Bluetoothイヤホンを買ってからランニングがはかどりすぎです。
アローラのお母さんへ。
自分が弱いばかりにこのようなことになってしまって、本当にふがいなく思います。
あなたを悲しませるつもりはなかった。けれど事実として、僕をはぐくんでくれた周りの人々に迷惑をかける形になってしまったことに違いはありません。あなたにとってこれから僕という不義理な存在が枷となり、大きな恥を抱えて生きてゆかねばならないことを考えると、まさに
けれど、これだけは言わせてください。僕にとってあなたはかけがえのない存在であり、僕の誇りだったと。僕を育ててくれてありがとう。そう思わなかったことは一度だってありません。こんなことを言う資格などないかもしれないけれど、嘘偽りのない僕の想いです。
あなたを不幸せにしてしまった不孝をどうかお許しください。
マツリカさんにもよろしく。それでは。
「いいかげん話す気になった?」
「……」
あー、取り調べって暇だな…。
暇すぎてブタ箱にぶち込まれたとき用の手紙の内容まで考えちゃったよ。
まだまだ文章が甘いよね。推敲しなきゃ。
そんな僕ですが、先ほど人生で初めてタイーホされました。
公務執行妨害の現行犯です。
今は、ホウエン警察カナズミ署に身柄を拘束されて、余罪であるカナズミでの恐喝事件についてジュンサーさんに取り調べを受けているのだけれど…
「君は指定暴力団ぽかぽかフレンドクラブの組員、ヒイラギくんで合ってるわよね?」
「……」
「ふむ…」
タイーホされたときの対応については、社長から常に口酸っぱく言われている。
そう。やるべきことは一つ。
「いい?確かにあなたは自分の供述したくないことについて沈黙をしていることを理由に不利益を受けることはない。つまり黙秘権が与えられているわ。だけど…ネイティオみたいにずっと沈黙したままではいつまでたっても身柄は解放されないのよ?」
「……」
あんたのやり口はわかってるぜジュンサーさん!!
うかつに口を開いたところを見計らって誘導尋問するつもりでしょう。
見かけによらず転び公妨をやってくるような狡猾なジュンサーさんだ。
こちらも用意周到に行かないとね。
「先週の火曜日。カナズミシティの居酒屋『フレフ庵』で、10代後半の青年が売り上げを渡すよう恐喝し、違法な賞金を懸けてポケモンバトルを強要する事件が発生した。そのとき君はどこで何をしていたの?」
「……」
「先週のことよ。忘れたとは言わせないわ。よく思い出してちょうだい。」
「……」
どうだい?この口の堅さ!
今の僕はコットンガードを積んだエルフーンのようにガチガチですよ。
あまりこちらをなめないことですね…。
「何か勘違いしているようだから言っておくけれど。」
「……?」
「あなたたちぽかぽかフレンドクラブの事務所の場所くらい私たちが把握していないとでも思う?今頃、家宅捜索に向かっているはずよ。だからあなたがいくら黙っていたところで、いつかは絶対に犯人だとばれる。正義からは逃れられないのよ。」
「……」
なんだ。どんな大きなネタでゆすってくるのかと思えば…
そんなことか。
うちの組長が、ガサ入れの対策をしていないとでも思いました?
組長のブリムオンちゃんのマジックミラー&トリックルームで絶対入れないし場所特定できない状態にできますから~!!
残念!!
組長がチートすぎてまじクチート。
5時を少し過ぎた頃、ジュンサーは少し席を外すと言って取調室を出た。
部屋には僕一人が残されたが、カメラで一挙手一投足が監視されているのだろう。
けれど、一人になれたというだけで少しだけ気持ちが楽になった。
…さて、少し状況を整理しよう。
おそらく、居酒屋の主人がダイゴと僕の一件を見て、被害届を出した。実際に5万円を払ったのはダイゴだから、居酒屋としては不利益を被ったわけではない。あることないことでっち上げてヤ〇ザから身を引こうとしたのだろう。
そして主人の証言をもとに僕の名前が捜査線に上がり、タイーホ。現在に至る。
48時間以内に取り調べ・捜査が終われば検察に送検されるが、犯罪の重さから言って、おそらく検察に起訴されることはないだろう。送検されて勾留されることはあるかもしれないけれど、僕は下っ端中の下っ端。幹部クラスにならないと長期間の勾留には至らない。
つまり。
このまま48時間だんまりを続ければ、割とすぐに釈放される可能性が高い。
我慢比べか。
上等!受けて立ちますよ!!
30分が経過したころ、ジュンサーさんが取調室に戻ってきた。
「ヒイラギくん、弁護士が面会に来てるわ。面会室に移動するわよ。」
「……」
面会?これから?
お腹すいたんだけど…
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やらかしたねえ、ヒイラギくん。」
「はい…」
初老のジェントルメンがアクリル板の向こうでため息をつく。
うちで雇っている私選弁護士のチャーリーさんだ。
ちなみにチャーリーは本名ではない。もはやヤ〇ザの常識である。
取り調べ期間の48時間以内に面会を許されているのは、弁護士だけだ。それ以外の人間は、いくら両親だろうが兄弟だろうが、許されない。
この場では基本的に、逮捕後の方針について話し合うことになっているのだが…
「組長から伝言です。」
「はあ、組長から。」
「(放送禁止用語)。それだけです。」
「ええ…」
めちゃめちゃブチぎれてるじゃないすか…
もっとさ、何も心配するな(キリッ)とかないんですか!?
というか組長あんなかわいい顔してそんな言葉使わないでくださいよ!!
