矢留です。
今回かなり頑張りました。
今日中に間に合ったのほめてください。
パラボラ。
あやめ色に日差しを反射させながら、その宝玉は太古の空に大きな弧を描く。
数万光年先の銀河からやってくるほうき星のように尾を引きながら、始まりの場所を目指して、吸い込まれるように。
「やめろ!そんなことをしたら…!」
僕は叫んでいた。
日差しの下に、影が交錯する。僕の影と、組長の影だ。
けれど。やめろ、と言ったところで、もう遅かった。
その放物線はすでに定義域の極大に達し、あやめいろのたまはハジマリの座標を貫いていたからだ。
ルビー色に透き通ったグラードンの背中に、その宝玉が衝突して砕ける。
パリッと、乾いた音が響いた。
その瞬間。
血液のように粘度を持ったマグマを塗り替えて、一面に梅雨紫色の世界が広がった。
沼地を埋め尽くす菖蒲の花々が6月の長雨に散ってゆくように、大気が沈んでゆく。じめじめと大地を腐らせ、果樹を台無しにする長雨だ。
その鬱々とした季節の真ん中で、グラードンは生まれ変わろうとしていた。
まるで絵具を水に溶かしたように、色彩が透き通るルビーの鱗の中を泳いでゆく。
全身に脈打っていた大地の鼓動はそのリズムを変え、音階は不気味に下降しながら僕らの耳を震撼させる。
「組長、グラードンの姿が…!!」
「これは…!」
大きないななきが一回。
その咆哮が空気を波打たせ、風の波動となって僕たちへと押し寄せた。
思わず、手で顔を覆う。
指の隙間から見えたグラードンにはかつての面影などもはや残らず、陸の化身は猟奇的な棘を持つ毒蟲へと変化していた。
霧雨が降り始める。
地面がぬかるみ始めた。
「さあ、これが毒タイプのグラードンだ。アメジストグラードンとでも名付けようか。」
歴史が書き換わった。
「ヒイラギ!何としてもあのグラードンを止めなきゃ!援護して!!」
「ハイ!なんとかやってみます。おいで!キュウコン!」
僕はキュウコンの入ったプレミアボールを出して、目の前へと投射した。
季節外れのあられを身にまとい、真っ白な姿がグラードンと僕の間に立つ。
一方で組長はオーロンゲをボールから出し、僕と同じようにアメジストの結晶を凝視していた。
湿気が僕らの髪を濡らす。
季節が逆戻りしたようだ。
「おろかだね。」
ブスジマは戦闘の構えを見せる僕らを見て、そう言った。
アメジストグラードンを背に、その姿は陰鬱さを帯びて奥行きがない。
「新たな歴史と理の前に、君たちは変化を恐れて受け入れないというのかい?」
ブスジマの口が動く。
その薄い唇が何度か形を変えて、言葉を形作ろうとしている。
なにか、技が来る!!
「キュウコン!オーロラベールだ!!少しでもダメージを抑えるぞ!」
「コン!!」
極地の夜。
冒険家たちが一斉に夢を見るように、虹色のオーロラが僕らを包む。
アローラキュウコンの十八番の技だ。
だが、ブスジマの唇が形作った技の名前は、僕も組長も未だかつて聞いたことのないものだった。
「グラードン。アメジストウェーブだ。」
僕と組長は顔を見合わせて、首をかしげる。
アメジストウェーブ…?毒タイプの技だろうか?
物理攻撃か、特殊攻撃か?
けれど、そんな疑問など全く意味を持たないほどに、僕らは畏れおののくことになる。
グラードンはブスジマの声を聞いた瞬間、大きく発達した右腕を地面に突き刺した。
その割れ目から紫の花びらが噴水のように湧き上がり、僕らを目指して一面に押し寄せてくる!
