ふぇありーヤ〇ザ!   作:矢留

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 矢留くんさあ、卒論進んでる?








第四話 ヤ〇ザにも有給とかあるんだ

 

 

 アローラ!

 

 ヒイラギです。

 

 いつもは血なまぐさい極道の世界で浜に打ち上げられたヒンバスのような眼をしている僕だけれど、今日は最高に気分がいいのです。

 

 

 なぜなら…

 

 

「アローラ!ひっさしぶり!!!」

 

 故郷に帰ってきているからです!

 

 

 

 マリエシティの港に降り立った僕は、アブリボンちゃんとともにアローラの海風を肺いっぱいに吸い込む。

 うん。夢にまで見たカタギの世界。お天道様がまぶしいね。アブリボンちゃんも羽をぱたぱたと動かして喜んでいる。

 

 

 それにしてもよく休暇なんてくれたもんだよなあ、と思う。ダメもとで「来週有給もらえたりしますか?アブリボンちゃんがアローラに帰りたいって言ってて…」と社長に頼んでみたところ、「アブリボンちゃんが言うならしょうがねえ。たっぷり遊ばせて来い。」とすんなり有給をもらえたのである。フェアリーヤ〇ザまじちょろい。

 ていうか、ヤ〇ザにも有給とかあるんだ。

 

 僕の故郷であるマリエシティは、アローラ地方・ウラウラ島の玄関口となる栄えた街だ。ジョウト地方風のエキゾチックな街並みは、昔移住してきたジョウト人がその建築様式を伝えたからだとか。観光名所として全国から多くの人が訪れる活気あふれる街となっている。

 

 この街から離れて暮らしてみて気づいたけど…かなり変わった街だよな。文化の十字路とはよく言ったもので、建築様式だけではなく食文化や服飾の文化まで、ありとあらゆるものが混ざり合ってこの街を作っている。小さいころは早くこの街を出たかったけど…

 

 ちゃんといい街じゃん。

 

 

 

 

「ただいまー。」

 

 家の玄関を開けると、母さんが出迎えてくれた。グランブルも一緒だ。

 

「あら、おかえり。早かったのね。」

「うん、一刻も早く帰りたくてさ。」

 

 切実にね。逃げ帰るようにソッコーで船のチケットとったよ。

 

「そっかそっか。まあまあ、まずは座って。お茶でも入れようか。」

「そうだね。あとこれ、お土産のフエンせんべいね。」

「あらうれしい。お茶うけにピッタリね。」

 

 母さんはそう言うと、鼻歌を歌いながら台所へ向かっていった。

 

 

 うん、なんて平和!なんて家庭的!

 

 

 僕はすり寄ってくるグランブルをなでなでしながら、つかの間のあったかい日常をかみしめていた。

 

 そうだよ。これが僕の求めていた日常だよ。

 

 暴力、ダメゼッタイ。

 

「それで、仕事の方はどうなの?」

 

 ティータイムもひと段落したころ、母さんがうれしそうな顔で聞いてきた。

 

 もちろんごまかし方は考えてきてある。流れで暴力団に就職しました、なんて正直に打ち明けたら母さんが悲しむに違いない。

 

「うん、フェアリータイプが好きな先輩方と頑張ってるよ。」

 

 

 どう?この言い回し。嘘はひとつもついてないよ。ひとつも。先輩方(ヤ〇ザ)がフェアリーオタクなのは事実。僕が日々頑張ってることも事実。故にすべて真実だ。

 

「そうなのね?ヒイラギが社会のために頑張ってると思うと誇らしいわ。」 「ヴっ…!」

 

 しゃ、社会のためには…なってないかも…

 

 むしろ反社会的かも…

 

「どうしたのヒイラギ?」

「な、なんでもないよ母さん。ちょっとむせただけ。」

「そう?気をつけなさいね。」

 

 あぶないあぶない。ぼろが出てしまうところだった…

 

 でも、いくら事実しか言っていないとはいえ、結果的に母さんをだましていることに変わりはないよな…

 

 

 

「あ、そうだヒイラギ。あなたが帰ってくる前にマツリカちゃんがうちに来てね。ヒイラギが帰ってきたらマリエ庭園に来るように伝えてって言われてたの、忘れてたわ。」

「えっ!?マツリカさんが!?」

 

 思わず叫んでしまう。

 

 マツリカさんは…僕がフェアリータイプで戦い続ける決意を抱くきっかけとなった、恩人だ。

 

「たぶんまだ庭園で絵を描いてるんじゃないかしら。行って来たら?」

「行く行く!今すぐ行ってくる!」

 

 

 なんて運がいいのだろう。僕にとって大事な恩人に、帰省したその日に会えるなんて!

