こんにちは。ヒイラギです。
僕は今、ホンジョ―さんとシーキンセツに来ています。
何をしに来たのかって?
もちろんあれですよ。
違法取引ですよ。
ぽかぽかフレンドクラブに入社し、ヤ〇ザの仲間入りを果たして早1か月。
違法取引くらいじゃ驚かなくなったよね。
基本的に僕らの会社は、商業施設における荒らしなどの抑止力として威力を提供する代わりにみかじめ料として収入を得ている。いわゆるケツ持ちというやつだ。けれど、ここで得られる報酬というのは実はそんなに多くない。月あたりの金額を聞いたときは、「あれ、そんなもんなの?」と思ったくらいだ。たぶん、みんなが想像している金額の半分にも満たないと思う。
だからうちでは、安定して高い収入を得るために違法取引をしているのだ。
社長は「グッズ販売」と呼んでいるが、そんなに甘いものじゃない。
例えばこの「ニンフィアの毛玉」。驚くなかれ、一粒5万円だ。法律の定めるレートを大幅に超過している。
けれどこの毛玉、一部の使用者からは絶大な人気であり、一度スハスハしたらやめられなくなるのだという。俗に言う、「キマる」という状態だ。
何度かこの毛玉を購入した人を見たことがあるけれど、その全員が廃人のような死んだ目をしていた。僕はスハスハしたことがないけれど、たぶん本当にヤバイ代物なのだろう。
「ホンジョ―さん、お客さんまだ来ませんね。」
「当然です。基本的に取引先のお客様は時間通りに来ません。もしあなたが違法なものを購入する立場にあるとして、目的地までまっすぐ来ますか?」
「うーん、確かに周りの目を気にしたり、尾行されてないか確認したりしながら来ますね…」
「そういうことです。こちらとしても尻尾をつかまれたくないですからね。お客様にも変な虫を連れてこないように厳重に言ってあります。」
なるほど。シーキンセツはうちの会社のシマであるとはいえ、そこそこ観光客が出入りする場所だ。倉庫に来るまでにはやはり人目を忍んでひっそりと来なければならないのだろう。それにジュンサーさんの尾行に気付かないまま取引場所に来てしまい、摘発されてしまったりしたら…うちの会社は少なくない損害を被るだろう。あれ、なんか僕、犯罪者の思考に毒されてきてない?
それにしても、ホンジョ―さんはクールな人だ。
眼鏡の奥には鋭い暴力的意志を秘めながらも、決して我を失うような怒りを見せることはない。いつも冷静に状況を分析し、仕事が効率よく実行されるために必要な情報を提供してくれる。暴れ馬的なゴンドーさんと対になる存在として、うちの会社の参謀的役割を担っている人だ。こんな人がどうしてヤ〇ザになったんだろう。僕みたいに無理やり引き込まれたんだろうか。
「いらっしゃいましたよ。」
「あ、ほんとですね。」
しばらくして、倉庫の扉が開いた。そこから姿を見せたのは、丸々と太った中年男性。
高級そうなスーツに身を包み、金色の時計やアクセサリーを装着しているところを見るに、おそらくどこかの会社の幹部なのだろう。社長クラスかもしれない。
「ああ、すみませんねえ、遅れちゃって。」
お客さんは額の汗をハンカチで拭きながら、分厚い財布を取りだす。手と声が震えている。挙動もかなり不審だ。
この人…けっこうヤッてるな。
「これがブツです。」
ホンジョ―さんはパケと呼ばれるビニールの袋を取り出した。その中には、ニンフィアのピンク色の毛玉が十粒。合計50万円だ。
「助かるねえ。ほんと、ぽかぽかフレンドクラブさんのブツは質が良くてやめられないよ。」
「当然です。うちの社長が丁寧にニンフィアちゃんをブラッシングして、ひとつひとつ摘み取ったものですから。もちろん今朝採れたばかりの新鮮なものです。品質は保証します。」
「うひょ~!」
お客さんはパンパンに膨らんだ財布から一万円札を50枚取り出して、ホンジョ―さんに渡す。ホンジョ―さんは慣れた手つきで枚数を数えて茶色い封筒に入れ、革のポーチに仕舞った。
「確かに。」
取引完了だ。
「それで、ぽかぽかさん。最近闇ルートでメレシーのかけらが出回ってるらしいんだが…あれっておたくで取引してるの?」
帰り際、すでに一粒毛玉をキメたお客さんは、僕らにそう聞いてきた。
メレシーのかけら?そんなのうちの会社では扱ってないけど…
「うちでは扱ってませんね。というか…そんなものがあるということすら初耳ですが。」
「ああそうなの。もし入荷したら私に優先的に売ってくれよ。おたくの商品は品質にかけちゃあ業界一だからね。」
「善処します。」
ホンジョ―さんがそう言うと、お客さんは満足したように倉庫を出ていった。
「ホンジョ―さん、メレシーのかけらって…」
「間違いなく、出所は他業者の乱獲によるものでしょう。それにメレシーちゃんからかけらが『自然かつ大量に』取れるなどということはありえない。」
メレシーはいわ/フェアリータイプのポケモンで、宝石のような見た目から女性に人気のポケモンだ。洞窟などに住みながら群れで暮らしていて、メレシーだけの王国があったなどと噂されることもある。
だが、ホンジョ―さんが言うように、メレシーの身体の一部が自然に分離することはありえない。なぜなら、メレシーの種族間のヒエラルキーが、身体の大きさによって決まるからだ。だから、身体が欠けるということはメレシーにとって、種の中で生存できなくなることを意味する。
「ということは…」
「ええ。乱獲、略奪を繰り返したうえで虐待をしているとみて間違いないでしょう。」
「そんな…」
淡々とした口調で冷静に話すホンジョ―さん。だが、その拳は固く握られ、瞳には怒りが滲んでいる。
こうなったらもう、やることは一つしかないんだろうなあ…
「ヒイラギさん」
「はい。」
「カチコミです。」
「はい…」
やっぱりそうなるよねえ!