「まずい!全体攻撃!?」
「オーロンゲ!あくのはどうで相殺して!!」
オーロンゲは自らの周囲にあくのはどうを展開して、アメジストウェーブへと衝突させる。しかし、グラードンの力は僕らの想像以上だった。毒花の波にオーロンゲとキュウコンは吹き飛ばされ、後方の岩壁にぶつかってしまった。
「キュウコン、大丈夫!?」
「コーン…」
キュウコンは今の一撃で体力を持っていかれてしまったようだ。
ただでさえ毒タイプは相性が悪く、体力を削られやすい。だから僕はタスキを持たせて最低でも一回は行動を保証できるようにしているのだが…。
「キュウコン、毒が…。」
キュウコンの身体は毒に侵されているようだった。
攻撃の追加効果で毒状態が付与されてしまったのだろう。
これ以上無意味に傷つけないよう、キュウコンにいたわりの言葉をかけてボールに戻す。
「やはり、素晴らしい威力…!!これがかつて悪鬼羅刹すら退けた言われる、菖蒲の毒の力か!!」
ブスジマは、明らかになった毒グラードンの力に心酔していた。
穏やかだった表情は嬉々として歪み、その異常ぶりを全面にひけらかしている。
彼が長年追い求めていた最強の毒タイプは、まさしくここに存在しているのだ。
「…っ!なんてパワー!ヒイラギ、オーロンゲはまだ戦える。今のうちに別の子を!!」
「ハイ!おいで!アシレーヌ!!」
「ひゅおう!!」
僕はダイブボールを放り、飛び出してきたアシレーヌに次なる指示を出そうとした。
けれど、アシレーヌが地面に着地した瞬間、僕らは異変に気付く。
「ひゅおう…」
「アシレーヌ…!?毒が…!!」
キュウコン同様、アシレーヌの身体はいつの間にか毒に侵されていた。だけど今回はグラードンの攻撃を受けていない。つまり。
「場に出ただけで、毒状態になった…!?」
「組長、それってつまり…!」
特性だ!!
「なるほど。これがアメジストグラードンの特性か。さしずめ、『どくぬま』と言ったところかな?」
ブスジマもすぐにこのことに気付いたようだった。
特性『どくぬま』。現時点では『場に出た瞬間に相手を毒状態にする』という事実しか明らかになってはいないが、他にも効果があるのだとしたら早急に明らかにしなければならないだろう。
そうでなければ、僕らはこのまま全抜きされてしまう!!
「新しいポケモン相手は…やっぱり分が悪いわね!オーロンゲ!ソウルクラッシュ!!」
「ぐおお!!」
僕らはここでようやく攻撃に転じた。
オーロンゲが放ったソウルクラッシュはグラードンに命中すると、薄桃色の光が弾けて霧雨を払う。相手がくじけるほどの勢い。ソウルクラッシュと名付けられた所以は、その圧倒的なスピードにある。
けれど、オーロンゲの動きは足元のぬかるみに邪魔をされていつもよりも遅く見えた。これも『どくぬま』の効果なのだろうか。場に出た相手の素早さを下げることが。
それよりも。
「くっ…!!ぜんぜん効いてない!?」
オーロンゲの攻撃は、グラードンにとってはかすり傷のようなものだったようだ。
アメジストの鱗には若干の切り傷が刻まれてはいるものの、全く臆することなく次の攻撃へと移行している。
「組長!また来ます!」
「わかってる!もう一回あくのはどう!!」
組長は再度、あくのはどうで攻撃を相殺しようと試みた。
だが。
「グラードン、アメジストウェーブだ。」
第二波。
先ほどよりも広大に、毒花の波が押し寄せてくる。
どうしてさっきよりも威力が上がってるんだ…?
これも特性の効果なのだろうか?
「くっ…抑えきれない!」
「アシレーヌ!うたかたのアリアで援護!!」
「ひゅおう!!」
なんとかして波を打ち消そうと、アシレーヌは力を振り絞って技を放った。
それでも、威力の上がったアメジストウェーブは僕らを押し切り、またしても僕らは攻撃を受けてしまった。
アシレーヌをダイブボールに戻す。
「やはり…毒タイプ最強の世界が、間違いなく訪れたようだね。」
あらゆるものが沈んでゆくぬかるみの向こう側で、ブスジマの姿だけが浮き上がって奇妙に揺らめいていた。
霧雨が降り続いている。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハア。一体何度同じことを繰り返すつもりなんだ。もうわかったじゃないか。君たちのポケモンではグラードンを倒せないことが。」
ブスジマの声が、ぬかるみに吸われたようにもそもそと聞こえてくる。
僕らは肩で浅く息をして、そんな声を聞いていた。
そろそろ限界だった。
僕の手持ちはメガサーナイトを残して全滅。
組長のオーロンゲもついに戦闘不能となり、残るはブリムオンだけとなっていた。
対してアメジストグラードンの体力は残り約半分。
決して勝ち目があるとは言えない状況だった。
「いいかい?君たちがいくら力を尽くしたところで、すでにグラードンは最強の毒タイプになって、毒タイプが最強の世界になってしまったんだ。フェアリータイプはもうオワコンになってしまったんだよ。そしてこれはもう決まっていることなんだ。日曜日が終われば月曜日が来るのと同じようにね。」
ブスジマはため息をついて、僕らに話しかける。
小さい子供を諭すような、憐れみを持った話し方だ。
「無理やり毒グラードンを作り出しておいてよくそんなことが言えるわね…!そんな世界、あんたが勝手に作っただけじゃない!」
「そうだよ。僕がそういう環境を作った。強くなりたければ、環境を変えるしかないんだ。犬が巣作りをするのと一緒さ。自分にとって都合のいい環境は、自分で作るんだよ。こういう風にね。」
そう言うと、ブスジマは指を鳴らしてグラードンに合図をした。
攻撃が来る!!
