シンジは時間にして約14年もの間戦い続けた。
自身の何倍もの身丈をもつ謎の生物たちと連日連夜。寝る間も惜しんで戦い抜いた。時には全身火傷を負い、時には身体を貫かれた。幾度となく彼を襲う死よりも厳しい苦痛。だが彼は諦めなかった。強くなり、そして今にも4AAに襲われるかも知れない式波・アスカ・ラングレーのために彼は戦い抜いた。
そして
「お疲れ様シンジ君。これで修行は終わりだ。」
少年、碇シンジは体感14年にも及ぶルーツからの修行を見事に完遂させた。EVAの呪縛により、その身体は成長していないが、彼の瞳はもう何も分からない子供ではなく、立派な男の目をしていた。
「さて、では最後に聞くよ?本当にあの世界に戻るのかい?あの地獄のような世界に。君を憎む人間ばかりの世界に。」
「……はい。責任を取らなきゃいけませんから。それに、アスカを助けなきゃいけません。」
「殺されるかも知れないよ?」
「構いません。それでも、僕は行きます。」
「……うん、君はもう子供じゃない。自由に羽ばたける大人だ。だから、自分の意思で闘うんだ。いいかい?」
「はい!」
「じゃあ君を元いた場所に送り返そう。目が覚めたら周りは敵だらけだ。覚悟は言いかい?」
「はい……!」
「おっと、時間がきたみたいだ。それじゃあ頑張ってねー」
シンジの疑問に答える間もなく、パチンッと、ルーツが小気味良いフィンガースナップを鳴らすと、突如としてシンジの足下に黒い穴が広がり、シンジはその穴に落ちていった。
・・・
シンジが目を覚ますと、そこはルーツに見せられたあの建物の影だった。横にはアヤナミが立っている。そして、周りからは爆発音が聞こえてくる。
「夢……?いや!」
少女との修行の日々が一瞬、夢幻かと思ったが、自分の握っているミラアンセスフォリアが現実であったことを如実に示していた。
「アスカ!!」
シンジはミラアンセスフォリアを背中に装備すると、急いで建物の外に出る。
シンジの目に飛び込んできたのは何処までも続く真っ赤な大地。そして、地面に倒れ伏す一人の少女に、まるで死肉を啄む鳥のように群がろうとするエヴァ4AA
「っ!やらせるか……!」
シンジは神の牙を背負い、1人、少女を守るため、無数のネーメジスシリーズに立ち向かっていった。脳裏にあの修行の日々を浮かべながら。
・・・
パリにて多大なる損害を被った弐号機と八号機の修復用パーツ、および補給物資を手に入れたAAAヴンダーはエヴァパイロットであるアスカからの救難信号を受け、信号の発信地へと向かい飛行していた。
アスカが無事だったことにほっとする艦長、葛城ミサトだったが突如として艦内に警報が鳴り響いた。
「パターン青!エヴァ44A数6!これは……式波大尉の救難信号発信位置です!」
オペレーターの報告に青ざめるミサトだったが、すぐさまクルー達に指示を出す。
「総員第一種戦闘配置!八号機は?」
「先程修復が完了したとのことです!」
「マリ!式波大尉の救出、及び碇シンジの拘束を命じます。」
『合点でい!』
弐号機のパーツが急造で付けられたエヴァ八号機がヴンダーから飛翔した
「無事でいてよ……姫、わんこ君!」
エントリープラグの中、八号機パイロットである真希波・マリ・イラストリアスはそうつぶやいた。