 

 僕は靴ひもを結びなおす手間ももどかしく、ビーチサンダルのまま外に飛び出した。

 

 

 

 

 その人は、遠くからでもすぐに見つけることができた。

 

 長いゴールドの髪を後ろで一つ結びにした、背の高い女性。髪や服に着いた絵具をそのままにしているところは昔から変わらない。

 

「おーい!マツリカさん!!」

 僕が呼びかけると、マツリカさんもこちらに気付いたのか絵を描く手を止め、キャンバスから顔を上げた。

 

「おっ、ヒイラギくん。久しぶりだねえ~」

 

 本当に、本当に久しぶりの再会だった。

 

 

 

「いや~大きくなったねえ、ヒイラギくん。」

「マツリカさんこそ。なんか大人な雰囲気になりましたね。」

「そう?照れるなあ~」

 

 マツリカさんに会うのは約三年ぶりだった。イッシュ地方の旅の途中で一度だけばったり会ってお茶をしたっきり、今日まで会う機会がなかったのだ。

 

 本当に、マツリカさんは素敵な大人の女性になっていた。

 

「ていうか、まだマツリカ『さん』なんて呼んでるの?二つしか歳変わらないんだから、呼び捨てでいいって昔から言ってるのに…。」

「いやいや、マツリカさんはマツリカさんですよ。僕の尊敬すべき方なんですから…!」

「そっか。そういうところ、昔から変わらないね。もちろんいい意味で、だよ。」

 

 

 マツリカさんの笑みが、雲間から漏れる金色の光のようにこぼれた。その瞬間に僕は改めて確信する。

 

 ああ、やっぱり僕はこの人のこと…

 

 

 

 

 

 その後、マツリカさんと僕は庭園の東屋に腰かけてお団子を食べながら、いろいろな話をした。最後に会ったときから先の旅の話。就職した話。今はホウエンにいて、珍しいフェアリータイプのポケモンに出会った話。もちろんヤ〇ザになったことは伏せておいたけど…

 

 僕らは過去を共有し、時間を共有し、フェアリータイプというお互いの『好き』を共有した。このまま誰かがトリックルームを打って、時間がねじ曲がってしまえばいいのにと思った。ホウエンに戻って血なまぐさい日常に戻ることなく、このまま、マツリカさんと…

 

 

 

「ちょっとちょっと、公衆の面前でいちゃつくの、やめてもらっていいスカ!?」

 

 

 

 

 突然、バッドな格好をした青年たちが僕らの前に現れた。

 

 なんだこいつ。マツリカさんといい感じだったのに、雰囲気ぶち壊さないでもらえます?

 

 

「…なんか用ですか?」

「ここは俺たちスカル団のシマっす。見逃してほしけりゃあんたのポケモンよこしやがれっす!」

 

 

 

 シマ…?

 

 

 

 

「ふーん、シマねえ…」

「ヒイラギくん…?」

 

 

 

だめだよバッドボーイ、シマなんて言葉を気安く使っちゃあ…

 

シマを守るのはなあ…命がけなんじゃコラ。

 

 

「オメエ…どこのもんじゃコラ。チンピラ風情がワシとマツリカさんの二人っきりの時間を邪魔しとんちゃうぞ」

 

 

 

 や、やってしまった…!ついいつもの癖で威圧してしまった!

 マツリカさんも見てるのに!!

 

 

 

 ドスの効いた声と僕の変わりように、バッドボーイは物怖じし、顔を引きつらせる。

 

「い…威勢だけはいいっすね…そんじゃ、バトルといきまスカ!」

 

 バッドボーイはそういうと、エンニュートを繰り出す。

 

 

 へえ、尻尾巻いて逃げないでちゃんと戦うんだ。根性あるじゃん。

 

 まあ、関係ないけどね。あんなところマツリカさんに見せちゃった時点でもう終わったもん。なるようになれ。

 

 

 

「おいで。トゲキッス。」

「ふわーん!」

 

 ヒールボールのピンク色のエフェクトから出てくるのは、シンオウ地方で出会ったトゲキッス。

 

 ごめんね。意地悪な選出して。

 

 

 

「ほのお/どくタイプにフェアリー選出っスカ?見掛け倒しっすね!」

 

 バッドガイは対面でエンニュートを出し勝ちだと思ったのだろう。

 

 君、痛い目みるよ?