またアメジストウェーブか!?
けれど。僕らはそろそろ気付くべきだった。
ブスジマがまだ一つの技しか使用していないことに。
「あやめのつるぎ」
「なっ…!新しい技…!?」
グラードンがその長大な脚で地を踏み鳴らすと、インパクトの地点から菖蒲の葉が鋭く突き出し、折り重なって地を駆けてくる。
全体攻撃ではないようだが、その分まっすぐ、素早く僕らへ向かっているようだ。
いや、待てよ…。
この軌道…。
『僕ら』じゃなくて、『僕』を狙っている!
「また人間エイムかよ!」
僕はそう毒づきながら、どうにかして攻撃を避けようとする。
だが、ぬかるみに足を取られてうまく動けなかった。
まさか、この特性、回避率ダウン付きか…!?
まずい、避けられない…!!
「ヒイラギ!あぶない!!」
菖蒲の葉の切っ先が、柔肉を貫く音がする。
鮮やかな赤がぬかるみへと溶けてゆく。
その影に僕の顔が隠されて、コマ送りのようにゆっくりと流れていった。
「組長!!」
その小さな体を支えて、傷を抑えた。
僕の右手を、組長の血液が渡ってゆく。
あの時の光景がフラッシュバックする。
マツブサをこの手に抱えていた、あの時のことが。
「おろかだ。ほんとうに。」
あきらめたような、感情を欠いた声だった。
ブスジマはグラードンを背に、冷たい目でこちらを見ている。
「そんなことをしたって、一体何になるんだ。なぜ君は、自らの身を差し出してまで抗うんだ。」
ブスジマの声は、半分くらいしか聞こえてこなかった。
目の前の組長に夢中で、脳がそのほかの情報を拒否している。
「組長!また僕をかばって…!」
「当たり前でしょうが…。私の方が年上なんだから。私が親なんだから。」
「それでも…!」
それでも。
僕はもう誰かが死ぬところなんか見たくないのに。
血液は、避けがたく流出を続けている。
あの日と、同じだ。
「今更抗っても無駄じゃないか。もう環境は変わってしまったんだ。ここから先は、毒タイプが最強の環境なんだ。そういう仕組みなんだよ。ちゃんと決まってるんだ。」
「相変わらず…屁理屈ばっかね、アンタ…!!」
「組長!しゃべらないで!傷が…!!」
組長は深手を負ってもなお、ブスジマに反論していた。
僕は傷が開かないように、必死で組長を抑える。
生暖かさまで、あの日と一緒だった。
いやだ。
僕はこんなところであなたを失いたくない。
「屁理屈…?だって実際そうだったじゃないか。環境がポケモンの優劣を決める。トレーナーの実力なんて関係ない。我々毒タイプ使いがどれほど不遇な扱いを受けて来たか、君たちだって知っているだろう?」
ブスジマの瞳が、さらに冷たくなった。
霧雨もそれに呼応して、一層濃度を増しているようだ。
「だから私たちは、環境に毒タイプの存在を知らしめてやったのだ。フェアリータイプを徹底的に痛めつけ、恐怖を植え付ける。それが私たちの存在意義だよ。レーゾンデートゥルさ。」
ブスジマはそう言いながら、拳を固く握った。
それが、彼が初めて僕に見せた感情だった。
「環境さえ変われば…!そう。フェアリータイプが出てきたときのように環境が変われば、私たちは最強になれるのだ。そして今宵、私はアメジストグラードンを生み出した。新たな環境のハジマリだよ。」
その両腕が広げられる。
グラードンを背に、ブスジマは預言者のように言って見せた。
今宵、新たな環境が始まる、と。
アメジストグラードンが全ポケモンの頂点に君臨し、毒タイプが最強になると。
そんなのは、間違ってると思った。
グラードンはグラードンだ。
アメジストグラードンなど、ブスジマが勝手につけた名前だ。
そんな風に環境を捻じ曲げたところで、自分が強くなるわけじゃない。
