ネタに困ったときは土手を散歩します。
今日は風が強すぎて髪ちぎれるかと思いました。
「それじゃ、あんたたち、準備はいい?」
組長の声がミナモの渚に響き渡る。
秋口の乾いた風が僕らの横を通り過ぎて、東へと抜けていった。
波が唸っている。
「うっす。エルフーンたんもニンフィアたんも、バツグンっす。」
十月の高く透き通った空に、棘めいた太陽が張り付いている。
海面に砕かれた陽光が反射して、遠浅の砂底を照り渡らせた。
「抜かりはありません。クチートたんの牙は切れ味最高。誰だろうと八つ裂きです。」
銀色に艶めく鋼鉄の大顎が笑っている。
小さな山吹色の袴が、海風にたなびいて音を立てた。
「カブトは俺がハンバーグにする。ライスとコーンスープも付けて定食にする。」
大きく盛り上がった背中の筋肉。
そのスーツの下には、ゼルネアスの入れ墨。
「定食じゃなくてセットですよそれじゃあ。」
「あ?うるせーよヒイラギ。飯と汁ついてりゃ定食なんだよ。」
おくりび山のあの日から少しだけ太くなった僕の腕。
たくましくなった僕の相棒たち。
「はいはい。んで、ヒイラギ。あんたも準備オッケーなの?」
僕は大きく息を吸って、これまでの出来事を思い返した。
博物館でのこと。
マツリカさんとのバトル。
流星の滝。
えんとつ山。
煤けた雀荘。
おくりび山。
打ち捨てられた海藻から漂う磯の匂いが僕の脳内に浸透して、いくつもの映像を呼び起こす。
「はい。さっさと終わらせて有給でアローラに帰ります!」
僕には、帰る場所がある。
守るべきものだって増えたんだ。
「そ。じゃあ行きましょっか。」
組長のオータムコートが、撫子色の風を切って大きく翻った。
いつになく、キマっている組長だ。
「カチコミじゃあ!!!!」
五人の影が、ミナモの太陽を背に一斉に揺れた。
押して参ろう。いざ、フェアリーの進軍だ。
十月某日。
僕らは、ミナモシティ郊外に位置する渚にマグマ団らしき集団が集結しているとの情報を受けた。えんとつ山の事件以降、僕たちぽかぽかフレンドクラブは情報屋を雇い、マグマ団とブスジマ組の動向を探らせていたのだ。
おくりび山での一件にも情報屋が関与しており、速やかにマグマ団の居場所を特定してくれたおかげで、僕と組長が急行することができたのだ。
「いい?マグマ団アジトの中には必ずブスジマ組の奴らがいる。マグマ団の奴らをしばきながらも、奇襲には十分注意すること。ヒイラギ、わかってるよね?」
「はい。痛いほどよくわかってます。奴らはどんな手を使ってでもこちらをヤろうとしてくる。ポケモンバトルだけが奴らの対抗手段じゃない。」
このアジトに乗り込む前、僕らは事務所で作戦会議をした。
これまでブスジマ組にされてきたことを考えると、まともに戦うだけでは、というか、まともに勝負すらさせてもらえない可能性が十分にあった。
平気でポケモンに人間を襲わせる。
毒を盛って本気で殺しに来る。
背後から忍び寄り、奇襲をかけてくる。
僕たちが相手にしようとしているのは、ポケモンビギナーズのマグマ団たちだけじゃないのだ。
アジト入り口のドアが蹴破られる。
木くずが室内に散乱して、解体作業と全く同じ破滅的な音が響いた。
土ぼこりが、僕らの姿を覆い隠す。
「お、おい!誰だキサマら!」
その大きな音を聞きつけてやってきたのだろう。
マグマ団の下っ端が三人、僕らの行く手を阻んでいた。
「ここはマグマ団のアジトだぞ!黙って…」
しかし、そこまで言いかけて、下っ端は言葉を飲み込んだ。
土ぼこりが収まって、僕らの姿が顕わになったからだ。
確固として靴を踏み鳴らし、然として迫る五人のヤ〇ザの姿が。
「出迎えてくれたの?わざわざ挨拶なんて、よかったのに。」
組長の細い腕から、ヒールボールが放たれる。
その球体は空中で弧を描き、正確に三回転して花開いた。
珊瑚色ともいうべき淡いエフェクトを突っ切って、そのポケモンは現れる。
「私たちの方から行くつもりだったから。」
三角帽子の淑女。
森の奥のようなまなざし。
せいじゃくポケモン、ブリムオンだ。
マグマ団はその異様な雰囲気に飲まれぬように、慌てながらもそれぞれにポケモンを繰り出す。
ポチエナ、ドンメル、ゴルバット。
しかし、彼らの歯牙がブリムオンの肌に触れることはなかった。
いや、そのあまりの高貴さに、近づくことすら許されなかったのだ。
「ブリムオンちゃん、マジカルシャイン。」