「なんかこう…助けに来てくれるみたいな展開は…ないんですかね?」
「わかりません。私はそのようにしか聞いてませんから…。」
「終わった…」
完全に見放されました。
ヤドンの尻尾切りです。
まあそうだよね…
組としては僕を切らない理由がないよね…
足がついちゃうからね…
どうしましょう。居場所がなくなりました。
面会が終わって取調室に戻ってきたころには、時刻はもう6時半を回っていた。
お腹すいたなあ…
お昼も食べてないんだよなあ…
「ヒイラギくん、お腹すいてきたでしょ?」
「…」
そんな僕を見透かすようにジュンサーさんは話しかけてくる。
「じゃん。これ、お弁当よ。取り調べ中の容疑者にもお弁当は出るのよ。もちろん。」
「…」
すくなっ!
若い男子の晩飯がおにぎり1個は少なすぎでしょ!!
ラルトスちゃんでももっと食べるよ!?
「一方で私の夕食は…これ!!ガラル地方名物マホイップパンケーキ!!ガラルに住む同期からレシピ教わったのよねえ。」
「……」
なん…だと…?
マホイップパンケーキ!?
そんなものがこの世に存在してもいいのか…!?
「んー、でも一人では食べきれないかも…。目の前のお兄さんが口を開いてくれたら…あげてもいいかもなあ…」
「……」
くそっ…こいつ…
やりやがる…!
僕がフェアリーヤ〇ザだということをわかって…
誘導尋問してきてやがる…!!
「じゃあ…いただきます。ん!おいしい!幸せの味よねえ!ふわふわのパンケーキにほどよい甘さのホイップクリーム…。最高のコンビネーションね!まさにスイーツ界の、いや、フェアリースイーツ界のチャンピオンにふさわしいわね。」
「…キサ…マァ…!!」
悪魔的だ…っ!このジュンサー!悪魔的に食レポしてきやがる…っ!!
しかもなんだその食べ方は…っ!!美味いに決まっている…っ!
「おや?さっきまでパルシェンのように殻に閉じこもっていたヒイラギくん。久しぶりに君の声を聞いたけれど…もしかして…私と『お話し』したくなったのかしら?」
「……っ!!」
ジュンサーさんはそう言って口の端っこで笑うと、ホイップがたっぷりついたパンケーキを口に運ぶ。
くそ野郎が…そんなに一度にホイップのところを持っていけば…
後から食べる分のホイップが少なくなるじゃないかっ…!!
ジュンサー、至極狡猾!
ヒイラギ、悶絶!その姿、まさにサザンドラにラスターカノンをぶち込まれたピッピのごとし!!
だめだ…僕はここでおしまいだ…
でももういいか…どうせもう組には戻れないもんな。
母さんへの手紙、後で清書しなくっちゃ…
「ジュンサーさん、僕は…」
「はい、こちらカナズミ署。え?なんですって?被害届が取り下げられた?…はい。わかりました…。」
え?
どういうこと?
「ヒイラギくん。あなたに容疑がかかっていた恐喝事件の被害届がたった今取り下げられたわ。被害者から電話があったそうなの。」
「…ほんとに…?」
「ほんとに。もう帰っていいわ。釈放よ。」
ということは…
組長が示談に持ち込んでくれたってこと!?
やったー!
やっぱり僕のこと見捨ててなかったんですね!クミチョー!!
もう来るんじゃないわよ、とジュンサーさんに念を押されてすっかり暗くなった外に出ると、警察署の門まで組長が迎えに来てくれていた。
「クミチョーーーーーー!!」
「ヒイラギーーーー!!」
組長が両手を広げて僕を迎えてくれる。クミチョー!クミチョー!!!
「クミチョー!迎えに来てくれ…」
「馬鹿野郎が!!!!!」
「ぐヴっ!?!?」
組長の仁義パンチ!!
グーはやめてグーは!!
いや今のハグするところじゃないのオ!?
「なーにしょっ引かれちゃってんのよあんたは!!うちの組つぶすつもり!?」
「すみません!すみません!」
しっかり怒ってるじゃないすか…
ごめんなさいって。でも半分僕のせいじゃないんです。あっちがちょっときたない真似をしただけなんです。
でもまあ、こうして迎えに来てくれてるあたり、心配してくれてるんだな。
組長にも意外とツンデレ的な属性があるのかもしれない。
もう、ほんとに!とぷりぷり怒る組長はほんのちょっとだけ、うれしそうに見えた。
「なに笑ってんのー?」
「あ、いえ。こういう時、ヤ〇ザの組長も意外と優しいんだなって思いまして。」
「そりゃそうよ。」
組長は一歩だけ僕の先を歩きながら言う。
「だって、家族になったじゃん。私たち。」
「組長…」
真っ白な月が、組長の顔を照らす。
その幼くはかない横顔が、不思議なほど頼もしく見えた。
そうか。僕らはあの盃を交わして、家族になったんだ。
こうして親が子を守ってくれたように、僕にもいずれ親を守るために戦わなければならない日が来る。
その日まで、僕は一体どれほど強くなれるのだろう。
組長を守れるほど、僕は…
「しかし、あの居酒屋の主人を説得してくださってありがとうございました。組長が動いてくださったんですよね?」
「えー、私説得なんてしてないよー。そんなめんどくさいことするわけないじゃん。」
「え?じゃあ…」
「洗 脳 し た ん だ よ。サ ー ナ イ ト ち ゃ ん の 催 眠 術 で。」
前言を撤回しよう。
この人は、全然、やさしくない。
クミチョーかわいいよクミチョー