毒タイプだって、フェアリータイプだって、トレーナーが努力し、力を尽くすことで初めて最強になれるんだ。
「ブスジマ、アンタは間違ってる。」
「ほう。どこがだい?」
僕は組長の傷を抑えたまま、顔をあげてブスジマとグラードンを見る。
言ってやるよ。
出せる限りの大声で。
世界中のトレーナーに届くように。
「よく聞け!!ポケモンの強さってのはなァ!!トレーナーが引き出すんだ!!環境が決めるんじゃない! そうやって都合のいいように環境を書き換えて、強くなった気でいるからいつまでも弱いままなんだよ!この生ゴミ野郎!!」
そうだよ。
本当にポケモンのことが好きなら、その子が持つ強さはトレーナーである僕らが引き出してあげなきゃ。大好きなポケモンを勝たせてあげるために、僕らは努力し続けなきゃいけないんだ。
それを、環境が悪いからといって自分で伝説ポケモンを勝手に毒タイプにしようなど。ポケモンに対する侮辱もいいところだ。
仁義が廃るぞ!!
「口の利き方には気を付けた方がいいよ、君。」
ブスジマの目に、奥行きが舞い戻って来た。
感情に火が灯る。
怒りだ。
「尊敬してない人には敬語を使わないのがアローラの掟なもんで。」
「そうか。君の骨が波に乗っていつかアローラに届くといいね。」
ブスジマが動く。
本気の一撃が来る。
ここまで言っちゃったけど、サーナイトしか残ってないんだよなあ。
組長の作戦、無駄にしてごめんなさい。
でも、組長がグラードンのHPを削ってくれた分、無駄にはしませんから…!
「ちょっと、なに死んだみたいな空気になってんのよ。」
「…え、組長…?え!?」
「なぜ…立って…!?」
組長が、後ろから僕の肩をつかんでいた。
え、幽霊じゃない!?足ある!
「組長、どうして…。お腹の傷は…!?」
組長のお腹からは、ついさっきまで大量の血が流れていたはずだ。
それなのにどうして立ててるんだ…!?
「うーん、わかんない。気づいたら痛くなくなってて、治ってた。ほら。」
「ちょっと!お腹しまって!見せないでください!!」
組長は服をたくし上げて、傷がない真っ白なお腹を見せてくる。
そういうのダメですよ。男はすぐ勘違いしますからね。
そのとき、首から下げた松雲母が、少しだけ熱をもって輝いているような気がした。もしかしたら、このアイテムには体の時間を巻き戻す効果があったのかもしれないな。
もしそうだったら、とっても素敵だと思った。
誰かを待ち続ける時間が結晶となって、『無事でありますように』という願いが堆積する。
その信じる強さが、致命傷すら癒す力になるのだから。
僕は涙を拭って、もう一度組長の顔を見た。
なに泣いてんのよと言われたって、仕方ない。
「はーあ。しっかし、ダッサイ理由で動いてんのね、ブスジマ組って。マグマ団の方がまだマシだったんじゃない?こんな奴らに人生めちゃくちゃにされたって思うと泣けてくるわ。ほんとに。」
「なんだと?」
「要は、自分が勝てないからって地団太踏んで、勝てる相手とばっかり戦って気持ちよくなって、今度は無理やり最強の毒タイプ作って環境壊そうとしてるわけでしょ?ヒイラギが言ってた通りじゃない。自分では何にも努力しないで甘えてるだけ。」
組長は完全に息を吹き返したようだった。
ぽかぽかフレンドクラブ恒例の煽りが冴えている。
やっぱり組長は、こうでなくちゃ!!
「まあいいや。君たちは両方〇す。言ったよね?グラードンは君たちを殺めるあやめ色だって!!」
ブスジマはもう、以前の冷徹さを失っていた。
その瞳には怒りが現れ、真に迫ってアメジストを反射する。
今なら、彼が冷静さを失った今なら、勝機があるかもしれない!