「きゅわん!」
閃光が室内を支配する。
破滅的なまでに眩しい一撃はマグマ団のポケモンたちを包み込み、浄化するかの如く一瞬で彼方へと吹き飛ばした。
バトルにおいて静寂を生み出すほどの圧倒的な魔力。
たった一瞬で、僕は彼女の強さを細胞の隅々まで感じることができた。
これが、元チャンピオンの実力。
恐れおののいたマグマ団たちは、一目散に逃げだしていった。
「組長のポケモン、初めて見ました…。」
「あ、そうだっけ?これが私のブリムオンちゃん。なかよくなったミブリムちゃんを育てたの。今じゃ私のエースね。」
「きゅわ!」
ブリムオンちゃんは頭から伸びている触手を差し出して握手をしてくれた。
え、なにこの子。
かわいい…。
「組長。アジト内部はワープホールが散りばめられているようです。どこにつながっているかわからない。ここは二手に分かれて探索をするのはいかがでしょう?」
ホンジョ―さんは入り口付近のロビーを見渡してそう言った。
確かに廊下はどこも突き当りで、どこかにつながっているような構造ではなかった。おそらく端に置かれた装置に入ると、アジト内のどこかに飛ばされる仕組みなのだろう。
「そうね。全員一緒に行動してまとめて罠にかかったら面倒だし。社長とゴンドー、ホンジョ―は東側をお願い。私とヒイラギは北側に向かうわ。」
「「うっす。」」
「ハイ!」
「承知しました。」
五人の声が、鉄筋コンクリートに反響して固く響いた。
それから僕と組長は、喧嘩を売ってきたマグマ団の下っ端たちを粉砕しながら歩を進めた。
ドンメルやバクーダなどのほのおタイプを繰り出してくる奴らは、僕のアシレーヌちゃんが。ゴルバットやハブネークなどの毒タイプを繰り出してくる奴らは、組長のブリムオンちゃんが相手をした。
戦いがいのある奴らは一人もいなかった。
弱点の対策とか、技構成とか、持ち物とか、そういうレベルじゃなかった。
単純にレベルが低い。
進化すらしていない。
そういう「育成力の低さ」は、海の科学博物館で初めて彼らと戦った時から何一つ変わっちゃいなかった。
あれから幾度となく僕たちぽかぽかフレンドクラブと戦う機会があったというのに。
やはりマツブサとブスジマは、彼らに戦力など期待していないのだ。
じゃあ、ブスジマ組がマグマ団から身を退いたら、どうするつもりなんだろうか?
このままでは、自分たち一人では自分の身も守れやしないのに。
そしてそれは「もしも」の話ではなくて、実際に起こりうることなのだ。
ブスジマは自分の仲間さえも簡単に切り捨てるような奴だ。マグマ団に利用価値がないと判断したら、迷わずにマグマ団を切るだろう。
そうなったら、一体だれが彼らを守るというのだろう?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あー、めんどくさいことになったわね、これ。」
アジトの中もずいぶん奥へ進んだ頃。
僕と組長はついに足を止めて行く末を考えるに陥っていた。
目の前には三つのワープホール。おそらく正しい場所を選ばなければ、永遠にループするか、振り出しに戻るかのどちらかだ。
いずれにしても、考えたってわかるものではない。
結局のところ、世の中は運ゲーなのだ。
「とりあえず、私が右側に入るわ。あんたは真ん中ね。」
「…これ、ワープ出た瞬間にマグマにドボンとかないですよね?」
「可能性はゼロじゃないかもね。」
「…行かなきゃダメですか?」
ダメに決まってんでしょ何しに来たのよと組長に怒られた僕は、仕方なく「せーの」で飛び込むことにした。
南無三!!
「…お、また三つワープがありますね。しかも僕と組長のポジションが入れ替わってる…?」
「そうね。ここからまた正しい選択肢を選ばないといけないのか…。」
僕たちはさっきとは別の部屋にワープしたらしかった。
組長と僕の位置が入れ替わっていることを考えると、さっきの部屋の右側のワープは真ん中に。真ん中のワープは右側につながっていることがわかる。
「なるほど…。左側はそのままこの部屋の左ワープにつながってるんですかね?」
「そうかも。一回戻って試してみる?」
「そうですね。ローラーで行きましょう。」
僕らはもう一度自分が出てきたワープに入り直し、最初の部屋に戻ろうとした。
だが。
「ん?」
「ん??」
ここ、どこ?さっきの部屋とちがくない?
