真っ白な空間。そこでプラグスーツを着た少年。碇シンジは膝を丸めてうずくまっていた。ニア・サードインパクト。渚カヲルの死。14年の空白。そして彼に向けられた憎悪。彼の精神はボロボロだった。
もう何も見たくない。何も聞きたくない。
心を閉ざした彼は自分が今どのような状況に置かれているのかに見向きもせず、ただじっと、自分の殻に閉じこもっていた。
「おーい!聞こえているかーい?あー……こりゃ重傷だ。ちょっと時間かかりそうね。」
そこへ真っ白なワンピースを着た少女が現れる。声をかけるも、うずくまり、動かないシンジを見て、何かを考え込むと
「いいや面倒臭い。多少荒療治になるけど、男の子だから大丈夫よね。えい!」
少女の手から赤雷が迸り、シンジに直撃する。
「うわぁ!!」
突然の衝撃に驚いたのか、少年の瞳に生気が戻り、飛び上がる。そして周りを見渡し、やっと、自分が訳の分からない真っ白な空間にいることに気づかされた。
「ぐっどもーにんぐ!碇シンジ君。」
「?!…だ、誰……?」
目の前にいる城を体現したかのような少女に畏怖するシンジ。そんなシンジに対してにこやかな笑みを浮かべる少女。
「私?私はルーツ。そう呼んで。」
「……ここは…どこなんですか?」
「ここは次元の狭間さ。ま、時間の停止した空間だと思ってくれていい。私が力を使って君に魂をつれてきたのさ。」
「……それで、僕に何のようなんですか?」
死んだような目でルーツに問いかけるシンジ。すると、ルーツはパチンッと、フィンガースナップを鳴らした。すると、シンジの目の前に映像が現れる。映像には赤い大地を歩く3人の姿が。勝ち気そうな眼帯を付けた少女、式波・アスカ・ラングレーが抜け殻のようになった少年、自分自身の手を引きながらずかずかと歩いており、その後をかつて自分が助けたはずの少女の容姿と瓜二つの少女、アヤナミレイが歩いていた。
「これは今現在、君が体験していることだ。まあ、今君は魂が抜けているせいで人形みたいになっているけど。」
「それで……一体何なんですか?」
「このまま行くと、君たち三人は確実に殺されるよ。」
パチンと再びルーツがフィンガースナップを鳴らすと、もう一つの映像がシンジの前に現れた。使徒のような仮面にロンギヌスの槍のような物が生えている空飛ぶ物体に生身のまま襲われるアスカ。それを人形のように無表情で見ているアヤナミ。そして、瓦礫の影に膝を抱えて怯えている自分。
シンジは言葉を失っていた。
「これはエヴァ44A航空特化タイプと言われるらしいね。まあ、名前なんかどうでも良くて、こうなってしまったらBAD ENDだ。だから私はそれを回避するために君の魂をここに連れてきたのさ。」
「アスカ……」
「どう?君さえよければアレを倒す術を君に授けよう。かなり辛く厳しいが、どうする?逃げても良いんだよ?」
「……やります。もう二度と、誰かを失うなんて嫌なんだ!お願いします!僕に力をください!」
「うん、良い返事だ。やっぱり男の子だね。それじゃあこれをあげよう。」
少女が三度フンガースナップを鳴らすと、何もなかった空間から突如として巨大な何かの牙のような物が現れた。少女は身の丈以上もあるそれを手に取り、顔の細腕で軽く振るうと、シンジに放り投げた。
「う、うわわ…ちょっと…!」
シンジは慌ててキャッチするが、予想以上の重さに尻餅をつく。
「それはミラアンセスフォリア。返り血すらその刃を穢すことを恐れる高潔なる神の牙。とか人間には言われているけど、実際には私から作ったただの太刀だよ。まあ、あながち間違いじゃないけどね。」
ケラケラと笑う少女。
「これは…どうやって使うんですか?」
「それはちゃあんと教えるよ。練習相手にも事欠かないしね。ざっと、人間の体感時間で言えば14年くらいかな?その間みっちりと教えるから覚悟しておいてね。」
「14年?!でもすぐに戻らないとアスカが!」
「大丈夫さ。ここの時間はほぼ無限。私がちゃあんとあの時間に戻してあげるよ。さあ、辛くて楽しい修行の始まりだ。」
三度ルーツがフィンガースナップを鳴らす。すると、真っ白な世界は急に色彩を持ち始め、崩れた人工構造物のある草原へと変っていた。
「無限に時間があるとは言っても普通に鍛えただけじゃ限界がある。だから、超スパルタコースで行くよ。」
次の瞬間
「ゴアアアアアアア!!」
何者かの咆吼が草原に響き渡った。
これが碇シンジの辛く、厳しい修行開始の狼煙となる。