「ヒイラギ!!今しかない!!アレをやるわ!!」
「僕もそう言おうと思ってました!!やりましょう!!」
僕はジュラルミンケースを片手に持ち、サーナイトと共に最後の仕事にとりかかった。
僕らの戦いはもうすぐ終わる。
絶対に勝って、マツリカさんの元へ帰るんだ。
「サーナイト!トリックルームだ!!」
「ふおん!!」
サーナイトの周りから、空間が歪み始める。
そう。僕の仕事は、組長のために道を開くことだ。
組長の最後の戦いのために、組長の子としてできることを、精一杯!
「面倒だな。グラードン、あやめのつるぎ。」
グラードンは僕のサーナイトをめがけて技を撃って。
再び菖蒲の剣葉が地を走って、僕らを貫こうと迫ってくる。
だけどね。
僕はこれを待ってたんだ。
「いっけええ!!!」
銀色のジュラルミンケースを、思いっきりぶん投げる。
それも、あやめのつるぎが飛んでくる方向だ。
「何をして…!?」
ブスジマがそう言うのが早いか、ジュラルミンケースは勢いよく剣山に貫かれて中身をぶちまけた。
作戦通り…!
「ナイスショット。ヒイラギ。」
「な…。これは…。」
マゼンタ色の鱗粉。
光の柱。
ジュラルミンケースから漏れ出したのは…!
「この光…ガラル粒子か…!?」
「ご名答。」
そうだ。
僕らはこのジュラルミンケースに、組長が闇ルートで持ち込んできたガラル粒子を詰め込んでいたのだ。
ブスジマとの戦闘になったとき、切り札として使うために!!
「組長!!やっちゃってください!!」
「もっちろん!!」
組長は腕に巻いたバンドを優し気に撫でると、すぐにブスジマの方を向きなおす。
これが組長の切り札。
願いの結晶。
そして。
チャンピオン・アオイの答え!!
「環境なんて知ったこっちゃないわ。私は私のフェアリーちゃんたちと一緒にどこまでも強くなる。それが、ポケモンに対する仁義だろうが!!ブリムオンちゃん!行くよ!!」
霧雨を振り払って、組長の声が響く。
この時のために。
組長の15年間は、この時のために存在したんだ。
「キョダイマックスだ!!!!」
その声に呼応して、ボールの周りがマゼンタの風で包まれる。
祈りが渦を巻き、願いが発散してゆくようだ。
人とポケモンの信頼。人と人の信頼。
そして、自分への信頼…。
僕たちフェアリーヤ〇ザが抱き続けているいくつもの仁義が折り重なって形となり、今、この空間をキョダイな赤雲が埋め尽くしてゆく…!
これが、キョダイマックスなのか!!
「ガラルの旅、行っておいてよかったわ。ほんと。」
「アオイ…!キサマ!!いったいなぜ!」
ブスジマは信じられないといったように首を振っていた。
選ばれた者にしか与えられないと言われているダイマックスバンドを、かつて世界から追放されたはずのトレーナーが持っている。しかも、ガラル地方の限られた場所でしかできないはずのダイマックスを、今ここでして見せたのだ。
「いい加減にしろ…!ここは毒タイプが最強の環境なんだ!!おとなしく世界を明け渡せ!!」
「意味わかんないわ。お手製グラードンが最強だからって別に毒タイプが最強とは限らないでしょうが…。ていうかその理論で行けば、」
グラードンは地を蹴って技のモーションを取る。
再び、あやめのつるぎが来るのだろう。
だけど、もう遅い。
ここはトリックルーム。
『急がば回れ』の世界だ。
「あんたを倒せばフェアリータイプが最強ってことじゃん。」
組長の金色の髪が、マゼンタの風に揺れる。
横顔はその髪に隠されて見えなかった。
けれど、僕には確かにわかったんだ。
組長は、涙を流していた。
もう、終わらせよっか。
唇が、形を変える。
「キョダイテンバツ!!」
上空から、おとぎ話の世界のように流星が降り注ぐ。
不吉な大気を切り裂いて、新たなペンキを塗りだすように。
梅雨明けの七月に駆け出してゆくように。
「さよなら、私。そして、おかえり、私。」
キョダイな天の雷がグラードンを包み込んで、火花のように弾ける。
それと同時に、組長が15年間背負い続けた暗い過去はアスファルトに落ちた夏の通り雨のように静かに消えて、後には金色の時の風が柔らかに吹き抜けるばかりだった。
とうとうオリジナルのポケモンを出してもうた。
アメジストグラードンはたぶん、どく・じめんタイプだと思います。
あと、次回が最終話になる予定です。