さっきは廊下につながるもう一個のワープがあったよね?
「組長、もう一回入りましょう。」
「う、うん…。」
だが、またしても僕らは別の部屋へ飛ばされてしまった。
さっきはなかった壁のシミが見える。
つまり…。
ワープは一方通行ってこと!?
「あー、めんどくせ…。」
組長は目に見えてイライラしだしていた。
爪先が一定のリズムで床を叩いている。
極めてまずいサインだった。
組長は基本的に人に対して怒ることが少ない。大抵のことは自分の力で何とかなるからである。
けれど、自分の力ではどうにもならないとき。例えば今回のように運が絡むような時には、とても機嫌が悪くなる。
そして爪先トントンは…。
最上級のイラつきだ!
「く、組長。一度穴抜けのひもを使って出直し…。」
僕はいつものごとく、やんわりと別の提案をすることで何とか苛立ちを収めようと試みた。
だが、こうなった組長が人の忠告など聞くわけがなかったのだ。
彼女はもうサーナイトちゃんをボールから出して、『アレ』を始めてしまっていた。
「サーナイトちゃん!メガシンカ!!」
おいおい。まさかやるつもりじゃないですよね!?
どこぞのドラゴン使いよろしく、こんなところで撃つわけないですよね?
今すぐその「は」の形の口を閉じるんだ!!
「はかいこうせん!!」
「やめてェ!室内で打たないでえええ!!」
サーナイトの腕から巨大なピンク色のエネルギーが射出されると、極太の光線となって大気を揺るがす。
思わず閉じた目を開けると、ぶち抜かれた壁が粉々になって宙を舞い、出口であろう扉の向こうまでが一本の道となって開通していた。
「おし!突破!!」
おし!じゃあないのよ。
突破(物理)なのよ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
瓦礫を踏まないように気を付けながら階段を降りると、波止場のような場所に出た。辺りはしんと静まり返っていて、むしろ居心地が悪い。
病的な静けさだった。
「ここは…。船を停める場所でしょうか?」
「いや、どちらかと言えば潜水艦ね。ほら、潜望鏡が見えるでしょ?」
組長が指さす方をよく眺めてみると、水面からひょっこりと飛び出したパイプのようなものが見えた。あの小さな潜望鏡で周囲の海域を探索し、レーダーと照らし合わせて敵艦を見つけるのだ。
「マグマ団が潜水艦なんて所有してたんですね。」
なんとなくそう口にした時だった。
「いや、それは我々がクスノキ造船所から拝借したものだよ。」
聞き覚えのある声がした。
ここ数か月で何度も聞いた声。
いやというほど拝んだツラ。
「マツブサ…!!」
このアジトの主人のお出ましだ。
「フン。キサマらが一番乗りか。他の部屋にも幹部を配置していたのだがな。今頃キサマらの仲間と戦っている頃だろう。」
「他の部屋に…?」
「そうだ。ここに来るまでにいくつもワープゾーンを用意しておいただろう?まっすぐここに来られたキサマらは正解のルートを通って来たわけだ。他の通路は…残念ながら、ハズレだな。」
途中、はかいこうせんバグを使ってショートカットした気がするけど…。
それでも僕らは、最短ルートを通ってマツブサのもとにたどり着けたみたいだった。
社長やゴンゾーさん、ホンジョ―さんは今頃どうしているんだろう。
…
「アハハ…!」
「テメエ、うちの事務所に入り込んだヤツじゃねえか。今度はデスソース飲んどくか?ああ?」
「オモシロ…!!…アハ!!」
…
「ウヒョヒョ…!久しぶりのバトル…。腕が鳴りますねえ!」
「耳障りなので鳴らさないでください。うちのクチートたんはモーツァルトしか聞かないので。」
「ウヒョヒョ…!!」
…
「これもマスターボールかと思ったらお前ビリリダマじゃねえか。」
…
「なるほど。僕らの戦力を分散させる作戦だったってわけですか。」
「そういうわけだ。五人相手ではさすがの私と言えど分が悪いからな。」
マツブサは口の端だけで笑って見せる。
感じの悪い奴だと改めて思った。
それにしても、この自信は一体どこから来るのだろうか。
ブスジマ組とばかりバトルをしていたせいか、マツブサの身分不相応な自信にどこか憐みの情を抱いてしまう。
あなたはいろいろとものを知らなすぎる。
「なら教えてやりましょう。一人相手でもあんたじゃ分がわるいぜ。」
「…言ってくれるではないか。キサマ。」
空気が変わった。
戦闘モードだ。
いつだって、バトルが始まる瞬間の空気が圧縮される感覚は変わらない。
それは相手がだれであってもだ。
僕がヒールボールを取り出すと、マツブサも合わせてモンスターボールを取り出す。決闘のような格のあるバトルは久しぶりだった。
「組長。僕一人でやらせてもらってもいいですか?」
「もちろん。私が出る幕じゃないでしょ。こいつくらい。」
それ、本人の前で言います!?