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ミナモシティの郊外。
港の倉庫で、三人の青年たちは『加工作業』をしていた。
「ひゃっほう!やっぱメレシーのかけらは高く売れるぜ!」
「ほんとな。ヤミラミのシャドークローでちょっと削り取ったこのかけら一つで50万だぜ?真面目に働くのバカバカしくなるよな!」
青年たちは天井からぶら下げたメレシーを見上げて笑う。宝石を好むヤミラミの性質を利用して、メレシーをカットさせているのだ。
メレシーの悲鳴が倉庫に響く。だが、ここは郊外の港だ。人通りもなく、助けに来るような者もいない。
「まったく、ちょろいよな!フェアリータイプなんてさ。こいつ攻撃技覚えてねえんだぜ?抵抗もできないなんてダッセー!」
ハハハ、と笑い声が響いた。
その時。
「ピザ・ハトーボーです。ご注文のピザをお届けに参りました。」
入り口から声が聞こえた。
「ん?ピザなんか頼んでたか?」
「いや、頼んでないけど…」
「一応出てみるか…」
青年の一人がドアに手をかけた時だった。
「クチートたん!アイアンヘッド!」
「なっ!?」
ドアが外側から破壊され、青年は見事に吹っ飛んだ。まるでポケウッド映画のワンシーンのようだ。
「誰だ貴様!」
「何しに来やがった!」
「言ったでしょう?」
スーツに眼鏡の男とクチートがこちらをにらみつけていた。
「ピザのお届けです。もちろんソースは」
男は眼鏡を外し、不思議な色を放つ指輪に触れた。
同時に、クチートの身体を光の繭が包み込む。
メガシンカだ。
「あなたたちの血です。」
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「メガクチート!?」
僕は初めて見るその姿に、興奮を抑えきれずにいた。フェアリーオタクの僕からすればメガクチートを拝めるなんて、夢のまた夢。性癖にぶっ刺さりである。
「なんなんだ貴様…ただものじゃねえな…」
「よく言われます。本気でかかってきてください。そうすれば1分は持ちます。そのあとは無様に負けを晒してピザソースになってください。」
「くそ…おいお前ら!やるぞ!」
「おう…行け!ヤミラミ!」
「ジュペッタ!」
「クロバット!」
青年たちは次々にポケモンを繰り出す。
あーあ、かわいそう。全員メガクチートのカモだ。
「フン…ならばこちらももうひとり使わせていただきます。メレシーたん!」
「きゅい!」
メレシー!ホンジョ―さんも持ってたのか!
ん?メレシーとメガクチート?
あっ…
「メレシーたん。トリックルーム」
「きゅいー!!」
時空が歪んでいく。メレシーから放たれる不可思議な光が、この倉庫全体の理を作り変えているのだ。
そして普段は鈍足のメガクチートは…
この時空の中では、韋駄天となる。
「あなたたちは二つの理由で私を怒らせた。一つはかわいいかわいいメレシーたんの身体をそぎ落とし、うちの会社のシマで売りさばくという不届きな真似をしたこと。二つ目は…」
メガクチートが動く。その姿は誰にも捉えられない。
「フェアリータイプを侮辱したことです。その大罪、あなたたちが侮ったメレシーたんのトリックルームの中で罰を受けなさい。クチートたん!じゃれつく!」
「クチクチ!!」
青年たちのポケモンは、クチートのおひるごはんとなった。
その後、捕まっていたメレシーは皆解放され、商品として青年らが持っていたかけらもすべて押収された。あとは気を失っている彼らが、メレシーを虐待している証拠写真を僕らが『善意で』提出したジュンサーさんに逮捕されるのを待つだけだ。
「なんか…ホンジョ―さんってゴンドーさんや社長とは全然違う人だなーって思ってたんですけど…」
「何の話ですか」
「みんなおんなじですね。フェアリーフリークなところが。」
「当然です。でなければこんなところで働いてません。」
「そうですね…!」
なんだか、ホンジョ―さんのアツいところを見られて良い一日だった。
僕自身もこの職場に染まってきているのは少しいやだけれど…
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