゅおう!」
ダイブボールから飛び出したアシレーヌが、僕を背に乗せて直進する。その推進力はまさに
「さあ、盗んだポケモンを返してください!」
どうだ、このヒーロー的展開!一方的暴力ではなく華麗な立ち回りで悪を懲らしめる!
これこそがフェアリータイプの戦い方ですよ!僕はこんな暴力的でアングラなこの会社にはふさわしくないでしょう!社長!
これで抗争に巻き込まれて犬死にすることなく円満に退職できる。そう思った時だった。
「お前…男のくせにフェアリータイプなんか使ってんのな。」
犯人の一人がそう言った。
フェアリータイプ『なんか』?今そう言ったのか?
思い出したくもない記憶が蘇る。
スクールに通っていたころ。僕はいじめられたことがあった。理由は、手持ちをフェアリータイプで統一していたからだ。男のくせに。フェアリータイプなんて。そう言われて殴られた。大事にしていたフェアリーZを隠されたこともあった。
フェアリータイプは18種のタイプの一角を担う、れっきとしたポケモンのタイプの一つだ。他のどんなタイプと比較したって、その価値に差があるわけではない。なのに、男がフェアリータイプを使うからと言って、フェアリータイプポケモンの価値を下げるような言動をとる輩が、この世には存在するのだ。
「いま、フェアリータイプなんかって言いました?フェアリータイプなんか使う価値がない、そう言いたいんですか?」
「そうだよ。フェアリータイプなんて雑魚ポケモン使って正義の味方気取りとか、一番ムカつくんだよ!」
ナニカが、ぷつっと切れる音がした。
許さない。フェアリータイプを蔑むなんて…
「テメエ…ケツの穴にムーンフォースぶち込んで奥歯ガタガタ言わせたろか?」
自分でもびっくりするくらいドスの利いた声が出た。
文言は勝手に口から出てきた。ゴンドーさんや社長のセリフを聞きなれたからだろう。
愛すべきフェアリータイプをこんなにもコケにされたんだ。ケツ穴ムーンフォースでは足りないくらいだ。
「なんだお前…さっきと雰囲気違って…」
「さっさとテメエのポケモン出せやコラ。つぶしてやるよ。」
「くっ…行け!ヘルガー!」
「ボア―!」
悪魔のような相貌の黒犬がボールから飛び出してくる。よくもまあ、悪タイプのポケモンを使っておきながらフェアリータイプの悪口を言えたもんだ。
炎タイプがあるから等倍で受けられると思った?うちの子たちの前では無理だからね。
「やれ。ミミッキュ。」
「キュキュ!」
ダークボールの黒いエフェクトを突っ切ってミミッキュが姿を見せる。久しぶりの出番を待ちわびたかのように、ミミッキュはその化けの皮の内側で不敵に笑っているようだ。
「なんだそのポケモン…!変な奴ばっかり使いやがって!」
「初見か?こっちにはいないポケモンだもんな。やってみろよホラ。雑魚ポケなんだろ?フェアリータイプはさあ!」
「くそ野郎が…!ヘルガー!オーバーヒートだ!」
「ボア!」
ヘルガーの口から放たれた炎が渦となり、周囲は爆発が起きたような熱風に包まれる。
はい。ちょうはつ打たなかった君の負けね。
「ミミッキュ、つるぎのまい」
「なぜ…なんでノーダメージなんだ?」
ヘルガーのタイプ一致オバヒでミミッキュを落とせると思ったのだろう。あせる犯人どもの前で、首の折れたミミッキュが優雅に舞を見せつける。
「ミミッキュ、じゃれつく。」
その日ヘルガーは、見てはいけないものを見た。
「「すみませんでした!ほんとすみません!」」
強盗犯の二人はヒイラギの足元に這いつくばっていた。あの後、ヘルガーを失った強盗犯は後続のポケモンを繰り出すも一舞したミミッキュに手も足も出ず、かげうちとじゃれつくで蹂躙された。暴力的な試合だった。
「今後フェアリータイプのポケモンを手持ちに入れて死ぬほどかわいがるなら許してあげなくもないですよ。フェアリータイプに免じて。あ、でも僕のこと個人的に蔑んだのは許しませんからね?夜道気を付けて歩いてくださいね?」
「「ハイ!」」
「返事の声ちっさくないすか?」
「「ハイ!!!!!」」
いけないいけない。フェアリータイプのこととなるとつい熱くなってしまう癖が出てしまった。今後は自重しないとな…
「おう、ヒイラギ。終わったか。」
「あ、社長。盗まれた子たちも取り返しましたよ。」
「良い働きだったな。ヤ〇ザらしく取り返してくれた。」
「ハイ!……あっ」
完全に忘れていた。
暴力的ではなく華麗にポケモンを取り返す。ヤ〇ザらしくないところを見せつけることで円満退社するという計画。
完全に忘れてた…!!
「ヒイラギ、就職おめでとう。お前の就職祝いで今日ウナギ食いに行くか。」
「終わった…」
アローラの母さん。
僕は今ホウエンにいます。
就職が決まりました。
フェアリーヤ〇ザに…
ヒイラギのミミッキュ
Lv:55
特性:ばけのかわ
もちもの:いのちのたま
技:つるぎのまい
じゃれつく
かげうち
シャドークロー
ほんとはアシレーヌを出していたら対面有利だったのに、ヒイラギはあえてミミッキュを選出したよ。よっぽどトラウマを植え付けたかったんだろうね。