一応向こうもリーダーやってるくらいの実力者なんですからね?
それでも、元チャンピオンのアオイ様には足元にも及ばないのだろう。
相変わらず、組長という人は規格外だ。
「なめられたものだな!!ゆけ!グラエナ!!」
「おいで!トゲキッス!」
マツブサの初手選出はグラエナ。子犬のようなかわいいポチエナが進化し、しなやかな成犬となったかみつきポケモンだ。
…マグマ団にはポチエナを育成しなければならないルールでもあるんだろうか?
さて、こちらが選出致しますのは久しぶりのトゲキッスちゃんだよ。
ここ最近は出番がなかったからね。
思う存分暴れてやろうや。
「グラエナ、いばれ!」
「トゲキッス、でんじは!」
グラエナは大きく胸を反らして自慢げな顔をしてみせる。
だが、トゲキッスはそんな動作には目もくれず、両翼をはためかせて飛び回った。
その雲のようなふわふわの翼からぱちぱちと音が漏れて、白みがかったプラズマがグラエナを襲う。
「フン。なかなかやるではないか。混乱を警戒してラムの実を持たせているとはな。」
「おやつの時間なんで、ちょうどよかったですわ。」
「ほう?その余裕がいつまで持つか楽しみだな。」
マツブサは僕の皮肉をよそに笑っていた。
そう。笑っていたのである。
そんな悠長なこと言ってていいんですか?
もうグラエナ機能停止っすよ。
…
トゲキッスのエアスラッシュ!
グラエナはしびれてうごけない!
トゲキッスのエアスラッシュ!
グラエナはひるんでうごけない!
グラエナはたおれた!
…
「なん…だと…!?グラエナがこんなに簡単に…。」
「そういう仕様です。バグじゃないです。」
僕のトゲキッスと戦った相手は皆、申し合わせたように同じ反応をする。
ありえない。
バグだ。
イカサマだ。
違うぞ。まひるみキッスはれっきとした作戦のひとつだ。
名付けてヤ〇ザ戦法だ!
「くそ…ならば行け!クロバット!」
「交代だ!アシレーヌ!」
半分リハビリ目的で選出したトゲキッスを戻し、今度はうちのパーティーNo2の古株を選出する。
フェアリータイプを半減してくるほのおタイプに対して強く出られる優秀な子なため、今回もほのおタイプを読んだのだが、読みは外れてしまったようだ。
だけど、問題はない。
「クロバット、どくどく!」
「れいとうビーム!」
アシレーヌの口から、透き通った一本の光線が放たれる。
冬の朝にそびえる氷柱よりも、ストーブが点かない夜の底よりも冷たく凍える一文字は、まさに飛ぶ鳥を落とす一撃となる。
クロバットは十一月の哀れな街鳥のように横たわり、起き上がることはなかった。
「一撃…だと!?」
「鍛えてきたものですから。失敗は繰り返さない質なので。」
そうだ。僕はホウエン地方にやって来て、フェアリーヤ〇ザとして働き始めてから、目覚ましく進歩を遂げている。
社長やゴンドーさん、ホンジョ―さん、そして組長のそばで過ごして、フェアリータイプをもっと好きになって、いろんな戦い方を覚えて。
僕の周りから受け継いだ力が、こうして悪を滅する力となって再構築されているのだ。
僕は、確かに強くなっている。
「こうなったら…キサマにも見せてやるとしよう。メガシンカの尊き姿を!」
追い詰められたマツブサは、最後の一匹であるバクーダをボールから繰り出した。
メガシンカの尊き姿。
マツブサにもメガシンカが使えたのか…!
