不機嫌な顔で隔離室へと向かうアスカ。そこへ
「お、姫-!良かった気がついたんだね!」
ピンク色のプラグスーツを着たマリがやってきた。抱きつこうとするマリを舌打ちしながら避けるアスカ。
「で、何の用よコネメガネ」
「もー姫ったらつれないにゃーどうせわんこ君の所に行くんでしょ?」
「あのバカガキの事なんてどうでも良いわよ」
また私を助けてくれなかったし……と、小声でぼそりと言いながらギロリとマリを睨み付けるアスカだったが、マリには大して効果が無かったようで、ニヤニヤしながらこう言った。
「んふふー愛する姫を身体一つで守り抜くなんてわんこ君も男になったんだね」
「……は?」
マリのことを訳が分からないと言ったような目で見るアスカ。そんなアスカの様子にマリは首をかしげた。
「ほよ?姫何も知らないの?」
「……アンタじゃないの?空飛ぶエヴァから私たちを救出したの」
その言葉を聞いた瞬間、あちゃーと言った風に額を押さえるマリ。そしていつにもなく真面目な顔でこう言った。
「姫、わんこ君の姿を見てもショックを受けないでね。」
・・・
隔離室に入ったアスカが見たのはうじうじして部屋の隅に転がっているシンジの姿ではなく、体中に包帯を巻かれ、幾つもの点滴につながれているシンジの姿だった。
「あの現場で唯一全部を見ていたNERVのあの子が言うには、飛来するエヴァ44Aから姫を守りつつ、わんこ君は戦ったらしいよ。」
「……嘘」
信じられないと言ったようにマリを見るアスカ。
「信じられないかも知れないけど、たぶん嘘じゃない。私が到着したときには44Aは全部破壊されていて、残っていたのは傷だらけのわんこ君と姫、そしてNERVのあの子だけだったよ」
呆然と隔離室で眠るシンジを見るアスカ。そこへシンジの監視担当である鈴原サクラとリツコが入ってきた。その瞬間、アスカはリツコに食って掛かった。
「一体どういうことよこれは!」
「見ての通りよ。碇シンジは44Aから貴方をかばって出血多量により意識不明の重体。さ、どいて頂戴。検診の時間よ。」
そういってアスカの罵声を受け流し、淡々とシンジの診察をしていくリツコ。そして数分後、リツコはサクラに何かを伝えると、隔離室から出て行った。するとサクラはアスカに対してこう言った。
「あの…式波大尉、少しの間だけなら隔離室の中には入れますが入りますか?しばらくの間カメラにはダミーが走らされているようなので」
「……」
「いーじゃん!入れてもらおうよ姫―!」
マリに諭され、アスカとマリはシンジの眠る隔離室へ足を踏み入れた。
・・・
隔離室の中ではピッ…ピッ…という電子音が一定間隔で響いており、何もない隔離室をさらに無機質な物に感じさせる。
隔離室に入ったアスカの目にまず飛び込んできたのはシンジの眠るベッドのすぐ横に立てかけてある、白い、巨大な生物の牙のような物体だった。
「……何あの白いの?」
「あーあれ私が来たときにわんこ君が持ってたんだ。んで、回収しようとしたんだけど、わんこ君から遠ざけたら変なエネルギーが観測されてね。わんこ君から離すと危険だって事になってここに置いてあるんだって。NERVあの子曰く、わんこ君はアレを使って44A6機相手に闘ってたらしいよ。」
「……そう」
そう言って興味を失ったのか、アスカは目の前で眠るシンジを見つめる。一定間隔で胸が上下しており、正常に呼吸していることが分かる。すると、アスカはマリに対してこう言った。
「コネメガネ、私が良いと言うまで後ろ向いてなさい。振り返ったら殺すから。」
マリは一瞬目を見開くと、すぐにニヤリと笑って
「はいはい、仰せのままにお姫様。」
と言って後ろを向いた。
マリが後ろを向いたのを確認すると、アスカはシンジの顔に近づくと
「…ようやく私のこと助けてくれたわね…ありがと」
そう言って眠るシンジに唇を重ねた。14年の思いを乗せて。
しばらくしてマリとアスカの二人は隔離室から出た。その際、誰にも聞こえないような小声でアスカはこう言った。
「またくるわね。バカシンジ……」