 

 

 

「エンニュート!どくどく!」

 

 先に動いたのはエンニュートだった。トゲキッスはそこまで素早いポケモンじゃない。

 

 一方でエンニュートは俊足の特殊アタッカーとして名高いポケモンだ。先に動かれるのは当然だろう。

 

 

 

 

けどね。君。

 

 

まひるみキッスって知ってる?

 

 

 

 

「トゲキッス、でんじは」

「ふわん!」

 

 

 ラムの実を食べて解毒したトゲキッスが、でんじはをエンニュートに浴びせる。

 

 

 ね?言ったでしょ?痛い目見るって。

 

 

 

 

 

 トゲキッスのエアスラッシュ!

 エンニュートはひるんで動けない!

 

 トゲキッスのエアスラッシュ!

 エンニュートはひるんで動けない!

 

 トゲキッスのエアスラッシュ!

 エンニュートはひるんで動けない!

 

 

 エンニュートはたおれた!

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 バッドガイは「すんませんでした!すんませんでした!」と泣きながら逃げ帰っていった。

 

 うんうん。ラムの実持ちを警戒しなかった君が悪い。

 

 

 

 

「すみません。マツリカさん。あんなところ見せてしまって…」

 

 バッドボーイに向かって暴言を吐くところをマツリカさんに見せてしまった。ドン引きされただろうな…

 

 

 しかしマツリカさんは、僕の隣に腰かけて言った。甘い香りが鼻をくすぐる。

 

「ねえ、私とヒイラギくんが初めて出会った日のこと、覚えてる?」

「もちろんですよ。忘れるわけないじゃないですか。」

 

 

 

 マツリカさんと初めて出会った日。

 それは、僕がいじめられて学校から逃げ出した日だった。

 

 

 マツリカさんは、悔しくて泣いていた僕の隣に座って話を聞いてくれた。

 僕の背中をさすって、大丈夫だよって言ってくれた。

 

『フェアリータイプはね、強いんだよ。』

 

 マツリカさんは言ってくれた。

 

『ラブリーな攻撃でね、悪い奴をやっつけるの。ちちんぷい~って。』

 

 その横顔がまぶしい横顔に、僕はずっとあこがれていたんだ。

 

 

 

 そう。マツリカさんは僕の恩人で…

 

 

 

 

「今日の君を見ててさ、私の横で泣いてたあの日からずいぶん強くなったんだなって思ったよ。」

 

 いつの間にか海風は止んでいた。斜陽がマツリカさんの顔を照らす。

 

「うれしかったんだ。君が今でもフェアリータイプを使ってること。」

 

 

 あの日のまぶしい記憶が蘇る。

 

 

「マツリカさん、実は僕…」

「いいの。」

 

 マツリカさんは優しく、僕の言葉を遮る。

 

「君がどんな仕事をしていようと、君と君のポケモンはあの頃から強くなった。それは変わらない事実でしょ?だとしたら、少なくともそこは、間違った場所じゃないんじゃないかな。」

「そう…なんでしょうか?」

「そうだよ。きっと。」

 

 

 間違った場所じゃない。その言葉に救われた。

 マツリカさんは、あの頃からずっと優しい。長い歳月が経って、お互いが立場を手に入れた後でも。ずっと。

 

 

 

「それにさ、さっき、私を守ろうとしてくれたんでしょ?」

「…っ、まあ、そうなりますね…」

 

 

 マツリカさんの髪が、アローラの風に揺れた。

 

 凪の時間の終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「言い忘れてたけど、かっこよくなったね。ヒイラギくん。」

 

 

 

 

 

 

 マツリカさん。島キャプテンにして、僕の恩人。

 

 そして

 

 

 

 僕の初恋の人。

 

 

 




 マツリカちゃんかわいいよね。サンムーン勢の中で一番好きです。

 原作ではいくつなんだろうね?


 感想などなど頂けると執筆がはかどります。
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