「バクーダ!メガシンカだ!」
「ばおう!!」
赤く巨大な火山のようなバクーダの身体が光に包まれて、太い動脈のようにどくりと脈打って弾けた。
通常よりも活発にマグマが循環した姿。
造山の息吹に見初められた立派な新山のようだ。
さて、と思った。
メガバクーダって、何タイプなんだ?
メガシンカ後にタイプが変わるポケモンがいると聞いたことがあった。
メガチルタリスが良い例だ。
通常時はドラゴン・ひこうタイプだが、メガシンカするとドラゴン・フェアリータイプに変化する。おかげでフェアリー界隈ではチルタリスをフェアリー扱いするかどうか議論が分かれているのだ。
僕はどちらかと言えば受容派だけど。
いずれにせよ、通常バクーダがほのお・じめんタイプである以上、うたかたのアリアを撃てば間違いなく倒せると思った。
どちらか一方のタイプが消えるとしても、アシレーヌの高めの特殊攻撃力から繰り出される水技を耐えられるわけがない。
けれど。
せっかくだからこの重要イベントで見せてやろう。
うちの組の名前を冠したあの技を。
そのために必要なあのアイテムを、僕は組長に「お祝い」としてもらったのだ。
ミミッキュを模ったあのクリスタルをね。
「さあ、行こうか!ミミッキュ!!」
「キュキュ!!」
僕の闘志を反射するように、ミミッキュの鳴き声もどこか凛として聞こえる。
さあ、僕の新しい門出と行こうか。
久々のポーズだった。
ハートマーク。
妖精の羽ばたき。
マツリカさんがアローラに帰る前に、リハビリしてもらっておいてよかった。
僕の全身の細胞から全力の兆しが鱗のように剥がれ落ちて、今度はミミッキュの背中へと受け継がれてゆく。
秋のハジマリを告げる、鱗の雨だ。
「ミミッキュ!ぽかぼかフレンドタイムだ!!!」
「キュキュ!!」
ぽかぼかフレンドタイム。
ミミッキュの形をしたクリスタルを持たせ、通常のフェアリーZポーズを取ることで発動するミミッキュの専用技だ。
そして何より、うちの組の名前「ぽかぽかフレンドクラブ」をもじっている。
アローラ出身でありながら、僕はその技の存在を知らなかったし、マツリカさんも聞いたことがないと言っていた。
と、言うことはだ。
もしかしてこの技、組長が考案しました…?
「なんだ、その技は…。キサマのデータには無いぞ!あのマツリカとかいう娘が使っていた技ではなかったのか!?」
「違うね。これはミミッキュの専用技。そして…、うちの組の秘伝技じゃあ!!」
ミミッキュは壁や天井を器用に飛び回り、バクーダを翻弄する。
もともと超が付くほど鈍足のバクーダだ。
素早いミミッキュの動きを捉えることなどできない。
そしてついに、ミミッキュの化けの皮がバクーダをすっぽりと包み込む。
「な…何が起こっているのだ!?」
かわいそうなバクーダ。
君はその中身を見てしまったんだね。
今、中ではどんな阿鼻叫喚が巻き起こっているのやら…。
バクーダ君にはこれからも強く生きてほしい。
グッドラック。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「クソ…なんなのだキサマらは…。あのマツリカといいキサマといい、妙な技ばかり使ってきおって…!」
メガシンカまでして強化したバクーダをミミッキュにボコボコにされてしまったマツブサは、取り乱して慌てていた。
眼鏡、ずれてますよ。
「妙な技?それはあなたの考えでしょう。僕らは僕らなりに、ごく自然に戦ってる。あなたのその『自分が基準。自分が絶対正しい。』っていうスタンス、やめた方がいいですよ。」
「ガキのくせに…この私に講釈を垂れおって…!」
ほらまたそうやってすぐ○○のくせにとか言う。そういうところですよ。
そう言おうとした。
だが、言葉は食道の奥へ逆流し、胃の中に溶けて形を失った。
あの日見た不吉な生物が、悪夢のように再び僕の前に現れたのだ。
「すばらしい勝負だったね。ヒイラギくん。」
あの毒々しい体色。
虚ろな目。
ガラルのヤドラン。
「おや、今日は懐かしい顔が見られたね。久しぶり。墜ちたチャンピオン、アオイちゃん。」
「ブス…ジマァ…!!」
棘めいたミナモの太陽は、未だ沈まない。
ぽかぼかフレンドタイム、まさかのクミチョー考案だったんだね。
技ムービーの主人公ちゃんの「グッ」が好きです。
USUMやりたくなってきました。